by jun | 2018/05/22

ジェイサンキーと言えば名前を聞くだけで半笑い、PVも見ずにそっ閉じ、買う前から地雷がはみ出してるような商品を売ってる人というイメージを持ってる人も多いのではないでしょうか。


よく玉石混交と言われるマジシャンですが、大半が石で、石の石っぷりが半端じゃない商品が大半です。
ただし玉の方はかなりでかい玉で、この本に載ってる「エアタイト」「溶け込む輪ゴム」「カードにエサを与えないで!」「サインの偽造、教えます。」「浮かぶデック」あたりは傑作と言って差し支えないと思います。

この本は”Sankey Panky”の完訳版で、リチャードカウフマンが書いてることも大きいのか玉率がかなり高いです。
原著の出版は1986年。
30年前にトランプが風船に入ったりしてたらそりゃセンセーショナルですし、別に何年経っても色あせることはありません。

現象は極めてビジュアルでわかりやすく、意外と無理なハンドリングは少ないです。
意外というのは彼の発表作の中には雑な処理を許しすぎてるものが多いからで、この本を読んで手順のスマートさにびっくりしました。
ギミックやセットな必要なものは多いですが、エンドクリーンに手渡せるように考えられていてかなり演じやすいです。
あとがきで書かれてる「ギミックの無効化」という考え方はとても好みですし、即興で出来るけど最後はもごもごする手品より遥かに強いインパクトを与えることができます。

彼のネタものにはアイデア一発勝負やんというものも多いですが、この本では大元のアイデアを手順にするためにいくつもアイデアが足されています。
例えば「一刀両断」はショッキングなビジュアルからクリーンエンドに向かうまで様々な思考が凝らされていて素敵な手順です。
他の手順でも結構大胆なギミックや技法を使っていても、そこを気にさせないために考え抜かれています。
これも意外なあたりでしたが、セリフもとても気がきいてました。
なんかハイテンションで奇行に走るおじさんというイメージがあったのですけど、セリフだけで十分に観客の興味を引くことができそうです。
セリフはストーリーストーリーしておらず、普通に小話として成立するようなバランスで割と誰でも自分のテンションでアレンジすることができると思います。

あとがきに書かれている「マテリアル・フィクション」という考え方もとても面白く読みました。
道具に命を吹き込むこと、観客が何に興味を持つのかということについての文章なのですが、なんでこんなこと思いつくんだという発想の根源が少し見えた気がします。
クリエイター向けにそこから形にしていくまでのクレバーなアドバイスも書かれていて、ぜひ今のジェイサンキーに読んでもらいたいものです。

個々の作品については上に挙げた以外だと「見えない架け橋」「形状記憶インク」「使えないお金」あたりのコインマジックが面白かったです。
「見えない架け橋」はコインの直径より細い透明のチューブをコインがつたっていくという現象で、物理的な理不尽さがやばく、ノイズが少ないコインアクロスになってます。
「使えないお金」「形状記憶インク」では観客のサインコインを2枚作るアイデアが使われていて、なんぼでも応用できそうなアイデアですが、「形状記憶インク」なんかはすっきりしててわかりやすく、この手法を使う手順としては完璧ではないでしょうか。

「ぐにゃぐにゃ予言」は選ぶカードとペンの色と何を描くかが予言されてる強烈なメンタル手品で、思いのほか負担も低くて良いですし、コレクターの改案である「カードを集めないで」なんかも好みの解法でした。

個人的には輪ゴムとトランプの組み合わせが好きなので、「溶け込む輪ゴム」「カードにエサを与えないで!」あたりがベストになりそうです。
「溶け込む輪ゴム」はカードの箱に巻いてる輪ゴムにサインシールを貼って、それが消えて箱の中のトランプに巻かれてるという現象です。
「カードにエサを与えないで!」はカードの攻撃形態、カードの防御形態、というパワーワードもさることながら、普通にこの輪ゴムのかけ方が天才的だと思います。

とにかく面白い本です。
久々にジェイサンキーネタでも買ってみようかと思ったけど、PVの編集から香ばしく漂う地雷臭でそっ閉じ。

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