by jun | 2021/06/12

1974年に出たポールカリーの本。
今はこの本に入ってるトリックの大半が収録されてるWorlds Beyondという全集的な本が復刊されていますが、こっちにしか入ってないのもちょこちょこあるのでとりあえずこっちから。
まあ色んな面白いことを考える人で、レギュラーデックで手軽に出来るOut of This World やPower of Thoughtが突出して人気なのもわかりますが、こういうアイデア人はバーリトゥードでこそ力を発揮するというのがよくわかる一冊です。
現象自体の面白さ、巧妙な原理、原理を隠蔽する手順の的確さと動機付けにとどまらない愉快なプレゼンテーション、全ての手順で全部レベル高えってのを体感できます。
代表作だけでもそのあたりは確認できますが、読めば読むほど守備範囲の広さにビビらされること必至。
この本だとハード系の技法を使うものはなく、特にプレゼンテーションと手続きの踏み方に面白みを感じやすいです。
作品ごとに冒頭コメントが付いててカリーの手品観が見えてくる面白さもあるし、目的が明確でも普通なかなか思いつかない角度からのアプローチが楽しめます。

The Problem Of Card 13

最初に選んだ1枚と同じマークのカード12枚を残りのデックから観客が選んでしまうというトリック。
現象的にSpectator finds Acesと似たような感じで解決できるわけですが、手順の踏み方がとても良いです。
必要な動作が自然に出来るようになってるし、大胆で怖いところも演出でカバーされてます。

A Swindle Of Sorts

絶品。
こういう手品が好き、という文章が書かれていて、本当にその通りの作品に仕上がってる様に感動します。

Mission Incredible

Swindle Of Sortsから続けて演じられるトリックで、観客が裏向きのままA〜Kを順番通りに出すという手品。
この現象のためなら何やってもいいよと言われてもなかなかここまでの完成度にはならんという感じの面白解決です。
たぶん大枠のネタだけならどこかにありそうだけど、仕事をやりやすくするための仕掛けと、最初にこういう現象を起こせるというところをクリーンに示せるところの構成がえげつない。

Houdini’s Legacy

カードに丸を書いて、観客にカットしてもらった場所のカードの名前が丸の中に現れるというトリック。
イングブルムの改案が有名なやつですね。
フーディーニ話の演出も面白く、こういう現象はこういうところに凝るべきという細部も素敵。
トリックとしてもめちゃくちゃ強いけど構造を最大限に活かした手品になってると思います。ポールカリーのトリックはだいたいそうですがそこがわかりやすい一作かなと。

Missing Link

両橋を結んだロープのアンリンク現象。
リンクさせた状態で観客に端を結んでもらうことができるのが肝です。
観客参加型を意識した作品ということで、ロープの場合はただ持ってもらうだけというのも多いけど、これは結んだまま外れるのが凄いということを説明してから結んでもらえるのでその効果も大きいんじゃないでしょうか。

IOU

フラッシュペーパーを使ったコインの変化。
Worlds Beyondには色々と面白いフラッシュペーパーの使い方をしてる手品が載ってますがこれもその一つ。
ユーモアがあって現象が起こったことにロジカルな説明がつくオチがありめっちゃ面白い見せ方です。
素材の無駄のない活かし方がほんとに上手い。

Cider!

10カードポーカーディール。
派手な役で勝てるものではないけど、観客が選ぶところは完全ハンズオフで出来るもので全部のカードを観客が選択できます。
セリフも作り込まれていて、ちょっと変わった手続きをするポーカー手品らしいバランスです。

Kissing Cards

トップとボトムに置いたQとKが真ん中でくっつきます。
ポールカリーはハードな技法も使う人ですが、2枚のカードを扱うことを巧妙に利用したサトルティで鮮やかに移動を解決した一作。

Turnabout

矢印を書いたカードの向きが変わるやつ。
マーチンガードナーの本にも面白い手順が載ってたけど、カリーはよりカードマジック的な手法も取り込みつつ不思議ルーティンにしています。
技法も良いし、色違いのカードを使ったり輪ゴムでとめたり色んな企みがあっておもろい。

Don’t Lie To Me

一人の観客に嘘を含みながらカードを読みあげてもらい、嘘かどうかを見破るというトリック。
もう一人観客が参加してその観客にも推測してもらう楽しい感じの手順です。
ある原理を使っていて前半だけなら基礎的な原理の使い方で面白い見せ方という感じなんですが、後半ははっきり難易度を上げてるように見せれてめっちゃ不思議。

The Red And The Black

カードを2枚ずつ示していくと赤と黒か同じ色の2枚かになりますが、Aがあるところだけ同じ色になるというトリック。
原理としては古典的なものですが、観客がこの並びを作る手順とプレゼンテーションがよく出来ています。
ちょっと長いし地味と言えば地味ですが、実験的に見せるならとても効果的で参加した観客は特に不思議に見えるはず。

