by jun | 2019/05/08

世代などによってカードカレッジ観というのは様々だと思うのですが、個人的には手品始めた頃に勧められてカードマジック事典を一旦中退して読みはじめ、端から端まで読んだ最初の手品本だったりするので思い入れの強いシリーズです。
当初は本当の良さも価値もよーわからんでしたけど、それでも一つ一つ技法を覚えてそれを使う手品を学ぶというのはおもろくて、わかってなくても最初から最後まで読めたってのはそれだけで良い本だったと思います。
そんで集大成的な5巻はなかなか翻訳されず、日本語じゃない本は存在しないのも同じなので在学期間がえらく長くなりましたが、日本の読者もついに卒業できるようになりました。
一同スクリプトマヌーヴァと翻訳の星野さんに礼。

ロベルト・ジョビーのカード・カレッジ第5巻 | スクリプト・マヌーヴァ

もうね、ジョンカーニーの式辞風に書かれた序文からして最高ですよ。
全文引用したいぐらいの鬼名文ですが、上のリンクから試し読みできるみたいなんで是非読んでください。

母乳のように溢れる技術や知識とともに、 全ての物事を自分の物にしなければならないと思い込んでしまうのが私たちの未熟な点です。 初めの数日、 数週、 数ヶ月では物にならなかったというだけで、 それは私たちに能力が無いことを意味するものではありません。 更に頑張るべきだというだけなのです。

かっこえ。
これをカーニーが言うのですからなんたる説得力でしょう。
もうここだけでもうね。
当然先生の式辞を受け取っただけで卒業ってことにはなりませんが、あの超絶名手が激推しするのがロベルトジョビーで、5巻ではジョビーのレパートリーががっつり解説されております。

技法からの手順だとどうしても制約が出るということで、今までの流れとは違って5巻は総まとめ的なスタイルだそうです。
なのでセルフワーキング的なものも含まれていて、スライトネタの技法は色々組み合わさっています。
マニアの人が読むとカラーチェンジやスイッチ技法など勝手に置き換えたりしたくなるとこもあるかもしれませんが、「それ ぞれの現象や手順は、 最も直接的で洗練されていると私が思う手法を用いている」とのことですし、カードカレッジの参照箇所も書かれてるので一旦解説通りにやってみることをお勧めします。
読むだけだと煩わしそうだったりさっぱりすぎる印象もあるんですけど、手動かしてみると馴染む系というか、好みを超えて母乳のように溢れる技術や知識の使い方のうまさに気付くはずです。

既に自分のレパートリーが固まってる人が読んでも新たにそこに食い込むような手順は少ないかもしれません。
それは個人のクセ強めな好みによって出来てる手順だから仕方ないのですが、マニアであるほどハッとされられるような部分も多いはずです。
観客の前でのセット方法やクリーンアップの方法まで詳細に解説されていて他の手順にも応用が効くような話も多く、定番技法の動機付けの例などにも触れられていて慣れでなあなあになってる人にも刺さりますし、特定の動きにアレルギーがある人の処方箋にもなっています。
演出やちょっとしたアクションに至るまで作りこまれた手順の山で至れり尽くせりです。
その分文章は長いですし手っ取り早くやり方だけ教えてくれやって思う瞬間もなくはないので、全ての本がこうあるべきだとは思いませんが、たまにそういう本を読むならジョビーに教わりたい、そういう一冊です。

そんなわけで大事なことはだいたい本に書いてて何がどう良いかってのも読めばわかると思うんで特に付け加えることもないのですけど、各章と解説されてるトリックについて軽く紹介したいと思います。

第55章 その他の技法

シャッフル系の技法から、ギャフの扱い、グリンプス、観客のサインの複製などインパクトの強い現象に繋がりそうなものが解説されてます。
サイン複製に関してはサンキー本で解説されてるリチャードサンダースの手法とのコンセプトの違いには触れられてるのですが、ここは一つサンプル手順が欲しかったところ。

おもろいのが”Secret Setup”という手順中の水面下で次のトリックのセットを組む方法についての考え方。
最近興味が出てきた手法で、やや演技力が要求されるものなのでこういうのこそジョビー解説助かります。

