by jun | 2019/09/10

今年発売されたMatt Bakerさんの作品集。色々解説されてます。
サイモンアロンソンの影響が濃く、メモライズドデックを使ったカードマジックを中心にややマニアックな嗜好の物が多いですが、現場でブラッシュアップされたであろう演出やセリフも良く出来ていてめちゃくちゃ面白かったです。
英語のシャレもあったりするんでそのまま掛けるには難しいにしても、導入や設定の部分に粋があってシリアスすぎない感じも好みでした。
この方普段はジョージア工科大学で数学の教授をされてるそうで中々に手の込んだ原理をお使いになられますが、庶民にも実演可能なレベルに調整してるあたりに優しさとセンスを感じます。
メモライズドデックは瞬時に数字とカードが頭に出てくることが必須、その他にも特殊なギミックや道具を必要とするマジックがありますけど、お釣りが十分来るぐらいの良作揃いです。

Card College

観客が取った枚数を当てたり、中のカードを全部言い当てたりというスタックでは定番の手順ですが、元ネタはルイスオテロのBlind Estimation。
原理も見せ方も一味違っていて、観客が自由にできることが多くなっていてとても面白いです。
特に中盤の枚数当てはシャッフルしてから目隠しという状態で当たるので死ぬほど不思議、仕組みもそこまで複雑じゃなくめっちゃ感動しました。
Blind Estimationの方がセットも楽だし、現象だけ取るとこの作品と同じようなインパクトを与えることができますが、本作はシャッフルしてから即目隠しってとこの不可能性上げっぷりが結構でかいですね。

Casablanca

マジシャンが観客のカードを当て、観客がマジシャンの選ぶカードを予言する。
似た現象でお手軽なのにTom RoseのYou Think As I Thinkってのがありましたが、このCasablancaはデックを表向きに広げて見る動きがありません。
しかも観客が選ぶカードもマジシャンが選ぶカードもフリーチョイス。
序盤に一気に色んな仕事してしまうのがまあ見事で、スタンドアップで手軽にできるし超良いです。

Location Sensing Device

物騒なタイトルと演出がついてますが、コントロールせずにカードを取り出したり観客に選んでもらったりする方法です。
マークドデックを疑われず表を見ないというのはやっぱり魅力的ですね。
応用範囲も広く、覚えて損のない手法です。

Tilapia

Think a Cardのバリエーションです。
カードは見て覚えてもらうし範囲も限定されているバランス型です。
Think a Cardで使われる手法を巧妙にした感じでしょうか、まあちょっとあれなところはさすがに残りますが、そこを良い感じに薄れさせる工夫も見られます。
ネモニカかアロンソンを覚えてたらすぐ出来て、覚えてなくても比較的簡単に出来るというのも売りになってます。

Histed Hoisted

数人の観客に5枚ずつ配ってその中から1枚思い浮かべてもらい、それを全員分当てます。
カードの枚数分、つまり10人まで演技可能で、まあ普通は3人ぐらいで十分でしょうけど、マニア相手なら10人やってもいいかもしれません。
めちゃくちゃ難しいけどこれは本当に良く出来てます。
ちょっと抵抗がある手法も組み込まれるのですが、そこからだと絶対当たらないカードが当たるオチがつくし、観客全員が当事者になれるのでこの手の現象としてもかなり盛り上がるかなと。
しかし慣れるまでは相当負担を感じるので練習はめっちゃ要ります。
「頭の中はフラッシュしない」とは言われますが、これは顔に出る。

Elementary, My Dear Vernon

ピットハートリングのSherlockのお手軽版みたいなのにトライアンフがくっつきます。
トライアンフ部分は特にオリジナルじゃなく、流れを活かしてる感じですね。
Sherlockがまあ手法も演出も完璧なのでさすがに部が悪いですが、一般客相手ならトライアンフ落ちで結構強いかなと。
どうせならオーダーまでやりたい感じありますね。

