手品はプレゼンテーションが大事らしいので、なぜ大事なのか書いてそうなものを色々まとめて読んでみました。
当然いろんな考え方やアプローチの仕方があるわけですが、まとめて読むと共通する部分も見つかってなんとなくわかった感じになれます。
プレゼンテーションについて個別に記事を書いてる本は解説されてるトリックもプレゼンテーションによって良くなってるものが多いので、資料としておすすめなものを中心にまとめました。
How to Please Your Audience (Harlan Tarbell, ターベルコース 第2巻)
ターベルコースのLesson 20、2巻の最初は「観客を楽しませるには」という記事になってます。
自分らしく誠実になど、人前に立つ前の心構え的な話が中心です。
見せ方の話は「ショーマンシップの実例」として紹介され、トリニがローマ法王の前で演じたトリックなどスケールのでかい話が読めます。
プレゼンテーション (Robrert Giobbi, ロベルト・ジョビーのカード・カレッジ 2)
カードカレッジの27章はセオリーになっていてプレゼンテーションについても深く掘り下げられています。
演出による見え方の変化という基本的なところから、声の出し方、ボディランゲージの仕方、台本の作り方まで、演技全般の話ががっつりまとまったチャプターです。
ギャグについてもマジックとしての効果とセットで書かれていて、無意味な”エンターテインメント性”は手品の芸術性を損なうと釘を刺した上で、観客をマジックで楽しませるとはどういうことかって事を書いてます。
マジックに関する考察 (Arturo de Ascanio, アスカニオのマジック)
この本読む前は変に構えてしまっていたけど、読めば普通に面白い本なのでまだの人も是非。
特に「プレゼンテーション」と「カバー」については必読でしょう。というかこの言葉の使い分けは一般化してほしい。
演じるにしても手順考えるにしても、この区別が曖昧なまま演出に力を入れるのは効率悪いです。
Conflicts (José Carroll, 52 Lovers)
ドラマは全て対立を描いたものであるけど、マジックではどうかという話。
演劇や映画など他の物語セオリーを手品に応用する考え方としても非常に筋が通るもので、本質的な手品の面白さの解説としてはこれ以上のものはないと思っています。
手法が限定される手品においてここまで万能な効果を高める方法論もそうないでしょう。
The Presentation of Magic (Expart Card Technique)
優れたマジシャンはマジックの見せ方と自分の見せ方を知っているから有名になったのである、という話。
実際のマジシャンを例に大きく3種類に分類していて、何もセリフや設定だけがプレゼンテーションではないというのもよくわかる文章で、無理なくキャラクターを作る方法についても実用的な解説がされています。
このエッセイが含まれるPresentationのチャプターはパターやルーティンについても分析されているので、トリックやマジシャン研究のサブテキストとしても有用です。
Art of Presentation (Bill Simon, Effective Card Magic)
人それぞれに合ったプレゼンテーションがあるよという話。
こっそりボトムカードを裏返す方法について、こういうやり方もあるよという例が載ってます。
プレゼンテーションとキャラクターが手法の選択肢を広げる良い例でしょう。
プレゼンテーション (Allan Zola Kronzec, 大魔法使いアラカザール マジックの秘密
塩瓶が消えるトリックをこの本で既に解説されてるのとは別の演出で解説しています。単純にこのトリックの見せ方としてめちゃ良いですし、演出によって観客の興味を引き、自分らしい演技に持っていくとても良い例になってます。
短い文で実践しやすい方法論も書いてあり、入門書で自分なりの演出を考えさせるってのをかなり上手いことやってるんじゃないでしょうか。
意外性をつくりだすマキャベリズム (松田道弘, クラシック・マジックの事典)
塩瓶が消えるトリックを例にした記事をもう一つ。
アシモフの小説にこのトリックが描写されたものがあり、その部分がこの記事で引用されています。
これが文章でめちゃくちゃ上手く手品を描いていて、意外性は読者も体験できるし、文章のトリックだと疑う人もいそうなところ、最後はちゃんと騙されたことに気付かせます。
プレゼンテーションがしっかりしてるからこそ、という話です。
演出の重要性 (松田道弘, トランプ・マジック)
The Great MerliniのHow to Entertain Children with Magic You Can Doから「あなたは三の山を選ぶ」のセリフが引用されていて、シンプルな仕掛けが手品になるとはこういうことだというのが入門書の読者にもわかりやすく書かれています。
マキシマム・エンターテインメント(Ken Weber)
この本は全編手品を効果的に見せるプレゼンテーションの本ですが、トリックの見せ方や作り込みについては第3部の「準備」が参考になると思います。
著者が実際の映像を評しているとこがあって、それは好みや方向性の違いではと思う部分もありますが、指摘通りに演じたとすると確実に観客の持つ印象が変わるというのが重要で、何をどう変えるといいのかというのはわかりやすいです。
