by jun | 2020/09/21


2017年にVanishing Incから出たPete McCabeの本。
マジックキャッスルも出てるらしいですけど本業は脚本家をやってる人で、この本に載ってる手品の全ての現象がハリウッドの脚本形式で書かれています。
ご本人の手順だけでなく、ユージンバーガー、ジョンロヴィック、エリックミード、デビッドリーガル、ガイホリングワースの手品脚本も載っていて、まずそれだけでかなり満足。
全部で43種類のセリフと演出例が読めて資料的価値も十分ですが、この本の目的は大量の脚本を浴びせて最終的に読者も自分で書けるようになることで、名人へのインタビューなどを通して脚本を書くことの重要性が全編にわたって展開されています。
脚本の書き方を教えてくれる資料はあんまないのでとりあえず一冊読むならこれという感じでしょうか。
手順も全体的に演じやすく、観客参加型の楽しいのが揃ってます。
McCabeさんの作品は手法をうまく隠しつつ盛り上げ感を高めるようなセリフがついてることが多く、変に凝った設定というよりも観客を巻き込んでいく感じなのでとっつきやすいです。
古典的な作品に後付けしただけ感のやつもあるんですけど、ハンドリングの改変は悪いものではなく、動きも現象も観客に何を伝えたいかがはっきりしてるという良さがありました。

Scriptwriting 101

基本のキということで、シンプルな脚本になる5つの手順が解説されています。

最初の”The Vortex”はキャンドルを使ったコインズアクロス。
Geoff Lattaの手順と技法が元になってるだけあってとても良いです。
一見推察されてしまうのではと思うところを道具と演出でカバーできていて一貫性もあります。

“I’ll Be A Miracle”カードケースの中で復活するT&R。
ポールハリスのあれを使い、サインカードで行えるようになってます。
これは脚本で読んでもここで何かなのだろうなというところが残っていますが、道具力でなんとかなる系のもの。

以下トリックデックを使ったメンタルリバースが3種類。
“It’s the Future”はパケット内のリバース現象からデックの中のカードがリバースします。
いずれも観客が指定したカードで起こり、うまいこと盛り上がるのでしょう。
トリックデックを使うので、こういうのはシンプルに使うのが一番という気持ちもありますが、パケットで先に行うことで普通のデック感も出ますし、2つの現象の弱い部分を補いあってる感じもあります。

“Super Powers”観客自身が現象を起こしたようにする見せ方です。
やってることは観客の手にデックを置くだけなのですが、デックを触らせたり丁寧な演出によってそれ感が出てます。

“My Tribute to Vernon”ハートだけを抜き出したパケットから1枚選んでもらって、そのカードが消えてデックの中から1枚だけ表向きに現れます。
抜き出してからパケットとデックは接近せず、変なムーブもなく移動した感があります。これもレギュラーデックに見える工夫があってなかなか良い。

A Theatrical Endeavor

ユージンバーガー、ジョンロヴィックとの鼎談。
脚本作る派の三人がなぜそうするのかということを中心に語っています。
振り返りとしての機能やトリックの肝が見えてくるという話など、たしかに頭の中で考えてるだけでは無理というメリットが見えやすいトークです。
ロヴィックの主張はHandsome Jack, etc.でより詳しく語られてるので合わせて読むのがおすすめ。

このセクションでユージンバーガーとジョンロヴィックのジプシースレッドの脚本が起こされていて、同一現象の比較をできて大変よかったです。
お二人とも強烈なキャラクターと演技力で引っ張るマジシャンですが、字面だけでも個性の違いとそれに相応しい盛り上げ方をしているというのがわかります。
そのまま真似するのは難しいかもしんないですけど、キャラクターさえ作り込めばなんでもできるんやなというのが見て取れるのではないでしょうか。

Developing Your Character: How Do You Do That

どうやってやったの??に対する返答の話からキャラクターをどう作るのかという話に。
手順は”ICare”というコメディタッチのトラベラーが解説されています。

The Add-a-Number Prediction

観客がランダムに選んだ数字の合計を予言するトリックについて。
“I Adds Up”という手順が解説されています。
ハンドリングや原理自体も良いのですが、数字の決め方が面白く、観客も適当に言うしかないような感じで選ぶので予言としての面白さも高まっている感じ。日常会話的に行えるし、応用例もいくつか載ってるので自分に合わせたセリフを組めるようになってます。

