by jun | 2018/06/14

ちょっと難しいカードマジックがやったみたいという人を向けの本で、難易度的にはそこまでハードではありませんし、必要な技法をきっちり解説してくれているので初期段階に読んでも迷うことはないと思います。
ほとんどの演技は付属のCD-Rで動画が見れるので、解説を見る前に素で驚けるのも良いところです。

現象は基本的にメジャープロットの改案で、荒木さんの改案は足し算方向のものが多いので好みは分かれるかもしれません。
あと、カードを擬人化したストーリーのものが多く、そのまま演じるのはかなり難易度が高いです。
本当にカードを人だと思うぐらいの勢いになれるかどうかが勝負。
作品のタイトルは変だと思います。

直感/Intuition

お客さんがストップをかけたところにKを置いて目印にする、これを4回やって、カードを広げるとKの隣にQが来てます。

ほぼセルフワーキングで、客前でセットする方法も解説されているので即興演技が可能です。
元ネタはジェミニツインズから発展したアッカーマンのジェミニメイトですが、セットは遥かに楽になっています。

ジェミニツインズよりも追われにくい手順ではありますが、8枚カードが並ぶのをどう見るかですね。
A4枚の方が収まりは良いと思いますし、この直感はジェミニツインズのように観客にずっとデックを持っていてもらうことができません。
途中から渡せるのですが、なんで途中からなのかってのが気にならなくもないです。
あと、4回一致が2回一致の倍不思議かというとそんなこともない気がしますし、4回にすることで事故の確率は上がります。
言ってもこの手順はかなり好きで、どうしてもリセット演じたい前とかによくやります。

うそ発見ジョーカー

ジョーカーが嘘を見つけてくれるというお話のストップトリックみたいなやつ。

演者と観客でそれぞれパケットを持って配っていって、ジョーカーが出たところに観客のカードがあるみたいな見せ方です。

結構ワイルドな解決法ですが、変に技法で処理するよりは怪しくなくて良いかなと思います。

エレベーター夫妻

エレベーターカードですが、裏向きにするA,2,3をわかりやすくする工夫がされていて、ストーリー的にも上に上がったり下がったりする件に理屈がついています。

目印のカードを置いて裏向きのカードが何か示すのは良いんですが、なんで片方だけ裏向きなのかってのは気にならなくもないです。
あとさすがにこのストーリーは紙芝居っぽすぎてどうにも好みに合いません。

見習い仲人

4枚のQとKを混ぜて配るとペアになってマークも一致しています。

直前にバラバラなのを見せれるのが良いですね。
途中ちょっとアドリブ操作必要なのですが、そこも覚えやすいのでなんとかなります。

QとKなら元々ペアとして成立するものですし、カップリング的なお話もやりやすいです。

「我が心のエメラルド・エーセス」プラス「4枚のエース」

バラバラに差し込んだエース4枚が観客の選んだ場所から出てきます。
さらに、4枚の他のカードを使い、Aがジャックに変わって、他のカードがAに変わるトライアングルトランスポジションオチ付き。

セットして演じることも可能ですが、出してから差し込む場合は「見えないように」という体でテーブルの下で操作する必要があります。
理由は表向きのセットが必要なので、コントロールが難しいのですね。

ただ、観客がストップしたところからエースが出てくるところは原案より工夫されていると思います。

後半の現象はどうでしょう、手続きが長くていつのまにか感がなく、裏向きばっかなのでどれがどれでもいいやってなりそうな気がしてしまいました。

恥ずかしがりやの紳士と淑女

赤を女性、黒を男性に見立てたオイルアンドウォーターです。
ラストはアンチオイルアンドウォーターオチで、7と7、8と8、9と9が隣合っています。

エキストラを使う手順なので、混ぜてるとこはフェアに見せれて、ハンドリング的には重たくなります。
お話のおかげで広げて見せず、3枚ずつ見せる違和感はない気もしますが、オチまであれが残るのでストレスは高め。

赤を女性、黒を男性というオイルアンドウォーターはたまに見ますけどどうでしょう。
ポリコレ云々という話じゃなく、特に何で決まってるわけでもないステレオタイプなイメージを口に出すのに抵抗ありますし、その意識を観客に共有させるのもなんか嫌です。

