by jun | 2020/03/31

1994年に出た、サイモンアロンソンの初期作をまとめた本です。
まとめられてるのは73年から80年まで、Kabbalaに寄稿したものと、 The Card Ideas of Simon Aronson 、A Stack to Remember、Shuffle-boredの3冊が入ってます。
バイオグラフィーを見ると1960年前後にGeniiとLinking Ringにいくつか作品を発表しているようですが、ほぼ1からサイモンアロンソンの作品を知れる本と言って良いでしょう。

去年読んで面白かったBuena Vista Shuffle Clubという本があり、著者のマットベイカーがアロンソン影響下の人でアロンソンも気になっていたのでいくつかまとめて本を買い、文字ばっかりで一行読んでは本を閉じという日々を過ごしていたのですが、手品ブログのテジナのハナシさんでAronson Approachが取り上げられててこれがめちゃくちゃ面白そうだったのでアロンソン気分が高まり勢いで1冊読み終えました。
気分と同時に期待値も上がっていましたが余裕で超えるぐらい良かったです。

The Aronson Approach – Simon Aronson – テジナのハナシ

from Kabbala (1973)

Kabbalaに寄稿された作品がまとまっています。
3作品、初期からこんなことをやってらっしゃったのかという不思議なカード当てが解説されています。

Some People Think

「こう考える人もいるでしょう…」というセリフに合わせて、観客にシャッフルしてもらったり選んでもらったり色々と操作してもらいながら徐々に不可能性を高めていく演出が楽しいカード当てです。
観客の操作は事故も起こりにくく確かに自由に選ぶものなので、不思議かつ当て方がドキっとするようなものになってます。
かなり練習が必要なものですが、一人でもまあ練習できるし練習の過程で身についてくことがあるので頑張りましょう。

Lie Sleuth

嘘を見破るというカード当て。
こういう演出はよくありますが、非常に説得力があり、嘘を見抜くという図式がわかりやすい見せ方になってます。
Some People Thinkと同様のスキルが必要で、個人的にはこのLie Sleuthの方が好み。
全く手掛かりないように見せるより、それなりにガチっぽい演出が合った手法だと思います。

Group Shuffle

3人に行うカード当て。
演者はデックに触れず覚えてもらってからシャッフルしてもらえるので、不可能性はかなり高く見えます。
同様の手法を使ったバリエーションはいくつかありますが、これはシャッフルの作業自体に仕掛けがあるのでここを上手く見せさえすれば全く手掛かりなしで当てたように見えるはずです。
この本の別のパートでこれ的なやつでもっといかついやつがあって、それと比べるとちょっと落ちますが比較的楽に行えるのはメリット。

The Card Ideas of Simon Aronson (1978)

このチャプターの中でもポピュラーエフェクト、2デックエフェクト、メモライズドデックと章が分かれており、ここだけで20作品ぐらい解説されてます。
一致現象や移動現象など幅広く解説されてて面白いです。

Simon’s “Favorite Card” Trick

4枚のカードのツイスト現象から変化と移動が起こり、観客のカードが当たるという手品です。
カード当ての前に脈絡なくツイスト現象が始まるのはあまり好きじゃないんですが、これはちゃんと脈絡もオチもちゃんとしていてツイスト現象が起こる意味も含めて綺麗にまとまってるトリックだと思います。
カードの当たり方としても段階的に現象を見せられるので、単に入れ替わるより負担や技法感もなく良いトリックでした。

Mis-Mate

ノーセットで行うメイト一致の手品。
サカートリックになっていて意外性がありつつ、普通にやるとちょっとフェアさにかける技法をうまいことカバーしていて賢いです。
メイト一致という説明が必要な現象でいきなりサカートリックなので単体でやると演じるのは難しいかもしれませんが、セットで行うルーティンの中盤に持ってきても面白いかもしれません。

The Spectator Really Cuts To The Aces

タイトルに偽りなく、リアルなスペクテイターカットエーセスです。
なんじゃこれと思いながら読み進めていたのですが、手法の隠し方にも手が混んでいて参考になりました。
大胆な手法を使いつつセリフや指示の中に微妙に具体的なのがあるのがやらしいです。
アフターケアもしっかりしており、オープニングトリックとしてかなり良いマジックではないでしょうか。

Aces Up, Countdown

リバース現象とホフジンサーエースとナンバートリックを合体させたような手順。
エースがリバースした中で1枚だけ裏向きで・・・という感じです。
現象はごちゃ混ぜですが、技法という技法がほとんど要らんのでとてもすっきり余裕を持って見せられる手順になってます。

Under Cover Four Play

4枚のカードと2枚のジャンボカードで行うマトリックス。
4枚はスペードのA〜4を使うのでインターナショナルマトリックス的な感じです。
カードだからこそこうやって見せれるというところがあり、エキストラなしノームーブで移動示せるとこが一箇所でもあると全体の躍動感が出ます。

Lucky 7

7のカードが表向いて、7枚配ると観客のカードが出てきます。
ピークさせてからのコントロールが解説のメインで、まあそこはなんでも良いと言えばそうなんですが、セレクトカードが2枚でテーブルにカットする動きで終わるので自然。
やり方が5つも解説されていて、5番目の方法がワイルドで好きでした。

