by jun | 2018/08/16

1991年のジョンカーニー作品集。
ステファンミンチが書いてます。
カーニーの代表作がびっちり詰まっていて、ビジュアルでインパクトあるものばかりで30年近く前の本でも全く古く感じません。
2014年に行われたPenguin LIVEのレクチャーでもこの本に載ってるマジックばかりを解説しています。
John Carney LIVE Instant Download


自分が80〜90年代あたりの手品が好きってのもあるんですが、カーニーのこの本は別格で、見た目の素晴らしさはもちろん背景にある考え方も非常に面白いものがあり、観客目線を常に意識した一つ一つの動きの意味など何度読み返しても楽しい本です。
クソかっこいい装丁のアートワーク通り、カード、コイン、カップ&ボール、マッチ、スポンジとジャンルも幅広く、どのトリックにも賢くてクールな工夫が盛り込まれています。

Predictable Surprise
/ Straggler / Final Trace

カードと紙ナプキンを使った3手順。
予言、移動、貫通、52to1的な盛り上がり、消失という綺麗な流れの中に、サプライズ要素がいい感じで入っていて、それでいて後半もどうでもよくならない構成が見事です。
普通何も考えずにやってしまうような技法にも一工夫があり、その積み重ねで全体的にマジシャンにはお馴染みのアレ感をなくしています。
フォースの仕方からスイッチ、ナプキンを使ったハンドリングまで細かいところが練られていて、無駄な動きが一切ありません。
マニア向けとかそういう感じでもなく、誰に見せるにしても違和感は減らしていく方向ってのは大事なもので、特にカーニー作品のような意外性のあるトリックはそこ勝負だったりするので、このルーティンはそこらへん学ぶことができます。

Chill Pack

ノーギミックのデックプロダクション。
超シンプルなのにめっちゃいきなりデック出てきた感があります。
ペンギンライブで初めて演技見ましたが、動画でも通用するぐらい強いです。
ジャケットさえ着ていればスタンディングでも出来、特にややこしいセットもいらんフットワークの軽さですが、自然さを追求するとかなり奥が深いネタ。

Ethereal Pack

観客の選んだカードを出そうとしますが、何度もジョーカーが出てきます。
ジョーカーをポケットに入れてもジョーカーが出てきて、そのジョーカーをテーブルに捨てるとデックがカード1枚になっていてそれが観客のカードです。

ノーギミックノーラッピングのデックバニッシュ。
サッカートリック的なネタですが、繰り返し失敗を見せることによる観客の心理を利用してその隙に大胆なことをするという構成が面白いです。
“This achieved with twenty percent sleight-of-hand and eighty percent psychology”っつーことで、全体の演技力と勇気が試されますけども、デックが視界から消えることがないデックバニッシュなので上手くいけばかなり強いです。

Inscrutable

エースを4枚取り出そうとしますが、4枚のジョーカーが出てきてしまいます。
4枚目のジョーカーで残り3枚を弾くと4枚ともエースに代わります。
この本の中というか、あらゆる手品の中で一番好きなネタです。

ジョーカーは1枚しか使いませんので、別に他のカードでもできるジェネラルカード的なあれですが、マジシャンにとっても想定外のことが起こってる感じが面白いですし、ジョーカーというどうでもいいカードっぷりによって変化させて終わりやすいというのもあります。

1枚しか見せないのですけどジョーカーが出てくる位置はトップ、真ん中、ボトム、どっかからいきなりという流れで、デック全体がジョーカーにも見える勢いなので4枚とも一瞬で変わった感はヤバいです。
セットやスイッチの方法はいじる余地がありそうで、特に2枚目は色々考えたんですが結局この解説通りが一番綺麗に見える気がします。

元ネタはディングルで使われてる技法もカーニーオリジナルのものは少ないのに、その組み合わせで見た目は超新鮮というクリエイティビティに溢れた作品でもあります。

Half Dollars in the Mist

2枚のコインの消失と出現。
あっちに持ったコインをこっちにもちなおしてもっかいそっちの手に入れてみたいな動きがなく、取って消えて握るだけで消えてと理想的な流れです。
出現で終わりますが消失は手のひらを見せる形で行えるので、隠してたのを出してきただけには見えないようになってます。

Versa Switch

複数枚のカードのスイッチ法。
エースアセンブリとかコントロールにも使えるやつです。
テーブルは必要ですが、その分説得力は高く、複数枚であることを動機とした動きの中でやっちゃうのが良いですね。
スタンディングでやるあれではなかなかこの感じが出ません。

