大阪奇術愛好会とIBM大阪リングから合同発行されているスベンガリの最新刊。
今年の手品今年のうちにということで感想を残しておきたいと思います。
IBM大阪リング – International Brotherhood of Magicians – Ring201 Japan
真夜中のチェシャ キャット (3) アイデアの派生について (赤松洋一)
3つの手順を例にどのようにアイデアが派生したかという話が書かれています。
元のマジックは「クロス・カード」というカードケースを使った貫通現象。
カードケースの表と裏にカードが1枚縦に通る切れ目を入れて、ケースにカードを1枚入れても切れ目からカードを出せるというものから、ケースに入れるカードをフルデックにしたバージョンへと進化します。
切れ目は観客に示すものなのでケースは改め可能、シンプルな物理現象として見せれるのが素敵です。
ここから「クイーンの切断」というカードを使ったイリュージョン手品的なものに派生するのが読みどころ。
方法論は当たり前といえば当たり前ですが、おもろいこと思いつく人って当たり前のことをちゃんとやってる人なので見習いたいものです。
この本は工作が必要なものが多いんで、こういう話が最初に載ってるとモチベーション上がって良いですね。
Machmaker (Yuji村上)
4人の観客にパケットを渡して、1枚ずつカードを隠してもらいパケットを回収。その中から観客が隠したカードのメイトカードを取り出していきます。
面白い原理で、取り出したメイトカードがどの観客のものかまでわかるのでかなり不思議。
取り出し方もどうにでもできるし、見えないところで観客が行う操作も簡単です。
観客にパケット渡した後カードがちょっと残るのがあれかなと思ったりしましたが、残りのカードにも役割があるのでやってみるとそんな気になりませんでした。
最近はまってるテーマと関連してることもあって、原理だけじゃなく見せ方としても参考になる部分が多かったです。
スタンディング・フェア・トライアンフ (川島友希)
タイトルに偽りなく、スタンディングで出来てフェアなトライアンフ。
これは本当に最高で、近くで見せてもらったこともあって2018年ベストトリックの一つです。
トライアンフに限らずマジックは技法の組み合わせで成り立つものが多いですが、このトライアンフもちっこい技法の積み重ねで表裏混ぜるところを見せます。
そんで一つ一つの作業の繋ぎ目が恐ろしく綺麗で、説明通りのことをしてるようにしか見えません。
サトルティはわざとらしくない範囲でディセプティブを極めていて、観客に参加してもらう部分もギリギリを攻めてフェアな印象を残します。
既存の技法や原理の組み合わせながらマニアが見てアッて思う部分が見事に削ぎ落とされていて、トライアンフで久々に全く何やってるかわかりませんでした。
全体をスムーズに見せるには個々のテクニックのクウォリティが求められてきますが、引っかかるところがないように設計されていてディスプレイにもいちいち説得力あるので練習すれば堂々と演技できると思います。
ムービング スポット (前野隆夫)
トランプに穴開けて移動するやつですが、穴は開けずにペンで書いた丸が移動するという現象になっています。
サインカードで演技可能で最後は改めてもらえるエンドクリーン仕様。
あんまよく知らないジャンルでこの手のやつ初めて作ってみましたがめっちゃ楽しいです。
振って移動するとこが特に良いですね。
最近だともっと複雑なギミック使うものもあるみたいですが、これなら事故の心配もないし一旦作れば何度でも使えるのも嬉しいあたり。
最後に本当に穴が開くエンディングでも良いんじゃないかと思いましたが、メインの移動のとこはハンドリング変えずにいけそうです。
Time Paradox (山崎真孝)
セロハン付きの新品のデックの中にサインカードが入ってて、ニューオーダーの正しい位置(ハートの3ならハートの2とハートの4の間)にそれが入ってるというあれです。
サインカードを使ったルーティンのオフビートで行うものではなく、これ単体で見せれるようになっていて、演出込みで素晴らしい手順だと思います。
ギミックの作り込みもえぐくて、それに合ったハンドリングも相まってかなり楽に現象が起こせるはずです。
色々と親切設計で、この本の中では一番プロの手順感を感じました。
ヘリコプター・カード (塩沢善一郎)
「ヘリコプターというなら本物(?)のヘリコプターを使わない手はないと思い、本作品を考えました」という力強い前書きから始まる通り、模型のヘリコプターが選ばれたカードを吊るして飛び上がるリアルヘリコプターカードです。
楽屋落ち感もありますが、この手のアプローチは大好物で、細かいとこまでかなり丁寧に作られてる作品で思いつきに留まらない良さがあります。
特にヘリコプターが飛び立った瞬間にカードを捕まえた感に力が注ぎ込まれていて、カードを引いてもらって戻すところからマニア対策に抜かりありません。
カードを引っ張ってくるとこがおもろいので、ヘリコプターじゃなくても袋かなんかに入れて釣り上げてくるのでも面白いと思いますし操縦ができれば本物のヘリコプターでも演技可能です。
そのマジック、凶暴につき (福井哲也)
2段階の超不思議なカード当て。
特に2段目が強烈で、それをより引き立たせるための前半もめっちゃいいです。
どちらもあらゆるカード当ての方法を知ってるマジシャンを騙す工夫があって、その上であらゆるギミックデックを使ってる可能性を排除できてるのがすごいですね。
