2011年に発行された松田道弘先生9冊目の作品集であり、現行最新刊になります。
夏休みの自由研究として松田道弘本を今読み直し読書感想文を書いてきて、またカニバルカードかよとかエースアセンブリもうええわとか思ったりしましたが、最後となると寂しいものです。
カニバルカードはもう一生分食べたのでごちそうさましたい感じですけども。
しかし今作は松田さんも集大成的に気合い入れて書いたようで、例えばカニバルカードの章は「カニバル・カードの総括」と題されています。
収録されてるプロットはカニバルカードをはじめ、エースアセンブリ、トライアンフ、オイルアンドウォーター、ツイスティング、コレクターと、今まで通りすぎて集大成なのかどうかよくわからんので読んで確認するしかありません。
アイディアはコンビネーション
色んな人が色んな人のアイデアから更に発展させた手品を松田さんが改良していくスタイル。
「インポシブル・ロケーションのたくらみ」では古典トリックの組み合わせと微妙な演出の変化で不可能なカード当てを実現するのが狙い。
優れた原理でカードはわかるから、あとはいかに不思議に見えるように説明するかが勝負のカード当てですが、過度にメンタル的でなく手品としてバランスの良い演出法です。
元ネタの演出自体に賛否ある見せ方ではあるんですけど、個人的にはその理由のいい加減さが好みに合ってます。
今回の松田さんのはどちらかというとマニア向きの改良で、この元ネタを知らん人に「ここから何かするのかな?え、そこから何もしないで当てちゃうの!」と思わせるようないやらしさはあって、不可能すぎて逆にこれしかないと思わせないための工夫です。
「マローンのSHIPWRECKEDの改案」はお馴染みエースアセンブリ。
ただ、今回のエースアセンブリは泡坂妻夫さんによる大傑作「逆説4A」が元になっています。
エースをあれするところとディスプレイに改良が加えられて、ほぼ別物になってるのが残念な上にここ数冊の松田さんのブームである某カウントまで登場して結構あれな感じは否めません。
泡坂さんの手順って今の目で見てもマジシャンっぽい動きがほとんどなく、枚数の矛盾も生じないのがいいとこだったりするので、これは松田さんのSimplicityのポリシーにも反するのではないでしょうか。
ツイスティング・テーマにニュー・ツイストを
ツイストからのカラーチェンジ3作品。
ここでも便利に特化したカウントが全面展開されていてあまりそのまま演じる気になれません。
作品の性質上ギミックやエキストラ使うのでちょっと他のカウントに置き換えるのも難しく、考えれば考えるほどそこまでしてこの現象をやりたいのかという実存的な問題が浮上してきます。
あと、やっぱり最後に4枚だったカードを5枚だったり6枚だったりに見せるのにすごい抵抗があって、増えたすごいより隠してたんだへーって思われる気がしてどうにも魅力を感じません。
デックから4枚抜き出して見せるのも難しいので、もう少し演出面について書いてくれるとありがたいですし、これは演出どうこうのレベルじゃない気もします。
単純明快移動現象
「ツー・カード・トランスポジションⅡ」はラストトリックのハンドリング改案。
胸ポケットを使うことでいい感じにスイッチしてしまいます。
お客さんの手の中で変えることはできませんが、垂直にカードを見せれるのでシチュエーションによっては映える見せ方です。
「4-4-1の改案」はネストールアトの作品のノーギミックバージョンで、4枚のエースとサインカード1枚が入れ替わります。
松田さんのノーギミックでやりましたって改案は珍しいですが、ネストールアトのギミックは慣れてないと扱いに気を使うのでそのあたりの配慮でしょうか。
手法は比較的シンプルですが、元ネタの現象知ってたら誰でも考えつきそうと言えばそうという感じで、もう少し1 to 4を強調できるカラーチェンジを使いたいものです。
カニバル・カードの総括
総括した結果ついに完成版が来ました。
「レインボウ・カニバル完成版」です。
これは「雑食のカニバル」の続編で、青裏の4枚のクイーンが3枚のレインボウ(別の柄)のカードを1枚ずつ食べます。
アイデアも技法もギミックも松田道弘全部乗せ感があって、何かの最終回で今までのキャラが全部出てきてワッショイみたいな感慨があります。
フィクションの最終回っていうより、バラエティ番組の最終回みたいな感じですかね。
クラシック・カード・トリックを考える
スライディーニのヘリコプターカードとカーライルのホーミカードについての考察。
客にどう見せたいか、動きの理由は何か、という構造分析は非常に面白く
、ヘリコプターカードの中でのサカームーブの役割を丁寧に読み解く部分は読み応えあります。
<ヘリコプターカードがスタンダードクラシックにならない理由>として語ってる部分は、自己言及的なものが見えて味わい深いものがあります。
ホーミングカードについてはカードマジック事典に載ってる解説に原案にはないサカームーブが入ってるらしく、そのあたりについての言及がありました。
松田道弘のクロースアップカードマジックではバーノンのアンビシャスカードの中でのサカームーブについても解析していましたし、その動きが果たす本当の役割を読み解いていくというのは結構大事だと思います。