バーサスイッチを使った”Kings and Aces Change Places”はこのスイッチじゃなくても感があるんですが、ビジュアルな4-4トランスポジションとしては位置関係が混乱しにくい綺麗な構成なので、一旦離してパケットを置いておくところを見せるのも効いてるのかなと思います。

Suicide Match

マッチの箱がにゅるーんと開いてにゅるーんと一本出てきます。
物騒なタイトルがついてますがにゅるにゅる可愛い手品です。
箱に入れるタイプのライジングカードみたいなもんですけど、省スペースでできて公明正大感と動きのホーンテッド感が楽しかったりします。

Seconds on Jack Sandwich

2段階のサンドイッチカード。
1段目はテーブルに置いた2枚のカードにデックに戻したカードが挟まるという理想的なサンドイッチ。
技術的な難易度も高く、動作の口実に説得力を持たせる演技力も必要ですが、こういう観客とコミュニケーションを取ることで成立する手品って良いですね。
2段目はいわゆるいかに今挟まった感を出すか勝負のあれなんですが、直前までは挟まっていないことと今挟まった感の演出はさすがです。
結構ガチっぽく見えそう挟み方なんですけど、絶妙に物理的に無理な感じが出る見せ方で、1段目の方が不思議やんを避けています。このガチっぽく見えてちゃんと手品っていうバランスが見事。

The Logical Bill Trick

折ったお札からコインがちゃりちゃり出てきて、最後にお札を開くと別のお札に変わってます。
よくこんなこと思いつくなっていう機構で、仕掛けがよく出来すぎていて現象の割に低負担。
めっちゃおもろいです。

Bullet Train

Card up the Sleeveのバリエーション。
ノーエキストラで4枚のエースが移動します。
エキストラ使わないので最後の一枚をどうするかというのが注目されるわけですが、これが本当に素晴らしく、プロット的にもビジュアルにも破綻なく達成していてやばいです。
賢さもあり、スライト力もかなり高いレベルで要求されますが、なんとか頑張りたいものですね。

Sanverted

ラストトリックの改案。
下に回した2枚の赤いAがトップに上がってくるアンビシャス現象を繰り返し、テーブルに置いた2枚の赤が手に持ってる黒と入れ替わるという構成。
赤が常に上に来るという見せ方によって位置関係と現象を上手く伝えます。
中盤はずっと赤のAしか見えないので、テーブル置いたのも確実に赤のAに見えるのが良いです。
カードを1枚減らしてというフェイズが挟まることによって更に説得力が増し、最後に黒の2枚をめくる時のじわっと来る感じも素敵。

Oil on Troubled Waters

デックをシャッフルしてもらってから3-3のオイルアンドウォーターをやって、デックを見ると赤黒に別れてます。
ノーエキストラノーギミックで、3-3パートは3段構成。
1段目はフェアに混ぜ、2段目はフェアに開くというちょっと珍しい組み方です。
フェアに混ぜたらフェアに開けないし、フェアに開ける時はフェアに混ぜてないということなんですが、まず表向きでしっかり赤と黒を混ぜてるとこを見せることで2段目の混ぜに疑いを失くして、デックを混ぜた印象も残りやすいです。
フェアに示せないなりに工夫があり、1段目から2段目もシームレスに移行するので全体的にはフェアに見えます。
オチのフルデックの見せ方もただ広げるだけでなく、全ての操作が完了していてもよりインパクトを出そうとする姿勢は本当に素晴らしいですね。

とりあえず特に好きなものだけ書きましたが、他のネタも全部最高で捨てネタなしのガチ名著だと思ってます。
難易度的にはかなり高く、手の筋が切れるようなことはなくても淀みなくするにはめっちゃ練習いります。
カーニーのように面白おかしくやろうと思ったらより自然な手つきが求められるので険しいです。
映像化されてるものも多く、当然カーニーが演じるこれらのトリックは最高としか言いようがないのですけども、映像では伝えきれない意図も詳しく書かれていて、裏の凄みは文章の方がわかります。
こういう考え方を知っておけばどんな手品でも行間を読めるようになりますし、すごいなー賢いなーって思えるのでおすすめです。
出来るかどうかは別問題。

Sponsored Link

Comments

deltavox

Jamy Ian Swiss氏が、CARNEYCOPIAの内容だけで生計を立てることができるって言ってた気がします。

8月 16.2018 | 11:13 pm

    jun

    プロの世界のことはよくわかりませんが、ジェイミーイアンスイスが言ってるならそうなのでしょうね。
    解説されてるトリックも創作論としても演技についても、アマチュアから見てもガチ本物ってのはよくわかります。
    手品の本って知識がついてくるに連れて響くものが減ってきたりしますけど、これは読み直すたびに凄みがわかる本です。

    8月 18.2018 | 02:27 pm

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です