デミニッシングリターンズ等でお馴染みのマイクパワーズさん新刊です。
TESSERACTとは表紙にも書かれてる四次元超立方体のことで、これがなんであるかは本書にもさらっと解説があるのでここでは省略します。これから読む皆様の楽しみを奪ってはいけないという思いが強いのであって決して理解できてないわけではないです、四次元で超立方体です。
それはそうとマイクパワーズさん、この前が2006年のPower Playsでなんとなく定期的に作品出しそうなクリエイターという印象でしたけど13年空きました。
Power Playsには見た目がおもろい手品がたくさん載ってましたが今回はかなり地味め。もちろん地味だから悪いということはなく、しっとりとした味わいがあります。
技法と手順合わせて55個も解説されていて、だいたいの手順が複数現象が起こるものなので、不思議なことが起こる基準でカウントすると200回ぐらいです。
正直これの後にこれはどうなんとか冗長さを感じるものもなくはないですが、上手く演じればインパクトのある流れに出来ると思います。
そりゃまあなんだって上手く演じたら良くなるだろうという話ではありますけども、一体どんな名人ならこの手品を面白く見せることが出来るのかというものとか誰がやっても80点ぐらいの感じになるような逆にそれはつまらんという手品もあるし、良い感じに自分で工夫できるラインの手品というのは丁度いい塩梅で演技例も詳しく書かれてるのでこれをどうしろと言うのですかという投げっぱなしのはないです。
著者は一般の人にもマジシャンにも演じてエンジョイしてると言っていますが、どちらかというと一般向けに演じる内容だと思います。
特にレギュラーデックのみのパートはスタンダードな技法を多く使うので、少なくとも不思議という意味ではマジシャンが超びっくりということはあんまないです。一部完全にマニア向けというのもあるので、全体のバランスは悪くないかと思います。
7つの章に分かれてるので章ごとに少しずつ。
Unprepared Card Mysteries
最初はレギュラーデックで行うトリックのチャプターです。
Unpreparedとありますが簡単な準備が必要なものも含まれています。
観客の前でセットしても負担じゃないぐらいの意味で、まあまあめんどいのもあるしレギュラーじゃないのも一部混じってます。
ここは正直ちょっと退屈な感じでした。
クラシックの改案が多いし、使われてる技法がかなり偏ってるので著者好みのハンドリングという趣が強いです。
手堅い技法なのは良い面もあるのですが、ぱっと見で原案から良くなったかどうか比べるとそこまでかなーという気がします。
現象や演出が足されてるのでそこを気に入れるかどうかが勝負。
最初の”The Lying Traveler”は、21カードトリック風に始まり観客のカードがパケットからパケットへ移動していくトリックで、最後は嘘本当のスペリングで当てます。
移動するところの企みは面白いのですがちょっと長すぎるのと、あんまり現象同士が噛み合ってるようには思いませんでした。
続く”Small Packet I.C.”はパームオフ的なあれで、技法と演出にこだわられてるのはよくわかります。
パームオフは今年読んだAnimal Trailに載ってたKohei Imadaさんのやつがめちゃくちゃ良くて、しばらくあれ超えるのはなさそうというのもあり、特に手法の新しさは感じませんでした。
ジャズエーセスにオーヘンリー的なバックファイア落ちをつけた”New Jazz”は現象的にはまあまあ好きなのですけど、これ厳密にはオーヘンリーというか終わった後のトランスポジションなのでジャズエーセスの単調さを逆手に取るというのがあんまり上手くいってないと思います。
カウント使わなくてよくてそのカード構成をトランスポジションに活かすというのは綺麗ですけど。
上手くいってる例としてはLuis Oteroの”Super Jazz Aces”とかが好きですね。
“Royal Surprise”はカード当てにロイヤルフラッシュが出てくるオチがくっついてるものです。これはどうでしょうどうなんでしょう。確かに話はあるしサプライズ感に繋がるミスリードも効いてはいますが、うーん。
“Way Too Many”も現象ごちゃ混ぜの2枚カード当てで、これはちょっと外したセリフ感と変なことが起こる雰囲気が良いです。
カード捨てても増えるやつから変化したりAが出たりと忙しいですが、このドタバタ感は結構好き。
ただまあ最後サンドイッチで当てるとこが苦し紛れ感ありありでやっぱり統一感はないように見えます。
