by jun | 2018/04/12

発売される前から好事家の間でちょこちょこ話題になっていた日本製デックです。
発売してからすぐに友達にちょっと触らせてもらってスルーしていたのですが、アイデアルの特性を活かせそうな何かを思いついたので試すために買ってみました。
USPC製や台湾製、ベルギー製のカルタムンディなどのトランプとは少し毛色が違うので詳しくレビューしたいと思います。

外観

フィルムは真ん中にミシン目がついていてそこから剥がすようになってます。

フィルムが残せないのはどうでも良いのですが、このフィルムは箱全体を覆ってなくて湿気にはものすごく弱そうです。
開けた時からカードが反ってるのってこのせいなんじゃないかなと思ったりします。

箱は派手な箔押しやエンボスがされていなくて、箱に使われてる紙質も良いので上品な感じです。

バックはマジックに使いやすい感じですが、やや上品さは損なわれる気もします。

こだわりのロングフラップ。
置いてたら勝手に開いてくるみたいなことないので良いです。

開けるとカード自体に帯が巻いています。
開けたてで使いやすい部類のトランプなのでこれは不要ですね。
箱にシールもないので開けたらすぐ使える感じにしてほしかったです。

購入者へのメッセージカードがエキストラで入ってて、これもカードの中には入れて欲しくなかった感じあります。
ところでこのメッセージですが、
「マジシャンが満足する」ではなくて「マジシャンの使用に耐えうるものを追求」という、非常にもやもやする表現が使われています。
「耐えうる」と「追求」で二重にやんわりとハードルを下げるディセプティブな文章です。

オーダーはスペード、ダイヤ、クラブ、ハートで全部ボトムからA〜K並びです。
天地は全部揃ってました。

バックデザインは既に色んなところで指摘されてる通りタリホーのサークルバックに非常によく似ています。
サークルバックには天地があるので同じとこに仕込んでないか探してみましたがそれはなかったです。
ボーダーは最近流行りの細め、他と比べても細いですね。広げた時にスタイリッシュに見える効果があります。
細めのボーダー、真ん中にでかい丸、幾何学模様とトレンドを盛り込んでタリホーの型にはめた感じでしょうか。
さすがに節操なさすぎではという感じもありますけども、変にプロデューサーの個性が出てないのは使いやすいです。

二枚のジョーカーはデュプリケイトで天地なしと100点に近いですが、インデックスが他より若干内に寄ってるのが気にならなくもないです。

数札のマークはUSPCのスタンダードと比べてやや小さいです。
赤がちょっと暗めの色になってます。

絵札は普通。

使い心地

滑りは重たい上に引っかかりがあります。
ファンは特に問題ありませんが、スプレッドはちょっとストレス。
テーブルシャッフルとかはやりやすいです。

ファローは大変入りにくいですが、変なやり方すれば入らんこともないです。
角を合わせたら押し込む方の手はエッジを抑える圧を緩めて、指一本で上から力をかけるようにするとパーフェクトもなんとかいけます。
トラディショナルカットらしいですが、裏からの方が入りやすいですね。
表裏にした時は比較的うまく入ります。

さっきも書いた通り、開けた直後から横方向にきつい反りがついてます。
あんまりベコベコ系の反りじゃないのでカットしながら何回かルポールスプレッドすれば治るやつです。
この方向に癖ついてるとピンキーカウントやりやすいメリットがあります。

紙は薄くて張りがある感じです。
コシというより張り。
柔らかいので使いやすいと感じる人は多いと思います。
どうなってんのかなと思ってピーリングしてみたらUSPCと同じ三層構造でした。
接着の強さも似たようなもんだと思います。なんか真ん中の層が青いです。

裁断面は異常に整っていますが、正確に長方形になってるかというとそうではなく、USPC製と同じ裁断のズレがあります。
なので昨年流行したあれができます。

そんなわけで「マジシャンの使用に耐えうるものを追求」した結果は見えました。
良いとは言えませんが悪くはないです。
個人的にはファロー使ったマジックもそんなにやらないし、使い倒したカードで滑らないのも慣れてるので「マジシャンの使用に耐えうる」と可能系だけの矮小表現でも問題ないと思いました。

滑りに関しては好みの問題がありますが、するする滑らない方がやりやすい技法も多いですし、フィニッシュの定着はすごく良さそうで劣化してもパサパサにはなりにくいんじゃないかという気がしてます。使ってて差が出ないのは結構なメリットではないでしょうか。

フラットに質の話をするとこんな感じですが、やはり1500円という値段があれではあります。
昨今デックインフレ気味ですしアイデアルは一から作ってるのでお金かかるのも理解できるものの、この質でとなるとちょっと買い続けるのは難しいですね。
USPC製でもデザイン系デックはバイシクルより質(特にフィニッシュの持続性)が劣るのが大半で、それでもボコボコ発売されてボコボコ売れてるのはみんなデザインが気に入ってるからだと思います。
なのでアイデアルデックもデザインさえ気に入れば手品に使えないこともないですし試してみれば良いのではという感じです。
日本製という物珍しさや質を求めて買うと確実にがっかりします。
黒くて真ん中に丸がおっきく書いてるデザインのデックだとMirage v3とかORBIT v4とかが1300円ぐらいで鬼クウォリティなのでそっちがおすすめです。

質がまだまだなのは公式サイトでも認められているところなのですが、ここで使われている「完璧」とか「負けない」という言葉が何に対して使われてるのかは謎だったりします。
例えば中でも名前が出てるゴールドスタンダードはたぶん誰が触っても使いやすいデックです。
ゴールドスタンダードはオハイオ製なので在庫がなくなれば買えなくなりますが、KY製のBee Stockも質はとてもいいので値段やデザインなど他の部分でアドバンテージがないなら別に日本が頑張らなくてもいいんじゃないかと思います。
日本の技術力がすごいと言っても、伝統の積み上げがないものでアメリカが長年やってることに追いつくのは難しいです。
中途半端にハリウッドを意識した日本映画に良いものが少ないのと同じで、大衆受けを狙うほどみんなが微妙な気持ちになります。

プロデューサーの一人である浅田悠介さんがDVD「Eternal vol1」で使用されてるBee Erdnaseとかはパサパサで滑りは悪いのですが結構使いやすくてこれが好きって言う人も多いです。
もしアイデアルデックがBee Erdnase的なものを目指してるのだとしたら良い線行ってると思うので、その方向で頑張っていただきたいと思います。
最大公約数的な評価は難しいかもしれませんが、ガラパゴスで謎の方向に発展していくのも日本製らしさだと思いますし個人的にはそういう尖り方してる方が応援したくなります。

もしゴールドスタンダードやバイシクルっぽいものを目指しているのであれば改善点ははっきりしてるので、研究してブラッシュアップしていけば近いものはできるかもしれません。
「本気を出せば」日本で良いものができるという期待もあるものの、もの作りの場合の本気ってコストだったりするので今の規模だと難しい気もします。
消費者としては他に選択肢もたくさんありますし自由にやっていただきたいですが、何を目指してるか具体的にしてもらえると嬉しいです。
次のバージョンで何がどう変わってるのかでわかる感じでしょうか。
とりあえずそれぐらいの楽しみはありますし、変なクセでしばらく遊べそうなので良かったです。
なんか手品に使えそうなクセもあるので、それが出来たらバージョンアップにめっちゃ文句言うかもしれません。

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