by jun | 2019/12/30

ロベルトジョビーのカードカレッジライトシリーズ、ものの2年弱の間に全部日本語になりました。
訳者の富山達也さん、齋藤修三郎さんをはじめ、あとがきにお名前が出てくる皆様にも敬意と感謝を。細部こそが重要な本を日本語でじっくり味わうことができて本当によかったと思っております。

そんなシリーズもついに完結です。
ルーティンまで組まれていたライト、どこで演じるべきかは教えてくれたライターと違って、この本では特にチャプター分けなく18作品が解説されています。
順番に読んでればそのへんの感覚は身についているだろうというのもあるでしょうし、割とカードはこれだけやれば十分なのではというインパクトの強い作品が多いです。ロケーション以外のトリックも多く、メイト一致からフォロー・ザ・リーダー、デックバニッシュまであるのでこの本縛りでルーティンを組む遊びも楽しいと思います。
個人的な好みではこのライテストが一番演じてみたくなるような作品が多くて、歴史的傑作級の作品もたくさん紹介されています。
なんとなく原理は知っていたけどちゃんとした演じ方を知らない、知ってるつもりだったけどそこでそういう工夫ができるのかというものまで、有名作品でも改めて読む価値が大いにありました。
操作の動機づけやセリフは相変わらず素晴らしく、遊びのように始まって不思議なことが起こるのも面白いし、これはこういうマジックだから!というようなものもしっかり興味を引き続けるような演出がされています。
シリーズ通してそこは全くブレてないってのが素晴らしいですね。

Einstein’s Card Trick

皆さんがあまり好きではないかもしれないスペリングとなんとかディールを使うトリックですが、観客が持ってる枚数が何枚かわからないようになっていてなかなか不思議。
スペリングの部分は日本語に置き換え可能で、言い張るだけなので演出考えるのも楽しいです。
この観客にも嘘であろうことがわかる言い張りとランダムに見える条件下での数理っぽい作業というのがめちゃくちゃ相性良くて、無理に数理臭さを消そうとしなくても面白く見せれるもんやなと。

Through the Magic Looking Glass  

不思議の国のアリスを題材にした少数枚でのメイト一致手順です。
一致現象が起こり、他のカードはバラバラなことを示してから全部メイトになります。
これもスペリングを使うのですが、シャッフルの説得力もあるし、他はバラバラでしたというのが効いていて演者の都合だけで進む感じはありません。
オフビートが効いてる中での検めでクライマックスの準備をしてしまう感じめっちゃ良いですね。
フルデックだと軽く検めることはできないし、全部メイトになりましたというのもこのぐらいの枚数の方がちょうどいい気もします。

The Magic Card

演者はデックに触れず、観客が思っただけのカードを当てます。
実際は思っただけではなく、操作によって決めてもらうわけですが、何のカードが選ばれたかも絶対にわからないしコントロールも不可能という状況で死ぬほど不思議。
原理も面白いし、お互いにマジックカードを持っているという演出もおもろいです。
特定の枚数目にコントロールしてしまう方法なので他のエニーナンバー系の現象に繋げてもいいかもしれませんが、シャッフルしたのにそんなことが起こるのかというクライマックスなので割とこれ以外考えられない感じ。

Mental Flush  

観客にロイヤルフラッシュの手札を渡し、中から1枚覚えてもらいますが、当たります。
マジかという解決法なのですが、ハンドリングからセリフまで丁寧に解説されてるので大丈夫です。
そんなことになってると思わせないロイヤルフラッシュの手札というのが巧妙っすね。

Follow the Leader  

赤黒10枚ずつで行うフォローザリーダー。
ちょっとした技法的なものは要りますが特に難しいものでなく、残りもセルフワーキング。
ディスプレイ系の技法も使わないので、言葉と態度だけで状況を誤魔化す必要があり、逆に難しい気はします。
リズムが超大事なので、なんかしらの技法を混ぜると良さが削れてしまう感じもあって、これに慣れると途中に検めるのってどうなのとか、そもそもフォローザリーダーとはとか、色々考えさせられました。
解説には理論的な話もあり、実際に手を動かしてみるとなるほどとなります。
枚数の割にくどくはなくて、最後の見せ方とかも良かったです。
とにかく演技力が試される一作で、最終巻に相応しいトリックでした。

Gemini Calling  

ジェミニツインズを予言風に。
ノーセット、観客にシャッフルしてもらってから始められるのが利点です。
読んでて、そこでそういうセリフを言っちゃうのかと思うところがあったのですが、後半でちゃんとそれっぽく見せる一工夫がありなるほどとなりました。
確かに全然印象が違う。

Cardstalt / Cardstalt Plus

デックから抜かれたカードを残ったデックをリフルしてちらっと見るだけで当ててしまうトリック。
Cardstaltはフォーオブアカインドのどれかを抜いてもらって、Cardstalt Plusの方は1枚のカードでも出来ると言ってやる流れ。別々のトリックとして解説されてますが、続けてやってこそという感じだと思います。
このカードカレッジライトシリーズ、えっていう手法のトリックがたまに紛れ込んでるのが面白いのですが、この本ではこれがその枠です。
なんじゃこれと思っていたらクレジットにMoeさんのお名前が。
シリーズ中でも突出して難しいトリックで、練習するのもちょっと大変。
それだけにというのもありますが、非常に魅力的なトリックです。
いかにも原理っぽい手品の後に演じたり、何かしらのデモンストレーションから繋げたり、演者のキャラクターや演じるマジックによって見え方も様々になりそうなところが面白いっすね。

Cheers, Mr. Galasso! 

