スターウォーズが好きだったのでカードマジックにフォースという概念が存在することを知った時はとてもわくわくしたものですが、当然ながらガチでジェダイになれるわけでもなく「フォースと共にあらんことを」などと言うテンションにはなりませんでした。
スターウォーズの世界では「エピソード8 最後のジェダイ」でフォースの能力がインフレしまくったわけですけども、カードマジックのフォースも数だけで言えば色んなものがあります。
このフォース事典では500以上のフォースが解説されていて、原題はEncyclopedia of Impromptu Card Forcesということで即席で可能なフォースばかりという事典です。
500と言ってもバリエーション違いなどもあって、自分の数え方では100もなく、大まかに15章に分かれているのでそんなに読みにくいわけでもありません。
章分けはこんな感じです。
ブラインド・フォース(ハンカチの下とか背面とか見えないとこで選んでもらう)
コンビネーション・フォース(本とかマッチとか物を使う)
コメディ・フォース (ギャグ)
カウント・フォース (数で選ばせるやつ)
カット・フォース(カットしてもらうやつ)
エキボック・フォース(マジシャンズチョイス)
フォースの公式(ダウンアンダーとかダウンアンダーとか)
グライド(グライド)
ホールドアウト(お客さんに混ぜてもらえるやつ)
ロケーター(差し込んでもらうやつ)
マルチプル・フォース(3枚以上のフォース)
不確定フォース(クラシックフォースやサイコロジカルフォースなど)
スペリング・フォース(日本語だと厳しいやつ)
ストップ・フォース(リフルやドリブルなどではなく境目がはっきりしてるストップ)
スイッチ(フリーチョイスからのイカサマ)
これ見てそんなにフォースいらんわっていう人が読んでも面白くないかというと意外とそうでもありません。
まず、フォースはシチュエーションによって使い分ける必要があって、例えばカットしかしてもらえないとか、テーブルは使えないとか、観客が遠くにいるからストップ言ってもらうしかないとか、完全に自由に選んだように見せたいとか、演者も観客も表を見ないようにしたいとか、裏の色だけを隠したいとか、カード数枚の中から選ばせたいとか、複数枚を確実にフォースしたいとか、どうしてもダウンアンダーをやりたいとか、これらの条件が重なる場合もあったりします。
フォースに限らず技法はその時その時適切なものを使うことで効果を増しますし、前の演技と選ばせ方が違ってたり近くにいるのにストップ言わせたりする場合はそれなりに納得がいく説明が欲しくなるものです。
色んなフォースを知っておくことで不自然を回避できたり、今その選ばせ方をする理由みたいなものを考えるきっかけにもなり、そのあたりが自分の中でクリアになるとお客さんにも違和感を与えずに済む気がします。
また、フォースのアイデアから何か思いつくこともあるかもしれません。
クリエイター側の人にとってはそのジャンルの様々な手法が網羅されてる資料は必須ですし、フォースしてしまえばあとは演出次第というパターンも多いので、普通に読んでてもこの選ばせ方からこう!とか考えるの楽しいです。
あと、この本では結構スイッチを使うフォースが多く解説されていて、それをそのままスイッチとして使えば予言意外にも応用できます。
最後の章は丸々スイッチをテーマにページが割かれていて、結構マイナーでコントロールとかカラーチェンジにも使えたりするものもあるので手元に置いておくと役立つかもしれません。
サンドイッチを使ったフォースのパートなんかはほぼフォースとは関係なく、普通にスイッチしてサンドイッチ繰り返すのに使えます。
カリーのターンオーバーチェンジとかも詳し目に解説されていて、オープンプレディクションの手順もいくつか紹介されていて一番読み応えあるパートでした。
肝心のフォースですが、著者のルイスジョーンズさんは観客にフリーチョイス感を与えるために、自由に選択したように見せるものを好む傾向にあります。
スイッチを使った方法が多いのもこのあたりから来てそうで、ブラインド・フォースのパートでも演者の内ポケットを使ったクリーンなスイッチや、ハンカチの中で本当に自由にカットしてもらえるフォースなど、知らなかったもので面白いのも結構ありました。
リフルフォースよりロケーターを使うフォースを好んでいられるようで、全体的にフリーチョイスからのちょっとした動作でなんかやるみたいなものが多く、短い文章の中に心理的なコツなどが詰め込まれていてどれも試したくなります。
ただ、結構雑なとこもあって「何とかうまいことデックのトップから2枚目のカードを表向きにします」とかいうそれ一番説明いるやろみたいなとこをあっさり済ませたりしてて、もうちょい厳選して深く突っ込んで欲しい部分もありました。
クラシックフォースに関してはフリーチョイスに見せる工夫と練習法、失敗した時のカバーが解説されていて、それぞれに言いたいことがないではありませんが、ただタイミング合わせろという解説よりは懐疑的に読んで自分のスタイルに合わせたものに近付けるはずです。
エキボックの章では細かい言葉使いの話や態度の話などを丁寧に解説し、バーノンの”The trick that cannot be explained”(説明できないトリック)のざっくりした紹介も載ってます。
観客にシャッフルさせた上で観客に選んでもらうこのプロットはアドリブパワーがものっすごい必要になってくるので、ざっくりした紹介でもこの本通して読めばなんとなく頑張れる気がして来ないでもないです。
クラシックフォースやサイコロジカルフォースにしても、ダニダオルティスやジョセフバリーがやるような手品好きが見てもどこからがフォースでどこからがアドリブなのかよくわからないような態度が求められるので、なんか具体的にフォースだらけで成立したり、終わってからもフォースだと思われないような手順を1つぐらいがっつり解説してほしかったところ。
事典という面から見ても欠点はあって、まずクレジットがすかすかです。
これは著者も認めているところで、類似のものが多く半端に書くと騒動になりかねないとのことですが、諸説含めて書いてくれるとありがたかったですね。
あと、索引がついてないので事典としての機能はかなり損なわれています。
日本語タイトルしか書いてませんし目次も膨大な量なので、索引付けるだけでこの本の価値はかなり上がるのにもったいない感じです。
とはいえ、フォースだけを浴び続ける読書体験はなかなか貴重なもので、当然全部知ってたわけではないので勉強にもなりました。
コメディパートにある「野菜フォース」というあほらしくも実用性高いフォースとか、なかなか油断ならないものがあります。
まったりしたギャグは観客をリラックスさせて不確実なフォースの成功率高めますし、ギャグかましておくことでその後のフリーチョイス感上がったりするので結構馬鹿にできません。
野菜フォースと共にあらんことを。
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