ラリージェニングスのカードマジック入門は読んでてもこっちは読んでないって人も多いのではないでしょうか。
入門の方は本当に入門しやすい感じで、一つ一つ技法を教えながらそれを使った手品を解説し少しずつ上達していく感覚を味わえるものでしたが、こちらはいきなりぎょっとするようなハードコアな技法が使われていたりして全く別物です。
この本はリチャードカウフマンが書いていて、元の本のタイトルはJennings ’67。
原著は97年に発売されていて、67年からの30年間なジェニングスが作ったマジックが解説されています。
30年あると同じ現象にも解決法の変遷があり、バリエーションをいくつも解説していてかなり研究家向けの内容です。
シンプル・トリック
ここは比較的穏やかで、入門から来た人でもすんなり入れるセルフワーキングっぽいものもあります。
セルフワーキングっぽいものにもちょっとしたテクニックを入れることでより不思議に見えるようになっていて、”Impossible Divination No.1″なんかは数枚のセットが必要なカード当てですが、導入部の動きがいい感じです。
“Impossible Divination No.2″はノーセットでできるものですけども、セットの枚数もそんな多くないしバランス的にはNo.1の方が優れてる気がします。
同じ名前ついてるけど原理は全く別で、No.2の方は一切表を見ずに当てれるので、知らないとコロッといっちゃうやつです。
その後の”Monarchs’ Quartette”あたりからジェニングスらしいワイルドな技法が飛び出します。
いくつかの技法
ダブルプッシュオフやパーム、リプレイスメントなどの技法パート。
ダブルプッシュオフは今となっては角を押す動作が不自然に見えなくもないですが、サンドイッチカードで下のカードをあれしたいときにはこういう形の方がいいかもしれません。
数枚のカードをコントロールするマルチプルシフトも覚えていて損のない技法です。
“Immediate Bottom Placement”はコンビンシングコントロールと言われてるあれですが、カウフマンがマルロー問題に割と踏み込んでいて面白かったです。
ジェニングスのハンドリングの方が流れ的には自然に見える気がします。
ギャンブラーズ・コップでの試み
“’67 Transposition”はサンドイッチされたカードと胸ポケットに入れたカードのトランスポジション。
ノーデュプリケートでサンドイッチの特性を活かしつつも割と力技。
2つのバージョンで解説されてる”The Six/Four Count Card to Pocket”は10枚のカードの中から1枚消えて別の場所から出てくるカードアクロス。
消失に説得力を持たせて移動は大胆にってのは割とジェニングスに共通してる気がしますが、これは消失もややワイルドです。
輪ゴムをかけたデックからセレクトカードだけを抜き出す”Houdini Card Escapes Again”はパームの使い方としてダイレクトではなく、輪ゴムだけじゃなくハンカチでもなんでも応用できるしパーム&リプレイスメントの練習には最適。
プリンセス・カード・トリック
厳密にはプリンセスカードトリックではないらしいですけど、5枚の絵札の中から心の中で覚えてもらったカードだけが消えてポケットから出てくるというプロットを6種類紹介しています。
“Reconstructing the Professor’s Princess”の方法4として紹介されているビルグッドウィンのアイデアを足したものが良かったです。
一回質問が必要ですが、実際には書かれてる確率より高くラッキーパターンが出るように思います。
どのバージョンもわざわざカードインポケット的なものをパケットとしてやりたいかと言われると微妙なんですけども、消失をわかりやすく示せるので軽いメンタル風な手品としては面白いです。
フェアかどうかはまた別問題なのが厄介なところでして。
ミステリアス・ナンバー
一番プロット的に好みなものが解説されてるチャプターでした。
2バージョン解説されている”Depth Thrus”は、観客に背中側でカードをひっくり返して中に戻してもらい、それがサンドイッチになってるやつ。
Ⅰの方は適当なカードでやるので見た目は綺麗じゃないけどレギュラーでできて、Ⅱの方はまあぎりレギュラーみたいな感じで、まだまだ色々考える余地がありそうなトリックです。
ダブルバック1枚でどうにかならんかなと考えていますがなかなかどうにもならんですね。