Marked Deck

マークドデックとついていますが、カード当ての演出についての話です。
Gary Oulletの”The Human Galvanometer”はよくある嘘発見器的な演出ですが、じっくりと時間をかけて聞かれてる観客がどきっとするような質問の仕方で面白そうです。

“Echoes”はカード当てのあとにエニーナンバーみたいなのがくっつくやつで、タイトル通りの演出のおかげで一貫性が生まれてて簡単なエニーナンバーがとても効果的に見えます。

Jon Armstrong:Going with the Flow

アームストロングのインタビュー。
彼が行ってるオープニングトリックを肴に、主にアドリブやハプニングにどう対応するかという話をしています。
観客の反応に応じてどう間をとるか、本当に奇跡が起きたときにどのように振る舞うかなど、想定できることを詰めていく様子が楽しいです。
アームストロングの目標はマジシャンが初めてそれをやるように思わせることだそうで、観客がどういうリアクションをするかによって細かくセリフを変えるフローチャートなんかも紹介されています。
ライブ芸の手品は映画やテレビドラマとは同じように行かないんで、そこらへんの穴をいい感じに埋めるインタビューでした。

Scripting for Effect

観客に何が起きたか正しく理解してもらうということが趣旨のセクション。
ここでは奇跡的な演出を狙ったものが4つ解説されています。
Paul Greenの”Grandma’s Purse”はパースの中身の総額を予言するもので、これぞスクリプティングマジックという感じで大変良かったです。

あとDavid Regalの”Hotel 52″が解説されてます。52枚から1枚まで絞るエキボックですが、やっぱりよく出来ていますね。ここで一区切りみたいな感じでやることであっちを残したりこっちを残したり感が薄くなってます。

Max Maven:Scripting Tricks

マックスメイビンのインタビュー。主に脚本の使い方の応用編みたいな話です。
観客に指示を出す時の時間間隔と一度に与える情報量などを微調整するという話から、プロはチームで仕事するときに便利だよーという話まで色々。
トリックを考えるときにより大きい枠でこれは一体なんなのかということを考えるのにも役立つとのことです。
そこまで具体的なことは言ってないんですけど、ぼんやり書いてるだけじゃわからんところのヒントになるようなインタビューになってます。

Drama

ドラマには何かを望んで障害を乗り越えそれを達成するという流れが必要です的な脚本家の人らしい説明のあとにジェミニツインズの脚本例が載ってます。
よくあるカップルに演じるというものですが、カップル仲なら成立する面白い演出だと思いました。まあ後付の障壁演出といえばそうなんですが楽しそうでなによりです。

Scriptwriting:The Backstory

セリフ上語られることはなくても、どのようにしてマジックが起こせるのかというバックストーリーについて考える必要があるという話。
ガイホリングワースの”The Casandra Quadary”がここで解説されています。
観客が最後に1枚残すカードが予言されてるあれ。とにかく良い手順です。
McCabeのちょっとしたアイデアも収録されてます。

Rafael Benatar:The Practice of Magic

ほとんどスクリプトの話はなくて手品の練習についてインタビューしてます。
音楽と手品の反復練習の共通点とかそのへんの話。
プレゼンテーションや動作の意味付けについては引いた感じの立ち位置らしくその理由も一般的に言われることではりますが、やはり説得力があってセリフを作るにあたっての強迫観念のようなものから楽になるような話でした。

Scripting Dealer Tricks

ディーラーズアイテムをオリジナルの演出でやってみようのコーナー。

Bob Farmerの”Red Card of Mystery”は表にサインしたカードの裏色が変わる系のトリック。
最初から置いてあった別の色のカードを差し込み、その隣のカードがサインカードですと思いきや…みたいなやつです。
この本の中ではそこまで凝ったセリフということではないんですが、このサッカー風味のトリックをうまくミスリードできるようになってると思います。

Jim Steinmeyerの”Exhibit A”はピン留めされたデックで行うカードアットエニーナンバー。
トリックデックを使いますが、ピン留めされてることで不可能性を高めつつ動きの制限を動機付けにしていて賢いトリックです。

