by jun | 2018/09/21

リアムモンティアーのレクチャーノートで、セルフワーキングネタ1個が解説されてます。
この人の本はだいたい1個は気にいるのが入ってるし、単品ネタは結構良いのではと思って読んでみました。
というかこれUltimate Self Working Card Tricks Vol.1にも収録されてるんですね。
それも納得の内容でした。


まずタイトルのHenry Sugarってのはロアルドダールの”The Wonderful Story of Henry Sugar”という小説からきてて、そのストーリーにインスパイアされて考えられたトリックだそうです。
「奇才ヘンリー・シュガーの物語」などいくつかのバージョンで邦訳版も出ているのでこの機会に読んでみました。
ヘンリーシュガーはクソ金持ちの親父の遺産で暮らしていて一回もまともに働いたことがない40代のおっさんで、そのお金でギャンブル三昧というなかなかのクズっぷりなのですが、目に見えないものが見えるというスピリチュアルインド人のノートを発見して読み始めます。
そのノートにはその透視的な能力を開花させる訓練法が書かれており、これできたらカジノでぼろ儲けできるやんつって必死に頑張ってついにその力を身につけ、トランプを裏から見てなんのカードかわかるようになったのでカジノで大儲けできるようになりました。

この手のクズ主人公ものだとだいたいドラえもん的な悪用からの転落みたいなのが多いと思うんですけど、その後がちょっと変わった話の展開で面白かったです。
児童文学としてもやや変わったバランスで、メタ構造的なこともあって変な話なんですが、公序良俗に反する行為を描く上で無理矢理バランスを取ろうとした結果不思議な後味を残す小説でした。
ダメ人間がダメな目的のために努力する場面がよくて、人が決定的に価値観を変えてしまう瞬間というのはだいたい素敵です。
そのきっかけが一冊の本であるというのも子供に読ませる本として真っ当ですし、作中内作品のクウォリティも高く、嘘話が人に影響を与えるということを伝える大事な役目を果たしています。

このトリックのセリフでもさらっと出てくるぐらいだからイギリスでは皆さんご存知的な有名な話なのですかね。

現象はこの物語になぞらえ、演者は後ろ向きの状態で観客が何のカードを持ってるか当てるというものです。
観客にシャッフルさせることができ、フェイズごとに違う当て方をすることで不思議さを増していくタイプの手品。
前半は演者が後ろ向きで観客が持ってるカードを当てるので、覚えてもらわなくていいのが良いですね。
んで、これが後半デックに混ぜたカードを当てるのに効いてきます。

前半はやや込み入った原理で限定的なカードを当て、後半はシンプルな原理で自由に選んだカードを当てるというのが上手いです。
ちらっとタマリッツの話も出てきますし、うまく使えば強烈な現象になると思います。
見た目的にはカードの裏も見ずに全部のカードを言い当てることができる人で、それでいてそれほど重々しくなく演じることができるのも良いところです。
他の作品でも原理やトリックの組み合わせで良い感じの手品作る人ですが、これは組み合わせることで不思議さが跳ねてるって意味ではトップクラスかもしれません。

よりマニア向けにするなら最初のシャッフルの後カット入れるといいんかなとか、逆に最後のカットはやめた方が原理感消えるかなとか色々細かいとこを考えたくなります。
あと「難しくするために」はキャラによっては「難しいので」の方が良さそう。
ほぼ最初のセリフにいかに説得力を出せるか勝負なので、そのあたりに自然さを求める戦いですね。

なんかこの手の手品以外のものからインスパイアされましたみたいなのってかっこつけんなやと思うことも多いんですが、こういう良作ならどんどんインスパイアされていただきたいものです。
ロアルドダールの本で読んだことあるやつなら「アッホ夫婦」という恐ろしい話があってこれがめっちゃ好きなので手品にしてくれませんかね。

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