4枚Aが出てきてその2枚だけを使ってサンドイッチするというのももにょもにょしますし、エンドノートに「ラストトリックにも出来るよ」みたいなことが書いてて増やせばいいと思ってる節がありその辺は合わないです。
途中から面白くなってきて、例えば”Push Through Success”はちょっと変わった見せ方のホフジンサーエース。
デモンストレーション風に見せれるステキ演出です。
面白いアイデアだなーと思ったらクレジットに超今更だけど最近注目してるMichael Kociolekさんの名前が。
メイト一致の”Speed”もなかなか良かったです。
まあ前半だけで現象にできるものにもう一捻りしたという感じではあるんですけど、こういう一捻りは個人的にはアリ。
先に夏休みの宿題終わらせて遊ぶ感じ。
既存の現象の演出の変化のさせ方という意味でも参考になりました。
もいっこメイト一致の”No Palm Match Me”の方は演者と観客でパケットを分け合ってそれぞれ選んだのがメイトになってるってやつで、最後は4Aが出ます。
同じ技法で繰り返すところがやや難。
ほとんど使う技法は同じで、変化現象にもなってたHarapan Ongのあれは超賢かったですね。
“The Unexpected Visitor(s)”は、パケット状態でのビジターで、これ自体はまあまあという感じなのですけど、同じような手法を使った”The Fly”は面白かったです。
映画のザ・フライ(ハエ男の恐怖)は装置と装置の間で物体を分子レベルに分解してから移動させるというマシンがあって、開発者がこれで人も移動できるのではと試したところ装置にハエが紛れ込んで移動先でハエと合体してしまうというストーリーなのですが、この感じが表現された手品になってます。
まあ映画、特にデヴィッドクローネンバーグ版を観るとそんなものでフライを表現したつもりかとは言われそうです。
エグくなくても良いから、見た瞬間なんじゃこりゃっていうようなギャフ使うとかすると良さそう。
カードの貫通”Schrödinger Dream Revisited”もマルチフェイズのルーティンで、マットの下に貫通したり色々と楽しいです。
貫通にバリエーションを持たせてるからこれに関してはそんなに長さが気にならないような感じはあります。
“No Trabsfer Whispers”はジョンバノンの”Cries and Whispers”の改案。
4枚のJで選ばれた3枚のカードを当てて、4枚と3枚がトランスポジションします。
これは普通に良くて、改案ポイントがジョンバノンがやりそーって感じになっていて、まあたぶんバノンも思いついていたであろうという気もしますけども綺麗は綺麗。
入れ替わりにもう少し意味を持たせてくれていたら文句なしだったんですが、スーパーパワーがどうのというだけなのは残念です。
Prepared Card Mysteries
何かを準備しておかないといけないチャプターです。
“Triple Whammy”は3枚のカード当て。
ちょっと3枚選ばせるとこのテンポが悪いように見えますが、確実に真ん中に戻したような感じは出ます。
ギャフ1枚を有効活用できてる手順です。
“Boxed Surprise”もマルチプルセレクションで、箱の下とか箱の上とかから出てきて最後はデックバニッシュして選ばれたカード意外が箱の中に入ります。
これはレギュラーでやる方法もありますけど、最後のオチを楽にするためにこのやり方はバランス良いと思いますね。
この後の手順をボーナスステージにするためのセッティングを自然にできるのが嬉しい。
まあカード6枚選ばせるのもどうなんという気はしますが、構成的にはいい感じです。
1枚だけポケットから出すとこは気になると言えば気になるけど、箱の中からデックが出てくるからそっちで想像はされないようにはなってます。
“Open Prediction 999″もなかなか良かったです。
オープンプリディクションはレギュラーでやってこそというのはまあそうですけども、レギュラーでもどうしてもすぐ見せろよってなりがちで、そこをちょっとすぐ見せれるようになってます。
すぐというか段取りの意味がはっきりしてて長く感じないというか。アフターフォローのやり方もめっちゃ良いです。
あれを使うところに工夫がいくつかあり、演出もしっかりしてるので意外と低ストレスで出来ると思います。
コールカードでのサンドイッチカード”Finessed Finders Keepers”も良かったです。
Matt Bakerとかもよく使う、エスティメーションできなくても大丈夫な感じのあれの使い方。