ステージにも対応してる本格メンタル手順。
3人の観客にカードを取ってもらい、演者はデックに触れずずっと後ろ向きでも良いのですが、徐々に不可能性を高めつつ当てます。
これは本当に賢いトリックですね。
あれを使った作品の中でも最高傑作級ではないかと思います。
演出が原理の補助をしてちゃんと不思議で面白い。
メンタル商品は電子的なものも含めて高額なのが多いですが、とりあえずこれを試してからと思えるような価値あるトリックだと思います。

Chance by Plan  

観客がAを選び、残りのAも次々出てきて、選ばれたマークのロイヤルフラッシュまで出現するという豪華手順。
セットは必要ですがオープナーにはめっちゃ良いです。
観客に自由にマークを選んでもらうところのアウトがしれっとしすぎてて面白く、手順中にも観客にやりとりをするから自然に流せるという感じ。

Posi-Negative Coordination  

赤黒分かれるアウトオブディスワールド的な現象。
観客にシャッフルしてもらった後、ちょっとしたゲーム的なことをやってもらう中で、演者は表を見ずに赤黒に分けてしまいます。
観客が分けてしまうという現象ではなく、シンクロ現象的に仕上がっています。
それに合わせた直感のテスト的なものではない導入も素晴らしく、簡単な操作をちょっと難しいことをやってもらうみたいに見せるのもめちゃくちゃ面白いですね。

Man Seeks Woman  

4枚のQと4枚のKを使い、色々やってもらいますが同じマークのQとKがペアになります。
スペリングを使いますが、作業中に観客の自由選択できる部分があり、絶対にこの文字数でないといけないという演出も小洒落てて良いです。
日本語の好きな言葉で出来るよう訳注が入っている安心仕様。
めちゃくちゃ良いトリックなので、スペリングだからといって絶対にスルーしないでください。

A Swindle of Sorts  

ポールカリーの超傑作。
A〜10までのカードをバラバラにしますが、観客がそれを元に戻してしまいます。
これが解説されてるもの全てに目を通したわけではありませんが、本書が最良であると言って間違いないのではないでしょうか。
原理も良いのですけど、やっぱりこれってこういうことをするとこうなるという説明をちゃんとした方が強いです。
あー良い。本当に良い。

Two, Six, Ten

有名なフォーエースロケーショントリックをマニアにも見せれるようにした感じの手順です。
シリーズ中に似た原理を使うものが何回か出てきてて、ロベルトジョビーが好きそうやなーって感じします。
ラモンリオボーも似たコンセプトの作品がありましたが、追えなくさせる工夫も演出も違ってて読み比べると面白いです。
本作の場合はちょっとこう、それは何かなっていうとこもあるにはあって、苦しいっちゃ苦しいんですけど観客が選んだカードの数字が重要であるというところはブレないので頑張りましょう。

Numerology

The Magic Cardと似たような感じのトリックで、観客にやってもらうことはこっちの方がシンプルになってます。
いやーでもどっちも面白い原理で最高です。
演者が絶対に知れないし実際に知らないカードをエニーナンバー系の何かで当てるって負担とインパクトのバランス考えたら最強だと思います。

Further Than Ever  

カード当てからフォーオブアカインドが揃い、同じマークのカードも全部出てロイヤルフラッシュ落ちというメガ盛り手順。
現象をエスカレートさせていく書きぶりも楽しくて、演技意欲を掻き立ててくれる感じです。
フォースの方法も自由度が高く面白いのですが、現象が現象なだけにそういうセットをしていたという感は出てしまうと思います。
Final Thoughtの部分にフォールスシャッフルとデックスイッチについて書いてあるので合わせて読みましょう。

The Vanishing Deck  

バニッシングデックです。
まあ、バニッシングデックの中ではライトな方だと思います。いや、普通に某古典のアイデアを使っててカードならではの面白さも出してて良いですよ。
このトリックもFinal Thoughtにて別の見せ方に触れられていて、中盤にやるなら絶対そっちの方が良いので読み飛ばさないように。

A Card Gag  

借りたデックのカードを破るも、爆笑が起こり誰も傷つかないギャグ。
爆笑かどうかは演者の力量に委ねられ、滑ると演者が傷つきます。
そして爆笑にするのは難しそうです。
ギャグでありながらマジック的な不思議さもあるのですが、どっちも中途半端でリアクションに困る気がします。
これ、奇跡が起こる可能性があってそれはめちゃくちゃ良いし、汎用性の高い手法の解説でもあるのですけども、これがシリーズの締めくくりという、ギャグなら他にもあっただろうになんでこれっていう感じが渋いです。

しかしまあ傑作揃いで、何をレパートリーにしようかと嬉しい悩みが出来る稀有な一冊でした。
ベストを選ぶのは難しいですが、5個持っていって良いならThrough the Magic Looking Glass、Cardstalt、Cheers, Mr. Galasso!、Man Seeks Woman、A Swindle of Sorts、このあたりでしょうか。
そうそう、冒頭のコラム「ポール・ボキューズの目玉焼き」もとても良かったです。特に追伸部分にグッときました。
このコラムも手順も、今更セルフワーキングはちょっとと思ってる人にこそ読んでもらいたい一冊です。

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