サカームーブはただのやらしい動きになりがちですし、お上品にいきたいもんです。
ギャンブル・トリック
「ポーカー・ディールのタリスマン」はギャンブリングデモンストレーションからのトライアンフ。
セカンドディールができなくても大丈夫なようにする工夫や、トライアンフとポーカーデモンストレーションをうまく繋げるためのセリフなど、演出面に力入ってます。
レギュラーカードにちょっとした細工をした「Quickiとしてのデビルズ・モンテ」というスリーカードモンテは全く知らない仕掛けだったので面白かったです。
無駄に数え直す必要がなくなる松田さん好みのギミックって感じですね。
エースのパンテオンⅠ
エースアセンブリ2作とヘンリークライスト。
アセンブリはとにかく長くてうぜえという感じで作られた「最短距離のフォア・エース」はカウント不要でスッキリしてます。
最短距離ならジョンバノンの一連のやつが好きなんですが、松田さんは割と礼儀を大事にする感じなのか、やっぱりこれがないとアセンブリじゃないでしょ的な様式美があります。
「ヘンリー・クライストのフォア・エースの新案」はある工夫でバラバラに差し込むパートはフェアになっていますが、松田道弘のマニアックなカードマジックに載っていたのと違ってスペリングが残っていてちょっと演じにくくなってるのが残念。
エースのパンテオンⅡ
ブランクカードを使ったエースアセンブリ2作。
消失も出現も分かりやすく示せるの上に、演者側に都合いい部分も多いのでブランクカード使うのは結構ありだと思います。
「スローモーション・キングス・アセンブリ」とかは松田さんのスローモーション系の中でも良作です。
変なカウントしなくていいのはやっぱり良いですね。
REVERSED CARD
「もうひとつのトライアンフニュー・リバース・カード・ミステリー」はトップカードを表返すと全部表向きになるやつ。
使われてる手法はあんまりやってる人見ませんが、直前まで全部裏を見せれるディセプティブなもので面白いです。
この手のトリックはだいたいデックの中にゴミが残るのですが、こらあったらトライアンフできるやーんってことで2段目でトライアンフに繋げてます。
「ストリームラインド・チーク・トゥ・チーク」はチークトゥチークのカードの選ばせ方の不自然さを取り除いたトライアンフ。
どうせトリックデック使うなら!という発想で更に無駄な動きを減らすようにデックと手順組んでるあたりは松田さんらしく、マニア受けもしそうな感じ。
マーローの遺産
オイルアンドウォーターとコレクターについて。
「マーロー/アスカニオのオイル・アンド・ウォーター」はお客さんに置いていってもらうパターンの水油で、アスカニオの手順からアディションをなくしたのが改案ポイント。
何段にもなる水油にはうんざりされてるそうで、2段のシンプルな手順になってます。
エキストラの扱いにちょっと怖い部分はあります。
2段目はフェイス見せてそっからいきなり別れる感じで、アンチオチじゃなくても不可能性の強調という意味では十分落ちますし、2段ぐらいがちょうど良い感じもあるゆったりした手順です。
ところで最近話題のOil and Water 3.0は8段階あるのですが、松田さんはどう見てらっしゃるのでしょうか。
手法的には結構松田さん好みっぽい感じありますけども。
コレクターはマーローがデュプリケートを使ったコレクターを発表してるからという理屈の元で解説されてる「デュプリケート・コレクター」が良かったです。
基本的には今までの松田さんのコレクターと似た手法ですが、デュプリケートを使うことでエンドクリーンになりました。
松田さんはカードを選ばせずマーク選んでもらってそのマークの3枚の絵札を捕まえるカードとして扱ってますが、この手法なら3枚のうち1枚をフォースすれば他はフリーチョイスで演技可能。
この本の中では一番好きな手順かもしれません。
他の本も合わせて各プロットのベスト作品を勝手に決める遊びも楽しそうなので松田道弘熱が冷めないうちにやりたいと思います。
しかし2011年から新作が出てない状況というのは寂しいものがありますね。
結構ハード技法以外にも進化してると思いますし、新たなアプローチも出てきてるのでそこら辺について松田さんがどう考えてるかみたいな文章も読みたいものです。
例えばサイエンスフリクションとか時限式の高精度なフラップとか使えばカニバルカードやエースアセンブリもなんかできそうなもんですし、ダブルデッカー使えば実用したくなるもん増えますし、ビジュアルに特化したカラーチェンジ技法をシークレットムーブとして活用するとか、それを膨大な知識の持ち主がどう活かすのかってめちゃくちゃ興味あります。
2〜3年ごとに出ていた本の中でも時期によってお気に入り技法やギミックがはっきりわかるので、今何をTHINKINGしてるのかは気になるところです。
まあ読者の需要を過剰に汲み取りすぎないMY WAYを進んでらっしゃる感じが醍醐味だったりするので次も似たような作品集であればそれはそれで犬のように食いつくわけですけども。
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