荒木一郎さんによるテクニカルシリーズのクロースアップ版。
輪ゴム、安全ピン、指輪、スプーン、サイコロなどの日用品を使ったクロースアップマジックがテクニカルに解説されています。
サイコロが日用品であるかどうかは置いておいて、まあ普通にみんな触ったことあるものだから仕掛けがあるように見えないし実際に仕掛けはないのがポイントです。
このあたりの素材を使った手品は「誰でもできるマジック!」みたいな本によく解説されてたりしますが、そこはタイトル通りテクニカルな解決法が取られています。
「誰でもできるマジック!」は手法的には簡単なため、演出面が難しくなりがちで、どちらかというと手法をテクニカルにする方が良いと思ってて、そういう意味では難しすぎないバランスのこの本は幅広い層におすすめできます。
各種メジャートリックや派生作品のクレジットやクロースアップマジックの歴史も書かれていて、それらを潜り抜けてきた著者の最適解が学べます。
このシリーズおなじみの演技DVDもついていて、だいたいどんな現象か先に見て驚いてから解説読むってことができるのでモチベーションも保てます。
リング/指輪
「フリンガー」という手を振ると指に持った指輪がはまるというのが3種類解説されています。
2段目までは手先器用選手権っぽいのですが、3段目はお札を貫通してはまるみたいな見せ方なので手品っぽく見えます。
こういう手先器用っぽいとこから入って手品に落としていく構成は好きです。
「リングとロープの手順」は紐と指輪を使って紐に指輪が入ったり抜けたりするやつで、紐の選び方から丁寧に解説されてます。
図も多く、映像でも説明しにくい動きが細かに書かれてるので入門にもとても良く、スムーズにできるようになるとクリーンに見える手法です。
この章で一番好きなのは「輪ゴムに通うリング」という、輪ゴムを不可能な形で指輪が貫通する手順。
いろんな人がやってる手順のごった煮で、不可能すぎる現象に対してかなり説得力ある方法だと思います。
輪ゴム
みんな大好きクレイジーマンズハンドカフのオチで最後に1本になってしまうあれをどう処理するかという「Dissolving Rubber Band」。
これを凝視に耐える形で解決しています。
これに関してはオフビートやミスディレクションを使って処理してしまう手法が多くありますが、こういう方法も覚えておくと強いです。
輪ゴム2本出した時点で「それ知ってる」と言われた場合はクレイジーパートを省略していきなりこれやったりするとまあまあ破壊力あると思います。
リンキング・ピン
2本の安全ピンが繋がったり抜けたり。
レギュラー安全ピンで行う方法で、適した安全ピンの形から解説されてます。
複数のリンキング手法が解説されていて、組み合わせることで他の手法の可能性を潰していくように見せれます。
既存の方法にちょい足ししたアイデアも説得力を増すもので、リンキングで溶けるように繋がる系ではベストに近いかと。
スプーンの溶接
スプーンを折って復活させます。
原理自体は「誰でもできるマジック!」的なやつですが、演出や音を使ったサトルティなどで説得力を増していて、小ネタにはもったいないクウォリティです。
スプーン曲げの部分は変にメンタリスティックに見せず、復活部分を主に見せるやり方はメタルベンディングがそこそこ一般化した今では面白いと思っていて、スプーンが消耗しないのもかなり高ポイント。
マネーマジック
「I.Aレモントリック」というビルインレモンの解説。
サインをしたお札がレモンの中から出てきます。
入れ方的にはちょっとマニアックな改変がされていて、果汁問題への配慮もされています。まあ実際にお札借りてやる場合は予備を用意しておくに越したことはありませんが。
手法は特に従来の方法と変わりませんが、「おすすめ簡易バージョン」として解説されてるやり方は普通に説得力十分ですし、ゴタゴタしすぎないので結構好きです。
オキトのコインボックス
いきなりコインとコインボックスという日常からかけはなれたグッズが登場します。
オキトボックスの仕組みや基本的なムーブが複数解説され、「アラキ・オキト」という手順に。
この手順はハンカチとマットも必要なので、どこでも演じやすいトリックという意味ではこの本の中で一番めんどくさい部類ですが、ハンカチ使うことでオキトボックスにミステリアス要素が足されてシークレットムーブの負担も激減します。
現象的には手からボックスへの移動という形式で、オキトの特性が活かされる構成です。
パドルムーブ
パドルムーブや道具の説明、そして「ザ・クイズ番組」という手順の解説です。
怪しいパドル道具は使わず、割り箸に折ったカードを挟んでパドルを作ります。
そこに小銭やお札を輪ゴムで止めてそれが増えるという現象にしていて、パドルマニアを引っ掛ける工夫もされている手順です。
日用品を使ってるところと、物理的に小銭やお札を取り出せるというところが強いあたりで、連続して行うことがサトルティになります。
クイズ番組という形式の演出を採用するのは結構難易度高いですが、覚えておいて損はないパドル手品。
ダイスのマジック
手にサイコロ持って目が変わるやつとか、サイコロ使ったチンカチンクとか、正直あんまりグッと来ない手品です。
「ホフマンのダイス」は振って変わる系ですが、色違いのダイスを使うことで手品っぽくなってて面白いのですが、「ダイスフロムワン」は裏の目が変わってしまうという地味かつ手法が容易に想像できてしまうもので、実際見えないだけでその通りという感じ。
あと、結構な割合でサイコロの裏の目を知らない人っているので演じる難しさもあります。
チンカチンクに関しては素材変えただけで、むしろ不可能性下がってないかなあという思いがあって、怪しい道具っぷりもむしろ上がってしまうのがあんま好きじゃない理由です。
あ、でも幽遊白書のスナイパーさんがサイコロでこぴんしてスナイプしていくシーン見るとやりたくなります。
2007フローティングデック
唯一のカードマジック。
トランプが浮きます。
このやり方めっちゃ好きで、Do as I Do 的に見せても面白いです。
結構この本の中のベストかもしれません。
この他、DVDでは緒川集人さんのお札カラーチェンジが解説されていて、レギュラーでかなりビジュアルな変化なものです。
DVDも付いてて色んな素材学べて、クレジットから関連作掘るのも面白い本になります。
荒木風改案も大人しめでだいたい良い方に転がってますし、カードとコイン以外で何かって人にはおすすめです。
荒木さんのクセの強いタイトルも抑えられているので、あえて荒木一郎風こってりしたタイトルをつける遊びも捗ります。
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