by jun | 2021/04/28

最近出たVincent Hedanのカードマジック本。テーマはネモニカですが、Mnemonica Without Memoryという内容で手順さえ覚えれば演じられるようになってます。
メインで解説されてるルーティンでは5つの現象を繋げて行うようになっていて、スタックを崩さずにというわけではなく、それぞれのフェーズで都合良い感じのスタックになってるって感じです。
要はDenis BehrのFinding the Way Homeの長旅版。


現象としてはTantalizer、DuffieのIllusion vs Reality、Spectator Cut the Aces、Suit Appearance、Shuffle Boredという流れ。

スタックの配列を活かした手順の宿命として、トリック単体では既存作品と見た目はあんま変わらんってところがあるんですが、これもまあそういうものではあります。ただ、それぞれ捻りが効いたプロットなので見せ方自体が普通って感じではありません。
特にSpectator Cut the Acesのバリエーションである”Four Amnesiac Errors”はオリジナリティがありカードも良く動くしこのルーティンにとてもマッチしています。Pit Hartlingのあれ的なあれですね。これはめっちゃおもろい。

DuffieのIllusion vs Realityはカードが変化してフォーオブアカインドを出すとても良い手品で、この流れの中では観客にカードを触らせることの意味も大きいです。

それぞれツイストがあるのは良いんですが、流れとして見ると2〜4まではストレートに現象が起こらないのが続くのはちょっと気になるところでしょうか。特に”Kingdom Hearts”というSuit Appearanceはこの手順の中でさえ、ここから数字の分だけ配ると出てくる、スペリングすると出てくる、というのが連続するので、なんとなくまどろっこしいことが続くような感じは否めません。
またこの手順は上から配ったり下から配ったりと演者都合や配列を意識させる作りなのも気になるといえば気になる。派手なプロダクションを排して突っ切ってるのは面白いですが、ちょっとそのまま演じるのは難しそう。

かっちり決まったルーティンとして全体で見ると現象にまとまりがなく散漫とした気もしますが、うまいこと即興感を出して演じれば適当にカードマジックを続けて見せるというのがランダムな印象を引き立てるという効果はありそうです。
スタックを崩さずに行う手順ではないので手順を組み替えて自分好みにするのはちょっと大変ではあるけど、読めばここはちょっといじれば飛ばせるという場所はわかります。スタックが崩れない手順は差し込めるし、ネモニカを使う手順も持ってこれるポイントもあります。
Tantalizerから始まる時点で好き嫌いは出るでしょうけど、考え方とちゃんとした実用例がわかるので、ここを土台に自分なりに組み立てるにしてもスタックのルーティンを考えるにしてもかなり遊べる作品です。

メインのルーティン以外の手順について。
“Amnesiac Tuc Tut”はファローを使ったサンドイッチカード。Patrick Redfordも同じようなことをやっていましたが、この本ではノーフォースバージョンやダブルサンドイッチバージョンまで解説されてます。スタックの研究ぶりを読むだけで面白い。
欲を言えば、これ終了時に帰宅できないパターンで、シャッフルするわけだしどっちかというと開始時にセットが必要で終わったらすぐネモニカ使える方が嬉しいというのはあります。

“Amnesiac Blackjack”はプレーヤーの人数と何人目を勝たせるかを観客に言ってもらってそこをブラックジャックで勝たせる手品。
これは裏側がめちゃくちゃ良くできていて感動しました。ネモニカをちょろんとするだけでめっちゃ上手いこといくセットができます。
スタックを連続して使う手順だと観客の自由度が減ったりしがちなのでこういう手順を挟みたいですね。

“Murphy’s Amnesiac Splelling”は、観客の選んだカードをスペリングすると別のマークの同じ数字が出てくるというのが3回続いて、最後にちゃんと出ます。
ネモニカからスタートできないのでそれ考えるとちょっと弱い気もするけど、フリーコールで目的のカードを言われた時に覚えておいても良さそう。

“Amnesiac Joffe Poker”は観客に人数を指定してもらい、カットもやってもらってから演者が勝てる手順。観客に配ってもらえます。
準備は必要ですが、仕掛けが面白いです。知らなかったけど、この手のポーカーの手順に色々使えそうなもの。

やや好き嫌いが分かれそうな作品は多いですが、ネモニカユーザーには普通におすすめ。メインのルーティンはネモニカの手順組み込めばかなり幅が広がってクライマックスは結構好きなように演じられます。
Finding the Way Homeもそうですが、この手の話を読んだ後は他のトリックの見方が一つ変わるところがあるので楽しいです。
ネモニカに限らず、スタックを使った手順を考えるのにもとても良い教材だと思います。
やりたい現象とスタックから手順を考えるコツを掴むヒントのようなものがあるし、一つのスタック一つの現象を作るのに死ぬほど試行錯誤されてるのがよくわかって気合いの大切さも教えてくれる一冊。

Sponsored Link

Comments

No comments yet...

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です