サーチャー型のサンドイッチにマッチしたゆったりしたテンポで演じられるのが良いですね。
元ネタのトリックが好きだからというのもありますが、普通に気に入りました。
Faro Slough Off Ideas
ファロースルーオフを使った手順の章です。
なんて言ったら良いのか、ファローシャッフルを使った某原理の親戚みたいな技法です。
これは原理というか普通に技法要素もありまして、結構演技中だとストレス高い部分があります。
まず、”Odyssey Ⅲ”はフォーオブアカインドが揃う現象なのですが、観客が取った枚数を演者が同じ枚数取ったりして超偶然すごーいというのが予定調和っぽくなくできます。
枚数一致があることで、ちょっと気になるある点が有耶無耶になるのが良いです。
“YCAAN”はカードアットエニーナンバーです。
エニーナンバー系の現象ならさすがに某原理を使った方がすっきりする感じはありますね。
コントロールの一つの例としては参考になりますが。
Scripted Mysteries
いわゆるストーリー手品という感じのがまとまったチャプターです。
擬人化とかちょっと苦手なジャンルではありますが、どうにかこの手順を救いたい!という作者の優しさが見えます。
“The Masque of the Red Death”はポーの「赤死病の仮面」を題材にしたパケットトリックで、赤いパケットから1枚テーブルに置いてそこにKを差し込むとKが消えて…みたいなのを繰り返して置いたカードがAになってるみたいな謎手順。
これはセリフついてるけど結構苦しいのではないでしょうか。
観客の想像力はもっと別のところに使ってもらった方がいいと思います。
ちょっと好きなのは”Royals Versus Ace-Stros”という野球モチーフの手品で、ホームランをカードで表すのは面白かったです。野球題材手品ってありそうでないですよね。
ダジャレも入ってるしなんでも野球に例え出すしおじさん要素を隠すつもりもない潔さが素晴らしいです。
Friends
パワーさんのお友達の手品が載ってます。
Cameron Francisの”Impossible Versus Improbable”は、3つのパケットを置いておき、客が選んだ3枚のカードと合わせるとそれぞれフォーオブアカインドになって、なんかそのうちの1枚ずつがAに変わったりします。
なんというかその、元にあるアイデアの乱用というか、それ繰り返しちゃうのーっていう、まあジョンバノンのアイデアなんですけど彼の手法ってギリギリアウト寄りのバランスで成り立つものが多いので使い方は気をつけなきゃいけないと思うのですよね。そのバランスが面白いのであって手法だけ切り取るのは難しいよなーと。
現象の流れも偶然の一致からあり得ない事が起こるというコンセプトで、それ自体は面白いけどこの手順だと前半の印象をぼんやりさせてしまってると思います。
このチャプターで面白かったのはKevin Casarettoの”Signed, Sealed & Delivered Redux”という手順。
封筒の中に入れた2枚のサインカードが入れ替わるというもので、入れ替わり前の状態がわかりやすくなっていて、ハンドリング的にもややこしいことはなくすっきりしています。
Moves
オリジナル技法がいくつか紹介されてます。
バリエーション的な物が多いので、あんまりなくても困らない感じです。
まあそれ言い出したら手品の本なんか読まなくても死なないのでこの世の全ての技法は不要ということになってしまいますし、この本の手順の中で使われてる技法も含まれているのでちゃんと読みましょう。
しかしそれだとしたらこの章は最初にあった方がいいのではと思います。
あと、この本買うとパワーさんが基礎技法をレクチャーしてるオンライン動画を見る事ができます。この情報もこの記事の最初に書くべきでした。
“Finessed Gallo Shiffle”と、ケリーボトムプレイスメントテストの工夫は良かったです。
ケリーボトムプレイスメントテストは独特の変な角度でデックを揃えなくていいようになってます。
Pure Mathematics
数理トリックパートです。
章題を見るとセルフワーキングとかを想像しますが、ちょっと技法がいるのもあるしなんなら全くピュアじゃないのも含まれます。
本書の目玉である”21 Again/Invisible 21″は21カードトリックを1回の配り分け段階で特定してしまう方法で、そのギャップを活かして色々できます。
