Stylo

昨年リリースされた4人のシンガポールのマジシャンによるアンソロジー。
著者のHarapan Ongをはじめ、Avi Yap, Ryan Goh, Yu Huihang と、それぞれヒット作を産み出している勢いある人達が参加しています。
力強い作品が多く大変読み応えありました。

Monarch (Avi Yap)

DLCで単売もされているAvi Yapのチンカチンク。
特徴は4枚のコインしか使ってませんよアピールのところで、あらため感なく確かに4枚のコインしかなく、その後手を近づけることなく移動したように見えます。
バックファイアするのですが、あくまで寄り道程度でちゃんと集まるところで終わってるのも個人的には好みのポイント。
そんなに詳しくないジャンルなのでチンカチンクの解説見ても決定打に欠けると思う事も多いけど、これは構成も手法もめっちゃ良いと思いました。

Three Coin Monte (Avi Yap)

銀銅中華を使ったモンテで、最終的に全部銀になります。
詳しくは書けませんがこれ系の手法が好きで、現象の文脈もしっかりしていてインパクトもあり、めちゃ気に入りました。
ビジュアル重視の作品が有名な人ですが、こういう方向でも凄く上手い。

Matrix in China (Yu Huihang)

4枚の銀貨でマトリックスやろうとしたら全部チャイニーズコインに変わります。
この人はレギュラーコイン縛りのDVDを出していて、本作もなんとノーギミック。
これからマトリックスやりますよーってカード置いていくなんでもない場面に見せないといけないところで労力が発生するので大変ですが、上手いことやれば意外性はやばそう。

Co-Inky-Dink (Yu Huihang)

1デックで行うDo us I Do形式のメイト一致。
お互いに半分ずつ持って背中の後ろで1枚ひっくり返すとそれがメイトになってるというもの。
これだけだとまあ無くはないですけど、本作は即興で行えるようになっていて観客に理由がよくわからない細かい指示を出す必要もありません。
イケてる技法祭りで良い感じの手順です。
即興で出来るのがいいところだけど、スタックでも色々応用できそうな感じ。

Big Brain (Ryan Goh)

ツイスト部分のないブレインウェーブ系の色違い現象。
最近これ流行っとりますね。
デックの色を明らかにしておく目的のが多い気がしますが、本作はそれが出来ないパターンで、これは結構現象のインパクトをスポイルしている気がします。セリフでカバーはしているけど、演出の自由度が低くなってしまう感じも否めず。
ただ、この加工はとても良いもので、観客にデックを渡してカードを抜き出してもらうことができます。さすがにちょっと怖いけど、表はあの感じを出さずに見せれるのが嬉しい。

Double Thot (Ryan Goh)

Double Thoughtレギュラーデック版。
デックを半分ずつに分けるパターンでは、どのように選択してどのようにカードを戻してどうやって探す手続きに入るかというのに色んなやり方がありますが、本作はかなりスマートでそれぞれちゃんと動機があり無駄もありません。
観客が選んだカードには触れずシャッフルしてもらうことが出来るし、観客がカードを探すのも適当なカードではなく表を見て決めてもらえるので観客が当てた実感も強いのではないかと思います。
ここのとこのシンプルでいいはずの操作に説明が必要なのは少し痛いところですが。

T.P.B. Production (Harapan Ong)

ベンザイスを使ったA出し。
Principiaには連続ベンザイスで4枚出すやつが載ってたけど、これは1ベンザイスでいきます。ジョセフバリーがやってたやつにちょっと似てる。
まあHarapan A出しにハズレなしという感じです。トップ4でいけるのが便利で良い。

Solvedzinser (Harapan Ong)

ホフジンサーエースの変形。Aがセレクトカードのフォーオブアカインドに変わるパターン。
カードが当たった後に他の3枚が変わるやつが多数派だと思いますが、これは先に3枚変わります。
セレクトカードがダイヤの9だとすると、Aのうちダイヤだけ表向きになる、他の3枚が9になってる、ダイヤのAを見るとダイヤの9になってる、という流れで、3枚変わるところもカードを当てる要因になっているので、セリフもつけやすく演じやすいんじゃないでしょうか。
いかにもという技法が連続するのは好みが分かれるあたりかと思いますが、Harapan手順らしい無駄がなく手を動かしていて気持ちいい感じです。