松田道弘さん6冊目の作品集、テーマはトリックカードです。
トリックカード縛りというよりはトリックカードを使って理想的な現象に近付けるもので、プロットは過去の松田さんの本で取り上げられてるものとだいたい同じになります。
松田さんは今までもトリックカードを使った手順を多数発表されていて、その度に「このプロットにギミックを使う必要があるのか…」的な葛藤してたり、ほかの現象では「レギュラーだけでできるようにしました」と言っていたり、世間で受け入れられるものと自分がやりたいことの狭間で揺れてる感がありました。
今回の本ではそこの衒いがなくなっていて抜けの良い文章になってるのが面白いです。
トリックカードを使うことへの抵抗の話はこの本でも色々書かれていて、今のマニア界隈にも当てはまることばかりです。
個人的には罪悪感とか後ろめたさよりもめんどくささが一番トリックカード使うことに抵抗感じる部分だったりします。
探すのがめんどくさい、持ってなかったら買うのがめんどくさい、セットがめんどくさい、手順覚えるのがめんどくさい、処理がめんどくさい、持ち歩くのがめんどくさい、とにかくトリックカードは面倒です。
セットに関してはこの本で松田さんが工夫された部分で、演技が終わってからすぐリセットできるようになっていて、演技後のゴミ処理についても大半の手順で記述があります。
あとはマニアだといかにレギュラーで解決するかという遊びが盛り上がるので、界隈だとレギュラー派が多数ですしそっちの方が評価されたりするのでトリックカード使う人少ない感じでしょうか。
これに関しては不思議なことしたいかパズル的な楽しみ方をしたいかと分けて考える必要があると思ってます。
最後はバランスと好みの問題で、1枚トリックカード入れるだけでレギュラーだけじゃできないインパクトあったりすっきりしたり簡単になったりする手順になれば取り入れたいし、ギミック使わなくても1回シュッてやれば解決できるものなら自分はシュッを選びます。
エンドクリーンであるかも重要視していて、例えばセレクトカードをダブルフェイスにするようなものや、パケットトリックで最後に全部広げて見せれないものなどには結構抵抗がある感じです。
結局はどれも現象次第で、現象にインパクトがあればエンドクリーンでなかろうとトリックカード100枚使ってようとやってみたいと思えます。
自分の場合はだいたい現象から減点方式で好みを決めるので、100点満点で現象3万点出せれば、その他の手続きでマイナス80点ぐらいでも大丈夫です。
例えばシンリムとかを見て「なんやギミックやん、しょうもな」とはならないと思うのですね。
トリックカードの手品ばかりを読むと単純にトリックカード使うからダメとかではなく、いかに不思議に見せれるかどうかという手品の根元に向き合えます。そんなもんに向き合いたいかどうかはさておき。
トリック・カードと技法のハニムーン
ギミックと技法組み合わせたら最強やん!みたいなのはこの本のこの本のコンセプトで、最初の章では松田さんの改案作品ではなく先人のオリジナルのままの現象と手法がねっとり解説されています。
泡坂妻夫原案、石田天海演出という日本手品史最強の組み合わせの手品である「アワサカ/テンカイのカード・スタップ」はデックに入れた2枚のAのあいだにに観客がカードを差し込んでしまうという現象で、周辺カードに関してはエンドクリーン。
ギミックと巧妙なスイッチ使うことで綺麗に現象起こせるんですが、松田さんも言及してるようにまあまあの確率で事故も起こります。
「ダッチ・ルーパーの手順構成」はトリックカードを使ったスリーカードモンテ。
知らなかった技法もあって、モンテ以外でも応用できるものなのでためになりました。
あんまりダイレクトに使わず、シークレットにすり替えたりすると効果ありそうです。
ツイスター・プリンシプルをめぐって
現代カードマジックのテクニックで解説された「ショッキング・ピンク」「レインボー・ツイスター」のセルフリメイク。
どちらもパケットトリックなのですが「ショッキング・ピンク」はデックから観客にストップかけてもらったところから始められるバージョンも解説されてて、オチの全部裏色が変わるとこのインパクトが高まるようになってます。
元々がちょっとショートカットしすぎなんじゃないかって思える作品でしたし、いきなりパケット出してくるのが好みに合わないので気に入りました。
クラシック・マスターピース
「ユニバーサル・カメレオン」はピットハートリングの「カメレオン」の改案で、こちらは逆にデックからカード選ばせるパートを省略しています。
その代わりにコンパクトになってリセットも容易になっていますが、パケット出してきてそれがバラバラのカードってとこがどうにも怪しいのでちょっとどうかなという感じ。
ワイルドカード的な現象をラフにデックからスタートできるのが元ネタの良さだと思うので、多少セットが大変でもそこは活かして欲しかったです。
「私のカラーチェンジ・デック」はパケットのツイスト現象からのオールカラーチェンジ。
オイルアンドウォーターでフルデックオチみたいなもので、現象としては小さく見えるパケットトリックから元のデックに戻って派手なカラーチェンジデックというのは好きです。
ハンドリングも無理ないですし、観客の意識を騙す感覚に焦点が当たってて手品っぽいと思います。
ワイルド・カードにおけるグループ・チェンジのテーマ
デレックディングル「ワイルド・ファイアー」の改案。
