by jun | 2018/06/16

「初心者立ち入り禁止!」までがタイトルらしいですが、発売は2001年で荒木一郎さんが初心者向けに出した「テクニカルなカードマジック講座 」より前になります。


この本は荒木さんのオリジナル手品というよりは、当時映像化も文章の日本語訳もされてない外国のマニアックな手品の解説で、ハンドリングが一部変わってるぐらいで、現象としても大枠の手法もだいたい原案通りです。
今ではDVDや邦訳が出た本もありますが、それでもマニアも知らないような手順が大半だと思います。

作品チョイスはかなり良くて、マニアックと言っても現象が意味わからんようなものはないです。
スムーズにやろうとおもうとかなり難しいものもありますが、腱鞘炎になるようなものや角度に弱すぎる無理さはありません。

写真も多いので、一旦理解した後は写真だけみれば手順をさらえるようになっていてわかりやすいです。

ギャンブラーの伝説

エース4枚をバラバラに入れてそれを取り出していきますが、4枚目にキングが出てきて、前の3枚もキングに変わってしまい、エースもまた出てきます。

ギャンブリングデモンストレーション風でマジック的なオチが効いてて面白い手順です。
使われてる技法も応用範囲が広く、使う技法の種類も多いので練習用にもちょうど良い感じあります。

大元はマジシャンvsギャンブラーで、色々あってウォルトリーズが発展させた手順みたいです。
ノーセットでできますし、AとKが出るので超リセットしたい時にも便利です。

幸せの狩人

シャッフルしてもらったデックの中から、指定された数字の4枚のカードを色んな方法で出していきます。
1枚目は普通に表見て裏向きに置くだけなのですが、お客さんが差し込んだ場所、トライアンフ、サンドイッチカードとてんこ盛りです。

個人的にはオチがトライアンフの方が綺麗だと思ってて、サンドイッチの方法変えればその順番でも出来るのでそうしてます。
元の手順だと、どんどん不可能性が減っていくような構成で、出来たらお客さんに差し込んで当ててもらうのをラストにしたいのですが、そこはトライアンフとうまく繋がるところなので最初でもいいかなみたいな感じです。

ある有名なミスプリント

4枚の表がないカードを取り出し、一瞬で表が印刷されます。
ダーウィンオーティスのバックオフの改案です。
多分この本の中で一番ハンドリングが変更されてると思います。

荒木版はパケットケースからではなく、デックから4枚のカードを取り出します。
これについては良し悪しがあって、まずその場で表裏セットをしなきゃいけないのがあれっていうのと、改めの部分をどう見せるかという問題です。

パケットケースから出してきた場合は両面裏のカードを持ってきましたと言いながら改めをさらっとできるのに対し、デックから出した場合はどうしても完全に改めたようには見えにくいということです。
広げて見せないってことは隠してるんでしょって思われないために、スムーズな改めとそれなりの演出が必要になってきます。
本では「魔法がかかってるので」と書かれてて、あとは演者にも不可解なことが起こった演技をするかですかね。
それだと一枚ずつしか見せないのにも理由できますが、やる場合はかなりの演技力じゃないと寒いことになるのが辛いです。
改め部が勝負で、終わればクリーンにできるようになってるので、気は楽かもしれません。

ホフジンザーの迷路

出ましたホフジンザープロブレム。
ホフジンザープロブレムに対する歴史も解説されています。
手順はバリーネルソンバージョンのプチ改案。
フォースしなくていいホフジンザーですが、ジョーカーを使うのが特徴です。

ジョーカー使うことでノーフォースでもあれをあれするとこに無理がなくなってます。
プロブレムっていうからなるべくクリーンですっきりした方法が多いホフジンザーですが、こういう変化球もたまには良いです。

真夜中の訪問者

赤のクイーンの間にカードを1枚入れますが、それが消えて黒のクイーンの間から現れます。

訪問者とついてますが、ビジターのようでビジターではありません。
パケットを使わないビジターというか、使うカードは5枚だけです。

結構今風のダイレクトな解決法で、怖い手順ではあります。
ただ、ビジターのようにパケットを持ち替えたりこっそりあれしたりするパートがないのでうまくできればかなりクリーンでわかりやすい現象になるはずです。

不思議なゲーム

白いカード6枚でゲームやりますが、どんどんカードが印刷されていきます。

ザ・パケットトリックという感じでかなり好み別れると思います。
パケット内で使われる技法の勉強にはちょうど良いです。

サインカード・ジャグラー

超シンプルなカードの入れ替わり現象です。
カードにサインしてもらって、デックに戻します。
一番上にあるカードを観客の手のひらに、その上にコップを置いて、コップの上にデックの上からもう一枚カードを配ります。
するとコップの上のカードが下のカードになってて、手のひらに置いたカードがサインカードになってます。

たぶん現象から想像される通りのやり方です。
うまいのはサインカードの使い方ですね。
普通トランスポジション系はちゃんと2枚が入れ替わるのを目指して作られますが、この演出ならサインカードは置いてないという場所から出てくるので、2枚目がどこから出てきてもインパクトを削ぎません。
サインさせますから覚えるカードは実質2枚ですし、完璧なトランスポジションにこだわらなければこういう手順も全然ありじゃないでしょうか。

スリ学入門

カードを選んでもらってデックに戻し、2枚の赤いエースを箱の中に入れます。
デックを二つにわけ、手をかざすと赤いエースが現れて、箱の中のカードが選ばれたカードに変わってしまいます。

ジョンハーマンのピックポケットで、最後のエース出すとこがちょっと変えられています。

この手順はめちゃくちゃ賢くて、箱には確実に2枚入れるから、枚数ごとトランスポジションしてしまう現象が説得力強めでできます。
パケットに箱を乗せる理由と、カットする理由にもう一声欲しいところですが、箱使う手品の中でもかなり好きです。