Symmethree

Lucky 7の現象を3枚のセレクトカードで行うもの。
操作はやや複雑になりますが、現象としては1枚目のカードがリバースして、そのカードの数字の枚数配るというものでいきなり7のカードが出てきたりしないので綺麗にまとまっています。
作業的にもそこまで複雑にならず、演じるならこっちが良さそうです。

Turning the Corner

4枚のカードのツイスト現象の後、観客に4枚の中から1枚好きなカードを言ってもらうとそのカードがひっくり返って観客のカードに変換します。
ツイスト現象中はカードは4枚しか使わず、観客のコールからは操作なしで現象が起こりとても不思議でインパクト強いです。
そしてとても楽しい。
読んだ限りじゃちょっとストレス高いかと思いましたが、この絶妙に何かを隠してる感じが手品やってるぅって感じでクセになりそう。

The Aronson Artifice

色んな手法を盛り込んだ予言の現象です。
色んなことのおかげで観客がシャッフルし、自由にストップしたところのカードが予言できます。
何か一つの要素が欠けてるとこの自由さが出ず、バラバラのカードの中から選んだように見えないし、もう一個なんか足したら怪しく見えるという絶妙のバランスです。
完成したものを読むとわかったようなことが言えますが、実際こういう組み合わせはなかなか思いつかないですよね。

Stranger Deranger

青裏の中から1枚抜いて表を見ずに赤裏の中に差し込み、赤裏をシャッフルして今度は表を見せて自由に選んでもらうと、その裏が青でしたという手品。
ベースの原理もよくできたもので、プレモニション的な盛り上がりを見せつつとても上手く誤魔化せています。
2回ともフリーチョイスなのでめちゃくちゃ不思議。

I’ll Go First

演者と観客でデックを持って、1枚ひっくり返したのが一致する手順。
フリーチョイスです。演者と観客がデックを交換したりもしません。
あるものを使いまして、あるものを使った同様の現象もいくつかありますが、だいたいの場合はそれはそのまま使ったほうがいいのではないかと思うことが多いです。
この手順の場合は作り込みが激しく、手続きの流れがとてもよくできていて、演出のおかげで大きくストレスを減らすことができており、この見せ方ならではの面白さがありました。

Odd Backed Thought Card Across

色違いのパケットで行う思ったカードのカードアクロス。
使うのはレギュラーの赤6枚青6枚。ちょっと他の現象と比べると技法感が際立っていますが、パケット内のThink a Cardをやる中でいい感じの工夫も見られます。
2種類解説されていて、どこにフェアさを持ってくるかが変わるのですけど、個人的には全体がすっきり見える2つめの方が好みでした。

Red See Passover

こちらは12枚12枚で行う色違いパケットのカードアクロス。
やや入手し辛いギャフ使用ですが操作は凄くすっきりしました。
一部課題は残っているものの、この人はやっぱりギャフやデュプリケートなどの扱いが上手いです。
このギャフ手にしたらもうちょっと直接的で味のない感じにしちゃいそうなところ、面白く不思議さが際立つ見せ方になってます。

Two Card “No Touch” Location

タイトル通りデックに触れずに2枚のカードを当てます。
流れは1人目にデックをカットしてもらってボトムを覚えてもらい、2人目にはそれをシャッフルしてもらってボトムカードを覚えてもらいます。その後ちょっとしたあれこれがありますが当たります。
この人こういうこともするのかという凄い方法でした。
ややリスキーながら、各所に予防線も丁寧に張られており周到です。

Four Stop Intersection

4人の観客に対するカード当て。
表向きでカードを配っていき、観客が頭の中でストップと思った場所で当てるという演出がタイトルになっています。
入門書的なものにもこのような演出で行う手品はありますが、この作品は4人とも自由にシャッフルする部分があり、本当にどこに行ったかわからなくなり、4人のうち誰のカードかまでわかるので頭の中の声が聞こえたように見せることができる恐ろしい手順です。
この本の中のカード当ての手順の中でも一番気に入りました。

Histed Heisted

複数の観客に少数枚のパケットを渡し、その中から自由に1枚覚えてもらったのを当てるマジック。
覚えてもらってからは自由にシャッフルしてもらえます。
いくつか質問をする必要があるのですが、その質問の仕方が巧妙で絞り込めるようには見えません。

これはマットベイカーがバリエーションを発表していて、それもとても賢いと思いましたがアロンソンの原案も特に見劣りはしないです。
マイクパワーズがちょっとパワーを使った版を発表しててそれはそれで良かったりして、読み比べてるとどんどん面白い現象に思えてきます。

質問も必要ですし、それなりに頭使いつつ態度も求められるので演じる難易度はかなり高いです。

S-D Plus

一度に複数枚当てるのではなく、3段に分かれたカード当てのルーティン。
システムの概念を知っている人が見ても、それでどうやって当てるんだという感じの手順です。というかたぶんそういう目的で作られてるんだと思います。
繰り返すことでフェイズごとに難易度が上がったように見せるわけですが、かなりマニアックな視線を意識してる感じがしました。
なので他と比べるとやや単調で演出も弱い気もしますが、不思議はめっちゃ不思議。

