by jun | 2021/08/01

2007年にEl placer de la magiaというタイトルでスペイン語で出た本の英語版。著者はLuis Alberto Iglesiasという人で本人の筆ではありませんが、要所で本人コメントが入るので逆に肝の部分がわかりやすかったりもします。
手順はどれもとても良いです。
この表紙の写真のようにニコニコしながらハードなことをやる人というイメージも強いですが、現象の見せ方、なぜそういう現象が起こるのかというのがはっきりしていて演出面の面白さもあります。
知識もテクニックもある人がどう見せたいかも明確になってるわけで現代の名人の創作論としても外せない一冊です。

The Joy of Magic: Master Cardmanship

ワイルドカードから始まるAとJのルーティン。
現象のリンク、演出の一貫性、さりげなくて強いサトルティ、スムースで強い構成とここぞという場面で使われるスライトなどなどこの本通じて凄いなと思うところがこのルーティンに凝縮されています。手品をより良く見せるための趣向が溢れていて痺れました。
それぞれ現象の見た目としては何かが足されているわけではなく、よりスマートにディセプティブにという感じが堪能できます。リセットのとこ特に好き。
オープニングとオチが円環になってるのも凄い綺麗で、その場にあるカードでどんどん手順を繋げていくルーティンも、印象的なアイテムとディスプレイで更に良くなる好例かと思います。

First Moment : The Joy of Beginning

エッセイの内容は記憶に残るマジックについて。
キャラクター、態度、現象、プレゼンテーション、道具、現象について、例を交えながらどういうアプローチがどういう印象を残すかという話をしています。
人の記憶に残ろうというのですから何か一つやれば良いってわけでもなく全方面を噛み合わせながら攻めないといけないので、短い文章でデメリットにも触れつつまとめられてるのは助かります。デメリットについては自分でも例を思い浮かべながら読むのが良いです。わかりやすいところで言うと観客に選択させるから不思議というのと何を選んでもそうなると思われる表裏一体感とか、そういうことを考えた時に何でカバーするのかというのもここにまとまってる内容から考えやすいと思います。

The Four Element

Flap Jacksのディスプレイを使ったAが出る手品。
あの形を作るまでに観客全員との共同作業感があり、そこからあのドーンですからカタルシスがあります。
カードの変化という見せ方でなく、言ってしまえば2つの手品をくっつけたものなのですが、細かいところでも観客を巻き込み、弱点とも言えるセッティングの段取りのところもプレゼンテーションで面白く見せていてとんでもなく良い手品になってると思います。

Mini Wild Card

ジョーカー4枚がフォーオブアカインドに変化します。
最初に明らかにジョーカー4枚を見せるので、どこかでなんかしないといけないわけですがここの手際がまず見事。クリップの使い方が超賢い。
構造上実際にはワイルドカードのように1枚ずつ変化するわけではないのですが、オーバーしてからの変化の見せ方もほとんど完璧じゃないかしらん。

Production in Two Parts for Four Coins and One Invisible Purse

パースフレームから4枚のコインが出てきます。
複数枚のコインのプロダクションとしては凄くシンプルな構成です。
インビジブルパースの演出含め、全体通して手に何も持ってないことを示せる手順。
DVD見てそれってそんな上手くできるのってポイントがあって、ここの工夫は同じようにやるだけででコイン弱者でもかなりそれっぽく見えるものでした。

Needle through Coin

コインにシール貼って、そこに針をさすと貫通します。もちろん調べてもらうと普通のコイン。
シールを貼るところのちょっとしたセリフも上手く、当然目的は無修正で見せられないからですが現象に説得力を与える演出になってます。
ハンドリングも申し分なく、個人的にかなり好きな手品。

Think of a Coin

3枚のコインのスペルバウンド現象ですが、メンタル的な現象から始まり、パースの中のコインと入れ替わるように変化していく楽しい手順。
最初と最後に観客にコインとパースを調べてもらえる手順であることと演出が上手くはまっていて、コインの変化現象の気になるところが諸々クリアになってます。

A Handy Assembly

チンカチンク。
特徴的なのは残務処理の部分です。
ちょっとしたことだけど、よいしょーって感じがかなり減る。

Second Moment: The Joy of Performing

Why Do We Do the Magic that We Do?というエッセイはまさに何故そのマジックを演じるのかという内容。
特に映像で手品を学ぶ時代には重要なテーマです。
何故あの人が演じるあれはあんなに良いのかと思った時に考えるべきことがまとてられています。
本質論というのは良く言われるけど、何に着目していいかわからなければ解像度は荒くなるので現代のクラシックを見る時にとても良いガイドになる文章。

Six Bill Repeat

めっちゃお金増える感あるSix Bill Repeat。
商品でも出てるやつあるけど、これは普通のお札でいけます。クロースアップだと厳しいけどこのハンドリングならサロンなら余裕かと。
確かに6枚だったと思わせる序章が超秀逸。

The Bet

封筒の中のカードと観客が選んだカードが一致するトリック。
カードは表向きに配ってもらって好きなところでストップしてもらうことができます。
似たような手法で行う予言トリックは色々ありますが、確実に決めれてバレないバランスはこのタイプがベストではないでしょうか。
それでもちょっとここがなーというところはあるんですが、普通の予言として見せない演出なので怖くなくなってるし、1/52ということが強調されもして良い感じ。

