by jun | 2021/07/03

1973年に出たEdward G. Brownのカードマジック作品集。Trevor H. Hall著、これのVanishing Inc版が2018年に出ています。Vanishing Inc版は化粧箱とAndi Gladwinによる補足書がついていて、各トリックのクレジットが73年以降に出た関連作も含めてまとめられてたりするので便利。

さてEdward G. Brown という人ですが、30年代から40年代に活躍していた人でご本人は47年に若くして亡くられてるのでかなり後になってから出版された本です。
映像は一切残ってないそうですけど、ウォーロックが「俺が知ってる中で一番自然」と言ったり、チャーリミラーやバーノンが「最高のスライハンドパフォーマーだ」と言ったりしてたぐらいの名人らしく、実際作品を読むと上手い人がやってこそという感じのトリックが並んでいます。
ただ、有名なThought Card Acrossとかもそうですし、クレバーな解決のためのパワフルな技法みたいな作品が主で、気付かれないようにパームします fin. みたいな感じではないです。
数理トリックでおもしろいのもあるし、サロンで映えるのもあり、全体に現象も散ってるので色々楽しめます。
手軽にレパートリーを増やせる類の本ではないので万人におすすめかというとそういう感じでもないですけど、お勉強っぽくなく昔の手品を普通に面白がれるのでとても好きな一冊です。

The Spelling Trick

A〜10までの10枚をシャッフルして、ACEから順にスペリングしていくとそのカードが出るという手順。
これだけ書くとなかなかダルそうな感じがしますが、いい感じのタイミングで観客を参加させたり変則的になったりしつつ、トランスポジションの綺麗なオチがついていて普通に楽しいです。
ウィリアムソンが爆笑の手順やってましたけど原案にもその骨格はあるのでなんぼでも面白く見せれます。

Everywhere and Nowhere

Everywhere and Nowhereで3枚同じカードに見せる時に、本来こうあるべきという感じの見せ方。
要は全部が同じカードに変化したような見せ方じゃなく他のカードと一緒に見せて一枚ずつおいていくことでどこにもあって感が強まってるという感じです。
難しいけどこれのほうが最後の1枚の処理もクリーンな気がします。
自然にやるのは難しいなーって手順ですが、これを元にこうこうこうしてというパームの解説あり。

The Poker Hand

観客に5枚ずつの手札を選んでもらって、演者の手札がロイヤルフラッシュになってるという手品。
シャッフルしながらフォースを使わずに選んでもらえて非常にクリーンかつ処理も鮮やかです。
2つのパケットを作ってから観客に選択してもらえて楽しいし、グラスの使い方も賢く結構お気に入り。

The Twelve Card Thought Transition

Thought Cards Acrossです。
後に色々改案が出てるので原理自体は有名でしょうか。
確かにハードなのでここをこういじくりたいという所はありますけども、頭もパワーもある人ならではのトリックという感じで原案も好き。
Vanishing Inc版にはAndi Gladwinバージョンの演技動画がついていて、これはハンドリングも変えつつ要素を一つ足して盛り上がる感じの良い手順になってます。あらためて見ると今風かつEdward G. Brown感もあって良いバリエーション。これの解説はThe Boy Who Cried Magicで読めます。
個人的にはちょっと変速的だけどKopfのバージョンが好み。

The Cards up the Sleeve

12枚でやるアップザスリーブ。
肝は最後の3枚で、ここでこの瞬間にカードが消えてるということを示せるようになってます。ビジュアルだしおもろいですね。実際に準備はいりませんが、ここでちゃんとそこにあったものが移動する感が出るし、最後空の手まで持っていく流れも違和感なくもっていけます。
前半が豪快な感じなので全体でバランスが取れてる感じのルーティン。

A ‘Brown’ Version of the Three Card Trick

スリーカードモンテ。
8フェイズの大作で、最後はペンで印つけたりして、その後の現象のつなげ方は良いと思いました。ペンで印つけてそれも違うとなるとすり替えが頭に浮かびますが、よりありえないことを見せていい感じに処理できる感じだし、ブランク→当たりと見せる流れも効果的になってるのではないかなと。
大方手法は一般的なものであるものの、モンテで見せるからイロジカルな手法が効いてたり、全体の流れを研究する価値のある手順だと思いました。

Pictures and Pips

絵札と字札でやるフォロー・ザ・リーダー。
グラスを使ってサロンで見せれる手順です。
大枠はクロースアップでやることとそんなに変わらないですけど、最初の仕事をカウント使わずに大胆にできるのはスタンドアップの強みかなと。

The Four Ace Trick

エースアセンブリ。
消失パートはなく、Aを置いた説得力を出す型でサクっとしてて良いです。
アセンブリでよく使われる技法のちょっとした工夫があって、ちょっとしたことだけどアセンブリのようなトリックには効果的なように思います。
後半に地味な負担が重なるのはちょっと好み分かれるあたりでしょうか。

