今年9月に東京堂出版から出たヒロ・サカイさんの作品集。カズ・カタヤマさん著。
しばらく手品情報追ってなかったので完全に出遅れてしまいました。こういう本はAmazonかどこかのマジックショップが勝手に購入処理をして送ってくれてもいいのに。世界のHiro Sakaiの燦然と輝く名作から未発表作まで40作まとめられてる本てそりゃ買うやろ。
カード・マジック編
テクニカルな技法ありセミオートで巧妙な原理あり便利ギミックあり名作の改案ありと非常に充実した内容。
技法:ダック・チェンジ
最高アンド最高オブ最高なカラーチェンジ。なんぼ最高と言っても足らんぐらいの最高。
フェイスをカバーする必要がなく腕も指も動かさないのに変わります。この無茶振りみたいな条件をクリアしてるカラーチェンジもそうないのでは。
自分はここで解説されてるやり方だと不安定になるので、カードがバラけないように指をあれしてます。ご本人の演技動画でもそうなってるから、そこは動画参考にしたほうがよさそう。
応用としてシンプルなサカートリックが解説されていて、これテーブル上でやるのは超有効な使い方で他にこういう見え方をするのがないから間違ったカードを出してチェンジという基礎的な流れが物凄く良く見えます。
ところでこのダックチェンジ、最近Instagramのイケてるマジシャン組の中で謎の発展を見せていて、あれめっちゃ凄いですよね。
セパレーション8
4×4の水油。3フェイズと入れ替わりのオチ。
手品はじめて1年以内の時に旅人のすみかを勧められて、水油はしばらくこれをやっていました。
以降エキストラとかカウントを使う気持ちの揺らぎとかもあったんですけど、やっぱりこれ良いですよね。
エキストラやカウント使うかどうかは要は混ぜるところをフェアにするか分かれたところをフェアにするかの戦いなわけですが、これはエキストラを使いながらかなり分かれたところにも説得力を持たせる方向に寄せれていてカウントだけに頼ったものでもない手順です。観客に持たせるところとかが巧みだったり、エキストラの扱いを軽くするハンドリングがあったり、段階的に不可能性を増す構成もあざとすぎず、実はこうなってるのではと思うギリギリを上手いこと潰していく感じ。
技法:ストレンジ・パス
カバー範囲が増えて最短距離を移動できるようなスプレッドパス的なコントロール。
確かに技法をやりやすくするためのポジションなので見た目ちょっと変なんですけど、フォースとかでこの形になるやつもあるので流れで使いたい。
あと揃える動作の時点でここまで来てたら楽よなーという感じになってるので、ハーマン系のパス全般はこれっぽくすれば揃える流れでやりやすくなります。
サンフラワー
予言のカードと観客がカットしたカードがメイトになっていて、残り2枚のフォーオブアカインドもデックの中で表向きになります。表向きのセット不要。
手法的にはどういった予言もできるわけですが、一枚のカードを裏向きで誰にも見えないように出せて、観客が自由に出来るものとなるとそう種類はないので、メイトからフォーオブアカインドが揃う流れはおあつらえ向きという感じです。ダーティーな気がするのは確かなので、デックを広げて現象を示す終わり方なのもサラッとしてて良いっすね。
マックスメイヴィンコメントの補足がまだまだこの手法で面白いことが出来そうな感じがして参考になりました。
シュレディンガーの札
4つに配っていったトップがフォーオブアカインドになるやつで、途中で何度か観客にパケットを選ばせることができます。
観客が自由に選択できるのに、原理とちょっとした演技であらかじめこういうマジックでしたと仄めかせるのが素敵。
原理を読んでもそれで出来るのかという感じがするのでとても不思議です。
バンド・イット・ラン
輪ゴムがカードを捕まえるやつ。
このかけ方色々やり方がありますが、ここで解説されているやり方だとテーブルに置いても観客に持ってもらっても大丈夫なようにロックされます。
本当に本当に素晴らしいトリックで、一生これだけやって暮らしたいぐらい好き。
Y.K.K
Everywhere Nowhere現象のフォーオブアカインドオチ。
流れとしては、どこにもなくてどこにもあってどこにでもあるカードという感じで、あーそっちのEverywhereですかーとなってとても意外性高いです。
