by jun | 2018/07/30

松田道弘さん8作目の作品集。
ここで言うシックはオシャレでかっこいい的な意味ではなく、Simplicity、Improvement、Clear、Knockoutの頭文字で、単純になるよう改良を加えて綺麗に観客をノックアウトするという松田さんの志を現した造語だそうです。


この言葉は以前の本でも出てきてて、続けて読んでると今までの作品集でもこの方向性で手品を作られていることがわかります。
あとシックはシックカードにもかかってる言葉で、この本でもシックカードが多様されています。
シックカードは元々不自然さを取り除くために使われるものなので、スライトで置き換えて解決できるし、実際フェイズが分かれてる現象は後半でスライト解決みたいなパターンも多いんで、スライト派の皆さんも面白く読める本ではないでしょうか。

シックカードをめぐって

「私のスタンダップ・エース・オープナー」はカッティングエース的な、エースオープナーでラスト1枚は観客にストップをかけてもらったとこからエースが出てくるというもの。
構成的には現代カードマジックのテクニックにあった「私のエース・オープナー」と同じですが、今回はテーブル不要です。
マニア視点から見ればテーブルカットの方が不思議に見えたりしますけど、スタンドでできるならそっちのが演じる機会は増えます。
シックカード使わないバージョンとしてエースオープナーからトライアンフに繋げるトリックも解説されていて、松田さんらしい「このセットやったらトライアンフいけるやん!」的なトライアンフねじ込みぶりが楽しいです。

「Four Ace Reverse」はリフルシャッフルしながら複数枚リバースしていく既存の技法をシックカードでより自然に見せることができます。
シックカードの特徴を一番掴みやすい技法かも。

リバース・ゲーム

「Two Card Peek Reverce」はセレクトカード2枚、スタンディングでできるトライアンフです。
テーブルにカード広げませんが、ディスプレイのコンセプトとしては佐藤総さんの「BUSHFIRE TRIUMPH」に近いでしょうか。
カード2枚選ばせるのがアレと言えばアレなので、エース4枚出すとかにしたい感じもしますが、松田さんのトライアンフの中ではかなり好きな方。

「トリプル・カード・リバース・ルーティン」は3枚のセレクトカードが1枚ずつ表向きになるリバース現象。
ギミック使用しますが、原理的にはとても綺麗ですし、3枚目は技法のみのパワープレイで、これができたらノーギミックでもセレクトカード1枚でもリバースし放題なのでおすすめです。
ギミック使うとカードを示すたびにデックに戻さないといけないのが好みに合いません。

ストップ!

ストップトリック2種類解説。

「シンプリファイド・ライプチッヒ」はセレクトカード2枚のストップトリック。
1枚目は力技で、2枚目は「客から見た目にはなんの不自然もありません」という力強い説明がされてる手法。
これ枚数によってはかなり怖いことになりますし、2回目のストップなのでそのリスクもなかなか高い気がします。

「マーローのエース・オブ・スペード・トリックの新手順」ではアウトについて考えられていて、これもなかなかに怖い方法です。
アウトがあるということ自体は面白く、トリックカードの使い方の幅の広さも示されておりますが、エースオブスペードトリックはオープンプリディクションではないので外れてもそこまでパニックにならなくて良いのが素敵ポイントだと思うので、無理にそこで現象起こさなくても良い気はします。

インポシブル・フライト

不可能な移動への挑戦も松田さんのライフワーク。

ビジターの改案である「ダイエット・ビジター」はギミックカード1枚使用でかなり理想的なパケット間カード移動を実現しています。
サンドイッチパートも良いですし、ここは好きな方法に置き換え可能。
肝心の移動はデックにある赤のクイーンからテーブルの上に置いてある黒のクイーンに移動して、また元に戻る時もパケットは離れて置かれます。
この改案の肝はビジターのクライマックス付近にあるパケットの接近をなくしてるところで、個人的にこれはかなりポイント高いです。
原案でも消失をクリーンに見せることでカバーされてるものの、やはりあそこはかなり気になるので、別の箇所に都合悪い部分が出てもあれがなくなるのは喜ばしい限り。
レギュラーでもできんことはないですが、ギミックパワーが随所に生きていてかなり負担減らせるのでこれはこのままやりたい感じ。

