1999年に東京堂出版から出たMartin Gardner Presents(1993)の日本語訳版。翻訳は壽里竜さん。
全てというタイトルですがこれがマーチンガードナーの全てということではもちろんないですし、Martin Gardner Presentsの前半部分のみしかこの本に入っていません。続きは「続マーチン・ガードナー・マジックの全て」というタイトルで出てます。
マーチンガードナーといえば数理トリックの人というイメージが強いですが、前半は即興手品的なものが多く解説されてます。
扱ってる素材も幅広く大量に解説されてるので一冊でかなり楽しめるものではありますが、有名なやつも多いですし、アイデアレベルで演じ方がよくわからないようなのもあって、退屈な部分が結構長いです。
数理系のトリックは続編の方に多く、前半はそういう意味でもちょっと物足りない感じはあります。
でもまあ全部読んでみると良いネタは結構あるし、カード以外は知らないことも多かったので読んで良かったです。
以下内容、良さげなやつを中心に一部ですが。
第1章 ちょっと努力すれば
賢い宿屋の主人
10部屋に11人を押し込めるパラドクスをカードで表現したもの。
一人はこっちにいてもらうというところで華麗に処理しています。
このパズルは話だけでも引っかかるようなものなので、カードを使って補強するという見せ方も面白いかもしれません。
一致するトランプ
デックを半分に分けて演者がカードを1枚表向きにして差し込み、観客は残り半分をシャッフルして上から同時に配っていく。表向きのカードが出てきたところと、観客のパケットのカードがメイト一致するという手順。
ノーセットで出来るところとシャッフルしてもらえるところが大変な魅力です。
やらなきゃいけない仕事がちょっと意味不明な動きなので一致感はかなり弱い感じありますが。
ピアノ・トリックの改案
原案のピアノトリックではどのカードが移動したのかわかりませんが、それをわかるようにした手順。
まあ裏から見ればあれはよくわからんところが面白いとも言えますが、わかるならわかったほうが良いですね。
相性のいい2人
デックの中から適当に1枚のカードを表向きにし、それの向きを戻してデックを広げると今度はメイトカードが表向きになってるという手品。
これだけだとなんのこっちゃな手順ですが、リバース技法としては覚えておいて損はないものです。
2枚のカードを当てたり、同じカードが何度も表向きになってしまうというような手順に使えます。
新発見
観客のカードと思われるカードをテーブルに出して確認する前に、2枚のカードを出してその2枚のマークと数字が観客のカードを示していることを言いつつ、普通にカードも当たります。
もうテーブルに出してるんだから普通に当てろ!
ドゥ・アズ・アイ・ドゥ
演者と観客の選んだカードが一致してたというのではなく、お互いにカードを当て合いっこするという見せ方になってる2デックのDo us I Doです。
当て合うところが明快じゃないというか説明がやや強引なので、なにか説得力のあるカード当てに続けて演じると良さそう。
第2章 ロープ、リング、結び目など
ハンター・ノットの改案
端から手を離さずに結び目を作ります。
原案とちょっとやることが違うのですが、端を凝視されても大丈夫な感じになってます。
そことは別にあそこでなんかしたなって思われるポイントが出来てしまってはいるのですが。
紐から外れる指輪
最近あんまりこういうやり方してる人いないですけど、マニア相手にはちょうどいいリング&ストリングス。
この解説も完全に対マジシャンを意識したようなものになっていて面白いです。
他の手順に組み込みにくいですが、ちょっとこの方法で色々考えたくなるようなものでした。
ジャック・ミラーの「棒に通る指輪」
観客に棒の両端を持ってもらって、演者は人差し指に指輪をつけ棒を握り、引っ張ると棒に指輪が貫通します。
Dですけど全体の動きがしっかりしててそうは見えません。
