by jun | 2022/08/01

2006年に出たMike Powersの作品集。
Magic Cafeの Book of the Yearも取っている本で、さすが内容も良いです。
手順だけ見るとマニアックなことをやっていたりしますがプレゼンテーションがしっかりしていてちゃんと観客に見せる用の手品で、たぶんこのサイトを訪れる人が好きなバランスの作品が多いのではないかと思います。
チャプターごとにいくつかずつ紹介しましょう。

Unprepared Card Mysteries

レギュラーデック、ほぼ準備なしで行える手品の章です。
良い手品がたくさん載ってる本ですが正直ここは少し退屈。
何かしらの問題意識がはっきりあって改案しているんですけど、別の問題が発生していたりそもそもその問題をどうにかしても本質的な解決にはならんのではというのもちらほらありました。

例えば”I.T.H. Triumph”はトライアンフの2つ同時に現象が起こるのどうなんっていう件をどうにかしようとした作品で、だいたいこんな感じ。
観客に1枚選んでもらってデックに戻し裏表で混ぜ、1番上に見えてるJのカードを裏向きにすると全部裏向きになり、またJを表向きにすると全部表向きに、さらにデックを振るとJは消えて、仲間のJを探し、仲間と共に観客のカードをサンドイッチしていました!
確かに現象をそれぞれはっきり分けて見せているけど事態をよりややこしくしてるというか、一番面白い向きが揃うところがオチになってないのはどうなんでしょう。サンドイッチカードやりたかったらそれはそれでやる。

“Open Travelers Transpo Redux” 、これはAとKを使ってやるオープントラベラーで、トランスポジションのオチがついています。最後の1枚の解決としては面白いんですけど、トランスポジションとか水油でどっちもカウントで示さないといけない手順が苦手なので個人的にはちょっと。

BrownのTwelve Thought Card Acrossのバリエーション”Red Rover”や10カードポーカーディールの”Natural Poker Power”は同じ技法を使っていて、読んだ時は良いかと思ったけど手を動かしてみたらこうしたい時にこういう動きはせんよなという感じでうーん。この辺は後に出た他の優れた改案を知ってるからというのもあるので、めっちゃダメとかそういうことではないです。

気に入ったのは”Reverse Faro Coincidence”という2枚セレクトのサンドイッチカードを段階的に見せられる手順。サイモンアロンソンで有名なあの原理、Powersさんは1990年にレクチャーノートを出しているらしく、さすが使い方もクールです。マニア対策にも良い手品ですが、性質上カードを戻した後に表向きにスプレッドする必要があるのでどうにでも出来そうと思われないよう工夫は必要。

カードの移動現象を低負担でやりやすくするために演出とハンドリングが考えられている”Expert Cards to Pocket”や”M-Mail”も良い手順です。
特に”M-Mail”はサインカードではなく観客が別の観客に書いたメッセージが届くという見せ方でとても気に入りました。

Mathematical Mysteries

数理的な原理を扱ったチャプター。
ここはとても面白いです。
純粋に数理トリックというより色々組み合わさったり技法も使ったりします。
ちょっと手続き長めの手順でもしっかり演出とセリフがあり、原理の面白さをより楽しめる作品が多いです。

後ろ向いてる間に観客が1枚抜き出して一切表を見ることなく当てれる”Punch Drunk”、これはアシスタントを使った面白い見せ方ができたりしてとても良かったし、ファローをしないペネロペの”Numerical Analysis”とか、ステイスタックを使ったカード当ての”Hide and Seek”など、マニアックな需要もしっかり満たされます。
たぶんマニアでもパッと見ではそうとはわからない”Sunken Treasure”とかもシンプルで良い手品。

本人含め今も色んな改案がされている”Heisting Histed Heisted”もここで解説されていて、これはプリンセスカードトリック的なのを5人の観客に行うもので、見て覚えるだけかつシャッフルも自由なので非常に強力。
今だったらTesseract収録の3.0かBuena Vista Shuffle Clubに載ってるMatt Bakerのバリエーションがおすすめ。

Prepared Card Mysteries

ギャフカード的なものやスタックを使う必要があるトリックの章。

レギュラーデックにペンで書けるCard Toonの”Animazement”は棒人間がカードに×印をつけるアニメーションが発生して、実際観客のカードに印が付く。ええ現象っす。

アニバーサリーワルツ系の”Back to Back”はブランクカードとセリフでうまいことやっていて、なんで合体させるのかに理屈があるのは好き。カードは表向きでノーフォースで選んでもらえて、消費するカードがレギュラーカードなのも嬉しいですね。

こっそりギャフ使う系でも”Subtle Princess”というプリンセスカードトリックで観客と当て合いっこする手順など、チャレンジングで良いものが多かった。

コールカードでSearch & Destroy をやる”Finders Keepers”はただそういうことをやっただけと言えばそうですが、組み合わせる原理との思った以上の相性の良さからすると良いバリエーションと言えると思います。

ピットハートリングの”Triathlon”を簡単にした”Tri-EASY-Thon”については大きくスポイルしてはいないと思うけど、あれ系はちょっと憧れ手品的なところがあるので似たような現象だけやりたいかと言われたら個人的には微妙。

Coin Mysteries

コインマジック。
ほとんどの手順でギャフ使用。
あんまりゴリゴリのコイン手順というより、カードマジック好きのためのコインマジック感があり、個人的にもハマるのが多かったです。
コインマジックに関しては凝った演出とかなくても良いものもあると思いますが、謎の現象を上手く説明していたり、セリフの面白さで成立させているものもありました。

難易度的にも手軽で、例えば”Flipped Out”は観客の手の上で起こる移動(消失)ですけど、無理せず2フェイズでまとめていて、ビジュアルのインパクトだけで終わらせる感じとか好みです。

あと気に入ったのは”Twice Told Tails”という手順。これとかはセリフで現象を面白くしてる例で、カードで似たような演出はあるけど手法としてはコインでしか出来ない感じで面白い。

インターナショナルとかマニアックなテーマもありますが、たぶん比較的低負担でまとまってる部類だと思います。

Miscellaneous Mysteries

カードとコイン以外色々。
タバコのルーティンや、リング&ストリングの手順で使える指輪の入れ替わりなどなど。

ビルスイッチからトランスポジションのルーティン”Double Your Money”は観客との自然なやり取りのセリフで行えてとても良いものでした。即興ではないけど常に準備しておく価値のある手品。

あと推したいのは輪ゴムのルーティン。1本から始まって2本になって2本で手品してまた1本に戻ります。
2本にするところと、また1本にするとこの準備段階の手続きがとてもスマートで良いです。

ストローを触れずに動かす”Science Friction”も日用品マジックの傑作でしょう。

ここまで名前出したので半分ぐらいですかね。
書いてないのは「こういうの好きな人がいるのは知ってるけど個人的には微妙」みたいなのも多いので、とりあえず手に取っていただければ。

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