Peter Kaneのカードマジック作品集。佐藤大輔さん訳の日本語版。
Jazz Acesの原案者ということで、Jazz Acesぐらいの感じのが何個かあればぐらいに思ってたんですが、読み終わったらなんでこの人Jazz Acesだけ有名なん?という感想になりました。それぐらい全体のクウォリティが高くて面白いです。
いや、ポールカリーとかも知られてない作品がいっぱいあるし広瀬香美は実は夏の歌に名曲がとかありますけど、それにしてもPeter KaneはJazz Acesすぎるというか、全く無名な人というわけでもないのにこんなに未開の良作がまとまった本があったとは。
まだ読んでない人は是非このまだまだ知らない良い手品いっぱいあるーって感じを味わっていただきたいですね。これだから手品やめられないです。
んで、この面白いというのがこの時代にしてはとかじゃなく、今の目線で読んでも見たことないアプローチが満載で斬新に思えます。
しかもJazz Aces的な方向だけじゃなく、色んな角度から攻めてて技の多さにもビビります。
アセンブリを始めとしたプロブレム物も多いけど粗製濫造感はなく、しっかり穴を塞ぎつつ他にしわ寄せが来ないような鮮やかな解決が見られ、パズル的なものでなくしっかり人に見せることを前提に作られた作品ばかり。
さらっとしたセリフや演出で関心させられるものもあり、万人におすすめできます。
A CARD SESSION (1967)
The Blank Thought Deck
ブランクデックが印刷される手順。
その中で、演者が最初に出していたカードが観客が自由に言ったカードと一致する的なこともやります。
いきなりめっちゃ良いですね。めっちゃ良いです。
観客のカードを予言するところがブランクデックであるところのあらためにもなっていて強いですし、最終的にそのカードが当たってることを示すまでの流れがとても良く出来ています。
ブランクのオープナーとしてもこの手法の予言のネタとしても結構上位なんじゃないかと。
手法的に、この後これ以上すごい手品できるのかというオープナー問題にもならないのも高ポイント。
Royal Flush Flash
Magician vs Gamblerのロイヤルフラッシュへの変化版。
ディスプレイがオシャンです。
変化するカードを同時に垂直に見せれる利点もありますし、わかりやすく上がる瞬間を作れるので覚えておきたい方法。
Exploding Revelation
セレクトカードをデックのトップに表向きに出現させます。
なんというか、この状態まで持ってくればカラーチェンジの技法でいきなり現れたように見せることは出来ますが、バーンって出る感じのバーン感が凄くて楽しい。
バーンのところはバーンなのですが、目的の状態に持っていく流れも自然なのでやってみると思った以上に良い感じ。
Aces A-Risin’
2枚のAのアンビシャス現象。
他の手順見る限り結構難し目の技法も使う人ですが、これはクリーンに解決する方向のものです。
これ系の手法のやつ、その状態にする所でもたもたしてしまいがちですがこれは自然に行えるようになっていると思います。
The Face Up Traveller
セレクトカードのパケット間移動。
これもハンドリングがとても良いですね。
2つのサトルティを組み合わせていて、どちらか片方でも機能するものですが、良い感じでお互いの弱い部分を補ってるような流れになってます。
Classic Ace Assembly
とてもシンプルなアセンブリ。
4枚のKを置き、そこに3枚ずつバラバラのカードを配る、このどちらにも説得力があります。
特に3枚ずつ置くところですね。これはあんまりこういうやり方見ないのもあってかなり効果的なように思いました。
Single Shot
弾丸カードと同じ原理のカードの出し方。
セレクトがファロー状態でなくカットさせる方法で、埋まったカードを見つけた感が強いです。
The Faro Finders
5〜8のカードを使って、5を5枚目に、8を8枚目にという感じでコントロールするデモンストレーション。
ポーカーハンドにするより自由自在感が出て良いですね。ファローするけどファローには出来ない形になるのでマニア向けにも良い手順。
更に4枚のAが出るおまけが付くんですが、これが数枚のカードをコントロールしていたかと思いきやデック全体をコントロールしていた感があってとても良いオチだと思います。
Transportation of a Thought