トリック的には”Twin Fools”という2段階のサンドイッチカードが解説されてます。
ジョーカーとデックを接近させず、2段目は箱の中でサンドイッチするという手順です。
もっと安全で似たような効果をあげる方法もあるとは思いますが、ジョーカーを切り離した状態というのを強く印象づけられる方法なので逆に新鮮な味がるように思います。
そこの説得力が強いので、挟まった後のあれとかあれはそんなに気にならない感じです。

第56章 スターティング・イージー

イージーにスタートできる手順。
セットが必要なものもありますが、現象に対してはイージーになってます。

“A Psychological Test”はSpectator Cut the Acesをメイトの一致にした現象。
ノーセットからスタートできるし、一致現象にしたことで例の処理の違和感が減ってるような気もします。
あと4Aじゃない方が予定調和感なくてキモい感じが出て良いですね。

ライターの方でも解説されている”Strange Harmony”はホフジンサーのナンバープロブレムの超バランス良いやつ。
セットも楽だしフェアに見せれて、この現象のおもろさが伝わりやすいかと思います。
ダニダオルティス絡みでこれ系の色々調べてたけど、これはかなり良いです。

第57章 クイック・エフェクト

パッとやてサッという感じの手順です。

“The Quick Change Artists”はQが1枚ずつAに変わるというビジュアル手品。
これはまあそれぞれ別のカラーチェンジをするだけと言えばそうなのですが、構成のうまさとかジョビーの好みがわかりやすい手順です。
角度にも強く、そこそこの人数に見せられる技法に絞られています。

超シンプルなホフジンサーのエースプロブレム”Coalances”は所謂ホフジンサープロブレムと思って読むとマジかってぐらい色々と削ぎ落とされてるのですが、エースがカードを当てる現象としてめっちゃ良いと思いますね。

第58章 エース・オーバーチュア

エースプロダクションや、エンディングにエースが出てくる手順の章。
非常にテンポが良く計算された”Thompson’s Aces”もジョビーっぽさが良く出ててます。
複雑すぎず、デックの順序を変えずにできるのも高ポイント。

“How Lucky Can You Get?”はサッカートリックで、失敗によって産み出されたパケットのトップが全部エースっていうネタで、サッカートリックの演じ方の例としてもとても良いトリックです。
ただマジシャンが失敗するのではなく演者の言った数字に絡めて行うので、エースが出るオチもより効果的。

“The Card of Destiny”はランダムなカードのジェミニツインズ的なやつから4Aもおまけで出てくるというもので、ややマニアック感はありますが結構好きですね。
ただ、セルフワーキング感が強いのでエース出すとちょっとどうやってもそうなる感が出そうな気もします。

エンドオブオーダーにも繋げられる”Sign of Four”もやってみると気持ちいいプロダクション。

第59章 フォー・フォア・ジ・エース

エースを使った手順の章。

クライストエースの”Study For Four Aces”は即興でできてフェアで気持ちいい手順でした。
あとここの解説はテーブルをセクターに分けてより視覚的な効果を狙うためのカード配置が語られていておもろい。

“The Knowledge Cards”はホフジンサーエース。
Coalancesに続いてこれもめちゃ良いです。
ジョセフバリーも似たようなことをやっててあれもめっちゃ良いですが、エンディングはこっちの方が好きですね。
盛り上げるための細かい演出の描写も必読です。

アセンブリの”Slow Henry”もめっちゃよく出来てます。
スイッチ時のアディションも使わないしパケットのカウントもないので極めて自然。
最後のフェイズの準備完了んとこは痺れましたね。

第60章 ファーム・フェイバリット

ここは”The History of Playing Cards”が超おもろいです。
スペリングトリックで日本語非対応なのですが、オチも強いし話的に英語とかで見せるのもそんな悪くないと思います。

“The Endless Loop”は観客がカードを選ぶ前にマジシャンが見つけ出すというミステリーカード的なものなのですが、それっぽい演出を加えてそれっぽくなってる好例じゃないでしょうか。
不条理な現象を見せるにあたって実際に不条理なものを見せておくというのはかなり有効に思います。
それだけ手法に弱点を感じてるのだと思いますが、ちゃんとカバー自体がおもろいものを使うあたりはさすがですね。