3つのパケットに分けてもらうとこ、その時点では本当に自由に分けたところのカードを使うのが良いし、これはかなり綺麗にEverywhere後の処理問題と技法特有のもやもやを解決できてます。元あったところに置くのはとても自然。
Nowhereで終わる手順も粋っちゃ粋なんですけど、テーマ性を尊重して強化したようなオチはやっぱり良いもんです。
インプロンプト・サイコン・ルーズ
マックスメイヴィンのサイコンルーズをレギュラーデックで。しかも観客がシャッフルしてからデックに触れずにと、元が普通に傑作なところのかなり高いハードルを超えた一作。
元ネタからしてなんでそういう選ばせ方をするのかというところはあるんですけど、本を使うので何かミステリアスな雰囲気を醸し出せさえすれば勝てます。
予言を本に絡めたり演出の工夫でなんとかなるというのもあるし、他のカード同士は接近させず触らないから絶対にすり替えられないというアピールにもなる。
技法:クワイエット・レボリューション
片手でできるリバース技法。
どうやっても擦れる音は避けられない感じではありますが、これ便利なのが技法終わってからすぐにハイドアウトできる状態になるところで、片手でできるし他のリバースではできない使い道もありそう。
応用手順で解説されてる”かごめ”は連続のリバース現象で、先に仕事を終わらせて後は自然にあらためられるスタイルなのでとてもクリーンに見えます。
技法:ピンチ・グリップでハーマン・カウント
ピンチグリップでハーマンカウントができる!
もちろん手順の中でビドルグリップで持ったりピンチグリップで持ったりしたくないという目的でもあるのですが、これ覚えればビドルグリップでやる以上にスムーズにできるようになります。
あのポイントで音があんまり変わらないというのもあってハーマン感かなり薄れて良いです。
ワイルド・カード・プリメーラ
ワイルドカード。
随所にそこでそういうあらためできましたっけというポイントがあり、かなりカジュアルな感じで見せられるようになってます。
カード5枚で見た目もシンプル。最後は片手でスプレッドして両面見せれる。
単売されてた商品では手渡してあらためるやり方が解説されてたけど、印刷段階で両面自然に見せれるので最後にさらっと見せるんで十分かと思います。
マインド・ジェネレーター
ギャグ風味のカード当てかと思いきや、観客が選んだカード以外は真っ白になっています。
カードは完全にフリーチョイス。ということは何かをするわけですが、これがとっても素晴らしい仕掛けで、作ってみたらなんぼでも使い道を思いつくような夢が広がる素敵デバイス。
1988
4つに分けたデックを4人の観客にそれぞれわたし、ぐちゃぐちゃにシャッフルしてもらって最後にカットしてもらって1番上のカードを見ると1988になっている。これは1988年にデビューしたカズ・カタヤマさんのパーティで行われた手品らしくこの数字になっていますが、どういう数字の並びでも演技可能。
めちゃくちゃ不思議でした。普通にめっちゃ混ぜてるしバラバラなあらためもやってるのに。
フォーオブアカインドを揃えるということはできないのですが、何周年記念パーティとか誕生祭とかでは超盛り上がりそう。
たまたま1988年生まれなもあって思い入れあるトリックになりました。
コイン・マジック編
コインズ・アクロス
ノーエキストラ4枚のコインズアクロス。
コインはここから先変わった見た目のものが多いですが、これはクラシカルで端正な手順です。
それぞれのフェイズで色んなサトルティをやっていて説得力も意外性も高い構成。
慣れないと難しいところも多いですけど、コインの連続する手順はこういう先回りがうまくできる作りだと安心して行えます。
まばたきコイン・アセンブリー
一瞬で集まる系のマトリックス。
難しいけど、同じテーマでギャフを使わないものだと比較的簡単にできる手順だと思います。
見た目特殊な動きもないので普通のマトリックスからとかルーティンにも組み込みやすいはず。
マイ・リトル・カップス
銀貨と銅貨のトランスポジションから、両方のコインがチャイニーズコインになるオチがつきます。
トランスポジションのところが普通に良いし、入れ替わったことを示す現象で一番強い視線を上手く使った手順。
これも現象の割にそこまで難易度高くないです。
