by jun | 2018/04/25

ガスタフェローの手品はどれも無理なハンドリングがなく実用的で、英語のDVDを見ていても自然な手つきだと思えますが、本で読むとセリフの気の効きっぷりにより関心ます。

ONE° DEGREEって1°のことで、99°だと沸騰しないけど100°だと沸騰するように、たった1°で決定的に変わるという意味があるそうで、この本には手品を沸騰させるエッセンスが詰め込まれています。
主に観客とのコミュニケーションの取り方、それを盛り上げ演出に使う手順の組み方が解説されていて、当然トリックはどれも素晴らしいです。

CHAPTER1 GET CONNECTED

非常にシンプルなカード当てでも観客とコミュニケーションを取り、その隙に次のマジックをセットしたりと巧みです。

「TRUTH IN ADVERTISING」はよくあるブランクフェイスネタですが、非常に面白い設定で演じられます。
この章はシンプルなトリックでもこれなら盛り上がりそうっていう感じのものが解説されており、単純なネタでもセリフやサトルティに気を抜かない本気ぶりがとてもいいです。

CHAPTER2 HANDS-ON

観客の手の中で現象を起こすことに特化した章。
ガスタフェローはさらにそれに特化した「Hands off My Notes」というノートも発表してるぐらいでこういうの好きですね。
この本もそういうの多くて、ただ操作が終わったカードを観客の手に持たせるだけの手品じゃないあたりが本当に素敵です。

「lNTRO-VERTED」はフォーカードオープナーで、ラスト1枚を観客の手に出現させます。
その前の3枚の出し方も変化があり、徐々に盛り上がってきて最後ににゅーーって感じの構成が見事すぎます。
ジョシュアジェイアイデアの大オチもとても良いですね。

「MR. E. TAKES A STROLL」はサインドカードやミステリーカード的な、最初に置いてたカードが後からサインしたカードに変わるやつ。
それにラストトリック的な要素を組み込んで、めくる時に現象が起こるので例のあれに違和感を持たせない効果があります。
盛り込みすぎず、組み合わせて弱点を補強してるコラボは良いものです。

CHAPTER3 FOURSCORE

フォーオブアカインドをテーマにした章。
「QUANTUM KINGS」は4枚のキングの中から一枚選んでもらってそれが消えて箱の中から出てくるという現象。
同様の現象は佐藤総さんの「LOVE A DOVE DOVE」がありますが、解決法としては続編の「LOVE A DOVE DOVE plus」に近いです。
ガスタフェロー版はカードの選ばせ方に工夫があり、それも観客とのコミュニケーションによって不自然さを排除しています。

なにはともあれこの章は「Solo」ですよ。
オープントラベラーの最後の1枚問題を驚くべき方法で処理してます。
やっぱり最後の1枚はちゃんと示したいですし、一枚だけ違う消し方したくないじゃないですか。
そのどっちも解決して、さらに気持ち悪いビジュアルまでプラスした上に、オープントラベラーの本筋からは反れることなく、原案の本質を500%で解釈したようなとんでもない作品ができてしまっています。
たまにこういうエキセントリックなことしてくるからガスタフェローは油断なりません。
ガスタフェロー作品の中でも突出した傑作だと思いますし、オープントラベラーやカードマジックの歴史に残る作品だと思います。

CHAPTER4 POCKET POWER

ポケットを使う手品の章。
「Homege to Homing」はジャック4枚とサインカードを使ったポケット通いカードです。
デビッドウィリアムソンのデック丸ごと移動するのと比べるとインパクト弱いかもしれませんが、確実にここから消えてここから出てくるってのを示せるのは良いですし、角度に強いので演じる機会も増えると思います。

CHAPTER5 WORKER’S TOOLBOX

「Biddleless」はビドルトリックの別解で、自然なハンドリングではあるものの後から逆算されると推測されてしまう見せ方かなと思いました。
そこにカードがあったことを示すセリフとカウントが強いので大丈夫な気はしますが、マニア向けの別方って感じです。

「Duplex Change」は2枚のカードのカラーチェンジで、ゴミを残さずいつのまにか変えてしまう方法。
使うシーンは限定されますが強いです。
ジョーカー2枚を使った手品色々考えられそう。

CHAPTER6 TRI-UMPH!

トライアンフをアウトオブディスワールドみたいな観客が起こした偶然に見せる試み。
シャッフルの方法は簡単なものですがこのトリックにはよく合います。
テーブルの下で観客に何度か表と裏をひっくり返してもらう操作によって戻るという演出で、そんなに事故も起こらないものです。
カード返してもらってから一操作必要なのが好み分かれるあたりだと思いますけども、その前のワンクッションがあるのが効いてきます。

あとカード広げる前のセリフ、これはトライアンフで表向きに広げるか裏向きに広げるか問題の解決としてかなり良いんじゃないでしょうか。
カードの向きに言及しておくことで観客にも「選んだカードだけが表向き」がすんなり入ってきて、全部の向きが揃う驚きを邪魔しない巧みな演出だと思います。

「BALLET STUNNER」は動画を是非。

CHAPTER7 PERFECT STORM

STORMってガスタフェローのDVDのタイトルなので、それにパーフェクトがついてるので当然良いです。

「LOST & FOUND」は透明なカードケースにカードが入ったり出たりする手順。
見せ方が非常に難しい手品だと思いますが、ケースにちょっと工夫を加えるだけで説得力が増すのがおもろいです。

「VINO ACES」はマクドナルドエーセスをワイングラス使って見せる方法。
最後の最後に何を気取ってらっしゃるのかと思いましたがこのおしゃれさにはグーの音も出ません。
テーブルに置くより多くの観客が見やすいってメリットがあるので、ただおしゃれしてるだけちゃうんやでって先回りされてる感じもあり、やっぱりガスタフェローは最高でした。

個人的ベストはSoloを除くとlNTRO-VERTEDかMR.E.TAKES A STROLLあたり。
Soloはまじやばいです。

章の合間に挟まれるコラムも大事なことがたくさん書かれていて、日本で最も信頼できる手品本翻訳者である富山達也さんの文章もいつも通り読みやすいです。

手品というのは何かと観客目線という言葉が使われがちですが、ガスタフェローのように観客にリスペクトをはらう姿勢というのは忘れちゃいかんなと思います。
手順が人からどう見えてるかってより、自分が観客をどう見てるかってのも相手に伝わることは意識しなきゃいけません。
映画やドラマで過剰な説明セリフがあると馬鹿にされてる気がするように、手品でも見たらわかるわってことを繰り返し言うのはよくないです。
とはいえ不思議ポイントはアピールしなきゃいけなくて、その辺のバランス感覚みたいなもののヒントになるような本でした。
日本一信頼できる手品本翻訳者である富山達也さんが訳してる本はそういうの多いので信頼は増す一方。

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