このワイルドカードもパケットトリックですが、観客がカードを選び、それ以外が全部同じカード、また全部カードが変わるという見せ方で、観客に引いてもらうところから始められるので演者がひたすらカウントマンになることを避けれます。
個人的にこれは結構大事なことで、演出の入る余地がないパケットトリックも多いので、コミュニケーションの取り方を考えられる作品ってありがたいです。
消失と出現のテーマ
「サインド・カードのパケット・トリック仕立て」は4枚のQと2枚のカードだけで行うサインドカード。
2枚のうち1枚にサインをしてもらって、それが消えてもう片方にサインがありましたという見せ方。
枚数減らすことでミステリーカードのなんでもなかった性はわかりやすくなってます。
サインさせるのでフリーチョイス感は必要ない気もしますし、デックをごにょごにょしなくていいのは松田さんらしい考え方でしょうか。
ギミックは消失パートに活躍します。
非常に綺麗に消えますが、サインドカードの例のあれはやらなきゃいけない感じです。
サトルティにもカウントは一切不要なので良いのですけど、あれの部分にも工夫が欲しくなってきます。
消失のテーマをつきつめる カニバル・カードの場合
今回もカニバルカードになると松田さんノリノリです。
「大喰らいのカニバル」は4枚の間に3枚入れて4枚になります。
ギミック使ったカニバルカードは枚数の矛盾をどこに持ってくるか勝負だと思いますが、一箇所超怖いところがあります。
アフターソートに書かれてるデックからパケット取り出す手順ではそこが少し説得力高まってて、実践向きなのはそちらかと思います。
カード移動のテーマ
「サンドイッチ・フライト」はサンドイッチというよりカードアクロス。
4枚の赤裏Qの間から4枚の青裏Qの間にカードが移動します。
4枚の中に1枚裏向きという見せ方がどうにも好きになれず、どうにか2枚-2枚で見せたいもんで色々考えましたがちょっとこの手順からは難しそうです。
佐藤総さんの「ラブ・ア・ダブ・ダブ」にヒントを得た手順だそうで、あれはあれで完成されてる手順なので、どうしても似た部分があるとごちゃごちゃして見えてしまうような気がします。
こちらは色違いという説得力ある方法でカード示してからの移動なので、そこは好みの問題でしょうか。
「Tranceposition」は4枚のKと8の入れ替わり。
なんでAじゃなく8なんだというのはまあそういうことですが、初見だとマニアが引っかかるポイントは多くていつかやってみたい感あります。
レギュラーではできない示し方ができるので今入れ替わりましたって言いたい時はこれって感じです。
エースのテーマ リン・シールスのプロブレム
色違いのA4枚でアセンブリです。
なんでフォア・エース界隈って元の手順もそこまで決定版が出てないのに色違いとかやりだすんやって思ったりするのですが、ギミックカード使う都合という理由もそれは尊重しないといけないかなという気分もあって、現象がわかりやすくなる!現象がわかりやすくなる!と自己催眠かけて演じると強くなれます。
この作品は消失パートとまだエースじゃないよサトルティとしてギミックがうまく使われていて、手順も比較的覚えやすいほうではないでしょうか。
マクドナルドのエース 2題
フォアエース系ではマクドナルドエーセス最強と思ってるので、もうあんまり無理しない方が良いのでは感もあったりするのですが「マクドナルドの最終オーダー」はとても面白かったです。
マクドナルドエーセスより使うギミックカードの枚数は多くなるのですけど、直前マスターパケットにはエースでないカードを置いてるように見せれるので強いです。
これ使えばスローモーション的なこともできそうですし、アセンブリ弱者としては面白いアイデアが詰まった一作に思います。
変則的なエース・アセンブリ
「プログレッシブ・クイーンの最終版」は隣のパケットにクイーンが移動していくという繰り返しですが、1枚2枚3枚と移動する枚数もどんどん増え、消失と出現どっちにも気を使わないといけないプロットをうまく解決してると思いました。
使うトリックカードは色んなアイデアが出ていますが、この作品はかなりうまく使われてると思います。
ハンドリング的に好みでないとこもありますけど置き換え可能な範囲なのでこの本の中では一番好きかもしれません。
大半がパケットトリックで、もう少しデック全体にトリックカード使った現象とかも見たかった感はありますが、パケットトリックにしてしまった方が演じる機会増えるというような判断でしょうか。
そう考えると6枚だけ持ってればサインドカードできるってのは結構魅力的に思えてきます。
この本のトリックカードの使い方見てると、やっぱり松田さんはエンドクリーンでなくても途中の作業を確実にディセプティブに見せることに力を入れるタイプの方です。
ここは完全に自分の好みと合わないところだったりしますが、現象をこそクリーンに見せたいという場合には現象の直前に怪しいことしないという考え方は大事だと思います。
この本はラフとかあれ系のカードは使わないのですけど、うまく組み込めば現象起こってからの負担を大幅に減らせるものもあるので、どうせギミック使うなら精神でなんか考えてみたいところ。
どうせならそれはもうトランプじゃないだろってぐらいのものを使いたいものです。
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