Center Location

解説読んでもなんでそうなるんですかって一瞬疑問に思うようなカード当て。
冷静に考えたら普通のことなんですが、何か意味がありそうでそこはそんなに関係ない動作がやらしくて良いです。

It Pays to Advertise

これはトリックではなく、デックについてる広告カードを使ったアイデアについてまとめられています。
まず広告カードにはこのような特徴がありますと列挙して、その特徴をどう活かすかというのも箇条書きにされており、アロンソンの創作の一端を見ることができます。
やっぱり優れたクリエイターというのは意識してるかしてないかはともかく、こういう作業をやってるんだなという。

この本の最後にHierophantに寄稿されあAd-Jacentという広告カードを使った手順が解説されていて、これは観客にデックの好きなとこに広告カードを差し込んでもらい、その隣が観客のカードでしたという手品です。
差し込んでからは技法は使わず、見事に広告カードの先入観を利用したトリックで、カードに慣れてる人ほど欺けそうな感じがあります。
これメモライズドデック使えばコールカードで出来るし楽しそう。

A Stack to Remember (1979)

メモライズドデックについての本。
ここまでもいくつかメモライズドデックは使われていますが、ここではアロンソンスタックの話がたっぷりされています。
アロンソンスタックはとにかくポーカー周りに強く、観客の指定した役を配ったりテンカードポーカーディールができたりというのが良い感じにできるようになってます。
最近観客指定の役を作るやつの面白さに気付いてきて、これ使えば楽だし覚えたいもんです。
ここでは解説されてませんが、ポーカーの役が出来るということはそういうことになっていて、タマリッツスタックほどではないにしてもアロンソンスタックの並びを利用した面白い手順もあるので、覚えておくに越したことはないのでしょう。
一応記憶法が載ってますけど日本語で置き換える必要ありの方法です。

アロンソンスタックの難点としては組むのがめんどくさいというのがあります。
この本の手順でも現象後にセットがお亡くなりになってしまうものがありますし、タマリッツスタックのようにこの状態からこうやってこうやると完成するという方が安心できるのですよね。
まあどのみち丸覚えするから1枚ずつ並べればいいのですが・・・。

しかしたまに複数のメモライズドデック覚えてる人いますけど、どんな訓練したらそんなことができるのかと尊敬します。
とりあえずアロンソンスタックは全記憶の必要ないポーカー用と割り切るぐらいで妥協したいですが、このスタックさえ持ってればなんでもできるという万能感も手に入れたいところであり、なんかブラックジャックの面白い手順とかも解説されてるからちょっと頑張ってみようかなと。

ちなみにこの章以外のメモライズドデック使う手順はアロンソンスタックじゃなくても大丈夫なようになってます。

Shuffle-Bored (1980)

名作中の名作、Shuffle-Boredの冊子が丸々収録されています。
数々のバリエーションが存在するプロットと原理ですが、この冊子の時点でだいたいこういう見せ方もあるよというのが解説されてました。

どちらかというと予言として見せる人が多いと思いますが、Basic Effectとして最初に解説されてるのは表裏に混ざったカードの表/裏の枚数を言い当てるものです。
この雛形は表裏にするところの観客の自由度が高いものになっていて、枚数に関して演者が特定できそうにない感じになってます。
今では最初のカットは演者がやって混ぜさせ方でランダムな感じにするやり方が主流な気がしますが、最初から最後まで自由にカットしてもらえるのはこの現象にとってかなり大きいメリットです。
混ぜさせ方も言葉遊び的なものがあっておもろいっすね。

表裏の枚数を当てるだけならControlled Shuffle-Boredというバリエーションが更に自由度が上がっていて、その後の赤黒など細かく内訳を当てるバージョンでも観客の自由度は損なわれてなくて、あまりこれが解説されてるのないと思うのでShuffle-Bored的なものをレパートリーにしてる人は読む価値あると思います。

あとShuffle-Boredを不思議なカード当てに応用する方法が目から鱗ボロンでした。ルーティンの中にShuffle-Boredを組み込みたくなるような話で応用範囲も広いです。
この中で「こんな面白そうなカード当てがあるよでもオススメしないよ」という文章があり、現象と現象の相性の良さ論みたいなことを語っていてそこらへんも読みどころになってます。

いやしかし面白い本でございました。
よくこんな事思いつきますねという原理もさることながら、操作と現象にマッチしたプレゼンテーションを当てはめる手腕も凄いです。
字で読んでこんだけおもろいのですぐやってみたくなるようなものがかなりありました。

カード当てだとFour Stop Intersection、一致現象だと I’ll Go First 、広告カードのやつも気軽に出来て良いし、The Aronson Artificeみたいな予言もどっかでやってみたいもんです。
Shuffle-Boredも知らない話がいっぱいあったしアロンソンスタックにも少し惹かれ、アロンソン気分更に高まってます。

絶版になってるのもないっぽいですし今からでも全作品追いやすいので皆さんも是非。
次はSimply Simon行きます。

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