今年のマジックマーケットで発売された園内五果さんのレクチャーノート。
gumroadで電子版も販売されています。
果無園 on Gumroad
前作のstrawberryとは違いレギュラーのみで行える作品は少なく、全体的に難易度も高めになっていますが無茶はなくトリに使えるインパクトの強い現象が起こります。
発想自体が面白いものばかりで、使われてる技法もマニアックで良いです。
Face, Back, Behind
観客が選んだカードを⾒つけ出すという⾏為を3回⾏いますが、徐々に条件を難しくして⾏います。1回⽬は表向きでずばり当てます。2回⽬は裏向きで⾒つけ出すと⾔って、観客のカードだけ裏の⾊を変化させてしまいます。3回⽬は表も裏も⾒ずに、背後で観客のカードを⾒つけ出すと⾔い、デックを背後に回します。そして観客のカード以外の51枚を1枚のカードに
圧縮してしまい、観客のカードを選り分けることに成功します。
デックバニッシュのルーティンで、難易度を上げていくという設定を上手く活かした手順です。
ちゃんと設定の通り難しくなっていくのがわかりやすく、現象的にもどんどん意味不明なことになっていくのが良いですね。
デックバニッシュの見せ方がめっちゃ良くて、理不尽なことが起こってるのにその中では矛盾を起こさないようにしてそれも現象になってるあたりが素敵です。
裏から見ると例のとこだけ色違いだったんじゃないかまであると思います。
技術的な負担もそんなにないですし準備もめんどくさくありません。
Dimensional Delivery
カードを1枚選んでもらい、四つ折りにします。次にデックケースをハンカチで包み、観客に持っていてもらいます。マジシャンはデックケースの“内”と“外”を逆転させることで、四つ折りカードをデックケースの中へと移動させると⾔います。カードが消え、観客がハンカチの包みを解くと、マジシャンの⾔葉通りカードケースが裏返っており、中にカードが⼊っています。そしてカード⾃体も内側と外側が逆転してしまっています。
カードを使った物理的な現象って良いですし、箱使った手品も好きなんでめちゃくちゃ気に入りました。
謎の解説をして実際にその通りのことが起こるというのも好みなあたり。
これはちょっと準備が大変なやつですが、ハンドリングは堅くてそこまでストレスなく演じられると思います。
箱がひっくり返ってるとこが面白すぎるのでその後の移動現象とカードのツイストをうまく盛り上げられるかが勝負です。
移動現象をなくして箱の中に入れた4つ折りカードを取り出すとひっくり返ってる、ハンカチ取って箱を見ると箱もひっくり返ってるという見せ方でもいいかもしれません。解説されてるギミックにちょっと工夫すればほぼ同じハンドリングでいけると思います。
Watch Its Back
カードを1枚選んでもらった後、3⼈の観客にスート・数字・裏模様をそれぞれ分担して覚えてもらい、デックの中に戻します。先に抜き出しておいた4Aにおまじないをかけると、覚えたカードのスートと同じスートのAだけが裏返ります。そのAにさらにおまじないをかけると、覚えたカードに変化します。そしてこのカードの裏模様が確かに覚えたものと同じであることを確認してもらいます。当たり前の事のように思えますが、他のカードの裏模様を⾒てみると全て異なるデザインの裏模様になっています。
ホフジンザーのレインボー落ち。
ギャグがその場限りのものに終わらず現象の伏線として活かされてる展開っていいもんです。ホフジンザー展開ともよく合ってて素敵。
レインボーデックの手順はポロリしないようにサトルティ効かせる手際の良さが勝負になってくるところ、ホフジンザー現象も混ぜてるのにすごくよくまとまってると思いました。
カラーチェンジやブランクネタって元から他のカード見せずにできるやんてとこから発展するものが多いと思いますが、これはレインボー落ちから逆算して作られてるはずで、かなりの試行錯誤があったのではないでしょうか。
オリジナルと思われるスイッチも良いですし、技法の使い方も好みに合ってました。
