2017年に出たWoody Aragonのカードマジック本。Memorandum Stackというオリジナルのスタックを使った手順がたんまり解説されています。
このMemorandum Stackというのはメモライズドデックでもあるのですが、解説されてるのはスタックの特性で行うトリックが多くその部分は手順だけ覚えれば大丈夫。
同じ年にPatrick RedfordのTemporarily Out of Orderが出ていて、スタックの特性も本のバランスもちょっと似てます。
Memorandumはポーカーの手順に特化した感じで、Aragonのポーカー手順はギャンブリングデモというよりはコミカルなトーンで変化したり入れ替わったりというマジック寄りなものが多く演じやすいです。
セットからちょっといじらないといけないのが多いんですけど、ベースのスタックからちょちょいとするだけで色んなトリックが出来るのは嬉しいですね。玉ねぎとじゃがいもとにんじんを炒めてる時の今なら肉じゃがにもカレーにもポトフにも出来るという万能感的な喜びがありますし、そこから出来るトリックの数が多ければリアクションに合わせてその時受けそうな手品を選ぶこともできます。
ポーカー系のやつはリストアが大変なのでそこからすぐにメモライズドデックの手順にというのはちょっと難しい感じ。一応各トリックにリストアのやり方が解説されてるものの厳しいのもちらほらあります。
比率的にはメモライズドデックの本と思うとちょっと肩透かしかもしんないですけど、メジャーなプロットは抑えられていてタマリッツ作品のバリエーションもあるので広く学べる感じになってます。
Memorandumに限らずスタックの本として読むとスタックの活かし方や応用出来ることなど学ぶべきところは多いです。
Chapter 1 : Preparing Ourselves
なぜ新しいスタックを作ったのかという話や、メモライズドデックをより有効に使うための話など。作品読む前に考え方のところを読んでおくと手順読んでいくごとに納得できると思います。
あとは記憶方について。まあ色々あるけど最後は気合いです。
この本では52箇所にスタックを覚えるための印象的なアートワークがあったり、数字やカードが出てきたらそれに対応したカードの名前とスタックナンバーが書かれてたり、色々と頭に馴染ませる仕掛けがあります。
Memorandumはシステマチックになってる部分もあり、トリックでもその機構を使うので手を動かしてるうちに大体どのカードがどこにあるかは把握できるようになってきて、丸覚えしなくても頭の中で復習しやすいのも特徴かもしれません。
Chapter 2 : The half stack
ハーフスタックでのトリックが解説されてるチャプター。
半分だけ活かすなら直前のトリックの自由度はかなり増え、シャッフルもラフに行えます。
このチャプターは基本的にMemorandum依存のトリックがメイン。
どんなスタックでもできる手順は2つだけですが、それらはとても良いので十分ですし、スタック覚えなくても強いトリックが演じられるのはメリットです。
ポーカーの手順が多いので、ルーティンの後半に演じるとより効果的かと思います。
Three Poker Demonstrations
スタックを使って配れるポーカーハンドについて。
普通に配るだけで全ての手札に強めの役ができて演者が4Aで勝つやつと、デッドマンズハンドとロイヤルフラッシュの3種類。
少しいじらなきゃいけないのと、リセットがやや難しいですが4Aで勝つやつは演出的にも見せやすいし良いですね。
Texas Hold’em Exhibition
3枚のカード当てからテキサスホールデムに繋げる流れ。
デモンストレーションじゃなくロケーションや変化などマジック的な要素も多いのでお客さんがテキサスホールデム知ってれば普通に面白いトリックだと思います。
今結構テキサスホールデム流行ってきてるので覚えておきたい。
Ten Card Poker Deal
配ってもらうところから始められるヨナ式10カードディール。
これも便利で良いですね。抜き出すやつより後々不思議さが効いてきます。
その後好きな手順にも繋げられるし、メモライズドデックのアドバンテージを活かした見せ方も解説されていてここまで出来ればスタックのルーティンの中に取り込みたいという感じの手順です。
Why Aces?
