1998年に出たピットハートリングのレクチャーノート。Lybraryで電子版が出てます。
カードマジック5作品と小ぶりに見えますがどれも大ネタとして使えるもので、全面にエンターテイメントが漲ってる本です。
ピットハートリングの手品はとても愉快なものでありつつ、完璧に不思議じゃないとダメってところも貫いています。
このギミックとこの技法とこの原理を組み合わせればこんな不思議なことが出来る、というだけでも面白いのですが、観客とコミュニケーションを取る中での盛り上げ力が圧倒的に強いです。
だいたい盛り上がるところに間接的なトラップがあって、セリフも取ってつけたようなもんじゃなく手順との必然性があり、ただ笑いを取るだけに存在するギャグも使われません。
何か言ったり何かしたりする時に色んな目的が果たされるものは良い手品ですが、この5つの手順にもそのエッセンスが詰まっています。
Robin Hood: Zinnng – Trrr
4枚のエースを出して空のカードケースに入れて、3枚選んでもらってそれが箱の中でコレクター状態になります。
手法的な面でもとても優れていて、コレクター現象の中でもベスト級に好きな一作です。
タイトル通りロビンフッドになぞらえて演じられるのですが、観客にいい感じで参加してもらえて、トランプと輪ゴムを使うだけなのにダイナミックなことが起こったように見えます。で、実際に超不思議なコレクターです。
結構早い段階で仕事が完了するタイプのコレクターなんですけど、フェアであること以上に演出によって何かが隠蔽されたという感じがしないのがでかいです。
オーソドックスなコレクターをこの演出でやってもロビンフッド関係ないやろってなりますし、ロビンフッドがいないとヤバイ箇所が明るみになりやすいと思います。
あとこれぐらい盛り上げれる演出だと3枚もカード選ばせることにあんま違和感ないですね。
クリーンなハンドリングでガンガン期待値上げれますし、カード選ばせる前に興味引く話がついてるだけでマジックを起こす準備パートにだるさがありません。
Chaos: Mandlebrot’s Revenge
2人の観客にそれぞれカードを選んでもらって、その位置を入れ替えて元に戻してもらい、順番をぐちゃぐちゃにした後当てます。
数理的な手品っぽく見せてからぐちゃぐちゃに配るという見せ方で、やってることは言うほどカオスじゃないのに凄い何かを破壊してる感が出てて良いです。
観客の選択肢にあまり自由度がないのはちょっとあれですが、この見せ方ならそんなに重要視するとこじゃないのかとも思います。
原理としても活かし方も面白く、完全マニア向けの手品になってないあたりがさすがです。
ラストの状態については証拠残したくないので補足で書かれてるやり方が好みでした。
Defect: The Electronic Deck
3枚のカードをライジングカードで出そうとするも・・・という、この本の中では一番コメディ寄りの手順です。
とは言ってもちゃんと不思議で、オチに使うカードも面白いんですが、そこまでの流れは割とハードコアな技法を使ったりします。
基本的な三段構成ではありますが、ちょっとでもバランス狂うとぼやける危ういオチなのでさすがという感じです。
出すだけでウケそうな面白アイテムですけどここまでの手順はなかなか思いつかんですよね。
複数カードを同じコンセプトの違うバリエーションで出してくるというのは意外とオチを付けにくかったりするので、こういう飛び道具使いは参考になります。
Triathlon: Mind Jogging
見て覚えてもらったカードと、頭にイメージしてもらったカードと、誰も見てないカードを当てるカード当てトライアスロン。
Card Fictionsより頭を使う手順が少ない本ですが、これだけは結構大変です。
あと演技もかなり難しいものがあります。
うまく決まればそれぞれの弱点を補い合ってめっちゃ不思議に見えるはず。
これも綺麗な3段構成ですが、観客に提示する難易度の設定も上手いですね。
誰も見てないカードと観客が自由に思い浮かべたカード、実際にどっちが難しいかじゃなくプレゼンで説得力を持たせ、その扱い方で不自然さをなくしてクライマックスを盛り上げます。
観客の想像のカードの当て方としてこういうアプローチもあんのかという感じです。
Cupit: A card romance in three acts
メイトカードのルーティンです。
あるカードを表向きに差し込んでもらって、その隣にメイトカードがくるということを繰り返しつつ、ラストは観客と一緒にシャッフルしたデックが全部メイトが隣り合わせになります。
観客と一緒にシャッフルするところがミソで、めっちゃ演者都合なのに観客全員に混ぜたという強烈な印象を残します。
ややキャラクターを選ぶ演出ではあるものの、盛り上げるということは記憶に残るということで、盛り上がったら盛り上がるだけ演者都合の部分は薄まるわけです。
全体的に観客が参加する手順なので、演者のコントロール下という感覚は取り去りたいわけですが、消極的じゃなく先回りできてます。
デニスベアの”Mating Season”も最高でしたけどやっぱこっちも良いですね。
どの手順も演じる難易度は高めではあるものの、やはり隅々まで計算された手品は面白いものです。
さて、ピットハートリングといえばIn Order To AmazeとCard Fictionsの増刷が決まったそうで、Card Fictionsの方はアップデート版のハンドリングも収録されるとのことです。
日本語版にだけ”Unfogettable”の2段目の改案手順が入ってたりしてましたが、他にもなんかあるっぽいので楽しみ。
本人がどの手品のどこに不満があったのかというだけでも興味深いものがありますし、エクステンデッドという言葉のマニア心こちょこちょパワーには抗い難いので買ってしまうのでしょうね。
https://twitter.com/PitHartling/status/1062062842214539264
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