その一例として選ばれたカードを見えなくして20枚になり、それが現れるという現象が紹介されています。
21カードトリックを知ってる人に見せるなら意外性があって良いネタです。
カード当ての”Moe Fun”はめっちゃ不思議ですが手法はなかなかアレです。
アレ使ってコレ?って感じのだらだら作業とあまり良いとは思えない演出で、しかもこれ結構説明するの難しいし負担も大きいと思うのですが大丈夫なんでしょうか。
“Chaos”は4桁の数字から1桁の数字を作るやつと、Spectator Cut the Acesの組み合わせで、原理はThe 数理という感じで面白いです。
有名な原理ですが、カード現象とうまく組み合わさってると思います。
Spectator Cut the Acesの最後の方のグダグダはなんとなく有耶無耶になるはず。
“BTTP Revisited”はBTTPの原理を使った現象です。
スペリングなんですけど、BTTP自体は面白い原理なので知っておいて損ないと思います。
これに関してはスペリングともマッチするし、ちょっと枚数をあれすれば日本語でも演技可能。
“Incomplete Two Way”は2枚覚えてもらって、観客がカットした場所とその枚数目からカードが出てきます。
ジョセフバリーとかがよくやってるズルいやつで、数理的な原理と組み合わせてなかなかいい感じです。
最近ちょっと調べてた原理だしそういう使い方もあるなーと。
Miscellaneous Mysteries
カード以外の素材多めの最期の章。
コインはCSBギミックを変わった使い方してる”CSB”というルーティンが良かったです。
入れ替わりの前段階でわかりやすい移動現象が入ってて見やすい。
“U.F. Coins Across”というアクロスは読むだけだとそれだけですかって感じなんですが、実際見ると凄いのでしょうか。
これは結構移動の焦点がボケてる気がするのですが。
某傑作iPhoneアプリを使った”Rising Mistake”は擬似的な同調現象のようになっていて、これはこれで結構あり。
インビシブルデックとレギュラーデックを使ってなんかやる的な感じのあれです。
指輪と輪ゴムの貫通”Ring Bandit”は普通に良い手順ですが、オリジナリティはよくわからん感じになっていました。
まあ名作を組み合わせたらよくなるだろうなという。
組み合わせ点もまあ普通に考えるレベルだと思います。
普通に良かったのは”Flipped Out”という観客が選ぶコインとその裏表が予言されてる手順。
裏表も当たるところが賢いです。まあ観客はなにが起こるかわからんからちょっとこねこねしても一応成り立つわけですが、どうなってもフェアに見せれるしミステリアスな感じもあって素敵。
いやまあジョンバノンのあれの見事さとかもありましたけど、お手軽に財布に入れておけば出来るしたまにやるようになりました。
“Heisting Histed Heisted 3.0″は5人の観客に5枚ずつカード渡してその中から1枚覚えてもらってぐちゃぐちゃにしてもらいますが当てれます。
質問はしないといけないのですが、ある工夫があってシャッフルさせられるようになってるので数理的な気配は感じません。
演技中そんなに頭使わなくていいのでなかなか良いバランスだと思います。
そんなわけでなかなかのボリュームなのですが、もう少し絞ってくれたら印象も良かったかなという感じもしなくもないです。これ発表するほどのことかいなというのもまあまああって、良いやつは結構良いので。
ちょっと気になるのは良いやつの良い部分というのが元ネタの良さそのままだったりすることで、ディセプティブさが跳ねてる感じはあんまりなかったように思います。
悪くはなってないし、クレジットはしっかりされてるのでここから興味あるのを掘っていくというのには良い資料です。
セルフ改案のものは概ね良くなってると思いますが、2006年のPower Playsに対して2019年のこれだと革新性は後退してる感も否めませんね。
たぶん今読んでもPower Playsの方がフレッシュに感じると思います。
全体的に演者の負担のなさはかなり意識されてるようなので、しっかり演じられるレパートリーを増やしたいという方には良い本です。
なんだかんだ今年は結構この本の手順で遊んだ気がしますし、読んだだけじゃピンと来ないやつでもこういう反応が得られるのかというのもありました。
好みが偏りがちな人にも良い刺激になるのではないでしょうか。
レッツ四次元。
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