Clue

ステージ映えする予言マジックで、殺人事件の犯人とか凶器とか犯行現場とかが予言されています。
色々と選んでいく過程がコミカルで、あらかじめ用意された封筒を読んでいくというのも予言的な効果を高めるし巧妙さもあって良いです。
肝になるアイデアに色々付け足してエンタメぶりも上がってるし混乱させずにランダム性だけを上手く残しています。
いやーこれは賢い。しかもめっちゃ負担少ないように考えられてるし、なんか色んな使い方考えたくなりますね。

Say Anything

Lie Detector(嘘発見器)のバリエーションで、観客が自由に書いたパスワードが予言されてるというものです。
見せ方も設定も非常に面白く原理も素敵ですが、スペリングだし演出的にどうしても日本語に置き換えられないところがあって悲しい。
かなり手の込んだ方法で、手法の組み合わせ方と活かし方を学べる一作でもありますんで、演出も含めて日本語化するの考えんのも楽しそう。

Foiled by the Origami Test, Saved by the Lemon Law

ビルインレモンの演出例。
こういう道具に意味を持たせるような気配りはとても参考になります。
単純に退屈が解消されるし最後すっきりするし、意外性を盛り上げる効果もあってとても良いです。

Three Coin Monte

モンテやりますよー、1枚減らしますよー、こっちですよー、というパターンのやつを印をつけたコインでやります。
カードより制約が多く見えるコインですが、カードでやるよりフェアに見せれておもろいです。
カジュアルにやりたいトリックなのでマット必須だったり他にも必要なものがあったりするのは残念なあたりですが、見た目上は軽くできるので観客の見た目から気になることはありません。

Hive Mind

観客と一緒に数字を書いたりして予言の紙を完成させます。
で、大量のコインを握ってもらったり渡しあったりして、2人の持ってるコインの数が予言されています。
有名な手品の応用ですが、かなり巧妙で最初読んだ時はよくわからなかったほどでした。
かなり自由にジャラジャラさせるし、もう一捻りあるのでかなり不思議。
もうちょい確実にやろうと思えば出来るけど、この作品に関してはこれがベストっぽい。

Quantum Matrix

リバースオチのマトリックス。
ここもそれっぽい演出がついてます。
なにかとバタバタと終わることが多いプロットなので、何か意味を持つと現象も理解しやすくて良いですね。
タイトル通りの話なのですが、手品やるときに意味もわかってないのにこれ関連の話をするのにハマってた時期があったのでこれも好きです。
リバースのフェイズはカードも減らさないし手をあちこち動かさなくていいので演出に合ってます。

Banned For Life

Shuffle Boredのバリエーション。
予言ではなくギャンブルのイカサマ風の演出で見せていて、それ用の原理もとても賢い感じでした。
Shuffle Boredをガチッぽい見せ方でやるのは結構ありな気がして、あまりにも次々当たる故に予定調和感が出てしまったりするし、予言の紙がないってだけで即興感も増すかなと。
ただまあ現象の示し方はちょっともたつくし、これはこれで演技力必要なので完全に超えたという程ではありません。
読みどころはMagician Foolerバージョンで、これは観客が自由に表裏をしっかり混ぜたことを印象付けられます。

Subconscious Shuffle Tracking

即興でできるフォーオブアカインドを取り出すルーティンです。
Matt Bakerは即興でやることより現象重視の人なんで、ここでも即興でやることのインパクトと怪しくない範囲でどこまで出来るかというバランスの取り方が巧み。
最近ベンジャミンアールのLess is Moreを読み返していて、同じような現象で見せ方の方向も似ているのに全く別物って感じで手品って面白いなーという感想を持ちました。全く何も言ってないに等しい感想ですが。

xxxxxxxx Poker

一応タイトル伏せ。
原理を使ったセルフワーキングのポーカーデモンストレーションです。
原理の組み合わせでこんなことできんのかーって感じで面白いし、Do us I Do形式かつ自由度が高く見えて、構成的にもガチデモンストレーションじゃなく遊びが入ることでリアリティが増しオチの不思議さも上がります。
イカサマ設定と配り方もリアリティあって良いです。

