by jun | 2019/12/18

今年出たフェニクさんのクロースアップマジック作品集です。
DVDやダウンロードコンテンツがいくつかあるのでご存知の方も多いと思いますが、ビジュアルでキックバック展開があるマジックを好むメキシコのマジシャンで、この本は過去発表作も含め彼のレパートリーが27作収録されてます。
映像リリースと違ってセミオートものやメンタル風の手順も入っていて、そちらも大変読み応えがあるおもろい手順が揃っていました。
技法的には独特の工夫があったり難しいものも多く、割と幅広い層が楽しめる一冊になっています。

Kerigma Seachers

ラリージェニングスのサーチャーのバリエーションです。
別々の場所に差し込んだ2枚のサンドイッチカードをアウトジョグしておけるようになっていて、そこから間が詰まって1枚のカードが挟まります。
これ確か誰かが挟むとこをビジュアルにやる版を発表していましたが、フェニク版はそこはビジュアルじゃありません。個人的にはそれは懸命だと思っていて、そこ見せちゃうと推測されやすいし手前の工夫が台無しになってしまいます。
ビジュアルにカードが移動するのは別のところで見せて、カードが詰まるところはしれっとやってしまう構成が見事な手順です。

Maximum Penetration

2枚のジョーカーに挟んだカードが貫通する手順です。
箱の中から貫通したり、ジョーカーと思われてたカードが別のカードに変わったりとわちゃわちゃしてます。
わちゃわちゃしてますが、不可能性や公明正大さを上げていくのは自然で、ジョーカーであるはずのカードがずっと裏向きなのもそんなに気にならない感じです。
一応セリフはついてますが、ちょっと演じるのが難しい類かもしれません。

Add X Adition

スプレッドした中から4枚選んでもらってそれが全部Aでしたというやつ。
これ系結構好きでかなり調べたりいじくったりしたのですが、そういう方法があったのかと目から鱗がボロンでした。
これは良い。めっちゃ良いです。
表向きとかややこしいセットもありません。

Silver Fist

チャイニーズコインを混ぜたマトリックス的な現象です。
使うカードは1枚、非常に省スペースで演技可能。
オチはキックバック的なあれなのですが、かなり低負担で行えるようになってます。
チャイニーズコインを使った演出のおかげで最後まで現象がわかりやすく、意外性も強いです。

One Card Monte

現象はSpectator Cut the Aces、そこにモンテの演出をつけてサプライズ感も出しつつ超お手軽になってます。
めちゃくちゃ気に入りました。
ダニダオルティスがちょっと似たやつやってて、あれより観客が自由にカットできます。ダニの使ってる技法と合わせると別の見せ方が出来て良いかもしれません。
たぶん今年覚えた手品の中で一番人に見せてる気がします。
Spectator Cut the Acesは一時期めちゃくちゃ調べてましたがベスト級に好き。

88 Beast Assembly

エースアセンブリで集まったところを見せてから、すぐに別の4枚に変わって集まったやつが元の場所に戻ってるタイプのやつです。
ジョンバノンのあれに近いですかね。
色々とポイントはあるのですが、消すとこと集まるところの示し方に統一感があり、消すとこはあまり勿体つけずリズミカル、説明的すぎずディセプティブさを増してるように見えます。
オチ周辺は勢いに乗せつつビジュアルさを加えて気持ちいい感じです。
あと最初のスイッチがめっちゃ自然で好き。
ダウンロード動画で見た時から良いなと思ってた手順で、本ではこの複雑な現象のセリフもじっくり読めると楽しみにしていましたが、そこはまあイリュージョンという言葉に頼っていました。
まあそれに説得力ある手順なので大丈夫です。

The Number of GOD

セルフワーキングの予言マジックです。
観客が数字とカードを選び、それに従ってあれこれするとフォーオブアカインドが揃い、他のカードがブランクフェイスになってます。
読んでしまうと当たり前な感じがしてしまうトリックですが、道具立ての面白さもあって巧妙です。
前の現象の不思議さが上がるわけではないのでブランクフェイス落ちはちょっと過剰な気がしますが、フリーチョイス部分があるのでありと言えばあり。
レギュラーデックでやるとプリフィギュレーション的にはなりますが、ちょっと迂回することで追われにくくなる代わりに複雑にもなるのでそこで好み分かれる感じでしょうか。

Led Deck

フェニク風カラーチェンジングデック。
「早くて、ビジュアルで、騙せる、他になんかいる?」って書いてます。
たぶん要らないと思いますが、ちょっと賛否の分かれそうな部分もあります。
確かに現象は重なってるけど、それの後にそれがそうなってても別にさっきのインパクトは超えないよねというか、それさえなければもっと楽になるのにという部分があるので演じる側としては更にどうもって感じです。
まあ見せ方次第といえばそうだし、良い意味で気持ち悪い現象なのも間違いないですが。