色違いの2つのデックを使うThought Cards Across。
ThoughtはフリーThoughtではないけど、十分観客しか知り得ないものに見える方法が使われています。現象示す時にも枚数数えるから手続きに無駄っぽさがないのが良い。
色違いのカードの扱いも賢く、かなり気にいった手順。
Anent Pack Switches
デックスイッチの話。
デックスイッチするタイミングって色々ありますが、これはトリックとトリックの繋ぎ目にはデックが視界から消えないので確かにさっきからずっと使ってたデックという印象を残しやすいものです。
アロンソンやアラゴンも似たような考え方の手順がありますが、本作はもっとシンプルな現象の中でやってのけます。
これは絶対に覚えていた方が良い方法です。まじで絶対。
Tetradism
Matching the Cardsからフォーオブアカインド祭という流れ。
Matching the Cardsパートが若干重たい気がしないでもないですが、2つの現象の連なりは綺麗です。
ANOTHER CARD SESSION (1971)
The Incredible Shrinking Card Case
デックを箱から出すと箱が小さくなります。
ギミックのお手軽さと見せ方のバランスが見事。
Red Oil Blue Water
裏の色も違うカードでやる4-4の水油。
なんかいきなりマニアホイホイ手品が。
最近のこの手のやつだと表裏のバランスを変えたやつが多い気がしますがこれは手渡し可能なやつ。
分離はカウントで見せる物ですが、アンチ水油のオチが綺麗なのでもやもや感はそんなにない。
でもまあ広げて見せれる分離のフェイズが欲しいのは正直なところ。
Red Blue Transpo
裏の色違いカードでやるFollow the Leader。
Follow the Leaderっていうか見た目的には1枚入れ替えると全部入れ替わるやつ。
あらためのパートがとっても良いですね。
あとカウントの見せ方がとても説得力あるように見える流れになってて強い。
Pete Kane’s Jazz Aces
Jazz Acesです。
めちゃくちゃ良く出来てるとは思いつつも、人に見せた記憶はない手品。
こういう淡々とした手順をしっとり見せるのに憧れもあったりするので、この機会に練習しようと思ってます。
Swindle Coincidence
2人の観客にそれぞれデックを渡して行う一致現象。
演者と観客でなく2人の観客に行うもので、更に演者はデックに触ってないように見せる狙いがあり、実際違和感の出る手続きはなくその時点で終わってる系の構成なので強い。
最初に2人にカードを選ばせる理由とか、演じ方を考えてやってみたいトリックです。
The “My Best” Coincidence
2つのデックを使い観客によくシャッフルしてもらってから同時にカードを配っていき、最初に同じカードが出るそのカードが預言されているという手順。
これは名作ではなかろうでしょうか。
いやたしかにちょっと演じにくいところもあったりするんですけど、それを差し引いてもスタックを使わずにここまでスマートに出来るものかと感動しました。
About Face Faro
半分のパケットが表向きになる現象。
にゅるんとしたビジュアルが面白いです。
The Faro Five
トップに表向きでA〜5を載せて、ファローでセレクトカード5枚の隣に移動させます。
マジか!と思って読んでたけど実際やってみたらマジやった!
しかもめっちゃ色々応用出来そうなやつ!
The Lazy Gambler
2つの手札を配る動きで4つの手札を配る方法。
これは遊びみたいなもので、この動き自体コミカルで面白いのですが、演者の手札に4枚のAが集まっています。
セリフがとても粋。
The Faro Card Puzzle
カードパズルみたいなやつをファローで頑張る手品。
エースと絵札だけでなく他のカードも使うので、デモンストレーション的な見せ方になります。
プロダクションやシャッフルに変化をつけながら見せたり、観客にマークをしてもらったりして盛り上がる感じに見せれそうな予感。
The Ring in the Card Case
指輪がカードケースの中に入ります。
ちょっと特殊なギミックを使うのですが、音とビジュアルを上手い加減で使ってて、実際に仕事をするタイミングとかも絶妙。
A FURTHER CARD SESSION (1975)
Fiver!