良いトリックです。
輪ゴムに通る指輪
今でも主流の動きがだいたい解説されています。
一個知らないのがあったけど、なんぼなんでもあやとりすぎて辛いものでした。
上着から外れる紐
上着の左右の袖を通ってる紐を背中側から貫通させる手品。
ロープのこういうやつ好き。
第3章 赤、黒、そしてアウト・オブ・ディス・ワールドの挑戦
ボブ・ハマーの「赤と黒」
ボブハマーのあれを使ったテーブルの下で裏表と赤黒を分けるやつ。
まあ作業のところの指示に工夫はあんまないですけど、お手軽にこういう現象ができます。
もう1つのアウト・オブ・ディス・ワールド
ガイドカードを使わないタイプのOOTWです。
個人的にこのやり方好きですね。
今では良い感じのバリエーションもあったりしますが、これはやや分ける作業が冗長に感じます。
おすすめはPete MacCabeのやつ。
ワン・アヘッドを用いた透視のマジック
これもテーブルの下のカードの色を透視する手順ですが、絶対に覗き見できないように観客にデックを持ってる手首を掴んでもらうというもの。
それだったら観客にデックを持ってもらえればいいじゃないというのはありますが、シンプルで良い方法だと思います。
レッド・ブラック・シャフル
オーバーハンドスタイルからリフルまで色々解説されてます。
リフルのやつは結構良いのがありました。
境目をわかりやすくする工夫。
第4章 小ネタ、指ネタ、数遊び
子供向けの即席マジック
親指が外れるやつとか、塩瓶が消えるやつとか、複数解説されています。
ガードナーが子供向けに適したベスト手品を載せてるそうです。
鼻を使ったドゥ・アズ・アイ・ドゥ
腕を組んで人差し指を鼻に当てて、演者は解けて観客は解けないやつ。
原理の解説がちょっと間違ってる気がします。
もうちょっと怪しくなくやる方法がある。
時計の数当て
向かい合ってる2つの数字を思ってもらって、その数を足してもらう。その数を知るだけで演者は2つの数字を当てることが出来る。
子供向けというより子供騙し感も強いですが、2段の手順になっていて、2段目は質問せずに答えを当てることができるので、なんかそれっぽく見せることもできそう。
他、電卓の手品や折り紙がいくつか紹介されてます。
第5章 計算、ワン・ウェイ、ESP、マトリックス
コンピューター・マジックのアイディア
パソコンとプログラムの知識が必要な手品がいくつか載ってます。
例えばカードの名前をいくつか入力して、デックで操作した枚数目のカードだけ表示されて予言されてるとかそういうの。
スマートフォンでも出来んことないようなのもありますが、紙にただ予言を書くのと比べて、はっきりとコンピュータのパワーを示すようなものなのでまあわざわざって感じもしないではない。
ガードナーのワン・ウェイ原理
天地をセットしなくても使えるワンウェイカード当て。
結構ありな気がします。
ボーダーのないデックが推奨されてますが、あるやつでも見せ方によってはいける。
クレヨンと帽子
帽子にクレヨン入れて指定した色のクレヨンを中を見ずに連続で取り出していく手品。
子供に受けそうだし子供騙しじゃないので普通に不思議です。
観客に色を指定してもらうことは出来ませんが良い手品だと思います。
透視能力テスト
26問質問があって、だいたい当てれるみたいなやつ。
読者も体験できるようになっていて、素直にやったら半分ちょいぐらい当たってました。
直感で答えたらまあそうなるやろなってのと、手続きが複雑なやつの間ぐらいのをいいとこどりすれば結構不思議な何かができそう。
マイナス超能力
カードの数理トリック。
割と長い作業をしないといけないのですが、タイトル通りの演出が面白く引っ張り自体が面白いタイプの手品です。
この演出は松山光伸さんによるものとのこと。セルフワーキング本にも載ってましたっけね。
見せ方を工夫して遠隔手品にも良いと思います。
パラドックス・ペーパー
正方形の紙を縦横2回ずつ折って、折り目で16マス作る。
