by jun | 2020/07/07

今年発売されたライアンシュルツのカードマジック作品集。
これまで限定的に発売されていたFalse Anchors – Volume One(2017) 、False Anchors – Volume Two(2017) 、False Anchors – Volume Three(2018)の内容を合わせた一冊で、ハードカバーに全ページフルカラーの豪華な本になってます。
“False Anchor”というのはライアンシュルツが20年以上研究してきたコンセプトで、観客の疑惑を消して嘘の印象を与えるようなものらしいです。商品紹介文読んだ時は手品ってそういうことでは?と思いましたが、手順読んでみるとなんとなくイメージが掴めたような気がします。
まあ手癖といえば手癖って感じもするんで、だいたいこういうのが好きな人なんやなってのをわかりつつ意図をじんわり汲みました。
普通に読んだらざっくりサトルティとかディセプティブで済ませてしまいそうな概念だったりするので、狙いどころを考えて読むと楽しいと思います。
意外にもというか決まったセリフは少なく、これはこういう手品なのでって感じで進むのもちょっと特徴かなと。そこらへんはサラッと軽く演技する人でもあるので、そのまま演じるなら態度的なところもかなり重要。
楽しい手順が多いのでそこはまあ頑張りましょう。

I Love You

現象としてはシャッフルしてもらったデックをカットしてもらい、その場所のカードを覚えてもらってそれを観客が探したように見せる感じの手品です。
ほとんど観客にやってもらえてコントロールやフォースを使わずに観客のカードの位置を把握する方法。
手法自体は昔からあるものですが、観客に操作してもらいつつその手法を上手いこと隠す演出が冴えてます。
タイトルがI Love Youですからまあこのままやるにはちょっと人を選ぶ感じではありますが、False Anchorsっぽさがよくわかる手品です。

Secret Sauce Switch

サンドイッチカードのスイッチ法。
デックの上で行うものではなく、パケットを独立して出来るムーブで錯覚も強いです。
全体の動きとしても見せる向きを変えてる印象が強いので割と自然。
どういう風に使うかという応用例も紹介されてます。

Strange Gift

シャッフルされたデックから観客に何枚かカードを取ってもらってテーブルの下で赤と黒を感じとる手順。
実際にはこの前にもう一つやることがあるのですが、そこはあわよくば的でありながらハッピーエンドにもなり得る前振りパートで普通に演じられるものです。
あわよくば演技もそんなに難しくないはず。
「シャッフルしたカードをテーブルの下で」というところはブレないので割とその印象で見せることができるかなと。

この後にシュルツ流の即興OOTWの解説がついてます。

In-Air Transpo

トランスポジション現象です。
基本原理自体は特に新しいものではありませんが、観客にカードを持ってもらい、確かにお互いに直前まで別のカードを持っていたという印象を強める方法になっててとても説得力あります。
非ビジュアルなトランスポジションで久々におーーっと思いました。

Coordinated Chaos

トップのスタックを保つのと、ボトムのスタックを保つフォールスシャッフルが解説されてます。
どっちもスプレッドの状態からわちゃわちゃやるもので、一部は混ざるので混ざった感あります。
トップかボトム片方なら代わりの手段がいくつもあるので、このやり方で両方維持できるものが欲しかった。

Equifinality

2つのカードを合体させて1枚のカードを作ってそれが予言されてるやつ。
2つのカードの決め方が面白いです。
即興でできてランダム感も観客の自由もあって、とてもバランスの良い手品だと思います。
机の上がわちゃわちゃして楽しい。

Forget to Remember (Updated)

カードを選んでもらって、それとは別のカードを思い浮かべてもらうというThink a Cardの手順。
Super Strong Super Simpleでもやってるやつですね。元がEffortless Effectsでやってた手品で、そのアップデート版。
DVDで見ると言葉がよーわからんかったのでちゃんと解説読めて良かったです。
意外と手続き部分のセリフはあっさり目で、なんでそういう事をするかという部分がぼんやりしてます。あんまり理屈でこうだからこうするという説明をしてしまうとThink a Cardっぽさが薄れてしまうのですかね。
この辺の癖は好み別れそうですが、確実に当てるThink a Cardのバランスとしてはとても良いトリックだと思います。