「サインド・カード テクニカラー版」は最後にバックの色が違いましたーってオチのサインドカードで、以前に発表されたものと同様にパケットのみで行います。
裏の色見せれんのでパケットトリック特有の手つきが気になるっちゃ気になりますが、そこまで裏の色変えたいならしょうがないです。

エースのレストラン

松田さん1番のライフワークきました。
エースアセンブリ2題。

普通のアセンブリっぽい「ニュー・クラシック・フォア・エース・アセンブリ」はシンプルに解決していて、比較的原案が完成に近い「マクドナルドのリピーター」は難解になってるあたりが読みどころ。
「ニュー・クラシック・フォア・エース・アセンブリ」はたぶん松田さん的にはベストとは思ってない気がしますが、これはこれで味があるんじゃないでしょうか。
DF使う消失パートのアイデア等面白い箇所多いです。

アニュージュアル・アセンブリの異次元世界

バックをそれぞれ別の柄でやる「アニュージュアル・オプティカル・エース・アセンブリ」はかなりの自信作だそう。
今までも十分アニュージュアルな作品が多かったとは思いますが、確かに理にかなってます。
エースアセンブリ弱者からするとエースを別の裏模様でやる部分が一番の謎だったりするので、そこに関してはもう少し詳しく魅力を語って欲しかったです。
ハンドリング云々より、そうした方がより不思議に見えるということを信じるのが難易度高すぎます。

ツイスティング・ザ・フェイク

ツイストからの2段落ちとしてカードが変わる現象2手順。
「オーバーラップ・レインボウ」と「4枚の3がA-2-3-4-5」はどちらもギミックをオペッくるパケットトリックという抵抗役満。
パケットとギミックだけなら全然いいんですけど、オペッくった瞬間に色々跳ねます。

カニバル・クエスト

「オーバーラップ・カニバル」はオーバーラップが何かわかってるとタイトルネタバレなのですけど、カードの消失にはこれが一番という感じします。
オーバーラップって言い出したのジョシュアジェイなんですね。
この当時松田さんが思っていたほどにはネーミングもこのギミック自体も広まってない感じはしますけど、カニバルカードはもうこれで良いのではないでしょうか。

Mental Cases With Cards

「デイリー、バーノンそしてトムソーニ 偽の記憶術」はジェキコブデイリーのノートにメモがあったバーノンのトリックにジョニートンプソンが演出を加えそれを松田さんが更に膨らませたという込み入った話です。

現象は観客がシャッフルしてカットしたカードを覚える、またカットして演者もシャッフル、そこからデックを記憶してカードを聞いて何枚目にあるか答えるというようなもの。

個人的には記憶術演出の手品で実際に何枚か記憶しなきゃいけないのってちょっとアレというかナニな感じを抱いたりするのですけど、この手法はかなり実用的なものだと思いました。
松田さんのアイデアはそこから更に何枚もカードを当てていくもので、ダブルクライマックスとしては素敵ですが、負担は増えるし全部言い当てられるわけでもなく、ガチっぽさが強くなりすぎて演者の力量が試されすぎる気がします。

プロブレム・ソルバー

「Open Predictionの私風の改案」は確実なフォースとして使えるアイデア。
表向きに配っていってもらって一枚裏向きにしておいて、それを見ると予言と一致してるって具合です。
これに関してはヤニッククリティアンのアイデアが最強だと思ってますが、松田さんのバージョンはそれを突き出した状態にしておけるのがポイント。
難易度は結構高く、エンドクリーンでないのも難しいあたり。

「クロック・トリックのリニューアル」は時計の形に並べるカード当てに観客がポケットに入れた枚数を当てるオマケをつけた改案。
ここまでセルフワーキングなものも珍しいですね。
この本の中で多段オチになってる作品では一番好きで、マニア向きにいじれるような手品だと思います。

今回の本は「Knockout」の部分を意識したのか、同じ現象を繰り返したり更にオチがありましたというものが多く、引き算のイメージがある松田さんの作品っぽくないっちゃないですが、一番そのままの手順で演じたいものが多い作品集です。
個人的ベストはダイエットビジター。
クロックトリックや記憶術、Two Card Peek Reverceもめっちゃ好きです。
自分ならここをこうしたいって思える面白いアイデアも多くて、ギミックやシックカード使ってる本だからこその楽しみ方もあります。

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