そこに1〜16の数字を書き、観客に好きなように折りたたんでもらって最小サイズにして、4辺をハサミで切り落としてもらうと表裏が偶数と奇数に分かれるというもの。
Origami Foldの元ネタみたいなやつですかね。
紙を使うのも色々応用できそうでおもろい。
マックスメイビンの単語を作らせてそれを当てるアイデアが面白かったです。
3×3マトリックス
9枚のカードを並べてどれかにコップを置いてもらう。あらかじめ用意された指示に従ってコップを動かしたりカードを減らしたりして最後の1枚が予言されてるというやつ。
第6章 マッチのトリック
セブン・アウト
カードマジックの中でマッチを使って7つのアウトを作る方法。
ビルサイモンとの共作だそうです。
まあこれだけ読んでもなんでマッチなんですかってなりますけど、そこさえクリアできれば便利。
便利寄りすぎてイマイチ魅力は感じないですが…
復活するマッチ
擦ったマッチが元に戻ります。
タバコで似たやつありますけど、綺麗なハンドリング。
逆立ちするマッチ
クリップにマッチをひっかけてデコピンして逆立ち状態で止めるバーベット。
結構不思議に見えますね。
むしろ観客にやらせて失敗させるのがちょっとむずいかも。
貫通する紙マッチ
リンキングの手順が解説されてます。
マッチだと完全に親指と人差し指でできるのが良いところ。
しょうもないマジシャンはこういう演じ方をしがちでーみたいなノリの解説。
第7章 スペル、リフル、ビドルにギャンブル
スペリングは正直スペリングーって感じでスペリングだったのであんまりでしたが、その枚数目にコントロールする方法が色々解説されてるのでそこは応用効く感じかなと。
ジョーカーはどこへ?
A〜5のパケットを使って、それぞれのカードをスペリングするとそのカードが出てくるのですが、ジョーカーが出現します。その後なんやかんやで全部をスペリングで出すとジョーカーはどこにもなく、デックの中から表向きで現れます。
プロットは面白いんですが、ジョーカーが出るタイミングがちょっとたまたま出てきたみたいな感じなので、観客がやるとジョーカーで演者がやると上手くいくみたいな感じにできないものかしら。
テン・カード・ディール
ヨナカードを使った基本的なテンカードディール。
どのようにヨナカードを配るかというところが複数解説されています。
順番通り
スペードのA〜7までをデックに戻し、リフルシャッフルしても順番自体は変わってないというトリック。
2段構成になっていて、だいたいこうなんじゃないのと考えた人がいても煙に巻けるようになってます。
陰陽
観客にカットしてもらって5枚カードを裏向きで配ります。
片面に陰陽マークが書かれたカードを用意して、偶数/奇数、赤/黒、ハイ/ローの中から1つ選んでもらい、例えば赤/黒を選んだらカードの色によって陰陽マークの裏表を変えてカードの上に並べてもらう。
その状態を見るだけで5枚のカードを当てることができます。
この原理面白いですよね。
デニスベアが上手いこと解決していましたが、こういうやり方でも十分不思議。
マニア向けの手品ではあるけど好きな原理です。
ビドル・ムーブを使ったマジック
いわゆるビドルトリックとはちょっと違ってて、消えて表向きに現れるんじゃなく、ちょっとしたサカートリックになってるパターン。
マジシャンの間違いが繰り返し起こって、現象もはっかりしたのが続くのでこれはこれで面白い構成だと思います。
ドロー・ポーカー・デモンストレーション
観客にカットしてもらったところから手を配り、カードを開けてドローポーカーにならって交換していくと、演者の手札が4Aになります。
日本で馴染み深いドロー式で、カットしてもらえるしランダム感もあるし簡単。
セットも楽だし4Aの手品から繋げるにもちょうど良いです。
続 に続く。
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