by jun | 2020/09/04


2018年に出たAsi Windの本で、過去に発表済みのものを含めて彼のレパートリーが収録されています。そんなもんは良いに決まってるんですが、豪華な装丁と水彩画によるイラストなど至る所に美意識が感じられ彼の表現者としてのレベルの高さをあらためて感じさせられる一冊です。


作品の鬼クウォリティぶりは今や世界中のマジシャンのレパートリーになっていることからも明らかでしょう。
映像化されてるものも一冊通しで読むと、なんでAsi Windの手品はあんなに良く見えるのかとか、どういう方向でブラッシュアップしてるのかというあたりがぼんやりわかった気がします。
元ネタと比較するとよりインパクトの強い現象にするためのバリエーションが多いのに、それでも全体としては元よりすっきりしてるのではないかという印象で、技法はもちろんカードの選ばせる方から現象の示し方まで計算が行き届いており、無駄がないだけでなくそれぞれの場面で記憶に残る動作や絵が挟み込まれてるのも特徴でしょうか。
無駄を省く過程で際どいところを攻めてる部分も共通してて、一瞬のオフビートを作ってそこで一番でかい仕事をやってしまうような構成も強いです。このあたりの細かいタイミングについては文章では掴み辛いとこではあるんですけども、こういう読後感の手品は良いものが多い気がするというか、手順を読めば優れたパフォーマーにしか作れないものだとわかるのが面白いところです。
手順構成だけに頼るでもなく手先のスキルが高いだけでも成立しないような総合芸術感とでも言いましょうか、だから難しいし演じ方によっては割と普通に見えたりパッサパサの手品にしてしまう危うさもあり実際にレパートリーにするには結構大変。まあでも取り組む価値は多いにありますよ。こういう手順をやっていたら全体的なスキルアップに繋がるというような手順ばっかですし。

有名なのは除いて映像化されてない作品について少しだけ。
“S.A.C.A.A.N.”は観客がシャッフルしてから行うエニエニ。”A.W.A.C.A.A.N.”もあるし、カードアットエニーナンバーとしての仕上がりがとても良い”S.C.A.A.N.”もあるんで、難易度も上がってるし立ち位置的にどうかなと思ったんですが、割とこれがベストぐらいに感じてきました。
おおまかな原理はDenis Behrのあれなのですけど印象はかなり違います。デックは一つで良いし、カードの選択もテーマ的にぴったり合っててシャッフルする意味がはっきり不思議さに繋がる手順です。見た目のバランスの良さ以上に優れた作品だと思います。

あと気に入ったのは”Supervision”。これは観客がカードを当てたかのように見せる手品で考え方がとても面白いです。やってることより遥かに規模が大きいことが起こったように見える。解説もめっちゃ良かったです。

“The Trick that Never Ends”は観客がカットしたところから観客のコールカードが出てくるもの。パワーをはったりでカバーしている全体の流れが上手い。コールカードネタはもう一つ、”Reverse Engineer”という観客がテーブルの下でひっくり返したカードが言ったカードでしたというネタで、観客に渡してから演者は触らなくても良いようになってます。パフォーミングモードの話があったりしてこの手のトリックを楽に効果的に見せる術が学べます。

原理系で面白いのは”A Coin Trick”という2人のカードの枚数目を予言する手順で、これはサイモンアロンソンが元ネタですがテクニカルに即興化していて見事でした。フェアさを強調するところで裏仕事する感じもとても好み。実際観客がすることの自由度は高く、技法のとこさえうまくいけばかなり不思議な予言に見えます。

あとは2デック使ったトランスポジションの”Echo”。完全即興からはじめられるハンドリングの流れがまあ綺麗。状況的に色んな現象の示し方が考えられるところを、うまいこと段階的に見せるあたりも勉強になります。読んでからレクチャーで演技見たけど流れ持っていかれる感じありました。

Chapter:One収録作だと”Crossing Over”が好き。ビドルトリックなんですけど、ビドルトリックがまだこんなに良くなるかという感じでマジ最高です。なんかパワーアップさせる時にワンダーなところをよりワンダーにするポイントが本当に的確。
既存トリックに何か要素をプラスする時にいたずらに現象を足すんじゃなくその瞬間の驚きをアップさせるのは全体通してそうで、関連作を色々調べても手法一つ一つはめっちゃ新しいことやってるわけじゃないのに感触がめっちゃ変わってて本当に恐ろしいなと。
とにもかくにも凄い本です。
この凄さは言葉で説明できるもんでもないんで早く読め以外に言うことないですマジで。

Sponsored Link

Comments

No comments yet...

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です