2017年のマジックマーケットで販売されたこざわまさゆきさんによるレクチャーノート。
今はAmazonのPODで買えるみたいです。
13手順解説されていて、全体的にちょっとの技法と原理によって成り立つセミオートマチックな手品で、手先に神経使わず演出を頑張れる作りです。
その演出というのがパズルや言葉遊びを題材にしたものが多く、原理手品の操作を間延びさせず興味を持続させます。
普通に小話としても面白く演技演技しなくてもいいので演じる人を選びませんし、手品と組み合わせることによって良い感じの胡散臭さが出て、言葉遊びなのに現象が起こるという絶妙なもやっとした余韻がとても良いです。
各トリック細かいところまでクレジットがされていて、元ネタを掘って更なる沼に引きずり込む本としても優れています。
Counterfeit
黒いカードの中に1枚だけ赤いカードを混ぜ、赤と黒のインクの重さの違いによって絞っていき赤いカードを特定します。
天秤パズルをテーマにしたトリックで、測る回数は少ない方が良いという題材通り絞っていく過程は非常にすっきりしていて、それでいて納得度の高い手順です。
重さの違いみたいなことやろうとするとそもそも枚数が違うやんみたいなことにもなりそうですが、そこを綺麗に解決しつつフェイズごとに違う見せ方ができる親切設計。
絶対にそんなことはないはずなのに、重さの違いで当ててるようにしか見えないというのがとても良いですね。
この現象やるならお客さんにシャッフルさせたいところですけど、観客にシャッフルさせる方法も解説されています。
完全即席でやるならSSHOでお客さんにパケット分けてもらうとかもいいかなと思いました。
Ambitious Royals
2枚のカードを使うアンビシャス現象。
古典原理を組み合わせてスライトも足して説得力を増しています。
動き自体はマニアにはお馴染みのものなので一般向けですが、原理コンボによって2枚のカードは観客の指定によってしっかり覚えてもらえ、2度繰り返し演じることができるようになってるのがポイント。
この元ネタの原理を使ったダブルアンビシャスは小学生の時に同じクラスの大山くんがやっていて、それが初めて見た手品だったので謎の思い入れがあります。
それから10年ぐらい経ってカードマジック事典とか読んでアンビシャスカードのやり方を知ってからも、大山くんは2枚でやってたやん!と不思議を引っ張っていました。
そんなわけで個人的には2枚のカードでやるアンビシャスカードが結構好きだったりします。
2枚使えば2倍不思議ということにはなりませんが、知らなければ絶対にわからない原理の強さは有名なプロットでこそ発揮されるんじゃないでしょうか。
書いてて大山くんだったか大谷くんだったか大石くんだったかあやふやになってきたので、微妙に似てるものって本当にややこしいなと思いました。
Magician vs. Gambler vs. Mathematician
マジシャンとギャンブラーと数学者によるモンテという演出で、オチのマジシャンがマジシャンらしく活躍するのが素敵。
筋からは外れず、マジシャンのためにさっさと準備を終わらす構成も素晴らしく、モンテはガチ対決ではないので演じやすいです。
数学者パートのモンティホール問題は知らない人に説明するのがちょっと難しそうで、うまく説明できたらできたで面白くて手品とかどうでもよくなりそうなのが怖いあたり。
スライト的にはワイルドな技法が使われてますが、ミスディレクションとかより構成でうまくカバーしてて強いです。
アーロンフィッシャーのスリーキングと並ぶ有効活用ぶりだと思います。
Hide a Leaf
葉を隠すなら森の中、トランプを隠すならトランプの中。
そんなわけでトランプの中にトランプを隠してまた出します。
オチは森の生産ということでわちゃわちゃカードが出てくる祭りエンディング。
森を作るっていうエコでロハスでマイナスイオンなオチは見た目的にも最高で、準備段階もエコ設計。
こざわさんも指摘されてる通り、途中セリフまんまの仕事をするので演出とはなんぞやという気持ちになります。
実際にはその通りではなくても、隠して出しただけに見えてしまうのはちょっと抵抗があるので、出現パートは演出と絡めてもう一工夫欲しかった感じです。
Process of Elimination
ビドルトリック。
例の無意味な動きに意味を持たせた作品で、これはかなり良いです。
近いアプローチは考えたことあったのですけど、やっぱり半分ってとこに引っかかりが残るものしか思いつかなかったのでこれ読んで流石だと思いました。
セリフも気が効いていて、ビドルトリックの良さを再認識させられるような素敵な改案です。
欲を言えばこの演出ならラッキーパターンが欲しいところですが、それは別の話すぎますかね。
肝心の部分のハンドリングは好みによっていじれそうなものの、ここであんまりしゅっしゅっやるのも違うかなって気がするんでこのままの形が綺麗かなと思います。ビドルトリックですし。