ミラクル・ボックス

4枚のキングを箱に入れて、それがお客さんの選んだカードと入れ替わります。
ピックポケットと比べるとフェアさには欠けますが、クロースアップ版のイリュージョン手品としてはかなり見栄え良いです。

今だったら別の技法でもなんとかできそうですし、ちょっと考えてみたいテーマです。

サーカス・ファミリー

カード5枚でやるアンビシャスカードみたいなやつ。
枚数減らしていってもできて、最後はカラーチェンジします。

ラリージェニングスのAmbiciou Classicにサーカス団という設定がついてますが、それは元々そういうストーリーだったそうです。

これ1〜5のカード使うのですけど、ただ「1は」「2は」…と続けると果てしなく退屈なので、何かしら話はあった方がいいと思います。
退屈というかパズルっぽい感じになってしまいますよね、ただでさえ5枚だとなんとかなりそうという感じがするので。

稲妻のかがやき

4枚のJを取り出してテーブルに置き、更に4枚のAを反対向きにしてバラバラに戻します。
Jをデックに乗せて振ると4枚のAに変わり、Jはデックの中でバラバラに出てきます。

アーネストエアリックの”Jack Syna(ps)ces”が元ネタで、最後以外はほとんど同じです。
エアリックはダンデブが影響を公言してるだけあって、ビジュアルで現代的な作品が多く、これもその一つだと思います。
エアリックはビルグッドウィンの手順を参考にしたそうで、たしかにこういう位置関係の入れ替わりはグッドウィンが好きそう。

一箇所だけすげえ怖い場所がある以外は合理的な手順で、すんごい賢いです。
この日本語タイトルだけは本当にいかがなものかと思います。

ヘンリー・クライストの4枚のエース

4枚のエースをデックに戻して1枚ずつ別の方法で取り出すやつです。

表向きで7のカードが出てきてそこから7枚数える→表向きで出てくる→スペリング→プロダクション
という4種になってます。

「日本人にやりやすいように改良した」という割には英語のままのスペリングが残ったりしていて謎です。
コントロールしなくて良いのが売りのヘンリークライストですが、スペリングのところだけはどうにかしてほしかったというのが正直なところです。

やつらを追え!

4枚のJをバラバラに入れて、全部がトップにくるという現象。

荒木さんお得意の犯罪者ストーリーがついてますが、インスパイア元であるダローのRising Crimeもタイトルからしてそのようですね。

手法自体はよくあるやつなので、ストーリーと小道具使いがメインの手順になります。

7人の容疑者たち

犯罪もの続きます。
サンドイッチカードで、7枚のカードを挟んでしまい、その中から1枚に絞るというもの。

容疑者を絞っていくという体で、ものすごく抵抗があるあれをやるわけです。
いや、最後サンドイッチで残るから普通のあれよりはいいんですけど、それでもアンダーの部分なに???

幻想の流れに

4枚のQとジョーカー、ほかに関係ないカードを4枚使います。
ジョーカーはテーブルの上に置き、関係ないカードの中にQを入れてアンビシャス現象を繰り返します。
Qはその都度テーブルに置くのですが、置いたカードを確認すると全部Aに変わっていて、ジョーカーを見ると4枚のQに変わっていて、手元のカードがジョーカーに変わります。

枚数ごと変わるキックバックという感じでしょうか。
それ自体は好きなのですが現象が三角になってるため、ただでさえ混乱するキックバックが余計に見辛くなってる感は否めません。

最初にディスプレイするところもかなり無理があり、その後は表向きで見せれないのでどこになにがあったか覚えておいてもらわないといけないのもちょっと。

赤と黒の倒錯

文で書くとややこしいのですが、赤と黒に分けて、お客さんのカードが赤だったとすると黒のカードの中に入ってるみたいなサッカートリック風て黒いカードを使います。
黒いカードでトライアンフみたいなことしてカードが当たって、黒だと思ってたのに赤のカードが当たった!しかも全部赤になってる!という現象です。

現象としてはかなり面白くインパクトも強いですが、混乱させない説明をうまくしながら難しいことを淡々とやるスキルが求められます。
すり替える部分ですが、本で紹介されてる技法よりチャドロングのRED BLANK BLANK で使われるやつでもいいかなと思いました。
それだと若干セットは変わってきますが、ゆっくり行えるので安心感はあります。

ジャックで探せ!

サンドイッチカードの後にカラーチェンジングデック現象が起こります。

サンドイッチカードはさりげなく表裏見せれる手品なので、ずっとこの色だったのに!を強調する手品として強いです。

アイスとキングス

エースとキングを使って入れ替わり的な現象のオチで、エースが1枚アイスのカードになってしまうマジックです。

中盤はギャンブリング感ありますが、エースとキングしか使わないのでわかりやすいですし、愉快なオチのおかげで色々と吹っ飛ぶ楽しい手順です。
アイスのカードはブランクに書くだけなので、色々別の演出も考えられそう。

ハンドリング的にはカウントも使いますが、4枚のエースと4枚のキングしか使ってないように見せるには十分かと思います。

そんなわけでなかなか濃い18手順でした。
個人的ベストは稲妻のかがやき、ジャックで探せ!、サインカードジャグラーあたりです。

毎度荒木さんの作品はタイトルのクセがやばいのですが、この本はほとんど原案通りだったりするので松田道弘さん方式で「私案○○」とかでもよいような気がしました。
その分演じるのが難しいストーリーは抑えめで、手法をねっとり解説してるので読みやすいです。

絶版のようなので気になる方はお早めに。
今ならまだ中古で安く買えますが、クレジット元掘っていけば沼にはまって出費がかさむのでとてもおすすめです。

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