少し変わった”Search and Stop”はジャケットのポケットを使うものですが、確実に見えてるカードのところでストップしてもらえるのでポケット使ってるダーティさはあんまり気になりません。
これスムーズにやるのかなり難しい気がしますが、最後の抜かりないサトルティが素敵。
ファローかませた状態からの4Aプロダクションである”Larry Whistles and Slides”も面白い動きですが、裏もなかなかに変な動きなので指が動かんです。
チャレンジ
今では結構主流になりつつあるトライアンフの元の”The Truthful Triumph”。
ここではカード1枚だけあれするあれの解説でした。
2枚あれしてあれできるようにするのもグッドウィンのアイデアでしたっけ。
“The ’65 Aces”は消失、観客がエースを選んでしまう、トップに上がってくる、バラバラの位置で表向きになるというてんこ盛りエースルーティン。
全部やるのは結構負担ですが、うまく先をいく構造なので今風の技法も織り込みながらやってみたい感じです。
ジェニングス作品でよく出てくる”Vernon’s Creeping Reverse”は複数枚リバースできて便利。
インビジブル・パーム・エーセスの進化
ジェニングスといえばこれって人も多いでしょう。入門でオープントラベラーと言われてるやつです。
時系列順に6バージョン解説されていて、No1読むと、ジェニングスさんこんなことしてたの!?ってなると思います。
エキストラを使わないものやガチでパームするものなど、今逆に流行りそうな感じ。
1と2はちょこちょこ左手に持ってるデックを使うもので、3は全くデックを使わない上にノーエキストラ。
最後の消失問題もデック使うやつよりこれの方が筋が通ります。
今っぽいオープントラベラーなのはNo4から。
4枚のAでなくA〜4を使って移動の前後に移動したカードを改められるバージョンです。
ズルはしますし、こんなんならあらためんでもええなって感じもありますけど、理想的な形ではあります。
No5はまたノーエキストラに戻って、ちょっと大胆な方法で移動を示します。
4枚目の処理とか、えってなりました。
No6が今みんながやってる形に近いかってーとそうではないですが、あれを足す方法や処理する方法はここで解説されてるものの方が矛盾なくて良いと思います。
エース・アセンブリーを考える
あまり関心のないジャンルですが、”Simple Stencel”はフォーメーションに並べるとこは本当にエース置いて3枚置いてって形で好みです。
その後デック使ってあれこれするんですけども、見た目矛盾もないし無駄な動きなく綺麗にはまるのでパズル的な面白さがあります。
使われるスイッチも好みのもので、理由さえちゃんと説明できれば強いです。
なんでデックの上でやるのかってとこに正当な理由をつけるのはたぶん無理。
ツイスティング・ザ・エーセスを考える
ちょっと変形の”Leaveing the Body”は、3枚のカードで行う移動オチがついたツイスト現象で面白かったです。
1と2は順に表向きになるけど3は消えてデックの中で表向きになってるってやつで、オチとしても話としても綺麗じゃないでしょうか。
色が変わったりするより遥かに意味が通ります。
最後はパイナップルサプライズというハートのA〜4がツイストを経てスペードのA〜4になるバリエーションで畳み掛けられていて、サプライズオチのパケットものはあんまデック使いたくのでどれも結構微妙でした。
レギュラーでできる”Pineapple Surprise au natural”とかは自然にやったら良い感じになるのかなと思いますけど、ダブルフェイス4枚でええんちゃうかって気もせんでもないです。
インパクトある現象はパームを使うものが多いですが、ジェニングスさんのような大きな手じゃなくてもそこまで無理はしなくていいのかなと思いました。
手はでかいにこしたことはないですけど、抜いて出す意外のパームの使い道として賢く、割といい感じの位置に組み込まれてるあたりがクールです。
意外とこれだけパームが全面展開されてる本も珍しい気がしますし練習用にちょうど良さそう。
それでもパームって文字見るだけでぎゃあああってなっちゃう現象は一体なんなんでしょうか。
手は大きい方なのですけど心が異常に小さいので手品ごと放り出してしまった方が良さそうです。
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