Turn of the Century

セレクトカードのリバース現象。
これをずっと観客がデックを持っている中でやってしまいます。
ちょっと怖いところもあるけど観客にやってもらう手順として丁寧な解説がされています。
表面上やってもらうことと裏仕事のダイレクトさが面白く、何故そういう手続きをするのかというところにも気を配られていて長い手順でも盛り上げながら見せれそうです。

Think Of Twenty-Five

マインドリーディング。
テーブルの下からお尻の下に持っていってもらうので絶対に知りようがないのですが当たります。
色んな原理と演技力の組み合わせで、気取られないようにカードを特定していくところがめっちゃ気持ちいいです。
いくつか質問的なことをするのですが、その間接的っぷりが見事で振り返ってもそこはカード当てるには重要なこととは思わない感じ。

More Power To The Thought

Power of Thought の1デック版なのですが、Think Of Twenty-Fiveから続けて演じることができ、プレゼンテーションも思考を読むのと未来を読むのは違うぜというかっこいいセリフを言えます。

The Missing Thought

1枚のカードの上に座ってもらって、残りの全部のカードをマインドリードしてお尻の下のカードを当てます。
これも素晴らしいですね。
現象の見せ方も面白いし手法の可能性を潰していくのがとても丁寧で、最終的には言ってる通りのことをやってるようにしか見えないぐらいフェアな状態に持っていけます。

Alias Sherlock Holmes

CTを使う手品のプレゼンテーション。
実際にそういうことができるならその手続きは不要なはず、の代表例としてCTが挙げられていて、その考え方ならなにか理屈をつけるのかと思いきや、これが逆にそういう演出にするのか的な方向でとても面白かった。

Teleport

2人の観客2枚のカードが移動するThought Cards Across。
ThoughtはほんまのThought、最後まで聞かない、パケット接近なしなどなど魅力的な条件を満たしています。
しっかり枚数も数えられるし、こうすればもっと不思議というところに仕掛けがあるのがおもろい。
ちょっと怖いとこはあるけど、動線がしっかりしてて周到さもあるので練習する価値あります。

A Penny For Your Thoughts

演者の5種類のお金と観客のペニーをA〜Fの好きな位置に配置してもらい、あらかじめ書かれていた演者の指示に従うと演者のお金は全部演者に帰ってきて、観客のペニーの位置が予言されています。
指示通りにやるトリックですが、観客が自由に出来ることが多くとっても不思議です。
ちょっと穴があるんですけど、そこの塞ぎ方のセンスがめちゃくちゃ良くてビビりました。

The World Revisted

Out of this World。
最初に発表されてから30年経った時点での評価について面白おかしく書かれてます。

Best Of Possible Worlds

Out of this Worldのバリエーション。
74年には色んな改案が出てますが、ここで解説されてるものは大筋は変わりません。
最後にお土産のようなオチをつけれて負担が減るという感じの工夫で、蛇足な気もしないし知ってたらこっちですかね。
他の手順でも見られるレトリック的な味付けが効く改案。

A Show Of Hands

ハイカードバトルをする手順です。
原理は有名でもこういうプロットで使うというのはポールカリー以外に思いつきそうにないなという感じです。
10カードポーカーディールのやつもそうでしたがギャンブルを題材にした手品をやるにあたっての枕がおもろい。

Mindmaster

カードを2枚ずつ取って、裏向きのままその2枚が同じ色であるか赤黒であるかを仕分けてもらいます。
Out of this Worldの親戚のようなトリックということらしいですが原理は別。
別の原理を想像した人は、同じ色の2枚をどうやって、と思われるでしょうけどもそこが本当に上手く解決されています。
また、この本の中でいくつか見られる例外を作ることでクライマックス感とリアリティを出す演出も取り込まれていてこれがまた美味。

Odds And Evens

Mindmasterと同じ手法でギャンブル寄りの演出がされているもの。
足した結果が偶数が奇数かということでカードを分けるので示した時にちょっと分かりにくいところはあるけど、潜在意識云々ということならこっちの方が突っ込めるような気もします。

全体的に長い手順が多く、今の手品のスピード感からするとまどろっこしいと感じる人も多いかもしんないですけど、演技力を発揮する余地がない必要悪的に冗長なだけの手順というわけではなく、引きは強いし演じ方によってなんぼでも面白くできそうという意味でそれはそれで良い手品の条件だと思うので、シチュエーションを選ぶというだけでそこはそんなにマイナスではないですね。
個人的にどんなエンタメでも初めて見る人からマニアまで幅広い層が楽しめる芸が偉いと思っているので、そういう手品がこの密度で載ってるのはほんまに凄いと思います。

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