by jun | 2022/07/16

Vincent Hedanによるマルチイフェクトデックを特集した本の日本語版。翻訳は日本一信頼できる手品本翻訳者であるところの富山達也さんということで、過去の富山訳本でいうとTransparencyとかIn Order To Amazeに近い、一つのメカニクスでどこまで出来るか掘りまくる内容で、強すぎる原理をどう見せるかという演出の部分が優れてるのも共通しています。

例えば”VISION OF THE FUTURE”はシンプルに当てれるカード当てで、これぐらい手掛かりが無さそうな見た目だと意外と当て方悩むとこですが、なんとも良い感じのバランスの演出が採用されています。手続きとしては演者が後ろ向いてる間にスプレッドの中から1枚抜き出して覚えて箱に入れてもらい、スプレッドも閉じてもらえて以降表見てスプレッドする必要もありません。マルチイフェクトデックこんなことも出来るのかという感じの素敵なトリックです。
スタックの知識がない人に見せるならここまでする必要がないようにも思えますが、本当に手掛かりがなさそうだから映える演出というところもあり、その辺のバランスが上手いことできてるトリックが他にも多く載ってます。

元がレギュラーデックで行うトリックの改案だったり、さすがにこのトリックを行うためだけにギャフデックは使わんというのもありますが、肝はマルチイフェクトであることで、マルチイフェクトデックを使っていればこの本に載ってる現象も他のマルチイフェクトデックを使う手順も全部いつでも演じることが出来て、演技中にはシャッフルも出来ます。レギュラーのスタックより扱いはかなり楽で、準備段階や演技中にズレてるところを発見しやすいのでプロ向きでもあります。
観客にスプレッドで表を見せれないのは弱点ではあるものの、表向きのシャッフルは出来るしその弱みをカバーするトリックの始め方の解説も良いものでした。
HedanさんのAmnesiaという本は全く別の形のスタックマネージメントの話で、これはこれで凄い面白いんですけど扱いやすさと自由度の高さはマルチイフェクトデックでしょう。

あと、マルチイフェクトデック(かそれ的な何か)使ってます!みたいなカードの扱いが苦手だったんですが、この本に載ってるトリックを実際に演じることを考えると別にそういうことをする必要はないですね。トリックデック的なものだと現象が一つだからここでシャッフルしてカットしてもらってドリブルして…みたいなことになるわけですが、マルチぶりを活かしてルーティンの中で自然にあらためられるように手順を組めばマルチイフェクトデック(かそれ的な何か)使ってます!という雰囲気はかなり薄めることが出来ます。周辺技法の解説も充実していますし、ちょっと触ってたら例の音を出さないコツもわかってきました。ついでにレギュラーであの音を出す無駄なテクニックも出来る様になりました。

どの手順もセットは同じでリセット法も解説されているのでこの本の中からルーティンを考えてみるのは楽しく、今の気分では前述のVISION OF THE FUTURE、TWINS、ZYGOSITYという感じ。

TWINSはPoTに観客のカードの位置当てがくっついてるやつで、メイト一致がオチになってる現象だから演じやすいです。メイトが現象になってるものって先にメイトとはなんぞやの説明が必要なのも多いですが、こういう形ならそれも要らないのでスムーズ。ZYGOSITYもメイト現象で、これはメイトの現象を意外性ある見せ方してて派手なので他のメイト現象から繋げやすいです。

OUT OF THIS MULTIWORLDとZYGOSITYをくっつけたい気持ちもあって、OUT OF THIS MULTIWORLDは普通のOOTWとは違う見せ方なんですが、マルチイフェクトデックでルーティンの中で見せるからこそという感じのバランスになっており素敵です。
ルーティンの中ではスタック感は薄れてそういうタイミングで効果を発揮するトリックがあり、その類のトリックは大胆に派手なことが出来ます。そんな考え方のトリックもいくつか収録されているので、マルチイフェクトデックに限らずスタックのルーティンをする人には参考になるんじゃないかと思います。
自分は今クォーターからハーフまでのパーシャルスタックの手順を考えているんですが、現象とスタック感の直結具合とか、スタックの特性の別の活かし方とか、派手ではないけどスタックを使ってしか出来ない見せ方とか、こういう本でまとめて多くの手順を読んでめっちゃ勉強なりました。
やや特殊な本ではあるけど、低負担でインパクトの強い現象が出来てマニアックでもあるので広い層におすすめ出来る一冊です。
なによりたくさん現象が載っててマルチイフェクトデックを触るきっかけになって、触ってたらあれもこれも出来そうという気になってくるのが楽しい。
ご本人はBWMDも付けた特盛プランにしてるらしく、見た目別に分からんしレギュラーデックとして使っても困ることそんなにないしもうそれで良いのではという気がしてきてます。

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