Best Story Wins (Michael Weber, Scripting Magic
Vol 2に載ってるPete McCabeとMichael Weberの対談。
Weberがどのようにマジックでストーリーを語るかという話をしています。まずストーリーとはなんなのかってところを脚本のセオリーなどを参照しつつマジックの具体的な例と共に語っているのでわかりやすいです。よく言われる自分らしい演技をすることのメリットが明確になっているので様々なアプローチでオリジナルのプレゼンテーションを考えられるようになると思います。
今生きてる目の前の観客に演じる手品、ということに対する重要な指摘が多い対談です。
Professional Presentation (Hugh Miller, Al Koran’s Professional Presentations)
アルコーランのトリックをプロフェッショナルなプレゼンテーションの観点から分析した序文。
面白いのは大胆さについての指摘で、何かを隠すためのプレゼンテーションという話はよくされるけど、隠す必要のないものを全体のプレゼンテーションでデザインするみたいなのは手順の解説読むと確かにという感じがします。
Beyond Craft(John Carney, Carney Copia)
退屈なカードマジックをアートにするには、という話で、アートとは何か論からプレゼンテーションの話をしています。
何をアートと感じるかは人によりますが、ここに書かれてるのは興味を持ってもらうためにって話なので意識すれば手品が良くなることは間違いないです。
Creating Interest (Eugene Burger, Intimate Power)
観客に興味を持ってもらう方法、今世紀最高のマジックを見せる方法について。
ユージンバーガーはプレゼンテーションを考える時にオープニングに特に力を入れるらしく、最強の導入が解説されています。
この記事はMagic in Mindでも読めます。
Logic and Thinking (Simon Lovell, Son of Simon Says)
ウォッチスチールの良い例と悪い例を挙げつつ、演出の説得力の話をしています。
何故マジックはマジックと認識されるかという基礎の部分。
Strong Connections (John Gusastaferro, One Degree)
自分らしく、かつ観客を中心に、というトリックの考え方について。
ガスタフェローの手品観はほぼこのエッセイで説明されてると言っていい内容で、方法論も書いてるのでオリジナルを考える助けにもなります。
段階ごとに説明されていて、いくらでも自分なりの演じ方ができる余地があるって気にさせてくれる文章。
演出で秘密を隠す (Bruce Bernstein, UNREAL)
センターティアの「なぜ書かせてなぜ破るのか」について実例を挙げつつ演出の効果について語れています。
カードを引かせて戻すとか、当たり前にやってる演者側の都合全般に言えることで、ただ説明するのではなくちゃんと他の機能を持たせられるかどうか。
On Presentation (こじわまさゆき, Seeds & Gimmics)
手品で言うプレゼンテーションとは何かという話とモチーフについての話があり、どのようなモチーフが手品と相性が良いのかについて語られています。
その例は著者の作品でも取り入れられているので、通読すると納得度が上がるような内容。
The Presentation (Flicking Fingers, The Book)
創作の一要素としてのプレゼンテーションについて。
なぜオリジナリティのある演出は観客の記憶に残るのか、どうすればそういうアイデアを思いつくのかという話。
サスペンスとサプライズについても語られています。
この本に収録されているPit Hartlingの”Party Animal”はとても良い実例になってるトリックです。
Showing or Hiding Skill (Darwin Ortiz, Scams & Fantasies with Cards)
スキルデモやフラリッシュを見せるべきかどうか問題。
手品のマジカルな部分を損なうリスクがあるという前提の上で利点について触れられているのでシュパっとやるのが好きな人は必読ですし、いやいやそんなものは手品じゃないよという人にも決して小さくないメリットと思わせる記事です。
ダメだと言われてることの良いとこを自己正当化でなく分析するのはセオリーを学ぶ上で重要なので理論の考え方としても学ぶポイントがあります。
The Universal Presentation (Benjamin Earl, Inside Out)
非常に演出面が面白かったInside Outですが、汎用性の高いプレゼンテーションのアイデアとしてこのUniversal Presentationが紹介されています。
汎用性が高いというのは何かに特化してないということなので弱さでもあるわけですが、ちょっと俯瞰的な物言いなので説得力を増してるという感じ。
これ自体はマジックをそういう見せ方はしたくないという人が多いと思いますけど、それっぽいでまかせの言い方の例としては最高です。
他にもこんな記事が面白いよというのがあったら教えてください。
Comments
No comments yet...