Magic with a Stacked or Memorized Deck

メモライズドデック、ここでは特にAny Card Called Forについて語られています。
これをやる時の基本的な操作と、見せ方のアイデアが一つ。
この見せ方はコールカードで行うメンタル風味とデモンストレーションではないマジカルな要素のバランスが良いものです。仕組みとしてはなんてことないものですけど理屈がわかるとやってみたくなる。
Any Card Called Forは即興手品に必要な横の知識が求められる分野でもあるので、オプションとして持っておくと便利。

Cards by Weight

重さでカードがわかるやつ。
良い感じのタイミングで観客にシャッフルしてもらえる手順で、前段の現象の文脈的にも違和感なくCards by Weightに入れます。
最後はハンカチに包んだ状態で枚数を当てれて、ここは本当に重さでわかるようにしか見えない。

Card Stab

ナイフ使うカードスタブ。
これ超最高のやつです。
同一コンセプトかつ別の見せ方で連続して起こる現象で絵面が面白くなっていく手品は良い。

Magician Makes Good

Magician vs Gamblerのバリエーション。
色からマーク数字と当てていくカード当ての演出で、即興で行えるように色々頑張っています。
主な頑張りポイントはハーフパスとアンダーカット。
カットして表向きでカードが出現ということになるとちょっとセットが面倒な感じになるじゃないですか。
このアンダーカットはスイングカットの動きなくボトムから好きな枚数上げてこれるので、覚えておくと色んな手順に使えます。

Sand and Water

ノーギャフノーエキストラでテーブルも要らない水油をやりたかったってことでそういう手順になってます。うれしー。Master Cardmanshipのルーティンにも組み込まれていますが、ここで解説されてる手順は4-4の2フェイズ+フルデック。
構造として変わったことをやってるわけではないけどサトルティの見せ方が素晴らしい手順です。4-4で無理しすぎないのも○。
2段目は特に良いっすね。1段目より公明正大に見せてる感じで同じ仕事ができるという。

Third Moment: The Joy of Inquiring

エッセイは主にスライトに関すること。
技法の適切な使い方や何故技法が出来ると良いのかという話をしていて、クリエイティビティやオリジナルのプレゼンテーションを作るのにも役立つというあたりはこの本の手順読むと納得度も高くてよかった。やっぱりここでああすればこうできるというのは自分がその技法を使いこなせてないと手順にまで持っていけないので、遅延学習的じゃなくある程度幅広く出来るようになっておくべきやなと。

また、一般の観客とマジシャン客、誰に向けて手品を作るのかというスタンスが語られています。マニアックな手品をやりたい場合はこのバランスがベストだと思うという話。

The Part and the Whole

ホフジンサーエースがオチになってる変わった演出のルーティン。
手品が起こる理屈の説明をしつつカードがひっくり返る現象を起こしていく感じで、最後の入れ替わりのオチの意外性が増す感じでめっちゃ良いと思います。
特に2段目、見た目的にはここがピークといっても良いけどちゃんと前振りなりのわきまえもあるというか。
ホフジンサーパートはなかなかのパワー。

Elastic Card Across

輪ゴムでとめた状態で行うカードアクロス。
技術を習得しさえすれば一見無理そうなことをもっと無理そうに見せれるという学びが得られます。

Card through Handkerchief

カードスルーハンカチ。
本当に真ん中からにゅるんと出てきてやばい。
当然やることは増えるけど、道具を使う手品ならではの適切なタイミングで色々行えるようになってるので、全体の見た目としてはほぼ普通のカードスルーハンカチに近いと思います。

My Handling of Bro. Hamman’s “Final Aces”

ジョンハーマンのFinal Acesのバリエーション。ギャフ使用のアセンブリです。
元ネタと違うのはフェイズが減ってることとディスプレイの違い。
フェイズに関してはギャフの制限で綺麗に見せれるとこと見せれないとこがあって、どこをピークにするかというところなので良いとこで終われて綺麗だと思います。綺麗に見せれないところはちゃんと別の場所で盛り上がりを作ったりしてるのにも注目。
ディスプレイはカウントを廃し、随所で隠したいだけじゃなく積極的になんのカードであるかをさりげなく示していたり、水油とか他の手順とも共通する感じ。

Bonus: For My Friends in Magic

The General Card

ギャフ版とスライト版が解説されてるけど注目はやっぱりスライト版。
ジョーカーを順繰りに3枚に変化させてまたジョーカーに戻すという時に用済みのカードを適切に処理していく感じ。
全部が演者の手を離れて行われる変化ではないけど、全体通してゆったり変化を味わうにはちょうど良い気はします。最初と最後がクリーンだからオセロ方式で全部そう見える構成だと思います。

A Visual Transposition

パースの中のコインとカードがトランスポジションします。
いかつくて面白いけどここまできたらサインカードでおなしゃすって気もする。

Torn and Restored Card

瞬間復活系のT&R。
4つ折りじゃなくピンピンの状態に復活できます。
くっついていく過程は見せないので下手にやるとそういうことなんだと思われてしまうものですがいくつか工夫があります。

そうそう、この本は一部演技が収録されたDVD付きで、本にDVD付いてる場合は先に演技を見て驚いて解説を読むというのも楽しいですが、どの手順でも良いので解説を先に読んで練習追い込んで満足した状態で本人の演技を見るのもおすすめです。圧倒的本物感と、この手順はこのクウォリティでやってこそというのが確認できます。

Sponsored Link

Comments

No comments yet...

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です