ロベルトジョビーのカードカレッジといえば1巻から4巻まで日本語訳が出ていてどれも絶賛絶版中ですが、他に5巻とLight、Lighter、Lightestなるものが存在します。
このカードカレッジライトは1巻が発売される前にドイツ語版が出てるのでカードカレッジとは関係なく、英訳の際にこのようなタイトルになったそうです。
内容はセルフワーキングトリック集で、ダブルカットもダブルリフトも出てこない、カードマジックの知識がなくてもこれ読めば演じられるトリックが解説されています。
3つの手順を1つのルーティンとして7ルーティン21手順が解説されていて、原理を知らなければマニアも引っかかるトリックも多数です。
トリック自体も本当に傑作揃いだと思いますが、どのような演出(セリフ)で観客にどう思わせることが出来たら不思議かってとこが丁寧に解説されてるのが素晴らしいです。
セルフワーキングマジックはだいたい長い操作が必要になってくるので、その動きの意味をいかに伝えるかが大事になってきます。
主に不可能性の強調や現象が起こる嘘の理屈ですが、その筋を用意してくれてるのは大変有難いです。
物理的にも不可能に見えて、セリフで心理的に無理っぽさを補強するから指紋で当てたり筋肉の動きで当てたり霊媒が当てたりすることに説得力が出てきます。
これから手品を始める人はもちろん、マニアの心にも大事な物を残してくれる有難い本の日本語版が発売されております。
Roberto Giobbi『Card College Light』 | 教授の物販
重版はしないっぽいこと書いてるので気になる方は急いだ方がよさそうです。
ブログの方に詳しいことが書かれています。
Roberto Giobbi『Card College Light』日本語版 – 教授の戯言
ルーティンは10分以内に終わるように組まれてて、ルーティン内に見た目が似たような現象はなくて、一つ終わった時点で次のマジックのセットができてて、マジ助かりますね。
特にセルフワーキングだとカード当てが多くなりがちなので、各ルーティンにカード当て意外の現象が入ってるのが良いです。
A5ソフトカバーで非常に読みやすく、装丁も非常にかわいくて何かに映えそうなカラーリングも素敵です。
Routine 1
T.N.T. (ホァン・タマリッツ)
全くもって不可能に思われる状況下で、マジシャンは選ばれた2 枚のカードを当てます。
いきなり大傑作が来ました。
タマリッツの鬼不思議カード当てです。
観客が完全にシャッフルするパートがあるのでめっちゃ不思議です。
作業を不可能性高めるように見せるってのもこれが一番わかりやすい例かもしれません。
Intuition (ポール・カリーをベースにジョン・ケネディ)
2 人の観客が、直感の力により、よく混ぜられたデックを赤と黒に分けることができるようになります。
Out of This World的な現象ですが、しゅるんってやらなくていいので楽ですしフェアです。
最近ちょいちょいこのやり方でやってる人は見ますね。
The Telephone Trick (ハワード・サビッジをベースにウィリアム・マカフリー)
よく混ぜられたデックから自由に1 枚カードが選ばれます。演者が霊媒に電話をかけると、その人はカードが何であるかを電話越しで当ててしまうのです。
出ました霊媒。
色んな意味で演じにくいトリックではありますが絶対どっかでやりたい手品の一つです。
だって霊媒の友だちに電話かけるってめっちゃかっこよくないですか。
今の携帯電話なんでもありなのでかなり工夫してやらないと不思議には見えなさそうですが、どこでも演じられるようにはなったのでなんとかしてやりたい。
Routine 2
Thot Echo (サム・シュワルツ)
きわめてフェアな状況で観客が2 枚のカードを選びますが、マジシャンはそれらを見つけ出すことができます。
この原理は知りませんでした。
セルフワーキングって自分でやってみてうおってなる時めちゃ楽しいですよね。
最初に分けるとこが謎といえば謎ですがそこをうまくプレゼンできればかなり不思議です。
うまく観客に混ぜさせて好きなとこで選ばせたように見せれるかが勝負。
Royal Flush (ボブ・ハマーをベースにラリー・ジェニングス)
観客によって10 枚のカードがランダムに選ばれ、よくシャッフルされ、そして2 つのポーカーの手札として配られます。にもかかわらず、マジシャンの手札がロイヤルフラッシュになっているのです!