Six Card Brainwave
6枚のカードで行うブレインウェーブ現象。
“B’WAVE”あたりとは違って完全フリーチョイス。
選ばせるにあたって透明のサイコロ(普通のサイコロや想像上のサイコロでもできる)を使うのがポイントで、これとカード構成とセリフがかなり上手いです。
技法的にはあんまり好きじゃないのを使うんですが、演出によってゴリゴリ押し切れる感じはかなり好み。
厳密なエンドクリーンでないパケットトリック全般に通じる考え方だと思います。
Subliminal Effect
現象的には普通の予言マジックなのですが、サブリミナル効果によって選んでしまうという設定。
余禄で書かれてる通り、サブリミナルというならもっと理想的なフォースがあるかなという印象です。
裏向きのままフォースではやはりサブリミナいですし、エキボックなアウトを使ってでもフェイスアップのサイコロジカルフォースでいきたいところ。
サブリミナルの説明パートはサブリミナルの説明として完璧ですし、同じ動きの表向きリフルフォースでも十分な気はします。
裏向きのストップフォース的なものなら、マークドデックみたいにパッと見でわからんように裏にカードの名前書いておくとかどうでしょ。デアデビルデック使うとか。
Following
フォローザリーダーです。
いまいち興味が湧かないプロットなのですけど、これはかなり好みでした。
好きポイントとしてはいちいちカウントで見せないことと、ゆっくり演じても誤魔化しが効く手順構成。
最初のごにょごにょも無理はなく、5-5ってあたりもしつこすぎずあっさりすぎずちょうど良いと思います。
ラスト一枚問題も無理なく伏線的なサトルティで解決していて文句なし。
参考作品としてクレジットされてるものがどれも好きなフォローザリーダーだったので、好み合う人が考えてくれたものならそりゃ合うなって納得しました。
Red Ocean & Blue Ocean
色違いパケットで行うカードアクロス。
セレクトカード1枚が赤から青に飛び込むのでわかりやすくなっていて、こじらせただけじゃない!ってマニアの何かが読み取れる感じがとても良いです。
手法的にも無茶はなく、負担部分は上手く散ってるので後は個々の技法のクウォリティ勝負。
この本の中で一番スライト寄りの手品だと思います。
これ系だとヘルダーのあれが最強だと思ってますが、もう少しライトに演じられるこういう立ち位置のカードアクロスも良いものですね。
A Tale of Ten Travelers
宿屋のパラドクスを題材としたマジック。
宿屋のパラドクスは10人を9部屋に押し込むあれで、この歴史についてはこのトリックの余禄に死ぬほど詳しいコラムが載ってるので必読。
んで、それをカードを使って表現するわけですが、元が言葉遊びなので絵解きしてしまうと不思議さの質はちょっと変わります。
最悪全く不思議ではなくなってしまうのでセリフやハンドリングにかなり気を使われていて、それでギリやばいバランスで成り立つような手品です。
かなり演技力は要求されますが、こういう余韻の手品ってそんなにない気がしますし、ビジュアル時代だからこそこういう手品で戦っていきたい気持ち。
Ideal & Reality Deck
インビジブルデックを結婚式で使う演出の話。
めっちゃ良いです。
セリフががっつり用意されていて、結婚式の空気にちょうどいい感じのチューニングがされています。
こういうの読んでて恥ずかしくなるようなこともありますが、これは全然そのまま使えるやつ。
結婚式でなくてもインビジブルデックの演出論として非常に面白く、サロンでのカードマジックについて色々考えたくなります。
インビジブルデックは元が強すぎてあんまり応用例ない気がしますけど、メンタルじゃなく楽しい見せ方でもそりゃ強いわけです。
Two-person Zero-sum
5枚の手札の順番をバラバラにして、2人の観客が交互に2枚ずつ位置を移動させて元の順番に戻した方が勝ちというゲーム。その結果を予言できるという原理です。
あほなのですごさがよくわからないですがすごいです。
たぶんこざわさんか賢い人がこの原理使ったもっとすごいの作ると思うので、とりあえず先見の明狙いで今のうちにすごいすごい言っておきます。
The Gift of the Magician
プレゼントを渡す方法。
派手なプロダクションではなく、輪ゴム手品の中でうまく手のひらを広げた状態で目をつぶらせるシチュエーションを作るというものです。
手品って動作に意味付けしていく遊びだったりしますけど、その手品こそが口実という味わい深いものがあります。
とても良くできてて絶対プレゼントじゃなく虫置いたり悪用するやつが出てくるので、名著だと思っててもその時は文句言います。
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