ディーラーと他のプレーヤーの手札のカードをどの客と交換するか決めてもらいながら配っていきますが、必ずディーラーが勝ちます。
セットは大破されるけど観客に選択肢があるデモンストレーションは面白いです。
地味目ではあるけど結構気に入ってるトリック。
The Almost Dead Man’s Hand
ポーカーの結果の予言手品。
ただ配るだけじゃなく、配り直すかどうかを観客が決められるようになってます。
マックスメイビンが元ネタのようで、とある原理にうまいこと動機を与えていてる手順。
とても良いトリックだと思います。
Poker Reverse
ポーカーというかリバース現象というかみたいな手品です。
観客が言った数字のカードが決めていた場所でひっくりかえってるという現象。
ギャグ風味からの強い現象という感じでインパクトあって良いです。
見せ方とか自由度とか色々いじりがいのありそうなトリック。
Transposed Poker
演者の手札に4枚のAがくるように配っていき、他の手札を見ると2つがフラッシュ、もう一つを見るとそこにAが3枚。もう一度演者の手札を見るとロイヤルフラッシュになってます。
ちょっとセットはめんどいんですけどこれだけやっても十分という面白さ。
いやしかし、これがセットいじらずに演じれるならスタック常用したいという出来なだけにそこはちょっと残念。
Weighing the Cards Express
カードの重さで枚数を当てるやつ。
このスタックの特性がうまいこと使われているトリックで、カードを観客にどう数えてもらっても繰り返し演技ができるようになってます。
まあ普通のメモライズドでも頑張ればできますけど、不自然に数えなくていいのは強いですね。
Eish of Daiamonds
color、suit、numberとスペリングして出てきたカードで観客のカードを絞り込んでいきますが外れ、パケットをひっくり返すと観客のカードのフォーオブアカインドが出てくるというサカートリック。
発音をギャグにする見せ方が面白いトリックです。
色、マークまでは普通に当たるので完全に無駄なことをしてるわけではないというのもサカートリックとして上品。
Double Psychorama
二人の観客にスプレッドの中から1枚覚えてもらってそれを当てる。
スタックでがうまいこと2枚ともできるようになっています。
質問は必要なので2人にそれをやるとその印象が強まるか、2枚当てるから倍不思議に見えるかは演技次第っちゅう感じですね。
メモライズドデック使うなら片方は別の方法で当てるとか、色々工夫はできそうです。
How The Real Card Sharks Cheat…
4枚のエースを表向きでバラバラにさしこみ、シャッフルすると1箇所に集まり、間に観客が指定したカードが挟まってます。
デモンストレーション的な見せ方でAが寄っていくのが気持ちいいトリック。
スタックじゃなくてもまあ出来る感じ。
Three Card Group Fishing
釣りで3枚のカードを当てる方法。
このスタックの面白さが一番出てるのはこれかもしれません。
慣れるまでは難しそうだけど複数の要素を組み合わせられるので確実。
補足コメントで書かれてる方法だとよりマニアックなカード当てが出来る様になって楽しそう。
フルデックのパートでフルデックでやる方法にも触れられています。
Mnemo Fry
シャッフルの後に何枚か配ったカードを全部当てることができます。
Si Fryのメモライズド版かつハーフスタックでできるという良さ。ハーフならリフトシャッフルやトップスタックシャッフルを混ぜれるしかなり不思議に見せれるんじゃないでしょうか。
メモライズドデックさえ習得していれば元のより簡単でクリーン。
The Toledo Carbuquillo
タマリッツのCarbuquilloのMnemo Fry版。
まあやることはカード当てなのですが、ポーカーを題材にしつつコミカルに超不思議なことをやっててマジ天才だと思いますタマリッツ。
アラゴン版の方が頭の負担はちょっと減るはず。
Chapter 3 : The Full Stack
ここからフルスタック。
ハーフスタックと比べると観客の自由度が圧倒的に上がってるのがわかると思います。
どんなスタックでも出来るやつが半分ぐらいあって、いずれもマニアックな内容で満腹なれます。
Octopoker / Octopoker II
8つのハンドを配るポーカー手品。
まあハーフでやるのの手札が増える拡張版ではあるけど、クライマックス感はでますね。
Ⅱの方は本当のポーカーっぽく当てていく面白さがあり、演者の手札は予言されてるというオチ。
予言的なことまでやっちゃうとちょっと配列感が出てしまうかなーってのはなくもないですが、まあシャッフルもするし別の現象として見せればさほど問題はないかなと。
Stud Poker
スタッドポーカー。