曲芸師のカード

サンドイッチカードに失敗して、別のカードを挟んでしまいます。
ジョーカーは表になったり裏になったり
しつつ、最後は選んだカードに変わります。

サンドイッチカードあたりのビジュアル現象とサッカートリック的なものの食い合わせの悪さはいつも感じますが、これに関しては予定調和感が出ても大丈夫かなと思います。
曲芸師のカードはコントロールすればジョーカーにもできるので、特に失敗した風にも見せず演じることも可能です。

楽な技法だけで解決されていて、エンドクリーンにできる方法も紹介されているので「なんか一個だけやって」で色んな現象見せたい場合とかに良い手順だと思います。

十字架エースでドラキュラを探せ!

パケットで十字架作って、真ん中のパケットから選ばれたカードが出てきて、十字架部分のパケットの上からAが出てきます。

スペクテイターカッティングエースっぽい流れからのカード当て。
ディスプレイ的にセルフワーキング感ありますがそこそこ技法使いまして、シャッフルさせてから演じると効果的です。
この手のフォーエースネタとしては負担が少なく、現象が合わさってることで怪しいとこも別に怪しく見られない気がします。

4エース出てくる盛り上がりが先に来るのですが、盛り上がりのコントロール的にカード当ててからAにしてもいいかなと思いました。
強いカードで十字架作るって筋も通りますし。

あと、吸血鬼が十字架苦手ってどれぐらい一般化してる知識なんでしょうか。

マフィア連合のクラス会

ジャズエーセスです。
あんまり詳しくないジャンルなので良し悪しもわからんのですが、カウントが一種類で済むのは良いとこだと思います。

マフィアがFBIから逃げるために子分を囮にするというストーリーもこの本の中では好きな方で、ジャズエーセスというなんぼでも単調になるマジックにはこれぐらいの話があった方がいいです。
黙々とエルムズレイカウントをしているおじさんの絵面も悪くありませんが、一般的にはこういう盛り上げも悪くありません。

オーバー・キル・プラス

カードを当てて、更にそれが予言されてたことをメモで示し、最後はそのカードの裏の色だけ違うというオチ。

傑作セルフワーキングであるオーバーキルの改案です。
ただでさえ死体蹴りしてるのにまだプラスすんの??ってタイトルですが、現象的には同じで、事前にセットしなくても演技できるようになってます。

ただ、例のあれをセットする部分が詳しく書かれておらず、客がシャッフルしてる間にとしか言及されてないので複数のお客さんがいる場合はかなり怖いです。
この手の手品は怪しいとこが一切ないようにしたいので、あれのレベルをいくら上げても厳しい気がしてて、それならセットしてても良いのではって感じはあります。
お客さんにシャッフルしてもらえるのは強いです。

ビデオドローム

セレクトカードのリバース現象ですが、テレビのチャンネルと録画というストーリーの中で演じられます。
このストーリーは良くて、チャンネルのところであれをあれしてしまえるのが賢いです。
コントロールに使われてる技法も有用なので是非覚えておきたいところ。

ちなみにタイトルの元ネタはデヴィッドクローネンバーグ監督の映画「ヴィデオドローム」ですが、あの映画はカードが1枚ひっくり返るというような生温い話ではなく、ビデオに取り憑かれて現実を見失って、遂には肉体も変容してしまうというものです。

それをカードマジックで表現しようとするなら、カードが1枚リバースして、その他は全部ブランクカードに、演者を見ると全身にトランプが突き刺さってて肉体も精神も崩壊している、までやる必要があるので、この「ビデオドローム」は妥当な落とし所のマジックだと思います。

破いたカードのミステリー

破ったカードがデックの中で復活します。
弾くとピョンと飛び出してくるルポールのあれです。

デュプリケートを使わずレギュラーデックだけで演じられます。
バニッシュが必要なので難易度は高め。
ピョンと飛び出すとこは結構むずいのでもう少し詳細な解説が欲しかったあたり。