Triple-Fried

3枚のカードを当てる手品。
色んな方法が解説されてます。
これ元ネタがエルムズレイのAnimal, Vegetable and Mineralという手品で、それは写真を使ったマジックなんですがトランプに置き換えることで表裏両面の面白さが失われてしまった感はあります。
見た目的には手続き多めのカード当てだし、他と比べてこの手順だからこその良さというのが見つけにくい感じです。
色んな方法が解説されてるということは色んなやり方ができるわけで、逆に観客に間違った類推をされやすいというのもあるかなーと。
一応そうは思われない工夫も見られますし、変な選ばせ方するやつはそこに面白さ出せるかが勝負なので演じ方次第ということにはなりますが。

Pile Driver

超ハードコアな21 Card Trick。
セリフも21 Card Trickを知ってる前提のものとして作られていて、知ってるとより驚くみたいな手品になってます。
数理トリックここに極まれりという感じの鬼手順。

Avenging Mandelbrot

ピットハートリングのChaosのバリエーション。
ちょっと負担が増えてますが安全になってます。
その他少し変えたことで見え方もかなり変わっていて、不可能性は高まってるようにも見えますが、割と普通のカード当てになってしまってるようにも感じます。
元の良さってあの選ばせ方とそれをカバーするセリフにあって、だからあの配り方にも可笑しみが出たりするところだと思うんで、何かを変えてしまうとそこがごっそり無くなってしまう感じです。
あとこの改案に似た考え方で更に発展させたピットハートリングの作品もあるんで、どうせならそのぐらいのイノベーションが欲しかったですね。
比較してあーだこーだ言うのは楽しいですし、この作品はこの作品なりの演出がついていてその魅力もあるわけですけども。

S.O.L.

徹底的に不可能性を追求したカード当て。
Magician Fooler的な考えで構成されていて、あれもこれもてんこ盛りにしつつそれを直接的には使わず気配を感じさせません。

一点、どうしてもマニアが見ると あっ てなるところがあって、そこが肝でもあるし結構工夫が要りそう。
あれどうしても独特の感じになってしまうのですよね。
あとこういう指向のトリックならデック見た瞬間に あっ てなるし、そこらへんにもこだわるべきかと思います。

Outlier

The Misfit Deckの名で単売もされてるトリックです。
これが一番有名で代表作だと思うんで最初に説明すれば良かったですね。
皆さん、Matt BakerさんはMisfist Deckで有名な人です。

観客が自由に言ったカードの場所に観客がカードを差し込んで、そこからそのカードが出てきて、他のカードは全部同じハートのクイーンという現象。
まあ最近でこれ系のネタならあれしかないだろうという気はしますが、あれの使い方としてはとても優れてるし演出も細かいハンドリングも良いし素敵トリックです。
そういえばMisfist DeckのPVで同じカードを見せてから当たりを示すのと、当たりを示してから他が全部という見せ方をしているのがあって、本書で解説されてるのは前者でした。
自分がやるなら後で同じカード見せるかなーと思ってたんですが、プレゼンテーションのところ流れで読むと納得度高かったです。
あんまり見た目の意外性に重きが置かれてないというか、たまたま選んだカードをたまたま見つけれたことに超フォーカスできるというか。
あとやっぱり先に見せた方が触られないで済むってのもありますね。
割とこういうのは受け重視でやりがちだったりするので考えるきっかけになりましたね。

中にはこねくり回しすぎではと思うようなものもありましたが、どストライクな作品がいくつもあってここ3ヶ月ぐらい色々と練習しています。
メモライズド練習用としてもいい作品揃っていて、割とフットワーク軽く使えるのもあるし何かのどこかに使えそうなアイデアも豊富でした。
最近はあんまりレパートリーを増やそうというつもりで読んでないけど、こういうマニアックかつエンタメにもなるようなものは覚えておきたいですね。頭使うやつもいくつかは極めたい。
手品に限らず頭使いそうなものは極力避けてきた人生で、こういうモチベーションになるのは結構珍しいので読んで良かったです。

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