今年アシウィンドが出したレクチャーノート。
マジックランドから小林洋介さん翻訳の日本語版が出ています。
カードの技法1つと手順2つ、センターティアの手順が1つ入ってるのでPaper Work。
アシウィンドの代表作をまとめたrepertoireとの重複もなく、まあどれも凄いです。
3D Telepathy
センターティアの破るという行為に意味を持たせた手順。
破った後復活する手順であればガイホリングワースが”The Reformation”で言っていたように「先に破っておかないと、マジックが楽しめないじゃないですか」を言えるのですが、心を読むのであればどこかに隠しておいてもいいわけですし、そもそも破る以前に書く意味がよくわからないような演技もあったりします。
テレビなんかだと心に思ったものをカメラに見せるという体がわかりやすいのですが、どう考えてもどこかで盗み見るために書かせたとしか思えないということになりがちです。
テレビでも残念な例はあって、心読める人が大槻教授のiPadの暗証番号を読み取るというのをやってたのですが、暗証番号なら解除すること自体が読み取ったことの証明になるんだから書かせる必要は全くないのに紙に書かせる手続きを入れてました。
手品であればこれはそういう手品だから、ということでまだ納得いったりするのですけど、その番組は大槻教授が自称なんとかにお前インチキやろと言うための対戦形式だったので余計紙に書かせるとこが浮いて見えました。
んで、このアシウィンドの手順は書く意味も破る意味もとてもわかりやすいです。
これはそういう手品だから、ということでもあり、そういう手品の中では超自然という、とてもアシウィンドらしい考え方だと思います。
手品の枠の中で最大限に不思議なことをするというのは基本的な考え方ではありますが、そこのバランス感覚が優れてる人の手順はやっぱり良いです。
カードフィクションズを読んでる人なら、あっこれInducing Challengesやんと思うクライマックスがあり、そこにも紙に書かせて破る意味が色んな意味で存在しています。
このオチを用意しておくことで「じゃあ今俺が何考えてるか当ててくださ〜い」みたいな事態も防げるんじゃないでしょうか。
Double-digit Riffle Force
2ケタの数字をフォースする方法。
他のアイデアと比べると新鮮味は薄いですが、エニーナンバーとかカード使う現象ならかなり強力なフォースです。
確実で、最後に本当の自由があるのがやらしいとこですね。
Noah
レクチャーで見て失神しかけたやつ。
マルローのMatching Routine、メイトカードの手順ですが、あり得ない一致現象の連続のあと最後は全部メイトが揃います。
この手の手順は最後に揃ってるとこを見せると、揃ってたから一致させれたのかということにもなりかねませんが、このルーティンではそんなことは絶対に考えさせないようになってます。考えても強烈な印象を残す場面がいくつも挿入されてるのでちょっと遡って積みます。そもそも借りたデックでシャッフルさせてからの話なので始まる前に積んでます。
解説を読んでもまあ賢くて、その時々で不可能な一致を起こしつつ、エンディングの不思議さを際立てる布石にもなっていて、そういうやり方もあったかという以上に構成力に痺れました。
Double ExposureやA.A.C.A.A.N.(A.W.A.C.A.A.N.)と比べても演じる難易度がめちゃくちゃ高く、本人の圧倒的なパフォーマンスを見ないと良さが分かりにくい作品でもあるので過去作のような評価はされないかもしれませんが、個人的にはアシウィンド最高傑作だと思っています。
Gang of Four
ダニダオルティスの”Twin Souls”のAsi版。
観客が選んだカードのフォーオブアカインドがデックの中で表向きになる現象で、Dani版も超良いんですがセッティング問題という小さくない弱点もありました。
ダニダオルティス本人もイングブルムにどうやってそのセットするの?って言われて「家からこうやって持ってくるんだよ!」と冗談で返してたぐらい、セットが面倒くさいというのではなくスタートさせるのが難しい手順だったのですね。
Que raroの中でダニダオルティスとイングブルムのそれぞれのセット方法も解説されてましたが、現象の中でセッティングするイズムのアシウィンドが見事に解決した形です。
たぶん読んだだけだと、これの後にこれは弱くないかしらと思ってた気がするんですけど、アシウィンドはプレゼンテーションによる現象のフォーカスのさせ方がめちゃくちゃ上手くて、
量は減ってても不思議さの質が上回ってることを必要最低限の言葉で演技していました。
この場合は物理的な不思議さより心理的なキモさということですが、Noahなんかは逆の作りだし現象の強さのコントロールというか今何が起こったら不思議なのかって見せ方が本当に上手い。
Twin Soulsの肝の部分はダニダオルティスと少し違った方法が解説されています。
一言加えるやつが有用そうですね。
比較的成功率も高く、失敗してもより確実な方法で逃げれるしそこまで負担ないです。
んなわけで正味25ページの中に恐ろしいぐらいの中身が詰まった1冊なのですが、誰が見ても死ぬほど驚ける貴重な手品の解説がされているわけで、死ぬほど驚く機会を奪ってしまうという意味ではおすすめし辛い本でもあります。
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