2011年に東京堂出版から出た麦谷眞里さんの本で、絶版になってない手品入門書の数少ない一冊です。
「60歳からの」と付いてるのは今から始めても大丈夫だよというメッセージと、むしろ人生経験値高い方が手品に有利だよという意味があるそうで、確かに手品に難しそうってイメージ持ってる人には刺さりやすいかもしれません。
逆にこのタイトルを見てスルーしてしまう層もいるかもしれませんが、様々なジャンルの手品が参考資料と共に丁寧に解説されているのでもっと広く読まれて良い本だと思います。
解説されてるのは18手順で、素材も散ってて解説の丁寧さからそれぞれのジャンルの面白さがわかるのでなんとなくマジックを初めたいという人が読むのにもちょうど良いです。
ただ本当にこれから初める人が注意しないといけないのは、いわゆるそこらへんにある物を使った簡単マジック的な本ではないというところ。
「特別なマジック専用用具の要らないもの」と「簡単なマジック専用用具があればできるもの」の2章からなっていますが、前者にも道具が必要なものはありますし、ほとんどの手順で工作や準備が必要です。
また、シチュエーション的にも気楽に見せるというよりしっかり演じるという感じなので、そこらへんはハードル高いと言えば高い。
それ自体はマイナスということはありませんが、テクニック云々より演技が難しいのもちらほらあり、それはちょっと入門には厳しいのではという気がします。
例えばボロディンの予言が解説されていて、あれは3つの組み合わせを予言するものですが、予言を示すのに紙を1つ目から順番に読み上げる必要があって、ホップステップジャンプと盛り上げるのが難しいです。もう少しオーソドックスに示しやすい予言にするか予言が当たったことを示す部分の詳しい解説が欲しかったかなと。
これはまあ難しいというだけで手順に問題があるわけではないけど特に気になったのは2つ。
まずFast and Loose。
カードのモンテなら当たりはこっちでしたという見せ方ができるけど、チェーンだとそれを見せられないので観客はどっちも外れなのではという疑いを持ちます。
これはセリフや手順構成でカバーする必要があり、この本の中でも解説されていますが、これが単に一旦観客に当てさせるフェーズが入るだけであんまり面白さ的に機能してませんし、全体に手品っぽさを損ってる気がします。
もう一つはブックテスト。
マインドリーディングのリアリティを高める演出自体は的確ですが、これもとてもリアクションに困る示し方になってしまっていて残念。
どの手順も原理は面白いものですし、どういう不思議さを演出するかという部分の解説もしっかりしていていますが、やっぱり入門というより面白く見せる名人芸スキルが要求されるものだと思います。
他はロープとか新聞復活とかスポンジとか、ある程度の人数に対応しててわかりやすい現象のものが収録されててこのあたりは入門にも良い感じです。
作品のチョイスは好みとしか言いようがない部分もありますが、演出がしっかりしてることもあってただパズルを見せてるだけという感じがなく現象もはっきりしてるのが多め。
個人的には多くのジャンルを扱っていて知らない原理や参考資料などがかなりあって、演出も参考になる部分があり面白かったんで、どっちかというと入門してちょっとしたぐらいの人が読む方が楽しめる本という感想。
もう少しわかりやすくモチベーションになる軽めの手品が収録されていればと思いつつ、ある程度しっかり解説するスタンスで簡単マジック解説と差別化するにはそうもいかないでしょうし難しいところですね。
そもそも手品入門に本がベストなメディアかというとそれもちょっと微妙かなと思ってたりもしますが、一つの動作の目的から細密に解説するという映像では厳しい事をやってるし、単純な仕掛け以外の手品の面白みを伝えることにも成功してると思います。
手品の場合は読んだ人が実際に上手く演じられるかどうかも良き入門書の条件ではありますけども、単に読んだ人がハマるかどうかも大事ですし理屈の部分に興味持たせるのも深く沼へダイブしてもらうアプローチとして正しいんでないかなと。
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