by jun | 2022/09/06

Guy Hollingworthによる歴史的名著の日本語版です。訳者の富山達也様よりご恵贈いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。また、共訳者の村上隆平様はじめ、この最高な日本語版の制作に関わられた全ての方にも感謝を。

原著の方は映像未収録作を中心になんとなくトリックの概要を確認したぐらいのとてもちゃんと読んだとは言えないレベルで、辞書使っても一文の長さや言い回しのニュアンスが難しくて挫折していました。
なのでまずトリック以外の部分まできっちり日本語で読めるだけで感激ですし、日本語版を読んでから何箇所か原著と比較してみましたが、これだけ長い文ばっかの本を日本語にして不自然にならないよう、リズム感とか勢いはそのまま訳されてるのが本当に驚異的です。
文体も知的で紳士でユーモアもあるGuy Hollingworthの最強人間ぶりがよく表れていて、難しい言葉遣いとかサラッと高度な話をする雰囲気の中であの名作達が解説されてるんで伝説の名著を読んでるという感じがめっちゃします。
特にGuy Hollingworthの手品観が炸裂しているReformationの文章には痺れました。ここは原著でまあまあちゃんと読んだはずでしたが、こんなにかっこよさが直撃した感触はなかったので名文が名文に感じられる日本語で読めて本当に良かったです。

また、キラッキラの箔押し装丁から古風な組版、手触りに至るまで造本としても原著の再現率がとても高く、ただ訳されたのではなく完璧な日本語版と言うべき一冊になっています。
あのGuy Hollingworthが本で手品を解説しているわけですからGuy Hollingworthの意図した通りに読みたいというのが人情というもので、色んな方法で面白く読ませる工夫がある本でもあるので、この読書体験まで再現させようという志は本当にありがたいです。
ハードカバーの手品本を開いて自分に酔ってる時間が一番好きみたいなことをよく冗談で言ってるんですが、この本に関しては世界一かっこいい手品を学ぼうとしているわけなので見た目のかっこよさも重要な要素であると結構本気で思っています。

内容については今更Guy Hollingworthが凄いって言うのもあれですけど、やっぱり凄いですよそれは。
こういう不思議なことが起こりますよーって言ったらそういう不思議なことが起こる。起こったように見えるとかじゃなく起こる。
誰が見ても不思議で面白いわかりやすさと革新的なアイデア、高度なテクニックを使いつつ手品的な堅い構成も隙がなく、プロットのポテンシャルを最大限に引き出した手品のみが解説されています。
TravellersやWaving the Acesに代表される見せる手品から観客主体のCassandra QuandaryやA Card at Any Numberまで色んな方面で大幅更新してるのがほんまに凄い。
手法としてもテクニックを軸にして、面白ギミックや扱い辛そうな原理を魅力的な現象に仕上げていたりと幅広く、もちろんこの本が全てというわけじゃないけど、現象も手法も演出も観客が持つ印象も様々なので本当にずっと面白い。
他で見ない動きを使うこともあって難易度は凄いことになってますが、難しい手品についての考えや既存の手法に満足しないことなどモチベーションになる文章が散りばめられていて意欲は湧きますし、本のペースでじっくり手を動かすからか挫折していた箇所のコツ掴めたみたいなことがちょこちょこありました。
一生かけても習得する価値がある手品ばっかり載ってるので、今度こそ何か一つでもという気持ちで取り組んでます。文章で細部のこだわりを読んであらためて完成度の高さを実感してどの手順もやりたくなってますが、何十回も挫折したReformationとジャケット関連を特に。DVDの解説も丁寧で言ってることはそんなに変わらないんですけど、指が攣るような難しさではなく全体を安定して綺麗に見せるのが難しいんで、映像で流れを確認しつつ詰まるところを文章で確認してというやり方が効率いいんじゃないかと思います。

個々の手順については有名な作品ばかりですし手に余るところもあるので、DVD視聴済みであっても満足度めっちゃ高かったという話を。
まず単純にDVDでは解説されてないトリックやアイデアが載っているからで、DVDを見た人であればあのGuy Hollingworthが発表したもので自分が知らないアイデアが日本語で読める状態で存在するのにそれを読まないなんて耐えられないと思いますし、当然のことながらどれもクウォリティ高いです。
DVD版Reformationのおまけ映像についてる燃やしたサインカードが未開封のデックから出てくるA Destroyed and Reproduced Cardも解説されています。ここの解説もめちゃんこ素晴らしく、諸刃で弱点の多そうな特殊な原理の穴が丁寧に埋まっていく実感が面白くて完全にこの仕掛けの魅力に取り憑かれました。また、強力な原理のおかげで完全にありえん事が出来るのにちゃんと抑揚を効かせてる事が語られていて、当たり前のことだけど手品で不可能性を追求するってパワーだけやないんやなと。確かに映像見て引っかかったのはその辺に要因があった気がする。

そういうよく言われる創作の背景や意図を知ることが重要でそれを学ぶのに本が適しているという点でも最強クラスの一冊で、特に各章やトリックのイントロダクションの文章が刺激的です。
例えばあのGambling Routineが解説されている4章のイントロダクションは演出論。実行さえできれば魔法にしか見えない手品を考えることができてそれを実行する能力もある人が手品の演出についてどう考えているのかというだけで何度も読む価値がある文章でしょう。
Gambling Routineは元々好きなトリックでしたがそこらへん踏まえて読むと演じる上で意識すべきことの理解も深まりましたし、トリックの凄さあってこそ汎用性の高い演出が活きるという部分も再確認できました。
また、この本は章ごとに肝になるメカニクスがあって、それを発展させる形で別のトリックが解説される構成で、それは似たようなプロットで似たような使い方をするわけではなく、必ず新しい機能を提示する形で紹介されるのでクリエイティビティも刺激されます。

そういうメリットはこの本に限った話ではありませんが、重ね重ね世界最高の一冊なので、こんなに丁寧に教えられても習得が難しい手品が、こういう発想がなかった時代にどういう考えで創られたのかという一端がちょっとわかった気になれるだけでも楽しいもので、凄い手品ってそもそもそういう事を考える時点で凄いってパターンだったり、そこまではわかるけどそっからそうはならんって場合だったり必ずどこかで飛躍を感じるんですが、こんなに飛んでる気分が味わえる本もそうありませんし、エバーグリーンな手品が載ってる本は知識を増やしてから読んでもやっっっぱり凄いとその度に凄さに気付けるので永遠に楽しめます。人を面白がらせるってこういうことやでっていうのが妥協のない手順や文の端々から伝わってくるので、その姿勢を学ぶだけでも定期的に読み直す価値はあるんじゃないかと。
つらつらと書いてきましたが最高の本が最高の形で日本語になったという事に尽きるので、それだけ伝わっていれば幸いです。

Guy Hollingworth『Drawing Room Deceptions』 | 教授の物販

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