Somewhat Touched

これも2枚から1枚を作る系のやつ。
Equifinalityよりシンプルな形。
きっちり演出できれば十分だと思います。

Card at Any Sum

封筒に入った表裏に別の数字が書いたカードの表示されてる面の合計枚数目から観客のカードが出てきます。
数字を知ってから演者がデックに触らなくて良いパターンで、原理もシンプルで実用的。
コントロールに使うCounterpointという手法は複数の観客にシャッフルしてもらいつつ枚数目を維持する方法で、これととても相性の良い数字の決め方なのでとてもランダムな感じがします。
コールカードのエニエニでも応用できそうです。

Sprung Location

Gerry Schanbock の”Sprung”という輪ゴムプロダクションを複数枚カードで行って、面白展開にしたような手順。
このプロダクションは見た目も派手で物理的に無理っぽそうでとても好きです。
あと若干カードが死ににくくなってます。

6 Covers 6

結構どこに行ったかわからなくなる系のカード当て。
自由にシャッフルさせられるわけではありませんが、やっぱりコントロール的な動きがないだけでかなり強いです。
これもSuper Strong Super Simpleでやってて普通に引っ掛かった記憶。

Boxy Waltz

移動や入れ替わりを含むアニバーサリーワルツの手品。
この構成自体見ないわけではないですけど、ギャフの扱いと使われてるイロジカル系主体の技法は読みどころ。
段々不可能性を増しつつ観客にそういう不思議なことが起こってもおかしくないという気にさせ、最後はサインカードでエンドクリーンという流れもとても綺麗です。

Before the Thought

ぐっちゃぐちゃに混ぜたデックから10枚ぐらい選んでもらって、その中から一番強いカードを覚えてもらいますが、そのカードが予言されてます。
かなりなんでもありな手順で準備も大変ですが、諸々の原理がうまいこと噛み合って不思議度も高いです。
仕組みさえあれすれば覚えてもらう手続きも意外と自由に変えれます。

バリエーションとしてタイムマシン的な移動現象の演出案が紹介されてて、普通こういうのだとバックトゥザフューチャーを設定するのが多いと思うんですが、ここでは「ビルとテッドの大冒険」が使われててなんかよかったです。

The One With The High Five

十何枚かのカードを破ってぐちゃぐちゃにして、観客に2枚選んでもらうとそれがぴったり一致する手品。
確率的なこと云々より、一致現象として超わかりやすい形というのが良いですね。
仕掛けや見せ方も結構好きです。
この本ギミック付きで売られててそれはここで使うのですが、この物がなかなか良く、あんまり売ってないものですし色々遊べそうなおもちゃ。

GAP

GAPというテクニックというか原理というか、それを使った手品が解説されてます。
“Clearly See-Through”はデックの中から数枚をつかんでもらって、その中から1枚覚えてもらいデックに戻し、演者はパントマイムで選ばれたカードを抜き出して言い当て、実際にデックを見るとそのカードがなくなっていて、見えないカードを逆向きに戻すと1枚だけひっくり返って見えるというもの。
メンタルセレクションじゃなくても後半の展開は十分面白いのですが、メンタルセレクション風の方が演出と合っていて良いですね。ラフにカードを扱える手順で、メンタルセレクション風でもフィッシングなしで確実に言い当てられるバランスでかなり気に入りました。

“Other Ways to User the GAP Principle”では数枚からのメンタルセレクションを当てるテクニックが解説されてます。
手法的にはベンジャミンアールが似たようなことやってましたが、いかにデック全体から選んだように見せて質問した感じをなくすかという態度の話も解説されてます。

最後の”Mind the GAP”も数枚からのメンタルセレクションを当てる方法。
レギュラー即興で出来て実用的、面白いやり方でした。
これは色んな場面で使っていきたい感じ。

これに限らず各手順、肝になる手法は応用範囲が広いものが多かったのであれこれ考えながら読むのがおもろかったです。
レギュラーデック即興で演じられるものは少ないのでそこは注意ですが、まあそれをいかに普通のデックに見せるかってとこがFalse Anchorみだったりするので食わず嫌いすることもないかと思います。
多くの手順が観客参加型で、参加する部分がちゃんと印象に残る不可能性を高める演出になっていたり、手順を考える上で参考になるとこも多かったです。
全然人に見せてないんであれですけど、やってみたらハマっていきそうって感じはします。

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