他の手札もそこそこ強くて演者が勝つ配り方ができるというのは同じですが、スタッド式に賭けたりちょっとずつカードを見せていくというのは手品向きですね。
実質ハーフスタックのような感じなので便利。
The Card Shark’s Stack
エニーポーカーハンドの手順。
Redford Stackと似たようなところがあり、スタックの特性上ランクの指定が出来る役がまあまああるのが良いところ。
Sympathetic Suits
3フェイズのメイト一致手順。
これは赤いカードしか使わないのですがMenorandumからうまいこと抜き出すようになってるものです。
メイト一致、全一致、カードのリバース含むオーダーととても綺麗な3段手順で、ライトにはじまるのもいい感じです。
2段目のSwindle Sortの見せ方がエンディングにも効いてるし構成がとても巧み。
High Card
メイト一致とニューデックオーダーの2フェイズの手順。
セリフとしても筋が通ってるしそういうやり方があったかという繋げ方になってます。
めっちゃ良いですこれ。
Improvising a Story
カードでストーリーを作っていって観客のカードを当てる手品。
具体的な例ではなく、即興で物語を作るためのアドバイスが色々書かれていて面白かったです。
例えば話の中のどういうタイミングで不思議さを出せば良い感じになるかとか、興味を弾き続けるためのリズムとか、ストーリー手品考察として読み応えあります。
試してないので実際どうかってとこはなんとも言えんですけど、その手の手品の魅力はよくわかる文章。
こういうのを身につけておけばステージやサロンのネタに困らないので便利そうですね。
The Named Blushing Card / The Ultimate Named Blushing Card
コールカードでやるシカゴオープナーみたいなやつ。
メモライズドデックだとブレインウェーブは結構あるけど意外とシカゴオープナーっぽくやってるのはあんまない気がします。
これ、ただコールカードでやるだけじゃなくそうすることで全体の印象もちょっと変わるのが面白いですね。ハンドリングもとてもすっきりします。
Ultimateの方は2回変わります。DVDでやってるのはこっち。
Predict2
2枚のカードを予言する手品。
限りなく自由にカードを言ったように見える方法かつ、それなりに確実な感じのバランスになってます。
確実バージョンも解説されてますがやっぱり自由な印象はかなり薄れますね。
Clash!
ACAANっぽい手順。
3バージョン解説されてて、メインで解説されてるのはあれなんですが、あれに対してのアプローチや考え方の部分、その狙いが上手くいってる感じはあると思います。
他のバージョンのはこの手法を取り入れる意味が弱まっていてちょっと魅力に欠けますね。
The Gambler Divines
テキサスホールデムの手札を当てていく手順。
観客がカットしたところから配り始め、配ってる間演者は後ろ向きなので手がかりないように見えます。
メモライズドデックでは複数のカードを当てる手順は色々ありますが、ギャンブル設定だと当てる意味も大きいですし、配るのでランダム感も出て不思議。
Thr33
メンタルセレクションを含む3人の観客のカード当て。
3枚目のカードは観客がストップしたところから出てきます。
結構シャッフルしてもらえるので不思議です。
原理としてはサイモンアロンソンがやってそうな感じのもので、そこにスペインっぽいテクニックが盛り込まれていて難易度高いけどかなり強力。
The System W
観客にシャッフルしながら1枚のカードを思ってもらい、そのカードを抜き出してもらいますが、当てれます。
デックを広げてみる必要がなく、ほぼ触れてないように見せることが可能です。
100%じゃないけどまあだいたい大丈夫。フォローの解説もされてるし、状態的にも色々思いつくかと。
Chapter 4 The Siamese Deck
Siamese Deckを扱ったチャプター。
たまにこれを使うトリックありますけど、綺麗に現象起こせるのはいいとしてそのためにわざわざ用意するのもなーって思うことも多いです。
ただ、カード自体に仕掛けはなくストレスはないので、色んな現象が起こせるなら普段使いしたくなるような魅力もあります。
このチャプターでは広い範囲のエフェクトが扱われていて、Siamese Deckの強みもよくわかるし、その後スタックデックのトリックに繋げられるものがあったりと興味を唆られる内容です。
Siamese Jazz
Siameseで出来ること一覧みたいな感じ。
不可能な移動現象などをフリーチョイスで出来るのも強いし、システムっぽい原理も使える。
後半のMore Siamese Deckではギミックとの組み合わせにも触れられています。