原理は知っていましたが観客に錯覚させるようなセリフ回しと構成はとても参考になります。
The Waikiki Shuffle (ビル・ムラタ)
無意識にコントロールされた振り子の揺れから、マジシャンは選ばれたカードが何かを当ててしまいます。
みんな大好きワイキキ当て。
表裏ぐちゃぐちゃのまま当てるので振り子とかとはなんとなく相性良い気がします。
Routine 3
Fingertip Sensitivity (ボブ・ハマー)
マジシャンは、観客がテーブルの下でカードのパケットをどのような並びにしたのか当てることができます。
知ってても不思議な原理です。
混ぜてもらうお客さんには操作してもらいながら徐々に混ぜてる感をわかっていかせるのでとても強力です。
ただ、ちゃんと指示しても事故が起きやすい感じはあります。
テーブルの下でやってもらうのでポロリもあるでしょうし、がっとやっちゃうパターンもあるかもしれないのでゆっくりやってもらうのが大事ですね。
手順の中で二段現象があって、二段目の方が現象としては好きです。
Muscle Reading (ジャック・マクミラン)
観客にカードを選ばせ、デックの中に戻して完全にシャッフルしてもらいます。マジシャンは、他人の“無意識の筋肉インパルス”を読む能力により、選ばれたカードを見つけ出すことができるのです。
無意識の筋肉インパルスというパワーワード。
手品としても非常にパワフルです。
同じ元ネタのやつはベンジャミンアールのRamjollockを知ってましたが、こっちの方がセットも楽だし事故も起きにくくて良さそう。
観客の印象を操作する方法も解説されててやべえです。
The Lie Detector (ロベルト・ジョビー)
観客がカードを憶えて、デックに戻し、シャッフルします。次に、7 枚の無関係なカードを抜き出してもらいます。そうしたら表は見せずにマジシャンに向かってカードの名前を言っていってもらいます。しかし、どれか1 枚のカードのところで(そのカードの名前の代わりに)選んだカードの名前を言ってもらいます。信じられないかもしれませんが、マジシャンは人の嘘を見抜く鋭敏さを備えているので、彼女のカードを見つけ出してしまうのです!
面白い演出です。
原理がシンプルなやつほどガチなのかと思わせる当て方の方が良いと思います。
Routine 4
The Circus Card Trick (ヒューガード&ブラウ)
このマジシャンは選ばれたカードを探し出すことに失敗してしまったな、と観客が確信している状況で、マジシャンはびっくりするような愉快な方法で、事態をうまいこと収拾します。
この本の中でサッカートリックっぽいやつこれだけですかね。
失敗した演技って本当加減が難しいので観客だけが失敗したんじゃねって思うバランスのやつは嬉しいです。
The Fingerprint (ヒューガード&ブラウ)
自由に選ばれたカードが、観客によって、きわめて厳正な状況の下、デックに戻されます。にもかかわらず、マジシャンは選ばれたカードに残された“指紋”を手がかりに、これを見つけ出してしまうのです!
割とマニアでも知らない人がいるやつです。
前手順との準備の連携っぷりもとてもいいですね。
Magical Match (ジョン・ヒリアード)
マジシャンは、説明のつかないやり方で、観客がデックからカットしたカードの正確な枚数を2 度も当ててしまいます!
一段目は結構言い方が難しいです。
英語だとどうなってるんでしょう。
そこさえうまく言えれば好みの引っかけなんですが、なかなか言い回しが思いつきません。
Routine 5
Cards Never Lie!(J.C.ワグナー)
観客がカードを選び、デックの中に戻してシャッフルします。マジシャンは、これからカードについて3 つの質問をするが、回答については嘘を言ってもいいし、本当のことを言っても構わないと観客に伝えます。にもかかわらず、マジシャンは選ばれたカードが何か分かるだけでなく、すぐに同じ数字の他の3 枚のカードも取り出してくるのです!
