by jun | 2018/07/21

松田道弘さんの初作品集です。
今本屋とかAmazonで買えるのは2007年に発売された改訂版で、元の本は1990年。
改訂版には「20年後のアフターソート」としてそれぞれのトリックの現状やクレジットの補足などがされていて、挿絵も見やすく書き直されています。


解説されてるトリックは後の作品集にもしばしば出てくるクラシックプロットの改案で、この本から更に発展させたものも多いのでこれ読んでおけば他の松田本を100倍楽しく読むことができます。

現象はシンプルにわかりやすく、無駄な動きは排除する松田さんの考え方をみっちり学ぶことができ、元ネタや改案のこだわり面も詳しく書かれているので手元に置いておくと何かと便利な一冊。
読み物としての面白さも無類です。

第1部 フォア・エース・トリックの魔力

初作品集の一発目から魅力ではなく「魔力」とタイトルがついてるあたり松田さんの取り憑かれっぷりがよく出ていてとても良いです。
フォアエーストリックは今ではエースアセンブリと括られて呼ばれることが多いあれで、この関連作だけで11作品解説されてる異常事態。

バートラムによる演出がねっとり解説されていたり、派生したバリエーションのジャンル分けを丁寧に説明していてくれたりしていて、今でも基本はこのジャンルからの改案作が多いのでここ読んでおけばだいたいなんとかなります。
ここまでどんな試みがされてきたかというところを読むと、松田さんが取り憑かれてるだけでなく、改案を発表するマジシャンがみんなこのトリックの沼に引きずり込まれていってる感じが伝わってきて味わい深いです。

改案が多数発表されるプロットはそれだけこれという決定版が出ないからで、何かしら気になる部分が出てくるのだと思います。

松田さんの改案はデュプリケートやギミックカードを使うものが多く、しかし現象は確実に理想に近付けようという気合いが見えて、この現象第一の考え方はマニアは結構忘れがちだったりするので今こそ読むべきという感じがしますね。

「スローモーション・ジョーカー・アセンブリ」は1枚ずつ移動を見せるバーノンの作品をジョーカーで行ったもので、4枚のジョーカーを使うことで終盤のごたごたが解消しています。
ジョーカー4枚使うのはいきなり不可解な状況からスタートすることや、余分なカードを使ってると思われることなど問題は残りますが、手順的にはたしかにすっきりしました。
カードの個を消すことで移動した時のそのカードが移動した感がなくなったり、ジョーカーというどうでも良いカード感が出てしまうことはかなりのデメリットだと思いますが、絵札の赤黒なら似たようなことできんじゃないかという気もするのでちょっと色々考えてます。

レギュラーだけでできるやつだと「私案トッピング・ジ・エーセス」が良くて、これはアセンブリとはちょっと違うやつでバラバラに入れたエースがトップに4枚集まるパターンなんですが、シンプルさならこれが一番かなって感じです。

「オープン・トラベラーズのダブルクライマックス」はヤニッククリティアンとデビッドストーンが有名にした、最後に移動したカードが変わるトラベラーの元ネタの改案で、松田さん版は最後ブランクカードになります。
ブランクとちょっとしたギミック使うことで説得力が高まっていて、オチの綺麗さ的にもブランクはありかなと思いました。

しかし現象起これば良いという考え方に共感すればするほどマクドナルドエーセスが最強な気がしてきます。
スローモーションやリバース的なことはできませんが、消失も綺麗に見せれるし移動したAはレギュラーだしなかなか超えるのは難しそう。

シンリム先生が52 SHADES of REDの中でやってるファンキーな手順とか、ああいうクレイジー進化も好きなんですけど、こういうのが出たからこそレギュラーでそこそこ解決したいという欲が出てきますね。
最近America’s Got Tallentで演じられたそうで、何度見ても良いっすねこれ。

エース・オープナーの効果

ここから第2部の「最新流行のテーマへの挑戦」というパートなのですが、まだエースの魔力が溶けてないのが良いですね。

ここで解説されるエースオープナーはスペクターカットエース系の観客参加型オープナーで、ジェニングスのリーピング・ジ・エーセスっぽいやつです。

松田さんは時々、枚数を錯覚させるのにワイルドすぎることがあって、これもそれ系だったりします。
一番怖いところの解説がざっくりしてたので松田さん的には勢いでいける部類という判断なのでしょうけど、かなり怖いです。
リーピング・ジ・エーセスと違ってパケットの上にエースを重ねていかないのでフェアではあるのですが、それならそれで「何故すぐめくらなかった!」というもやもやが残る気はします。