正確にはわからなくても「これを使えばできる」的な想像をさせるのとその可能性を潰せるのではかなり差があります。
カード当ての場合は特に動作から手法が限定されるので、特にマークドデックではないことは強調しておきたいです。
この手順ではマークドデックを疑われることはないようになっていますし、複数の手法を賢くうまく使っていて、知らない手法も多く含まれていました。かまし的な演出もハマってると思います。
The Catcher in the Turnover (とうそん)
カードを選んでもらってデックに戻し、観客にシャッフルしてもらいます。
表向きにスプレッドしたデックを裏向きにする流れで選んだカードだけが抜き出されてくる現象。
観客にシャッフルさせなくてもいいならいくらかやり方がありますが、不可能さや安定性を求めるならこの方法って感じです。
シンプルな仕組みでありながらこの方法に辿り着くのはなかなか大変な気がします。どういう経緯で出来るんでしょうねこういうの。
やってて楽しいし綺麗に出せればビジュアルも良い感じです。
テンヨー「必勝アミダくじ」のヴァリエーション (佐藤興二)
必勝アミダくじは佐藤総さん作品の中でも半端ない傑作だと思ってますが、ここではその考察とヴァリエーションが解説されてます。
何を書いても必勝アミダくじのネタバレになりそうなのと、書いてる内容が自分には高度すぎて完全には理解しきってないので是非お読みくださいとだけ。
数学お得意な方は特に。すごい内容です。
読んだ人は野球かなんかに例えてこっそり教えてください。
シェファロの結び目の研究 (石田隆信)
シェファロの結び目については石田さんがフレンチのコラムに書いているので詳しくはこちらをどうぞ。
クレジットに1600年代のフランス語の本とか出てきて半端ないですが、石田さんの研究成果として3つの応用例が解説されています。
面白かったのは1番最初に解説されてるリング&ロープの手順。
リングをロープに通してからまってるようにしか見えないとこから抜けて結び目も消えます。
どうしてもパズル的な見せ方になりますが、最初に結び目の中にリングが通ってるとこ見せれるので不思議です。
続く2つの手順もしっかりマジックとして見せられるようになってました。
引っ張ってもほどける直前まで結ばれてるように見えるのがおもろいですね。
ロープ弱者なので手順追うのに死ぬほど時間かかりましたが一旦仕組み覚えてしまえば慣れてきました。
でもロープ慣れてなさすぎなのか目が回ります。
Ring in Normal Shoelace (谷英樹)
観客から借りた指輪が消えて靴紐の蝶々結びの輪っかのとこに・・・のあれを手の平サイズのスニーカーでやるやつです。
元ネタのリングインシューレースは確かテンヨーから出てましたよね。
普通の靴でやるやつはリチャードサンダースが出してましたがもっと色んなのがあったりするんでしょうか。
なんにしてもこの谷さんのバージョンはとても良いです。
繋がった後は蝶々結びの状態で手渡しができて、そのまま観客に解いてもらえます。
あとお客さんから指輪借りる手品としても、すっ飛んでいくリスクがないのが良いですね。
解説されてる手順は単体で見せれるようになっていて完成度高いです。
靴紐でリング&ストリングやってからネルソンのあれで消して靴出してくるとかも良いかもしれません。
Two penny trick after (瀬島順一郎)
「ツーペニートリックを始めて見せていただいたのは天海師だった」という強すぎる序文から始まる解説。
現象はツーペニートリックの後に見せると効果的なコインマジックで、例の示す動きで両手からコインが消失、その後両手にコインが戻るというものです。
ツーペニートリックから続けて演じると1-1→0-2→1-1→0-0→1-1という流れでかなり綺麗だと思います。
2を0に見せるのもうまく流れを活かすと低負担でクリーンに見えるという好例じゃないでしょうか。
ナックルがブレイクするような技法も使わないし日本円でできるしこういうコインマジックができると重宝しそうです。
ダブルカラーチェンジングシルク (岸本道明)
紙で作った筒の中に入れたシルクの色が変わります。ふーーってやって色違いのシルクが飛び出してくるやつで2連続、最後は紙の中になんもないことをあらためられます。
紙の筒という絶妙に何かを隠せそうな物を使って2回連続、最後に改めどーんてのが超良いです。
ちょっとだけ予想の余地を残してそれを覆していく手品ってええですよね。ステージ系だと一人一人に確認するように話せないから強力だと思います。
まあ賢い手品です。
トリックの解説は以上で、他に4つのコラムが載っていてどれも興味深い内容でした。
色んな人がいて色んなことを考えてるってのは手順解説のパートでも十分示されていますが、こういう場でしか発散できない文章が綴られていてエモいです。
そんなわけでとても面白い本でした。
皆さん書き口は控えめながらマニアをギャフンと言わせてやろうという殺気が漲っていて最高です。
マジックショップなんかでも海外の商品が主流だったりしますし、そういうのを見て韓国すごいなーとかスペインやばいなーとか思ったりしますが日本にも色んな方向で恐ろしい人がいることがよくわかる一冊です。
日本どころかほとんど大阪の人ですからね。割と近所にクレイジーなこと考えてる人がゴロゴロいるってめっちゃ興奮しないですか。
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