今年Vanishing Incから出たBen Hartの作品集。文章書いてるのはNeil Kelso。正方形で表紙の文字のとこのテラテラが綺麗な本です。
Ben Hartは1990年生まれのイギリスのマジシャンで、イギリス版Got Talentで決勝まで行ったりしてる超実力者。その他プロデューサーやコンサル的な活動も多くされてるとのことです。
本で解説されてるのはGot Talentで演じた手順を含むステージマジックがメイン。オリジナリティが高く現象自体がキャッチーで、シンプルな手法と設定や演出などがうまいこと噛み合っていてレクチャー本としても実用的で面白い一冊でした。
元々ステージものに疎いのもあって新鮮に感じるってのもあるかもしれませんが、全体的にガチプロのガチ手順感があってわくわくしながら読みました。
A Shot in the Dark
暗闇の中で観客がマッチ箱の中から1本選び火をつける。箱の中の他のマッチは全部焦げたマッチ。
超素敵な現象ですねこれは。
演出と舞台と手法が良い感じに噛み合っていてめちゃくちゃ楽しい。
Melocation
サインしたシルクと桃の種のトランスポジション。
シルク手に入れると桃の種に変化して桃の中からシルクが出てきます。
移動よりも現象に説得力が出る分、いつ入れるのかと思われやすそうですが、ハンドリングが良くて桃に指を突っ込まなくてもできるのがクリーンで良いです。
桃はかわいくて手品にも都合良さそうなのですけど、果汁出るのがちょっとあれなんでなんか代わりにないものですかね。
Incubation
色んな単語が書かれた紙をファッサーって飛ばして扇子でパタパタさせて1枚だけ扇子の上に乗せます。観客に単語を読んでもらい、また紙を扇子の上に載せてポンポンさせると書かれてる物体に変化するという手品。
変化させられるのは一つの物だけなのですけども、扇子を使ったフェアな選び方から変化までの流れがめっちゃオシャレですね。
作るのちょっとめんどいけどギミックもすげーってなるものです。
Nuts
観客に単語を言ってもらい、クルミを割るとクルミの中から紙が出てきて、観客が言った単語が書かれています。
全体的にそうなんですが、まあそういうことやったら出来るやろというのを的確に実用化するセンスを感じられる手順です。
その分下準備は大変だったりしますけども、
Glitterbomb
ロシアンルーレット的な手品ですが、デンジャー系ではなく当たりの封筒から金粉が出てきます。
ちょっとしたサトルティがかなり効果的に手法を隠蔽していて上手い。
Magic on the Radio
ラジオで手品をする件について。
言葉だけで手品を成立させてしまう的な話ではなく、普通にスタジオで手品をしてそれがどうリスナーに伝わるかという話で、”Coins Across the Airwaves”というコインズアクロスと”Cards Rising Through the Airwaves”というライジングカードのセリフ例が解説されています。
ラジオは想像力を喚起するから実は手品の不思議さを体感してもらうのに向いてる的な事が書いていて、手品もラジオも好きなので同意できる話でした。
手品する側としては見えなきゃつまらんと思うかもしれませんが、聞いてる側からすると番組の1部に手品があってそれを想像しながら聞くというのは楽しいですし、興味持ってもらうにはとても良いメディアだと思います。
んで、どうせラジオでやるならめっちゃ不思議なことが起こってるように聞かせたいってのがBen Hartの狙いで、藪の中的なことを利用しつつアピールしたい部分をセリフに組み込んだり、さりげない言葉で距離感を示したりと面白い試みがされてます。
ラジオのパーソナリティというのはなんでも描写するプロなので、あえて何も言わずにパーソナリティに言ってもらうテクとか色々研究の余地がありそう。
最近ラジオで手品を聞いたのはTBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」の中でアナウンサーの喜入友浩さんがジェーンスーさんにテンヨー手品を見せていたというのがありました。
まだ音声聴けるようなので聴き直してみたのですが、さすがジェーンスーさんというか、リアクションからポイントまでめっちゃ的確に喋ってます。
特にライジングカードを見た後のコメント
凄い、今のは本当に凄い。
だって、勝手にとって勝手に戻して、あとは喜入君が指をふらふら揺らしてただけだもん。
一瞬で言ってほしいこと全部言ってくれて、完璧なライジングカードが実現。
帯番組のパーソナリティとかはリスナーからの信頼が厚いですから、その人が素で驚いてるってだけでめっちゃ効果的。
プロモーションとしてはかなり強いと思いますし、単純にラジオに手品の人もっと出てほしいですね。
A Gift from Venus
ハエトリグサ(食虫植物)の葉っぱをパワーで閉じさせる手品。
新しいあれの使い方としてとても面白いネタで、かなり正しい使い方な気がします。
かなり地味にもなりそうな現象ですが、プレゼンテーションや手法を隠す前振りのセリフもしっかりしててちゃんと演じればワンダフル感出るのではないでしょうか。
無機物じゃないものが動くのはなんか神秘的な良さありますね。
Card in Balloon
お客さんに持ってもらった浮いてる風船がふわーんと降りてきてその中から選んだカードが出現します。
とてもステージ映えしますし、カード当てがメインに見えるので意外性もあって楽しそう。
ちょっと上手いことやらんとインバルーンのところと食い合わせがおかしくなりそうな気はしますが、見た目の流れ的には盛り上がり方向なので演じにくくはないと思います。
Roots
観客に植木鉢の中に手を突っ込んでもらうと、観客の手に観客のイニシャルの形で土がつきます。
観客のイニシャルが出るところが肝なので少し見せ方を変えて演者の手でやっても十分だと思います。
道具をうまく使ったシンプル手法も良く、見せ方としても意外性がありますし、色々応用できそうな手品。
Hart to Hofzinser
観客が持ってる指輪に観客のカードが丸まった状態で突っ込まれるという移動現象。
色々な策略が盛り込まれてる手順ですが、まずカードの破れ目の一致させることでこのカードが移動した事を示すというところが良かったです。観客に破ってもらえてぴったり一致する。カジュアルに見えるし色々使い道ある方法です。
あとこれは客上げをするステージでの見せ方で、藪の中要素もあって両者にとってインパクト強い見せ方になってます。
ちょっと怖い部分もありますが、サロンでやるカードマジックとしてこういうの持っておきたい感ありますね。
The Human Lottery Machine
観客に言ってもらった数字の合計の数字が一桁ずつ、ビリヤードボールで出します。1個ずつ口の中から出します。
若干キモいので綺麗な顔が必要になってきそうです。
The Matrix Rings
ヒンバーリングの手順。
知らなかったハンドリングやサトルティがあって勉強になりました。
スプーンを使う手順で、こねこねせずにクリーンに外していけて見た目とても良いです。
ご本人は3000人の前でも演技されたことがあるそう。
Advertising Banner
ニュースペーパーテストの手順ですが、ハエが飛んでハエに結ばれた紐に新聞の切れ端がついてることで当たりを示します。
ハエの捕まえ方から管理法までの解説が主題。
まあ色んな意味で演じるハードルが高い作品集ではありますが、細部のこだわりや見せ方も良いのが多いので誰が読んでも何かの参考になる本だと思います。
ちょっと大変な準備をして無難な感じでまとめるだけだと読み物としてつまらん感じになりがちですけど、多くの作品で興味深い試みをしてるのでじっくり読める一冊です。
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