カードがお札に変わります。
なかなか手がこんでいて、両面あらためたカードを弾くと変わるのでエッていう感じがある。
チェンジさせるものは紙ならなんでも行けるので色んなことに使えそう。
The Diamond Robbery
ホテルミステリー。
上品なストーリーが付いてます。
これはさすがに今読むと飛び抜けて良いって感じでもないような気もしますが、話の筋との絡め方含めディスプレイ系の技法は無駄にやらない的なこだわりを感じる手順です。
Gil’s Game
バーベット的な観客が勝てないゲームです。
2段構成になっていて、同じようなルールで前半より後半の方が確率が明らかに高く見えるものなので不思議さがあります。
The Chink-A-Chink Aces
4つのパケットのトップにAを置いてチンカチンク的なことをします。
表向きでやらないしビジュアルな移動ではないので実質アセンブリ的な感じですが、良く出来た流れだと思いました。
アセンブリの中でもとあるジャンルのオチがつくんですけど、この構成だと見られる手と逆の手で仕事出来るので楽。
Acestack
観客に人数を指定してもらえるポーカーデモ。
カチカチを1回減らせる工夫があり、特にトップ付近が楽になってるので自然に見える類のものだと思います。
The Royal Families
カードパズル。
テーブルに配る作業がないから手の中で終わってすっきりした手順です。
ギャンブル風の演出はつけにくいけど、この覚えやすさとお手軽さはこのプロットに魅力を感じるのに十分。
この本の他のパケット系のネタもそうですが、だいたいこういう感じにしたいというのが頭に入ってれば手が動く感じでややこしくないのが良いです。
The Blue Angels
Ultimate Aces。
フォールス技法を推奨していたりやたらマニアックな作品です。
裏の色違いだとちょっと大変なところをパーム以外の方法で解決していて、それでいて動きに統一感があり負担と見た目のバランスが良い作品だと思います。
Disassembly
Ultimate Acesのリバースみたいなやつ。
裏の色違いは大変な負担でもありながら、サトルティとして効果的というのを上手く利用しています。
The Blue Angelsから続けてやりたいところではあるけど、ディスプレイ的にちょっと流れは悪いか。
The Unkind Cut
デックを4つにカットして、それぞれトップとボトムがメイトになるという手品。
見せ方とセリフが面白い。
The Slightly Annoyed Card
赤と青のレギュラーデックだけでやるユニバーサルカードみたいなやつ。
デック2つあれば即興でカードもフリーチョイス。
ユニバーサルカードって同時に2枚以上同じカードが見えるパターンの場合、例えばパケットケースから出してきたカードを使ったりすると同じカードになった時に、これはそういう変化するカードだとしてどうしてこのカードを選ぶことがわかったんだろう的な不思議さの方が強くなってしまう気がします。
レギュラーデック2つからスタートできて自由に選んでもらえると変化に焦点がいくからめっちゃ良いと思う。
Divination, Discovery, Departure
赤いデックからカードを複数選んでもらい、同じカードを青いデックカットして出す。更に…という作品。
更に…のところに肝があるのですが、ここを一番不思議に見せるための前段の現象とスマートなハンドリングが素晴らしいです。
これも状況的に色んな見せ方が考えられそうですね。
超お気に入り。
The Sentimental Swiss Signature Switch
KとQにそれぞれ別の観客のサインが入ったシールを貼り、カードの位置交換の後にシールの交換が行われます。
この現象が面白仕掛けと手順構成の妙で普通に実演的なものになってて凄い。
これも傑作。
以上34作品。本当に面白かった。
5個だけ持っていって良いって言われたら、The Blank Thought Deck、Classic Ace Assembly、Transportation of a Thought、The Faro Five、Divination, Discovery, Departureあたりを選ぶでしょうか。
そうそう、造本も素晴らしく何度も手に取りたくなるような一冊です。
このK.C Printという印刷所から刷り上がってくる手品本は選書、内容、翻訳、装丁、全てにおいて鬼クウォリティで日本手品本界は印刷所買いの時代に突入しました。
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