松田道弘さんによる3冊目の作品集で、発行は1996年。
2018年の今となっては松田さんの本はいつでもマニアックやん!と言いたくなりますが、マニアックな手品とはどんなものでしょう。
1. あまり知られてないプロット
2. あまり知られてない手法を使っている
3. ある程度手品知ってる人が見ても驚ける
4. ある種の前提を共有してないと現象の凄さがわからない
このあたりでしょうか。
1に関してはカードマジックではそろそろ難しくなってきまして、松田さんの作品もクラシックプロットの改案という方向のものばかりです。
4は一般の人が見ても現象は伝わるけど、マニアが見ると「え、そこであれしなくていいの?」みたいなやつで、マニアにしかわからない現象とは違います。
目指したいのは3で、そのためには2をやる必要があることが多く、この本はそこがメインです。
手品は実際にはできないことを見せるものなので、どんなに良いとされてる手品にも必ず穴はあり、最後は好みと自己満足の世界になってきます。
松田さんの改案は基本的にノイズを減らして見た目をすっきりさせる方向で、そのために変わってたり難しかったりする技法を使う感じです。
本当にマニアも驚かせるかという部分は結構微妙だったりするのですが、原案の問題や過去に誰がどんな試みをしてきたかというのが詳しく書かれていて、例え松田さんと好みが合わなくても勉強にはなります。
それでも残った問題点は「研究課題」として記され、そこからアイデアを膨らませるのも面白いです。
松田さんの好みはどちらかというと手続き部分のフェアさを強調するもので、エンドクリーンじゃないものが多いのですが、そこもプロットによってまちまちだったりして、自分だったらこうとか後に誰かが発表したあれではこうだったとか考えながらページ進めていけるし読み応えはかなりあります。
現象はいつも通りトライアンフとフォアエースとカニバルカードとツイスト系とオイルアンドウォーターみたいな感じで、松田さんの他の作品集読んでるとこの時はこう考えてたのかみたいな面白さもあるんじゃないでしょうか。
QUICK TRICKS
4枚のジョーカーが4枚のKに変化する手順と4枚のKに挟まれた3枚のカードが消失する手順が解説されてます。
ジョーカーを4枚に見せる方法はあれなのですけど、そのあと綺麗にKを広げられるような一工夫があります。
3枚のカードの消失に関しては結構怖いところが多くてなかなか演じるのは難しそうです。
消えっぱなしという見た後のもやもや感は好きなのですが、手つきのもやもやをいかに消せるかが勝負。
CHANGING
ビジュアルなカラーチェンジじゃなくいつの間にか変わってた系の複数枚チェンジ2手順。
「コレクティング・ア・ミステイク」は観客が選んだカード(A)と同じ数字のカードを出すといって3枚Kを間違って出してそれがAに変わってましたというサッカートリック。
ダブルは使わない方法で、タイミング勝負のダイレクトな解決法です。
松田さんも結構このタイミングに関しては怖がっているようですが、紹介されてる技法は個人的には好きなやつで、3枚同種のカードが出てオフビートも十分だと思います。
「アスカニオクイーン」は4枚のAの中から一つ選んでもらって、Aが1枚ずつ裏返っていって表にすると4枚のQに変わって、選ばれたAはデックの真ん中から表向きで出てくるというツイスト!変化!移動!という幕の内手順。
アトファスからの移動現象にありがちな一回カットしないといけない問題にはワイルドなアトファスのバリエーションで応えてます。
REVERSING
毎度おなじみ私案トライアンフです。
シャッフルはせずにパケットで裏表を見せる手法ですっきりしてます。
ややパズル的になるきらいはありますが、あのディスプレイは綺麗で説得力強いです。
例の1枚についても松田さんオリジナルの力強い方法で解決していて、グラビティハーフパス以前と考えると面白いものがあります。
「トライアンフエース」というトライアンフとカッティングエースを混ぜた手順の中では現象の足し算についての考え方が書かれていて、それでもこれをやりたかった感が伝わってきて痺れました。
章の最後には「トライアンフの考え方」として「動きの止まらないトライアンフ」についての考察があり、コントロールからディスプレイまでいかにスムーズに無駄な動きなくやるかという方法が紹介されています。
SANDWITCH
毎度おなじみカニバルカードとサンドイッチカード。
カニバルカードに関してはあんま教養がないので是非お読みくださいという感じですが、読めば熱い思いはよく伝わる文章ですし、松田さんの好みはわかりやすい題材だと思います。
サンドイッチカードは2枚のKを乗せた瞬間に挟まるモンキーインザミドル方向。
エンドクリーンにはならないのですが、エンドクリーンにしようと思うと2枚に見せかけて1枚のあれをしなきゃいけないのでやむなし感。
松田さんは4枚以上になると4枚も7枚も同じ!ってノリがありますけども、2枚付近はナーバスになる傾向があるように思います。
SEPARATION
フォローザリーダーとオイルアンドウォーター。
オイルアンドウォーターは4・4でアンチオチのやつです。
エキストラカウントありありなので好み分かれそうですが、動きに矛盾が出ない工夫はあります。