ポイント・ブレイク
コインが分裂していって、手でこするとめっちゃコインがじゃらじゃら出てくる。
スタンディングで演じることができ、ポケットもロード器具も使わずにできる手順。
今まで何回か別の資料で解説されてるのを見て知ってたけどやっぱり最後出てくる量にビビる。分裂するところがあるから実際より多く見えるんですよねこれ。
技法:ツイスト・チェンジ
くるくる回してると変わります。
徐々に指が開いてくるサトルティがとても良いです。
意外とこのポジションからのチェンジって数が少ないので、ワイルドコインやスペルバウンド等やる時に覚えておくととても便利。左右どっちの手でもやりやすいですし。
もぐもぐ
左手をコインもぐもぐキャラクターに見立て500円玉を2枚食べさせ、1000円札になります。
旅人のすみかで見てたけど色んなところに策略があるのでやっぱりひっかかりました。
もぐもぐキャラクターに見立てるところから設定まで余すとこなく仕掛けに利用していて、見た目以上に裏側もめっちゃ楽しい手順です。
裏口入学
満タンにしたコインボックスの下からいっぱいコインが入って、実際にいっぱい入ってることを見せる手品。
ボックスからあれする時って音も気になるしあんまり凝視されたくないので、こういう正当性あるカバーがされた手順は嬉しいです。
ボックスの現象としても珍しく、タイトル通りなんか知らんけど入れるやつがいる感があってとても不思議。
スワップ
封筒に入れた1000円と手に持ったコインが入れ替わります。
仕掛けはなかなか大胆に見えるのですが、導入から現象の示し方まで、さらっとあらためをやっていてそういう仕組のものだとは思えません。
作ってみたけどめっちゃ便利で扱いやすい。中途半端にバレないようにして動きが大きくなるより確実に物が入れ替わったように見えるトランスポジションに使うならこれぐらいがちょうど良い気がします。
コサインこうか
金貨、銀貨、銅貨の3枚の中から1枚選んでもらい、その予言が当たる手品。
コールは完全にフリーチョイスで、普通に見ると大当たりと当たりとバッドエンドな感じなのですが、バッドエンドでも超盛り上げまっせみたいな作りになっててバッドエンドを願いたくなるぐらいまであります。
予言であることは演技前に明言できて実際に予言も示してからのこのオチなので、意外とマルチプル感も出ない。
紙幣マジック編
もちろん日本円で演じられるし、違法な改造も不要。
お札を切ったり貼ったりしなくていいので演技ハードルも低いです。
ここめっちゃ面白いですよ。
アンダー・ルート
カードの中心に小さい穴を開けて、そこに折ったお札の角を刺すと当然入らない感じなのですが、もう一度全体を折ると溶けるようにすり抜けます。
小さい穴が空いていて、そこに三角になったお札がどうやったら入るかということをイメージすることになるわけで、それはもう楽しいです。
ミッドナイト・シカゴ
3枚のお札を縦にして観客に指で掴んでもらいます。目を閉じてもらって開けると選ばれた紙幣だけが横向きになる。
騙し舟的な手品で1人の観客にしか演じられないものですが、折り紙感もなくただ横を向くし指先に力は感じないようになってるので不思議です。
スーパー・ハイウェイ
千円札の周りに一万円札を横に巻いて、引っ張ると伸びて押し込むと縮みます。
途中でそこ見せれるんですかってとこもあって超不思議。
激おすすめ。
カラテ・ビリュージョン
ビルスルー指。
お札の中心に指を突き刺しますが穴は開きません。
音とか視覚とか予備動作なんかによってかなり突き刺したように見えます。
借りたお札で即興演技可能。
ミラージュ・ビル
折り畳んだお札の貫通現象。
この手の現象でよく使われる「溶けたように」という表現を突き詰めたようなビジュアルです。
これはとあるヒロサカイ著作に載っていて、一時期は手品知り合いにこれを見せては「ヒロサカイさんの手順なんですよ。実はあの本に載ってるんですよ」とドヤることだけを生き甲斐に日々を過ごしていたので、この本が発売されたことによってそういうイキりも出来なくなりますが、そんなことは別にしなくていいので良かったです。
サロン・マジック編
コンプリート・ドライ・カップ
水消え手順の本家解説。
ウィリアムソンのあれを参考にしてるとあってコップは調べてもらえるし色んなことを適切なタイミングで行えます。