セルフワーキングの鬼門というか、極端に好き嫌いが分かれるあれを使うやつです。
好き嫌いというか許せるか許せないかみたいな話ですが、それをやる屁理屈としてはかなり良い例だと思います。
今だと伝わる人も多いでしょうし、オチで4カードが出るので筋も通ります。
Digital Dexterity (アル・ベーカー)
観客がカードを1 枚選び、それをデックに戻してシャッフルします。そして、デックはマジシャンのポケットに入れられます。全くもって信じられないような器用さで、マジシャンはデックの中から選ばれたカードを探し出してくることができるのです。
単純ですけど実際やられたらびっくりしますよね。
混ぜてポケット入れてなんのカードかもわからんのに探されたら不思議ですよ。
Think Stop!(ブルース・サーヴォン)
観客が自由にカードを選び、デックに戻し、シャッフルします。にもかかわらずマジシャンは、観客が何も言わずに心の中で思ったことを読み取り、カードを見つけ出してしまいます。
結構心を読むって嘘くさくなくやるの難しいですけど、読まれたかは知らんがドキっとしたぐらいの感想は持たせたいものです。
そうなると出来るだけ怪しい技法や作業っぽさをなくしたいのでこういうのに行き着くのかなと。
カード当て3連続なのでちょっと間延びさせないのが難しいルーティンですね。
違う当て方で、どんどん不思議になっていくようにしないとあかんです。
Routine 6
Card Caper (ロベルト・ジョビー)
2 人の観客が自分自身がシャッフルしたデックから、それぞれカードを選びます。選んだカードをデックに戻し、再度シャッフルします。にもかかわらず、マジシャンは2 人の選んだカードを驚くべきやり方で見つけ出してしまいます。
ぐちゃぐちゃに混ぜてもらえるやつで、カードを渡してからは演者は後ろ向きでも大丈夫です。
後ろ向いててもそんなに怖くない操作だと思います。
In the Hands (フランク・ガルシアをベースにロベルト・ジョビー)
観客がデックをシャッフルし、その内の2 枚を憶えます。そして憶えたカードをデックに戻してもらいます。この不可能な状況にもかかわらず、マジシャンは憶えたカードを両方とも見つけ出してしまいます。
即席でできる2枚カード当て。
2枚覚えてもらうやつが2つ続くしノーセットでできるので、これは単体でやりたい感じです。
Back to the Future (アル・リーチ)
マジシャンは自分自身で未来に行き、そこで何が起こっているかを記憶し、過去に戻ってきて、そしてこれから起こることを予言する、という、現象は明快ですが、なんだかややこしいお話です。
予言の紙とかは用意しなくて良いのですが、示した後ちょっともやっとする部分が残ります。
クリスメイヒューがCAANDYで使ってるあれを使いたくなりました。
Routine 7
Manto (ボブ・ハマーをベースにリシャール・ヴォルメル)
マジシャンは予言を書きます。そして、それをカード・ケースの中にしまいます。ケースは観客に持っておいてもらいましょう。観客と演者がカードを表裏ごちゃ混ぜにします。デックはカオスな状態になります。それにもかかわらず予言には、何枚のカードが表向きになっているか、それらの内、何枚が赤で何枚が黒か、正確に書かれているのです!
あんまり説明いらん感じの傑作ですね。
デック全体の結果が予言されるので、セルフワーキング的な作業がそのまま現象に繋がるのでとても良いです。
即席でやる方法も解説されてます。
Vernon’s Miracle (ダイ・ヴァーノン)
マジシャンは考え得る限りのフェアな状況のもとで、選ばれたカードを見つけ出します。
全く知りませんでした。
結構セリフが大事になってきます。
ある事態が起こった時のカードの示し方は、この手の事態が発生するカードマジック全てに応用可能で気に入りました。
That Is the Question (リシャール・ヴォルメル)
マジシャンはなんの質問もすることなく、自由に思ってもらったカードが何かを当て、探し出してしまいます。
選ばせ方がちょっとややこしくて訳者のがっつりした補足がついてます。
ビジュアル的には面白いのですが、まあまあの確率でややこいことになるので結構難しいかもしれません。
以上21手順。
原理ごと知らなかったやつは5個ぐらいでしたが、ちゃんとした演出付きで読むと知ってるやつでもあーええなーって思いました。
個人的ベストはRoutine 1ですね。
T.N.T.が好きということもありますが、霊媒やりたすぎます。
本当におもろい原理と手順が詰まってて、技術的負担はなくてもこういうのをちゃんと楽しく演じられるのは結構難しそうで、そういうスキルを身につければ色々強くなりそうです。
不思議に見せるという意味ではやはりいかに作業っぽさを減らせるかどうかが勝負ですね。
お客さんとの関係とかも考えて自分なりのセリフでやろうとすると結構難しいです。
お客さんに操作してもらう場合は一発で
理解してもらえるようにしないといけなくて、質問されたり間違いを指摘したりするとそうしないとダメなんだなっていう印象が強まります。
セルフワーキングは技法の怪しさは0ですがもしかしたら作業っぽさを消す方が難しいかもしれません。
現象が起こる範囲でお客さんには自由に選んで好きに混ぜたって印象を与えるギリギリのバランスの言い回し考えるの楽しそうです。
この本の原語版が出たのと同じ年に生まれたおじさんで、手先的な技術では若い人には絶対叶わんし他の部分伸ばしたいと思ってたのでとても良い刺激になりました。
霊媒にも絶対読んでもらわないといけません。
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