どこまでやるかは手法へのこだわりっちゅー感じですが、レギュラーデックだと思わせることの難易度は低いので、インパクトの強い現象の起こし方を求めるならこれが最適というのはあるんじゃないかなと。
Do As I Do
デックを半分に分けて観客と演者で持って、テーブルの下かポケットの中かに入れてお互いに一枚抜き出し、交換して反対向きに差し込みます。
表向きのカードを見てみると2枚がメイトになってるという手品。
これ自体は特殊なセットを必要としない手品ですが、その後にメモライズドデックの手順に繋げられるようになっていてとても有用です。
Chronicles of a Transposition
デックを半分にわけてトランスミッターとレシーバーに見立て、トランスミッターの方から2人の観客に自由にカードを思ってもらい、それがレシーバーに移動するという手順。
これぞSiameseっちゅう感じで、きちんも消失を見せるカードアクロスの段取りをちゃんと踏んでいて完成度高いと思います。
Back in Time
枚数を数えながらカードを選んでもらってビリビリに破り、それが同じ枚数目から復活して出てくる手品。
ダニダオルティスのやつが有名ですが、Siamese使うと恐ろしくクリーンに現象を起こせます。
サインカードでは出来ないものの、同じ枚数目から出てくるという演出で時間が戻ったという説得力を持たせるプロットなのでこれはこれで十分。
The Sixth Sense
シンプルな予言マジック。
赤デックから1枚選んで裏向きに置いておき、青デックから自由に選んでもらってそれが一致します。
手法もシンプルですが、レギュラーデックだけではこの見た目にはどうやっても出来ないという感じがあって魅力的です。
Siamese C.A.A.N
2デック使うタイプのCAAN。
メモライズドデックではオーソドックスなやり方ですが、ちょっとこうクリーンに見えるテクニックがあったりします。タマリッツのあれに一工夫足したような、まあこういうのをわざとらしくなくやるのは難しいし、逆に印象に残ってしまうリスクもあるとは思いますが、こういう方向でCAANのクォリティアップを狙うのは的確かなと。
Siameseは観客の選択肢を一つ増やすのに一役買っていて、コスパ悪そうに見えるけど結構大きいポイントのように思います。
Raynaly
5人の観客にポーカーの手札を配ってそれぞれ中から一枚覚えてもらい、それを当てるトリックです。
アロンソンのHisted Heistedが有名ですかね。アロンソンの予言バージョンもここに解説されてます。
Siameseととても相性の良いトリックで好きです。
The Two Heaps Prediction
Shuffle Boardみたいにパケット内のカードの内訳を予言できる手品です。
Shuffle Boardとは別の原理の組み合わせで、Siameseと知らなければ絶対わかんないですね。
Grandpa’s Poker
ポーカーの手順。
シャッフルしたり観客に数字とかマークとか指定してもらうのにその手札を配れます。
Mnemo Fry – Original
Mnemo FryのSiamese版。
ちょっとやらなきゃいけないことを全くやらなくよくなってるバージョンで超不思議。
S-P-E-L-L-I-N-G
見て覚えてもらうカードで出来るスペリングトリック。
シャッフルもしてもらえるしカードを聞いてからデックに触らなくても大丈夫です。
Entry Phone
観客の電話相手が言ったカードが…という手品。
電話相手というのを不思議さに上手くいかしてるのもあるし、Siameseで万能に使えそうなアイデアがここに解説されてます。
Tele-Triumph
ニューオーダーオチのトライアンフ。
DVDでやってるやつとはまた別の方法で、見せ方もちょっと変わってる。
Siameseを使うことでよりシャッフルしたデックが元に戻る印象が強まってるように思います。
Chapter 4 : Aronson and Tamariz
アロンソンスタックとタマリッツスタックについて。
タマリッツスタックを使ったトリックが2つ。現象が面白いのが一つと、セリフと演出で見せるのが一つ。盛り上がり系の手品ですが、あんまりスタックを活かした感じのトリックではありません。
アロンソンスタックに関しては影響について触れられています。
最後のチャプターはフォールスシャッフルやデックスイッチのギミックについて。
テーブルのフォールスカットはラフにやってる感を増す方法で良い感じ。
オーバーハンドのやつは少しの工夫だけど、連続して取れるので手遊び風にやるにはぴったり。
とまあメモライズドデックに限らずスタック使う人には至れり尽くせりな一冊です。
一つのスタックから出来ることをしゃぶりつくしてる感じも楽しめますし、どんなスタックでも研究の余地があるように思えるのも面白いところ。
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