by jun | 2020/12/25



ここまで来たら読む人は読んでるし1と2を読んでもうええわってなった人は誰に何言われても読まんでしょうからざっくり行きたいと思いますけども、まあ3巻も読んでれば汲み取るパワーとアクロバティックに好意的解釈をするテクニックが身についてきて、癖のあるクラシックのバリエーションから何を言いたいのかどういう手品をしたいのかという事を伝えようとしている形跡を見出せるようにはなり、それでもやっぱりその趣向に如何程の効果がございましょうかという疑問は残って、その疑問について考えることこそ手品観をshiftしていく原動力になるのでありましょうと己を納得させる日々は悪いものではありませんとゆるふわなお勧めを結論とさせていただきます。
一行で結論が出てしまいましたが言わんとしてることがわかってきた感があるのは確かで、手順に関してもこの#3が一番良いと思いました。
#1は「上手くやればめっちゃ不思議だと思うっす!」#2は「その工夫覚えておくっす!」という感じだったんですけど今回は普通に演じたくなるような手品が載ってます。

例えば手順の紹介文を一つ。

Blue Moon Triumph – Simply the most impossible Triumph routine. The spectator shuffles the deck face-up into face-down, they think of a card, the deck is placed into the box and they put the boxed deck into their pocket. Not only do you tell them what card they are thinking of, but when they remove the cards the only card facing the opposite way is their selection! This routine is a reputation maker.

The Shift #3 – Studio52

“most impossible”、”spectator shuffles”、”think of a card”、など力強く魅力的な言葉が並んでおりますね。

ご存知の通り手品商品における説明文と実際の解説には大きくて真っ暗な溝があるわけでして、社会でも理想と現実の乖離に苦しんでるのになんでわざわざ趣味の世界でよりその差の深さに葛藤しなければならないのかというのは手品をやっていく上で辛いところでもあるのですが、実際には消えてないものを消えたように見せる手品に消えてないやんと言ってる場合ではなく少しでも消えたように見えるならそれは消えたということにしてもっと消えたように見せるために頑張るしかないわけです。
もの凄く当たり前のことを言っていますが、ベンジャミンアールの言うReal Magicなるものはどうすればもっとそう見えるかというのを色んな角度から検証したもので、手品の改案というのは常にそういうものであると言えばそうなんですけど、手順をタイトにすること以上に観客がどう感じるかを先に進めようとした作りなのは明らかで、効果的かどうかは議論の余地がたっぷりありながらもそういうものとして読むとなるほど感があるというか逆に汲み取らないと心の平穏に差し障ります。
んで、消える変わるなど視覚的なものは読者にもその効果が判断しやすいあたりですが、ここにお馴染み思ったカード問題というのがございまして、今回の#3はちょこちょここのテーマが出てきて”Blue Moon Triumph”もそのアプローチの一つ。で、個人的にこれは良いものだと思いました。
ここで言う良いというのが皆さんがベンジャミンアールや思ったカード手品に期待する良さと別物であることは断言できますが、単純にshift作の中で一番個性が出た作品でもあるし、トライアンフという無数にバリエーションが存在するプロットとしてはっきりこれを演じる理由があります。もちろんこれを演じない理由も大きめのが2つありますけど、例えばこの演出を普通の手法でやったりその逆だったりすると成り立たなくなるもので、なかなか際どいところを上手いことやってるんではと思いました。
思ったカードだと思わせる処理は大雑把ですけど、演出が手法を悟らせないように機能するあたりは上手いです。
技法の使い方とか諸々含め、ここ3年ぐらいの彼の研究成果として見ても良い出来の作品じゃないでしょうか。

他の手順についても少しだけ。
“Deep Transposition”は2枚のカードのトランスポジション。
とかく位置関係が曖昧になりがちな状況説明部分をわかりやすくしていて普通に良い手順です。
普通じゃないところはとある動きを行うところで、スタイルで行われることにスタイル以上の意味を持たせようとしていて確かにトランスポジションでアピールすべきポイントを強化するものではあります。これがベストかどうかは不明。これにはこういう意図がありますというのが理屈を後付けしたように見えるのがこのシリーズの難しいところです。まあ本当に目的の達成になくてもいいものを後付けしてるので手応え感じてのことなんだとは思います。実際想像してみると色々とメリットはありそう。信じるっす。

“Octopus”はOut Of Sight Out Of Mindのウルトラストリームラインドハンドリング。いや、そう書いてんです。
説明に偽りなく複雑な操作は減ってるし謎の質問しなくて良いしラフにランダムな場所からカードを見つけてくる感じの手つきとかも良く、手堅い中にちょこちょこはったりをかますのは好き。
ただ「デックの中から自由に思った」という雰囲気はウルトラストリームラインドハンドリングの犠牲になりました。自由に思ってもらえるのは確かだしセリフにも一応工夫があるので、原案と比較しなければメリットも増えてるし特に問題という感じではないです。似たようなOOSOOMのアプローチはちょこちょこあるので、もうちょっと攻めてもよかったのではとは思います。

技法編。
Loewy Palmの一工夫は良かった。
右手でデックを取る動きが自然になって置き去りにした感も減るような気がします。
ワンハンドパーム系に応用できるもので、すぐスプレッドできたり自然に置けたりするのでカバーとしても有用。

The Shuffle PassとセオリーのAlways Shuffle!はセットみたいな感じになっていて、コントロールの目的は何かとかシャッフルが何をもたらすかとかをあらためて考えてます。
そんなこと言われなくたって!という話ですが、あらゆるシチュエーションでそのことを考えてるかというとそうでもないので為になりました。目的を見誤るなという話でもあるので、Past Midnightを見てモンキー化しかけてた時に読みたかったです。

Simon HendersonのInfluence and Deceptionは話が具体的になって面白くもなってきました。
今回は主に人の注意力についての話。いくら頑張っても手品は本当のリアルではなく、その本当ではない部分に観客は無意識にでも違和感を持つ、じゃあ何が気になって何によってそれが気にならなくなってるのかということを考察しています。
ここで騙せる騙せないの境目を探るような調査をやっていて、これはテクニックでも原理でも何かが成立する必要条件が見えてくるような内容です。
後半は手品についてのとあるエクササイズがあって、自分はブログを書くときに似たようなことをやっていますが、これはその手品の騙せるツボがわかるから演じやすくなるし、逆に限界とかこういう見せ方はできないということもわかるので別のアプローチを考えるヒントにもなります。
ここに書かれてることは知ってないと手品を演じられないということではありませんし読んだからといって劇的に何かが良くなるようなもんでもないですけど、手品はここらへんすっ飛ばしても出来すぎるのが突っ込んで研究する人が少ない理由だとも思いますし、ベンジャミンアールの本でこういうとこに触れられるのは良いことなんだと思います。
基本的な所に立ち返って発展の余地の幅を広げるような姿勢は最近のベンジャミンアール本とリンクするしそれぞれ補完し合うような内容です。

このシリーズは手順も技法も理論も悪く言えばちまちましたもので、斬新さを期待するとちょっとあれなんですけど実際プロの話聞きたいのはそういう細かいとこだったりもしますしツボにハマればというのはあります。
全体的な基礎力の向上というよりも上手い人が超上手くなるための細部という趣きも強く、個人的にはちょっと場違いなとこに来ちゃったって感じが増してきたのもゆるふわなお勧めしかできない理由の一つです。

Sponsored Link

Comments

No comments yet...

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です