ポーカー・デモンストレーションの呪縛

シンプルなポーカーデモンストレーション。
5人の観客に配って演者は4枚のエースを自分に配ることができます。

フォールスディールもフォールスシャッフルも使わないフェアな手法で、ギミックを使わずレギュラーだけで行う工夫もクレバーです。

あんまり好きなプロットではありませんが、やるならこれやりたいと思える綺麗な手順だと思います。

私のリセット

松田さんのリセットはこの次の作品集である松田道弘のクロースアップカードマジックに載ってるやつが好きですが、この「私のリセット」は原案に忠実に4枚のAと4枚のKを見せて始まります。

工夫ポイントはKの変化を赤黒赤黒に見せれるところで、今だとリセットの改案ではマストになってる部分です。
セットも覚えやすく、チェンジにもちょっとした改変がされてて、スイッチもあんまりやってる人見ないやり方なので、リセット以外で役立つこと多そうなものが詰まってます。

私のインターレースト・バニッシュ

4枚のKに3枚のAを裏向きに差し込んでいってそれを消してしまう手順です。
カニバルカードみたいな原理ですが、これもなかなかにワイルドな部分があります。
観客から見ると後々考えた時にそのワイルドな部分しかないと思えるのですが、表裏にすることでその可能性は消せますし、ワイルドな部分を丁寧に頑張ればなんとかなりそうな気がしないでもないです。

コレクターの妄執

変則的なコレクターの改案です。
挟まる前の無駄な操作を減らすために、最後の3枚を見せるところに気を使う作品ですが、「今はさまりました!」を強調したい人にはおすすめ。

次作の松田道弘のクロースアップカードマジックにはノーギミックでコントロールもすっきりした完全上位互換が解説されてるのでそっちがよりおすすめです。

Point of departureの混線

2枚のジョーカーの間にカードを挟んで、それが消えてデックの中から表向きで出てくるポイントオブデパーチャー。
4枚の絵札使うやつとかもありますが、綺麗なのは2枚のジョーカーだと思います。

ここでも枚数問題が出てくるわけですけど、消失前はともかくその手前の解決はかなり良いです。
一番ごまかさないといけない直前に説得力強い何かを持ってくるのも松田さんの特色じゃないでしょうか。

オムニ・デックの伏線(アンダープロット)

アンビシャスカードからオムニデックの流れを、デックスイッチなしでオムニを普通のトランプに見せる伏線の張り方。
松田さんによるマジックにおける伏線についての考え方が書かれていてたまに思い出します。
要は伏線のための伏線はダメだという話で、なんか面白いことが起こってる時にそれが伏線になってるのが理想という話です。

ここで解説されてる手順は枚数について言及する流れで現象をグレードアップさせていくもので、オムニに落とすなら筋も通るしレギュラーでやるアンビシャスを見せずに普通のトランプであることを強調するには十分じゃないでしょうか。

サンドイッチ効果の腐食度

ここ数年ビジュアルサンドイッチが多数発表されておりますが、こちらはヌメッと怪しい動作なしに挟まるアボカド系サンドイッチです。

ギミックカード使うのでサンドイッチにそこまでのコストをかけるかというのは松田さんも思ったそうで、半ばヤケクソになったみたいなことが書かれていました。
改訂版で省く説もあったみたいですね。

ただ、このサンドイッチカードはサインを書かせることができて、その構成もなかなか巧みで、マニアが見てもギミック使ってる感はないんじゃないでしょうか。
レギュラービジュアル系のサンドイッチはだいたいコントロールのところは普通で、何かしらで挟んで出すとこをビジュアルにする勝負のものも多いので、この手の怪しい動作を減らす方向は今逆に考え直すテーマかと思います。

オイル・アンド・ウォーターの迷路(ラビリンス)

アスカニオの手順をベースにした4・4で、裏向きに混ぜる→表向きに混ぜる→アンチ水油の三段手順。
カウントは使わず、混ぜたとこも強調できて、2段目の終わりからアンチまでもぬるっといけてかなり良いです。

あまり独特の技法を使っておらず、それだけアスカニオ手順が良いということですけど、最後はかなりすっきりさせてて手順も覚えやすいし4・4水油の中では好みに合いました。
どちらかというと松田さんはこの後の作品集に発表してるオイルアンドウォーターの方が迷宮に迷い込む感が出てて良いと思います。

全体通して技法的にはそこまでマニアックという印象はなく、ステップアップとしてもマニアの勉強用としても読める本という印象です。
手法はなんぼでも他のプロットに応用できますし、そういう発想をかき立ててくれます。
個人的ベストはPoint of departureの混線とオイルアンドウォーターあたり。
オイルアンドウォーターは松田本の中でもこれが一番好きです。

松田さんの作品集読み返してそれぞれのプロットのベストを探す遊びをしているのですが、オイルアンドウォーターとポーカーデモンストレーションに関してはここに載ってるのがベストだと思ってます。
せっかく読み直したので他の本も追い追いレビューしていければって感じです。

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