トーンアンドレストア系ではこのタイプは好きな方で、ちょっとずつくっつくのは見せれないけど破片の一致を示せるし破るのもぐちゃぐちゃにできるので強いと思います。

ミステリアスなカード

サインドカードやミステリーカードの変形。
4人にカードを選ばせ、1枚だけにサインしてもらって、1枚ずつ当てていきます。
当てたカードをミステリーカードの上に置いていって、3枚当てたところでサインしたカードを訪ねると、3枚がそのカードのフォーオブアカインドに変わっていて、ミステリーカードがサインカードになるというちょっと複雑な手順です。

複雑なのでサインドカードの例の動きは誤魔化せるのですが、4枚もカードを覚えさせるのは明らかにマイナスポイントかと思います。
あとフォーオブアカインドへのチェンジと、最初から置いてあったカードが変わるというのが同じチェンジ現象なので、サインドカードにある理不尽ぶりは弱まりそう。

サインドカードを何かと組み合わせたのはガスタフェローの”MR.E.TAKES A STROLL”が好きで、あれは現象は複数起こりながら、一番のオチであるサインドカードに関してははっきり別種の気持ち悪さを示せます。

フォーオブアカインドオチなのでフォースは必要ですが、サインさせるのでそこはなんでも良いって思わせることができるのでその部分の巧妙さは好きです。

未来へのテレポーテーション

ジョーカーと任意のマークのA〜Kを使って、選んだカードのリバース現象からパケットの並びが揃い、更に選んだカードとジョーカーの場所が入れ替わるオチ。

面白いです。
実演するのにちょっと怖い部分はありますが、そこは気合いで注目させないように頑張りましょう。
フルデックでも同じ手順ができますが、マークを限定した方が錯覚は強くなりますし、セットもしなくて良いので楽ちんです。

囚人ジャックは檻の中

カードケースと4枚のA、1枚のJを使います。
お客さんにカードを1枚覚えてもらったら箱の中に赤のA2枚とJを入れ、残りの黒いAでお客さんのカードを探しますが、挟まったのはJで、箱の中のJがお客さんのカードに変わってます。
ケースを檻、Aを看守、Jを囚人に見立てた脱獄手品で、ストーリーによってカードの位置関係がわかりやすくなってると思います。

Jを使う部分がややこしいですが、枚数に矛盾がなくなりハンドリング的にも無理がなくなるので、そのややこしい部分をストーリーがうまくカバーしてて良いです。

ダンバリーの妄想

ダンバリーデリュージョンの改案。
めくったとこのカードの数字じゃなくて、2枚のカードの合計の数字分配ったとこから出てくるようになってます。

お、おうという感じです。
技法的難易度も上がってますし、現象は複雑になった印象で、他の手順に比べて何が狙いの改案なのか詳しく書かれてないので迷宮入りです。

怪盗ブルース・ブラザーズ

エースアセンブリーで、ラストエースの裏の色が変わってます。
現象の派手さの割には無理がない方だと思います。

なんか文句多めになった感がありますが、手品始めたころはこれに載ってる手順をひたすらやってて、弱点も見えやすいというとこがあるからで、おすすめの本です。
クレジットも書いてるので元ネタ当たってみるとより良いと思います。
CD-Rについてる動画見て、気に入った現象を選べるのは良いですし、マーカテンドーさんのターンオーバーパス解説とかもついててお得です。

個人的には未来へのテレポーテーション、直感あたりがベスト。

初心者用の本ということでテクニック的には難しくありませんが、現象自体はマニアックというのがちょっと痛いところでしょうか。
ここで言うマニアックは、マニアをひっかけようとするために、追われないよう見た目を複雑にしているところです。
そのため一つ一つの現象が伝わりにくく、ストーリーでそれを補おうという狙いも全部がうまくいってるとは思えません。
初心者にストーリー手品は厳しいというのもありますし、ストーリーのせいで更に現象がボケる危険性もあります。

個人的には犯罪系のストーリーのものは気に入って、男女がどうしたみたいなやつはイマイチという感じがあって、それは現象が「一致」より「移動」の方が好きで、それに合ったストーリーだからかもしれません。

演技動画もあることですし、こういう現象にはこういう話!という例としては参考にできるはずです。
オリジナルストーリーを考え出すとだいたい死にますが、初期段階で、好き嫌いを理由も含めてはっきりさせておくのは大事だと思います。

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