第61章 ギャンブル

ギャンブリングのルーティンの章。
ここはまあ”Fantasist at the Card Table”が最高ですね。
3段階のポーカーデモからブラックジャック、セブンブリッジと続いて最後は全部グランドスラムになるという鬼大作。
ポーカーデモのとこの流れだけでもストーリーがしっかりしてて超おもろいです。

“The Poker Player’s Royal Flush”はSpectator Cut the Aceにポーカー的な演出を加えたもので、軽くギャンブル感出すにはちょうど良い手順。

第62章 メンタル・エフェクト

メンタルの章だからか、細かいセリフの気の配り方の記述もより丁寧で読みどころ多いです。

“Insured Prediction”は2枚のカードで予言するやつで、スペードの5とハートの8を合わせてスペードの8みたいなあれですが、ちゃんとしっくりくるエンディングも用意してるのがさすがです。
カードに色んな意味を持たせてる手品はええものですね。

Out of Sight Out of Mindの”Mind and Sightless”は、元ネタとほぼ同じ骨格ですが、日本語でここまで詳しく解説されてんの他にないと思うので必読かと思います。
カード見せるとこからいちいちメンタルな感じにするの好き。

カードアットエニーナンバーの”Telekinesis”はなかなかワイルドな解決法。
フォースにも使える手法なので覚えておいて損はなさそう。

第63章 カード&Co.

カードと他のアイテムを使う手順など。
こういうのって別になくても良いアイテムを無理やり登場させてるだけというのもよくありますが、ちゃんとその道具に意味がある手順ばかりでおもろいです。

“The Color Changing Deck”はデックしか使いませんが、ちょっと変わった演出のカラーチェンジングデック。
観客が選んだカードだけが別の色のカード、というのを2段階で見せれる構成が賢く、かつ徐々に説得力が高まってエンドクリーンなのも嬉しいところ。
カラーチェンジデックをより視覚的に見せるための工夫もなるほどという感じ。

サインカードが密閉された箱の中から出てくる”The Joker Folds Up”もよく考えられた構成で素晴らしいです。
一旦客が言ったカードに変化させることで不思議耐性をつけさせるというか、ただ2段になってるだけじゃなく「まさか」の感覚に信頼感を与えるような構成は勉強なりますね。
全体的にそういう手順多いですがこれは特にそう。
小道具の使い方から体の動かし方、態度まで考え抜かれていて凄い。

“All’s wells That Ends Wells”はタイムマシンを題材にしたトリックで、観客にもシャッフルさせますが最初の赤黒別れた状態に戻ります。
これもワンクッションが効いていて素敵。

第64章 カードマンズ・ユーモア

カードマジックで使えるジョーク集。
読む分にはおもろいけど、実際に言うとなると難しそうなのが多く、ただしイケメンに限るという感じのもあります。
なんかこういうのって、いつも言ってるんやろなあ感が出るというか、いつも言ってる感込みで面白さになればいいんですけど、それが人が考えたギャグだったりするのちょっと恥ずかしいですね。
まあ手品は同じこと繰り返しやるし、どんな定番ギャグでも心の底から面白いと思ってれば何回言っても寒いことにはならないとは思いますし、よく言われるセリフに対する返しなんかは考えておくに越したことはないので、ここ参考に自分らしい返答を考えるには良い資料です。

しかしまあ凄いシリーズでございましたね。
5巻は特にそうですが、ジョビー手順て今あらためて読む意味結構あると思います。
あんまりこういうやり方してる人いないってだけで価値ですし、別に奇をてらってるわけじゃなく堅いハンドリングに理論武装までされてて極めがいのある手品ばっかで、もっとえげつない手品もこういう細部まで徹底したものの延長にあるんじゃないでしょうか。
1〜4は手に入りにくいけどとりあえずこれだけ読むんでも全然良いと思います。

Sponsored Link

Comments

No comments yet...

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です