Second Skin Invisible Palm

ノーエキストラのオープントラベラーです。
最後の1枚どうすんのかなと思ってたら、結構な急カーブで曲がり切ってました。
この人の作品はこういうの多いです。
ただ、Invisible Palmの筋から外れることはなく、よりオープンにというクライマックス感もあります。
特殊なサトルティが紹介されてておもろいです。これは本だとちょっとリズム感掴みにくいかもしれません。
ダウンロード版観るとこのテンポで出来るのかーって感じで練習しがいあります。

Miracle

某原理を使ったカード当て。
原理の特性を活かしてスペリング要素がありますが、まあ適当に変更することはできます。
原理的には有名なものなので、あくまで演出例という感じですがリアリティがあって良い演出です。

Cusntica

観客が覚えたカードが移動するカードアクロス。
カードアクロスっていうかカードアットエニーナンバー要素もあり、一応観客が自由に言った数字の枚数目から出てくる感じです。
カードアクロスのところはもうちょっと技法に頼らずどうにかならんもんかというとこがあるのですが、注意を外らせるタイミングなのでそこまで負担を感じるわけではありません。
あとギャフ使えばどうにかなりそう。
大枠の仕組みはめっちゃ面白いですね。

You and Me

観客が演者のカードを当てるトリックです。
ちょっとなんでそんなことするのっていう謎の作業が多く、演出の解説も十分とは言えないのですがハマればかなり気持ち悪い手品にできそう。
Do as I Doでたまにある、途中で奇跡狙いの遊びできるのも面白いところ。
難があるのが現象の示し方というのがちょっとあれなんですけど、色々考えてみたくなるポテンシャルありますね。

Round Trip

手元のKとポケットに入れたAが入れ替わってKが別々の場所から出てくるやつ、の超濃厚版です。
キックバックがあっちゃこっちゃしててとても愉快な事になってます。
状況説明しつつゆっくり見せれるからたぶんそんな混乱はしないはず。
ちょっとした技法の工夫も面白く、ハードな技法もあってかなり歯ごたえある感じですがこれ出来たらかっこいいでしょうね。

The Illusionist

3枚のカードを選んでもらい元に戻し、トップにあるハートのQで色々遊んだ後、選ばれた3枚のカードがディスプレイされます。
いわゆるステージマジック的なことをカードで表現する系手品で、カードが伸びたりズレたりします。
こうなってるだけちゃうんっていうのを思わせないカードの動きができます。
ちょっと3枚のカード当てだとメインの現象がブレるし、4Aプロダクション風にしてもよさそう。
イリュージョニストだし別の場所から出てきても良いわけですし。

Interdimentional

4枚のAが消えて、4枚のKと入れ替わるという面白いコンセプトの作品です。
入れ替わり系いくつかあるけど演出が一番面白かったのこれですね。
しかしどれだけ上手くやればそういう風に見えるのかという難しさ。
テンポやセリフは計算されてるので頑張りたい。

The Wall

ペンがお札を貫通します。
突き刺すんじゃなく面の貫通。
めちゃくちゃ良いんですが、日本のお札だとちょっと厳しい部分があります。法的には大丈夫です。

The Rev

ビジュアルなツイスティングジエーセス。
縦にスプレッドするやつで、今割とビジュアル界隈のデフォルトっぽい感じありますよね。
そこまで大きいカバーを必要とせず、振ったり撫でたり色々見せ方変えれていいです。
フェニクさんの場合は当然ひっくり返って終わるわけがなく、ジャックがエースに変わってまたジャックが出てきます。
その時の状態を活かせば戻せるやーんて感じの勢い、良いです。
いやでももっと残務処理的になるやつもあるし、このビジュアルなら勢いも許されるというもの。

Blast

トライアンフとエースプロダクションを一緒にしたあれで、テーブル使わないで便利だしプロダクションが超かっこいいです。
一気に4枚出るやつなので、最後の1枚は向きが揃って1枚だけ表向きでしたーみたいなことが出来ず、ちょっと現象がバラバラ感はあります。
表裏混ぜることでやりやすいプロダクションではあるのですが、もう少し流れの意味があればよかったなと。

Half Moon Routine

1枚のギミックカードを使ったルーティンです。
この1枚でフォースやコントロールからライジングカードまでこなしてしまいます。
手順の流れ的には無理やり使った感も否めませんが、1枚仕込んでおけば即興風にあれこれ現象起こせるのは楽しそう。
ライジングカードは普通に良いと思いますし。

Let’s go to Vegas

ポーカーデモンストレーション。
簡単なセットで段階的に現象を起こせます。
観客にカットしてもらう部分があるのと、シャッフルの終わりのタイミングを決めてもらえるという面白さ。
覚えること少ないしノーセットからも始められる感じなので、イカサマの話題振られた時用に持っておくと便利。