そのせいでやや無駄に見える動きが増えたりして、水油の難しさを痛感しました。
エキストラもカウントも使うタイプは混ぜるとこはがっつり見せれるのでそこは強いです。
最後のアンチは広げて見せれるのですが、やはり水と油なら分かれるとこを綺麗に見せたいなという気持ち。
POKER DEMONSTRATION
ポーカーデモンストレーションです。
「あるポーカー・ディール」はポーカーデモンストレーションとトライアンフを混ぜた現象で、どんだけトライアンフ好きやねんなって言ってほしそうなのでみんな言うと良いと思います。
ただ、個人的にはポーカーデモンストレーションの中でも好きな現象で、表裏混ぜたデックからポーカーの手札を配り、客のカードは全部表向き、演者のカードは全部裏向きという状態に。
演者のカードを見るとフォーエースになって、デックは全部向きが揃ってます。
ロイヤルフラッシュでも大丈夫で、この現象なら余分なカードが出るフォーエースよりロイヤルフラッシュの方が綺麗かなと思います。
ただトライアンフやりたかっただけ感もなくはないですが、表に配っちゃうとポーカーの面白さが0になるというオフビートギャグから、唯一ポーカーフェイス力を発揮できる演者が最強の役を作ってるって流れは好きです。
ポーカーデモンストレーションのガチなのか手品なのかどうリアクションを取っていいのかわからない感じは苦手なので、はっきり手品的な演出になってるのが好み。
GATHERING
アンビシャスエースとヘンリークライストフォアエースの2手順。
どちらもバラバラにエースを差し込んだように見せるものです。
ヘンリークライストはスペリングパートをなくした日本人仕様で、意外とそういう改案って少ない気がするのでありがたいもんがあります。
手順自体も特定のコントロールをしてるような気配はなくしていて、特に無茶な技法も使わずにやってるので一番そのまま演じやすい手順じゃないでしょうか。
ACES
エースが1枚ずつ消えてデックの中から表向きにバラバラに出てくる「ニュー・マーロー・コリンズ・エース」。
消失パートはエースの上に3枚ずつカードを置いていくパターンなのですが、スペードのとこに集まらないと「3枚置く」という理由が最後になってもわからないので、消えてからパケットをデックに重ねてどうこうってのはあんまり好きじゃありません。
重ねてポーカーの手札配るやつも仕組み的には面白いけど演じたいかと思うと微妙です。
その中では、この表向きにバラバラに出てくるというのは絵面的にも面白く、物理的な不可能性が高くて好みに合いました。
また、松田さんのフォアエース系のトリックはどこかで消失する前にエースを見せれることが多く、今回は特にエースが今消えたという説得力が高いように思います。
途中やや無理はありますが、消失からスプレッドまでは何もしないで良いのも素敵です。
GALLARY FAKE
松田さんの作品は割と手段を選ばないところがあったりしますが、今回はギミックカードを使うことを「自主規制」されたそうで、ギミック使うのはこの章だけになってます。
解説されてるのはサンドイッチカードとリバースアセンブリの2手順。
サンドイッチカードはサインカードをデックの中に戻す部分と、サンドイッチ前のカードあらための2箇所でギミックパワーが活きます。
どうせ使うならギミックにとことん頑張ってもらうという精神も松田作品にはお馴染みですね。
MAKING OF
スペクターカットエースで、各パケットのボトムを見ると全部Kになってるおまけがついた「エースとキングの同時出現」を3つの方法で解説しています。
まずエース4枚出すベストの方法を考えてくださいということもありますし、このプロットってよく考えたらエースが出てくる時点でその場所でカットしたら現象が起きるわけだからボトムが一致しててもそんな不思議じゃなくねってのがあるわけです。
ただ、マニアックなカードマジックですから、マニアにはボトムの一致は不思議に映ります。
ポイントとしては観客がカットしてからはパケットを数えなおしたりしない部分で、そのために色々犠牲になってたりするのですが、ボトムのK見せるとこはクリーンにいけるので終わりよければすべてよし的な勢いで落とすと良い感じです。
途中カットじゃなくて配ってストップがあるのは好み分かれるあたりでしょうか。
レギュラーデックのみで演じることができるものが大半ですが、結構ばれないようにやるのが難しい技法がちょいちょい入ります。
個人的ベストは「あるポーカー・ディール」と「ニュー・マーロー・コリンズ・エース」。
松田さんの本は、あんまり関心がなかったプロットの方が面白く読める印象があります。
逆に興味ある現象についてはそれなりに自分の好みも固まってるので、松田さんのクセと合わないとなかなかそのまま演じようという気分にはなりません。
強い好みでできあがってる作品なので好みが分かれるのも当然という感じでしょうか。
そのあたりも一連の作品集の流れで読むと楽しめます。
そういえばこの本リセットが入ってなくて今俺は松田道弘本を読んでるという感触がちょっと薄い気がします。
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