面白かったのは”Fruit Cup”。みんなで紙にフルーツの名前を書いてカップの中でシャカシャカして、最後に残った紙に書いてるフルーツがカップの中からごろんと出てきます。
フォース法はよく知られたものですが、それを行うハンドリングとマッチした演出がとても気に入りました。

Scripting and Repertoire

あなたにとって真のレパートリーはなんですか?それは本当に優れたトリックですか?みたいな問いかけをされ、以下の脚本を見よ!と手順が解説されてます。

まず”The $100 Bill Switch”は白い紙がお札に変わるビルスイッチ。
観客の手を使わないもので、さらっと演じるにはちょうど良い感じの手品です。
脚本上でも支払い待ちの観客を想定したものになっていて、想像力をかきたてるセリフもはまってると思います。

エリックミードの”The Incredible Mystery of the Tenth Card”は11カードトリック。
これもさすがの面白さ。こういうくどい演出の手品は脚本形式で書くのがぴったりな気がします。
仕事をするタイミングもつかみやすく、手法の念入りさにも舌を巻きました。

“I Must Be Cheting”は6カードリピート。
McCabeオリジナルの手法が使われていて、スタンディングでラフに演じられるものになってます。

デビッドリーガルの”Watching the Detectives”は観客のカードの枚数目が予言されてる的な現象。
サイモンアロンソンのやつのバリエーションで、ジョーカーの扱い方がちょっと違います。原理自体が非常に面白いもので、台本によって動機付けの上手さがわかりやすい作品になってます。

Eric Henningの”The End of the Rainbow”はシルクが出て消えるという現象も手法も普通のトリック。この見せ方が超面白くて、複数の観客に観客自身のマジカルジェスチャーに意味があるものだと思わせることができます。特に子供相手を想定したセリフで大変楽しいです。
プロダクションもバニッシュもちょっとしたバリエーションが解説されていて、これもとても良いものでした。

Scripting Counts

カウントの見せ方についてのコラムと手順2つ。

Mark Joergerの”Fortune Cookie”はプロフェシームーブを使った手品。これもめちゃくちゃ上手い演出でした。セリフでオフビートも作れるし現象としても捻りがあって面白い。

“Repeat”はホッピングハーフみたいなやつをホッピングハーフじゃないあれを使ってやるコインマジック。2枚の銀貨のうち1枚をポケットにしまいますが何回も2枚になり、最後は1枚だけ抜いたはずなのにコインが消えます。

Titles and Sentences

演出に合ったタイトルをつけることについて。
そのトリックを表すようなタイトルがつけれるということはそれは良いトリックかもしれないねというような話です。

解説されてるのはアセンブリが2つとOOTW。
“Magicians Play Poker”はスローモーションエーセスで、”Mental Cheating”はマクドナルドっぽいやつ。どっちも構造的には原案通りでギャンブル的な演出が足されてます。

OOTWの”Secret Powers”はめっちゃ良かったです。2つに分けて配るところからパワーを試すテストの一貫として行うのも筋が通ってて良いし、現象の示し方のところの盛り上げ感と大胆な手法のごまかし方がうまくはまってました。これはガイドカードを使わないやり方なんですけど、そんなかでも相当いいやつだと思います。

演出力でカバーするような良いトリックも多かったし、複数人へのインタビューから脚本を書くことのメリットも明確になっていて、なんらかの事情で台本に抵抗を持ってる人にも引っかかるところがある一冊です。
台本を書くことのマイナス面としてよく言われるのは演技面のことについてだと思いますが、この本読むと手順のブラッシュアップに役立つこともよくわかります。
脚本は観客からの視点で書かれるので単純に無駄だったり不自然な動作やセリフがはっきりするというのもありますし、演じた後に問題点を客観的にフィードバックできるのも大きいです。
正直もうちょっと脚本を書くことを通して作品を完成させていく過程とかを読みたかった感じはありますが、セクションごとにテーマが設けられてるので意図は汲み取りやすくはなってます。
プロ向けの内容っぽい雰囲気ありますけどだいたいの場合は演技力を高めればもっと手品がよくなるというのがありますし、このメソッドなら割と短距離でその事に気付けるので広い範囲に推せる本です。
Volumue 2に続く

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