Two Coincidence Tricks

2フェイズの一致現象。
2デック使って演者と観客がカードを選んで一致します。1段目は1枚、2段目は3枚。
スタックも不要で2デックともノーセットで演じることができます。
特に2段目は面白いですね。
パワー系ではあるけど、グラスを使って見せるおかげで動機も強くなってるのでそこまで無理という感じもありません。
いうてもそれなりに難しいけどサロンで見せれる一致現象の中でもフリーチョイスしてもらえるしかなり良い方の手順だと思います。

Mutus, Nomen Dedit, Cocis

Mutus, Nomen Dedit, Cocisのバリエーション。
色々とカジュアルになっている代わりに、やや面白みも減じてしまっているような感は否めず。

The Two Pile Trick

オートマチックプレイスメントともう一つ原理を組み合わせて2枚のメンタルセレクションを当てる方法。
組み合わせることでシークレットナンバーを特定する手がかりは出来てしまうのですが実際そういうことはしないしスライトでカバーされるのでとても不思議です。
2枚とも特定の枚数目に来るということになるので当て方も色々考えられます。

Two Tricks with Three Heaps

観客に3つの山にカードを配ってもらって、中から1個とってシャッフルのあとトップカードを覚えてもらまいます。その後デックに山を返していってシャッフルして、なんかしらんけど当てれるという感じ。
ラリー・ジェニングスの同じ原理を使ったトリックが有名ですが、何枚ずつカードを配ったかはわからないのにコントロールできるというのが面白い原理。
作業は謎といえば謎だし一部テクニックはいるのでどっちかというとマニア向けのトリックですね。

The Intelligence Quotient Test Improved

Aと絵札をつかった記憶力のテストみたいなやつ。
最初はAの順番を覚えてもらってそれが当たらない、最後はカードパズルみたいにマークごとだと思ってたのがランクごとに並び替わるという見せ方です。
最初はまあ気付く人は気付く感じの大胆なことをやりますが、クリーンなので決まれば大きい系の感じ。
そこから枚数を増やして見た目的にも派手な感じのカードの並びになるのが面白いです。

The Detective Card Trick

適当なDetective Cardを表向きにして、2つの山に配ると表向きのカードと同じ位置に選んだカードが現れます。
入門書に載ってるちょっとマニアックなトリック的な作品でありそうな感じの一作。
複数の原理が組み合わさっていて動機付けもしっかりしてるので追いにくいトリックです。
演出もそんなに無理はないと思います。

The Diminishing Cards

数枚のカードがどんどん小さくなります。
錯覚的なことではなくガチで小さくなるのでまあパワーなんですが、パワーを持ってしても辛い所に工夫があって、その工夫でより面白い感じになってる手品です。
とくに最後の小さくなるところが粋。

The Military Problem

KAAA、K222、K333、KA23の4つのパケットがAAAA、2222、3333、KKKKになるというアセンブリみたいなやつ。
実際アセンブリは移動というより入れ替わりなので筋重視の人にはおすすめ。
プロット面白いのでレギュラー解決版が見たかた。

Modernism in Mentalism and the Clueless Card Trick

21カードトリックみたいな手順を踏みますが、実際には他のメンタル的な手法でカードを特定する手順。
カードを選ばせるところからその後の手続きまで、動機付けが丁寧に解説されてます。

Conjuring for Conjurers

ConjurersのためのConjuringについて。
歴史的怪物だらけの黄金時代にやってた人のこういう話は興味深いですね。
基本的には参加者に議論させるためのレクチャーで、じゃあどうせえっちゅうねんって感じではあるんですが、陥りがちなポイントがまとめられているので戒めにはとても良いです。
複雑な操作をして追われなかったとして、それは手品か?あ?みたいな。

Lecture without a Name

アートと手品についての話と、オリジナリティの話題がメイン。
安易なコピーは手品をダメにするけど、誰でも模倣は必要であり、その中でオリジナリティも出さねばならぬ、じゃあどうするかみたいな話。
トリックと個性をフィットさせる方法は納得できるものでした。まあ例外もあるでしょうけど基本的にはそういう方向でぐらいの感じで。

A Brief Analysis of the Principles of Mental Magic

メンタルマジックの定義と、どういう種類があるか、その大雑把な手法がわかりやすくまとめられています。

Forcing

フォースを使う目的の話と、大量にフォースが解説されてます。
カット系のフォースだけで15個とかあるんですが、こういう時はこれみたいな話はもう少し欲しい感じ。
ステージ用の帽子やナイフを使うものにへーって思うのがちらほら。

Misdirection

ミスディレクションについてOur MagicでMaskelyneが書いてる原則を元に語ってます。
ここは結構セリフの具体例もあって面白い。
そんなにページ数もないし基礎的なところではありますが、解説されてる手順の中では技法の細かいタイミングなんかはあんまり詳しく説明されないのでここでちょっと補える感じ。

Sleights and Subtleties

良い手品師、良いエンターテイナーとはなんぞやという話から何故スライトを使うのかという件について。
スライハンドを使いこなすための極意は知識!適応!努力!ということらしいです。それだけ聴くと当たり前のことですが、ただぼんやり練習するよりモチベーション上がるような感じで書いてます。

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