ATCAAiN

エニーシンクカードアットエニーイマジナリーナンバーということらしいです。
厳密にはエニーではないのですが、なるほどそういうやり方があるかという感じで結構ありなのではないかと思います。
ただ、「数字とカードを聞いてからデックに触らない」という条件だけだとカードアットエニーナンバーでは他にやりようあるので、観客の印象基準でその手のやつとどれぐらい差が出るかは謎。

Holy Water and … Oil

テーブル不要で観客の手の上でやるオイルアンドウォーター。
エキストラなしの3-3で3段階。
オチのビジュアルなやつが目を引きますが、テーブル使わずに観客の手に置いていくシークエンスもおもろいです。
ただやたら解説の難易度が高く、ムーブライトハンドトゥライトアンドライトパケットトップカードピールレフトハンドサムフェイスアップオンレフトハンドパケットみたいなのが何回も続くので辛い。たぶん動画のやつ見てなかったら死んでました。
もうちょい細かくシチュエーションチェックしてくれても良いんやで。

Tequila Aces

ビルグッドウィンのオフバランストランスポジションのバリエーション。
1枚が4枚のAと入れ替わるやつで、この後にリセット的にAが1枚ずつ観客のカードに変化していくフェイズがあります。
後半はベベルのアシンメトリカル的になっていきますね。
枚数が変わるところが面白いところですが、やや直接的な手法が多いのでかなり練習要りそう。

Deja Boo Insanity

ちょっと説明の難しい感じの現象ですが、これもまあこっちと思ってたらあっち系の現象です。
サンドイッチとフォーオブアカインドの要素があるので、こっちと思ってたらを強調しやすい手順だと思います。
アウトジョグ状態でスイッチする変なコントロールが解説されてておもろいです。

Air Aces

3 flyをカードでやるやつ。
クレジットされてなかったけどダニダオルティスの4 flyと同じ現象ですね。
こっちは立って垂直に見せれるようになっていて、ダニ版と比べると比較的安全で、マニア受けはしないかもしれません。
確かにこのカードが移動したと思わせられるところがあり、枚数の移動だけでは脆い部分にそれを持ってくるあたりは上手いなと思いました。
最後の1枚はまああれなんですが、手から手にという流れを崩さない演出はさすがって感じでしょうか。

Hypnotic Mystery

タマリッツのThe Hypnotic Power of the Jokers(ジョーカーの催眠術)の改案。
あれよりもうちょいEverywhere and Nowhere的な見せ方で、元で肝になってるあれは使いません。
あと、選ばれたカードがポケットから出てくるところに演出が足されていて粋です。
手法的な面白みは全く変わっていますが、軽く見せられる良さもあるし催眠は催眠。

Phoenix

名刺のトーンアンドレストアード。
クレジットにはT&Rの名作を産み出してきた皆さんのお名前が並んでおり、良いとこどりといえば良いとこどり。
なのでちょっとオリジナル部分がわかりにくいですが、あれのあそこがどうにかならんかなと思うとこがフェニクさんと一致してればハマるでしょう。
その言い方ならなんでもそうですけど、他の作品が個性強いので改案センス的なことが一番わかりやすいのはこれかなと。

Magic Code

後半は100ページぐらいじっくりと何故マジックが不思議に見えるのかというような理論が書いてるパートです。
リアリティの話から始まり、現象、プレゼンテーション、手法などを細かく分類していき、Diseption Sourcesという概念の話に繋がっていきます。
このDiseption Sourcesというのは7種類しかなくて、それは音楽でいうドレミファソラシみたいな物とのことで、いくつかのマジックを例にこれはこういう分類ができて、それがどう観客の印象に作用するのかという解説があります。
あんまりちゃんと読めた自信はありませんが、個人的には創作論というより手順の構造を理解して何をどう見せるのかというのをより意識するためのサブテキストだと思いました。
この本に載ってる手順とか何も考えずにやると観客から見て何やってるかわからん事態になりかねない物もあるし、こういう考え方がベースにある人が作ったものだと思うと安心する部分もあります。
リアリティのあたりとか単純に面白い話も多いです。
現象の種類は限られてるわけですから、何かを改案する時なんかでも見た目でここが気に入らないということ以外の視点を持っておくのは良いことですし、創作においても大いに役に立つ資料ではないでしょうか。
なんつっても手順は良いのが揃ってる本なので読んで損はしないです。

そうそう、フェニクさんといえば毎度PVがメキシコ風なのかなんなのか壮大なドンドコ音楽が鳴っていて、今回もそれは踏襲されています。超かっこいいですねこのビデオ。
これ見て面白そうだと思えば買って大丈夫だと思います。

前のDVDの緩い編集がかわいいドヤ全開PVも捨てがたいのですが。

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