ホフジンザーのデックの中に裏向きのカードが一枚という部分は削られていて、ちょっと頑張ればできなくもないですがこの手順ではこだわるとこではないように思います。
Orion
マットの四隅にハーフダラーを1枚ずつ、中央に十円玉3枚を置き、オリオン座を形成します。5枚のカードを使ってそれらを隠し、おまじないを掛けると、ハーフダラーと十円玉の位置が次々と入れ替わっていきます。最後のハーフダラーがあるべき位置に十円玉があるのを確認したところで、枚数に矛盾が生じていることに気が付きます。中央にあるはずのハーフダラーを確認するためにカードをどかしますが、その下にあるのは十円玉3枚であり、マットの四隅にはハーフダラーが戻ってきています。
「マットの四隅にハーフダラーを1枚ずつ、中央に十円玉3枚を置き、オリオン座を形成します」の強さ。
バックファイアのバリエーションですが、入れ替わりなのでどっちかというとカードのフォーエースアセンブリ的な趣でしょうか。
後半には観客の頭にも枚数違うけどどうするんてのが浮かぶと思うので、戻る説得力も強いと思います。
随所に工夫はされてるものの難易度はかなり高いです。
技法は確立されたものしか使わないのでうまくすればなんとかなるのでしょうけども、引っかからずにやんのはかなり練習要りそう。
Birds That Can Fly and Not
観客にカードを1枚引いてもらい、表を見ずにテーブルに伏せておいてもらいます。演者はそのカードと同じ数字のカードをポケットに移動させると言い、ジャケットの左右の外ポケットと内ポケットから3枚のカードを取り出します。これらのカードは全てKであり、最初に選んだカードもKだと思いきや、確認してみると8です。演者はもう一度カードを移動させると言い、またもやジャケットの左右の外ポケットと内ポケットから3枚のカードを取り出します。
今度こそ8を3枚取り出せたかのように見えましたが、確認してみると3枚ともKです。先ほど取り出したはずの3枚のKを見てみるとそれらが8に変わっています。
ここからはボーナス手順。
strawberryのテーマであったMatching the Cards風のトラベラーです。
変わるだけじゃなくて2回目もポケットに飛んでくのがいいっすね。
最初から入れてただけだと思われなくなりますし、こういう過剰な感じは好きです。
オフビートやハンドリングも考えられてて、セットは必要ですが効率的な手順だと思いました。
Hide a Leaf of Yen Plant
演者は自分の小銭と観客から借りた五十円玉とを一緒に手の中に入れて軽く振ります。手を開いてみると、五十円玉が見当たりません。ですが、テーブル上に小銭を落としてみると五十円玉が見つかります。演者は「葉を隠すなら森の中、では森が無ければ?」と問いかけます。そして「森を作ればいい」という言葉とともに、五百円玉を五十円玉10枚に変化させて観客の五十円玉を埋もれさせてしまいます。
日本円でできるコインマジック。
地味な前半からごっそり変化するという流れが良いです。
どの手品も大胆にスイッチする時のタイミングとかに気を使われててやりたくなりますねこういうの。
オチの一言もちょうどいいギャグ感で好み。
普通に技法も使うので結構苦戦してます。日本円でも練習せんとだめですね。
strawberryはテーマ的にパズル要素が強くそれはそれで面白いものでしたが、今回は魅力的な現象をスマートに見せる手腕が光ってます。
辛いところはテクニックだけに頼らず実践を意識した流れでやってみたくなるものばかりです。Dimensional Delivery、Watch Its Back
あたりは特に気に入りました。
オチのアイデアに負けない中盤の演出も自然で、入り口の設定から引き込まれるから最後にそれやりたかっただけやろ感も出ないと思います。
strawberryには原理系の発見もあったし、この本と2冊で色んなセンスを見せてる方なので次回作が楽しみなクリエイターの一人になりました。
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