by jun | 2019/10/27

2018年に出たデニスベアのカードマジック作品集。
全9手順、恐ろしい出来の1冊です。
不思議で、エンターテイメント性が高く、表現の幅も豊かで、どの手順を見てもカードマジックにこれ以上の要素はなんもいらんと思います。
裏側はそもそものアイデアが強く、それに負けない細部の妥協のなさが全編貫かれていて、ここまででも十分というところから更に演じやすく更にディセプティブにとブラッシュアップされてるのがよくわかって痺れました。


DVDのMagic on Tap収録作の”Routined Arith-Mate-ic”、”Extended Gambling Demonstration”、”Mating Season”は前にも書いたので省略しますがどれも非常に素晴らしい作品になってます。
わけても”Mating Season”が突出した傑作で、メイト一致ルーティンというテーマを究極的に突き詰めた手順。
全てのメイトが揃った時に「最初からそうなっていたのでは?」とは絶対にならない構成が見事です。
最初のフェーズが効いてるのもあるし、直前はテーブルにスプレッドしてバラバラな事示してますからね。
もうちょっと簡単にやる方法もなくはないけど、このやり方でないと出ないワンダーがあり、難しい事しなきゃいけないとこはタイミング的には楽になってるギリギリの優しさがあります。
メイト一致に収まらずカードマジック史上に残る名作だと思っています。

“Routined Arith-Mate-ic”もメイト手順ですがこちらは非常に巧妙なセルフワーキング。
DVD見てからめちゃくちゃ気に入った手順の一つで、こっちの負担は変わらず徐々に難易度を上げて見せれるのが本当に素晴らしいです。

スタック大好きなデニスベアですが、様々なスタックを扱うにあたってセットの負担を減らす工夫があるのも親切なあたり。
“Mating Season”も”Routined Arith-Mate-ic”も同じスタックからトランスフォームさせることができ、確かに元のスタックの作り方から性質を考えるとなるほどという感じなのですが、このコロンブスぶりは凄いですね。

“Extended Gambling Demonstration”はギャンブリングデモンストレーション手順で、観客が自由に言った数字の4枚が出てきたり観客が言ったマークのロイヤルフラッシュを配ったりしてニューオーダーまで行きます。
フォールスディールは使わず説得力高いシャッフルが使われるので全体かなりフェア。
これ、DVDのショーでは前の手順からの繋ぎが素晴らしかったので特に印象良いですね。

DVD収録作はレギュラーデックの限界を見せた手順が多かったのですが、3巻ではゴリゴリの研究家のバーリトゥードモードが見られます。
レギュラーデックからはみ出ると逆に「その手法でできること」という枠に収まってしまうこともありますが、やはり知識というのは強く、理想的な現象までキャパシティを広げ、あらゆる角度から限界を超えてるのがとにかく凄かったです。

The Dark Force

非常に自由度の高いフォース法です。
似た手法のものはありますが、ここまで仕上がったものはなかなかないと思います。
この手の手法は「こうなった時は適当に頑張ってね!」となりがちな箇所があるところ、そこもちゃんとフォローされてるのがさすが。
演者も観客も知り得ないカードを作れるのでここから出来ることも夢が膨らみますし、フォース後の状態的にも演出を考えやすい方法です。
観客にこういうことをしてほしいとデモンストレーションできないのは欠点といえば欠点ではありますが、必ずしもこれがベストとは言えない中で特定の手順にはめちゃくちゃ強いという考え方が凄いすね。

Mr. Luckiest

観客がシャッフルしたり配ったりできるポーカールーティン。
最初はAで勝って更に観客が混ぜて配って次はロイヤルフラッシュで勝てるというもので、デモンストレーションというよりかなりマジック寄りな手順です。
かなり応用範囲の広い技法が使われていて、まあめちゃくちゃ難しいのですけど適切に使いこなせれば最強になれます。
やっぱりこの人は技法も原理も使い所がかなり上手くて、この構成力は本全体通して学ぶべきところですね。
言葉で説明せずともこういう動きにはこういう意味がありますよねという植え付けをフェーズごとに仕込む感じ。

Photographic Memory

DVDで実演のみだった記憶術のルーティン。
何回見てもわからんとこがあったのですが、解説読んでもそれでいけるんかという感じで、凄い。
原理をここまで発展させられるものなのですね。
言い当てていくのではなく写真に撮らせて並べ替えるというのもかなり効果的で、デニスベアがやるさらっと見ただけで覚えてしまうあの動きとの相性も良いです。
ビールの盛り上げを差し引いてもやっぱりめちゃくちゃ凄い手順だと思います。

The More the Merrier

複数の観客にカードを選んでもらって、好きなとこに戻してもらい、シャッフルもさせて表を見ずにプロダクションしていきます。
悪いことばっかしてるのに全編フェアに見えるし特に悪いことするところで演出上の動機が強力についてるのが超素敵。
そしてこの手順はその後にこそボーナスステージが待ってます。
1巻のTantalizerでやっていたことと似た試みと言いましょうか、この後にこんなことが出来るのかということが出来てしまいます。
スタック使う多くの人のレパートリーになる手順じゃないでしょうか。

Haunted Herbert

Herbertちゃんそんなことも出来たの…

もう怖い。
解説読んでまた怖い。
このえげつない現象でここまで負担を減らせるのかという工夫があります。
あと手の上で行う方法も解説されていて、シチュエーションというよりかなり見え方が変わる感じですね。
どっちにしても輪ゴムトリックからのホーンテッドというアイデア、それやるなら現象もより強くしないといけないというハードルを超えてるのが見事。

とにもかくにも凄まじい一冊でした。
デニスベアはMagic on Tapで高いスキルとパフォーマンス力も見せており、この本の推薦文でもデビッドウィリアムソンがこれ以上ないという絶賛をしていますが、膨大な知識を活かした創作からテクニカルでおもろい演技まで全てにおいて異常なレベルな人です。
その高みにいる人がここに至ったというのを見るだけで十分読む価値があります。

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Comments

素敵なレビューありがとうございます!
解説があれば完璧でした。
Photographic Memoryだけでもお願いします!

10月 28.2019 | 02:05 am

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