いわずもがなの傑作。
バルーン・バンク・ナイト
風船が5個あって、中に一つだけ当たりがあることを言って観客に一つずつ減らしていってもらう。減らした風船は中に何も入ってないことを確認し割っていく。最後に残った風船には何か入っていて、割ると出てくる。
風船という素材の色んな面を手品的に活かしている作品。こういうミステリーっぽい仕掛けのやつ好き。
封筒越しに触ったことは誰もないの
パンシルクの超面白バリエーション。
最近Ben Hartの桃の種とシルクのトランスポジションというのを読んで面白い見せ方だと思ったのですが、本作はトランスポジションをやるならこういうことができるよねという要素があって、現象としてもめっちゃ良いし巧妙で痺れました。
復活フライヤー
破ったフライヤーが復活します。
復活したあと、見えてはいけない風のすり替えた疑惑のあるもう一枚のフライヤーがポロッと落ちてきますが、それも復活しています。
こういうタネの確信に迫ってしまったかのようなサカー手品はとても良いですよね。一方で本当に隠しておかないといけない方法を明かすわけにはいかず、それでいてちゃんとわかりやすい現象にしないといけないとなるとなかなか良い方法がないところを超シンプルに解決しています。
ムーンライト・ロープカット
1本の端を結んで輪っかにしたローブを2箇所切って3本にして結びますが、結び目が取れて綺麗な1本になります。
ハサミで綺麗に切るし綺麗に繋がるしシンプルかつめっちゃ不思議。
輪っかからスタートする演出も面白く説得力があるもので手法を全く想像させません。輪っかだけならまだ違和感あるけどハサミをそこになーー賢いなーー。大傑作。
消耗が少ないのも嬉しいところ。
アブサード・ブックテスト
コンベンション会場を騒然とさせたというブックテスト。
観客と意識を一体化させるという演出を真面目に突き詰めたらこうなったという感じの作品です。
意外とブックテストでこの手法をあっさりやって、マニアだらけのコンベンション会場を沸かせるようなやり方って難しいと思います。
カンニング
複数の原理を組み合わせたブックテスト。
どちらも単体だけだとそういうものかと思われてしまいそうなものを合わせることによって上手いことカバーしています。
8つの棺ってレクチャーノートに載っていて、かなり気に入って演じていた手順です。そんなに知られてないし、見せ方も面白いのでマニア相手にもめっちゃウケますよ。
ボーナス・マジック編
ノックアウト・レジ袋
レジ袋の取っ手のところを中指にかけて、引っ張ると貫通。
貫通したあとに綺麗に輪っかを見せれるのがよくて、貫通感めっちゃあります。
手軽にできるしとても良い手品です。
リンキング・バッテリー
リンキングシガレットを乾電池でやります。
保持はタバコと同じ親指と人差し指で、乾電池でしかできない方法が使われています。
アニマル・プリディクション
動物や虫が描かれた絵の中から一つ選んでもらい、封筒を開けると予言が当たる。
観客の自由さを損なわずにダイレクトヒットを増やす方法としてとても良いものです。
そんなわけでですね、知ってるやつも多かったけどそれでも大満足の内容でした。覚えていた手順の人前で演じた率が高く、たぶんここで覚えたやつもめっちゃやると思います。
ヒロサカイ作品は雑誌投稿やアンソロジーに寄稿してるものも多く、ここまでまとまったものはなかったのでめっちゃ嬉しいです。
どの作品も複雑な解説になっていなくて読めば狙いどころも一発でわかるし、あらためて年代問わず世界中のクリエイターや手品ファンに支持されてる理由がわかるような一冊でした。一方でパフォーマーとして茶の間にも浸透してる人なわけですが、作品がまとめられたことによって演技の幅の広さやあらゆるシチュエーションに対応する懐の深さもあらためて確認した次第です。
あと今更だけど冷静に考えてあのオルターエゴの作り方は絶妙ですよね。テーブルを貫通して歩いていくような手品からパケットトリックまで、あの人がやるとなんでも悲鳴が上がるような感じになってコメディにも振れられるっていう、手品の引き出しの多さをあそこまで活かせるエンターテイナーぶりを納得できるような本でもありました。
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