by jun | 2018/05/21

大量の著書がある松田道弘さんですが、これは1994年に発売された本で、松田さんの作品集としては2冊目になります。


松田さんの作品集はクラシックの改案が大半で、この本もエースオープナー、ラストトリック、リセット、ビジター、カニバルカード、コレクター、オイルアンドウォーター、トライアンフ、アンビシャスカード、エブリウェアアンドノーウェア、スローモーションフォアエースあたりのメジャープロットの改案が解説されています。

そこらへんのマニアが自分のやりやすいように変えました!というのとは違って、半端じゃない知識がありながら、それでも自分が満足するやり方がないからこうしましたという感じで、原案や改案のクレジット、どこが気に入らなくてどこをどうすれば理想に近づくかという部分が詳細に書かれているのが面白いところです。

松田さんの改案は基本的に引き算と負担の分散です。
無駄な動きや手続きを減らすために現象ごとごっそり削ることもよくありますし、デュプリケイトによる解決も多いです。
このあたりは好みが分かれるあたりでしょうけども、そもそも激しい好みによって作られている手品なので好みが分かれるのは当然といえば当然という気がします。

例えば「リセット・リセットの改案」はリセットですが、最初から4枚のAだけを持って、それが一枚ずつクイーンに変わるようになってます。
8枚からスタートしないので最初のカウントが不要になり、現象的にもわかりやすくなってますし、最初にクイーンを見せないから変化としても強いです。
入れ替わり現象としてリセットを捉えてると、そんなんリセットちゃうやんという感じですが、そこらへんを大胆にえぐっていくのが持ち味です。

負担の分散という意味では「私案トライアンフ」がわかりやすいと思います。
フォールスシャッフルを使わないトライアンフで、簡単なセットと大胆な動きによってとても簡単に演じることができますし、表裏混ぜた印象も強いです。
大胆な動きの部分はカードを覚えてもらってる間にやるので、それだったらハーフパスで良いのでは??という気もしますが、94年でこのアイデアってなかなかフレッシュだったのではないでしょうか。

デュプリケイトについては楽になったり説得力勝負の現象なら積極的に使っていきたいのですけども、観客的に「2枚使ってるんじゃないの?」と思われやすい現象で実際にそうというのは少し引っかかります。
「エブリウェア・アンド・ノーウェアの改案」とかはデュプリケイト使っても3枚同時に見せたりはしないですし、デュプリケイト使ったところでフェアな印象がそこまで跳ねるわけではないのでレギュラーによる解決を見たかったあたり。
「2枚のカードの位置交換」については2枚同じカード使ってると仮定して逆算されても追われないのでデュプリケイトパワーが発揮されています。
本文中に「デュプリケイトをつかうのであれば1枚使うのも2枚使うのも同罪です」という言葉があり、松田さん的にはデュプリケイトは罪らしいので、デュプリケイト使う手順は「罪を侵してでも!!」という熱い思いが伝わってきて胸がヒリヒリします。

「アンビシャスカード」は手順的にも説得力強い見せ方で面白いのですが、「アンビシャスカードの考え方」としてバーノンのアンビシャスカードの意図的のところを汲んだ文章が面白かったです。
カードマジック事典に載ってるバーノンのアンビシャスカードはかなり難解で、観客にどう思われたいのかというあたりがよくわからなかったり、場所によっては手法ごと省略されてたりします。
例えば最初のコントロール法ははっきり書かれていませんし、「トップチェンジしたふり」なるものも、ただそうしろとしか書かれていません。
これらの箇所を松田さんが補ってくれていて、全体の流れからなぜそんなことをするのかという部分が見えやすくなっています。
ただ、「トップチェンジしたふり」や「グライドしたふり」のサッカームーブをルーティンに組み込む意味はやっぱりよくわかりません。
どちらも直前にやったことを疑われないよう先回りして観客の想定を潰していくという効果はわかるのですが、実際にした時としない時で同じ現象が起きるわけではありませんし、すり替えてないことを示すだけならただカードのフェイスを見せるだけでいいんじゃないかと思います。
何か怪しいことをしたようにして実は何もしてませんでしたという動きをわざわざ入れるあたりの考察も出来れば読みたかったですが、それをやりだすとそれだけで一冊の本になりそうですし仕方ない感じでしょうか。
アンビシャスカードに限らず連続して同じ現象が起こる手順はメソッドを変えることで袋小路に追い込んでいくのが基本ですし、色んな手品に応用できる考え方なのでそれだけ語られた本とか読んでみたいものですね。

他、個人的に興味があるコレクターやビジター、オイルアンドウォーターも面白く読みました。
「コレクター」はまず、3枚のカードを覚えさせずにJ、Q、Kを使うのが良いです。
マークは観客に決めて貰えばフリー感十分出ますし、絵面的にも綺麗で3枚も覚えさせる負担を減らせるので少ない観客にも演じれます。
手法的にもかなり好みのやり方で、4枚のAをデックから離して置いて、重ねた瞬間に挟まるのも好きなパターン。
エース数えて置くところもコントロールもパサパサしてないですし、全部真ん中にいれたように見せる構成も素敵です。
エンドクリーンではないのですが、その部分にオリジナル技法が使われていて、解説もみっちりされています。

「私案ビジター」はQの位置関係をはっきりさせるという意図はぼやけてる気もしますが、原案よりパケットを持ち替える動作が減ってるのでセリフで頑張ればすっきり見えそうです。

「オイル・アンド・ウォーター」はエキストラなしの4・4手順。
ほとんど全部のディスプレイ時に技法が必要なカロリー高めの手順ですが、このあたりは4・4であることが上手くカバーの役割を果たしています。
3段から成り、観客と交互に置いていく→フェイスアップで混ざってるのを見せる→オチはアンチオイルアンドウォーターという感じです。

というわけで他にも色々解説されていますが、どれも94年時点で先例がないマニアックな解決法です。
2018年の今読んでも、意図通りのエフェクトが無茶なく達成されてるものが多く、他では見れない解決法もありました。
なにより原案はどうなのか、今まで誰がどういう改案をしてきたのか、それでも残った問題点は何かというあたりが読めるのは面白いですし勉強になります。
松田さんの本の中でも一番広くメジャーな手順が網羅されていてバランス良いのはこの本だと思います。
これから先発売されてる本では更にバージョンアップを繰り返していて、その変遷を知るという意味でも重要作ではないでしょうか。
既に絶版で、今だと中古2000円とかで買えますがたまに値段が万になってしまうので気になる方はお早めにという感じです。

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