by jun | 2018/12/29


今年のマジックマーケットで頒布されたレクチャーノート。
タイトル通り直球ではないアプローチが楽しめる本ですが、ボールはちゃんとミットにおさまる変化球です。
変化球と言っても昨日今日思いついたアイデアをとりあえず手順にしましたってことはなく、それぞれの作品のディテールもしっかり練られています。
考え方としては誠実であくまで理想の形を求めた結果だということがよくわかる本でした。

第1章 ナチュラルブレイクを使って

ナチュラルブレイクを効果的に使った3作品。
テーブルに置いたままカットできたり複数ブレイク取る必要がある手順なんかでももたつかずに分けれて便利な手法です。

“Cut to Aces”はカッティングエース的に1枚取り出し、もう一度やると言った時には4枚揃っているという手順。
ナチュラルブレイクに注目していないとなかなかできない手品ですね。ナチュラルブレイク作った素材を再利用する方法としてはシンプルな手順で、細かいハンドリングも詰められています。

“Fountain Aces”の方はAをデックに埋めるところからスタートして、1枚がトップに現れ、いつのまにか4枚になってるという見せ方。
前の手順より若干動作は重たくはなりますが、移動現象がくっついてる方がオフビートで仕事しやすさはあります。

オールバック手順の”Special Deck with Aces”も4エースが出る流れ。
ナチュラルブレイクもうまく使われていますが、Aの表が出現するところとデック全体がレギュラーに戻るところも良かったです。

第2章 オムニバス

ここも3作品解説されてます。

ちょっとしたギャグとカード当てを折り込んだオールバック”All Back Routine”、色々と可能性のありそうな手順です。
レギュラーで行う方法が解説されてますが、自分でやるならダブルバック1枚使って観客にそれ引いてもらう形にしますかね。
サトルティや理論は考えられてはいますけど、やはり全裏からスタートする手順では1枚使いたい感じあります。
メモライズド使えばコールも観客にやってもらえそうですし、とか色んなこと考えたくなる手順でした。

“Gaffless Appearing & Vanish”はAKネタで、箱に入れたAがKの間に現れていって、最後はKが消えて箱の中から出てきます。
元ネタがあってそっからギミック抜いた手順らしく、一部カウントの重さとかにそこらへんの痕跡があるのですが、無駄な動きとかは気にならない綺麗な手順だと思いました。

現象が一番変わってるのは”Nest Sand”というネストボックスをサンドイッチカードで表現した作品。
これ好きです。
サンドイッチするのでどうしてもサカートリック風になりますが、入れ子になってることをさらっと示すとこが気に入ってます。

幕間

マニア相手の小ネタ、なんか技法をやったように見えるけどなんにもやってないという「無駄技法」が解説されています。

“False Convincing Control”がコンビンシングコントロール、”Atfus Cancel Move”アトファスムーブ、”False Strip Addition”がストリップアディションで、それぞれマニアが見るとアッて思う動きをそのまま再現していますが、全く結果を伴いません。
いわゆる「何かやったふり」ではなく、ちゃんとその動きをするのがポイント。
この手の動きは大好物で自分でも結構考えていて、フォールスアトファスムーブもレパートリーに入ってるので違いを楽しむことができました。

個人的にこの類の「技法」にはいくつかルールを決めていて、まず何の結果も出てないことをすぐに示せることが大事で、この本で解説されてる無駄技法もそうなっていました。
例えばアトファスムーブならあの動きをした後に取り上げたパケットをテーブルに広げて示すだけで何も起こってないことを証明できます。
パスしたふりとかはどこにコントロールされたかわからないのでナシ。
要はマニア相手であっても怪しい動きを繰り返して混乱させるだけだと不思議さを損なってしまうのでそういうのは良くないです。

この本の中では「無駄技法について」としてこういう行為の可能性について語られていて、それを取り込んだマジックがあることにも触れられています。有名なのはバーノンのアンビシャスカードですね。
あれは一般の人向けに露骨に怪しい動きを見せますが、その後カードがスイッチされてないことを示してちょっとしたオフビートにしています。
うまく使えばギャグとしても機能しますけど、アンビシャスカードみたいな手順だと特に取り扱い注意ですね。

あまり考えたくはありませんが、会社の苦手なパイセンとかに手品する人がいて何か見せてよーって言われて一般の人もいる時にネタをやらなくちゃいけないけど関係的にパイセンはねじ伏せるわけにはいかない、しかし手品かじってる人なら誰でもわかるネタもやりたくない、みたいな時に無駄技法を折り込んで手順を組んでパイセンには偽の納得をしてもらいたい時、とかには有効ですね。
その場合な無駄技法より人間関係とか自意識とか他に考える事がありそうです。

実演に取り込む以外にも、無駄技法をやっていると技法の説得力の高さに気付くこともあります。
マニア相手に見せる時にクロスカットフォース的に積んでもらってから上のカードを覚えてもらうということをたまにするんですけど、それって結構違和感があって、ということはクロスカットフォースって結構いいのではみたいな。
半分ひっくり返しておいてからTOリボルブをすると、普通に混ざってそれは別に自然に見えるとか、マニアに染み付いた必要悪的な動きをあらためて考えるきっかけにはなると思いますし、イロジカルな動きを信じるプロセスとしては全く無駄な考えとも言えないんじゃないでしょうか。

第3章

オイルアンドウォーターが3手順解説されています。

4-4ノーエーキストラでビジュアルな”Separation”は、両手で広げて赤黒赤黒を見せてからそのまま赤赤赤赤になります。
4-4でビジュアルなやつってそんなないので楽しいですが、安定さすのがむずいですね。

“Oil and Water Routine”は2段階プラスフルデックの手順。
時間が経つと分離する、というところに説得力を持たせる意図で作られたルーティンです。
考察も非常に読み応えがありますし、キーになる2段目もおもろいすね。
使われてる技法を水油に活かす方法は考えたことありましたが、綺麗にはまらないのをそのまま現象にしていて筋も通っててこういう頭の柔らかさを持ちたいもんです。

変わり種の”Sympathetic Oil & Water”は、8枚のパケットを4枚ずつに分けて、片方を手で動かすともう片方も同じ結果になっているという共鳴現象。
ツイスト現象も足されてしていて水油かどうかはあれなんですが、観客が参加するパートがあってパケットネタ的には大きなプラスになってます。
これ共鳴する方のパケットは常に観客に開けてもらうようにできればもっと凄そうですね。

個人的にここをこうしたいとかはありましたが、それは好みの範囲でこのまま演じても何の問題のない作品が揃っていました。
マニアックな思考に寄りすぎず、誰が見ても面白いと思うコンセプトの突き詰めぶりが素敵で、誤字脱字がえぐいとかあれなとこもあるんですが、アイデアを形にするということの良いお手本になる一冊だと思います。

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