by jun | 2020/06/10

こないだVanishing Incから出たRyan Plunkettさんの作品集です。
Vanishing Incの大著リリースラッシュが猛威を奮っており、まあ早期絶版の心配もないし後回しでもええかと思ってたんですが推薦コメントを寄せるマジシャンの豪華さにやられていつの間にか届いてました。

Distilled (Ryan Plunkett) – Vanishing Inc. Magic shop

Ricky Smith、Jared Kopf、Paul Vigil、Michael Feldman、Nick Diffatte、Denis Behr、Jason Ladanye、これだけの人が薦めてるのですからまあ間違いないでしょう。コメントが英語なのであんまり意味はわかってないですけど賛成です。

Any Card at Our Numbers

エニエニ的なタイトルですがエニエニというよりも一致現象的な印象が強い現象で、数字はフリーチョイスで言ってもらえるタイプ。2デック使って演者と観客でそれぞれ数字を決め、その枚数目のカードが一致します。
演者が枚数目を決めるデックはぐちゃぐちゃにシャッフルしてもらえるようになっていて、都合の部分と観客に自由にやってもらえる部分のバランスが良く、総合的には観客のシャッフルや自由な選択が印象に残ります。
肝は最小限の準備で数字をフリーチョイスにしているところで、これはかなり色んなことに使えそう。
エニエニ風現象は2デック使うとかなり楽になり、ちょっと手を加えるとフォースやメモライズドデックも不要になる好例です。
片方でカードを選ばせて片方で配らせる感じではないので2デック使う意味もはっきりしていて違和感もありません。

Fan Mail

2つのデックをシャッフルし、演者が片方から1枚、観客が片方から1枚を選び一致する手品。
どっちのデックも観客にぐっちゃぐちゃにシャッフルしてもらえることができ、演者は一切表を見ることなくカードを選びます。
観客が選ぶ方はフェアにカードを減らしていき、同じカードがないことも示せる方法です。
シチュエーションが限られる手法が使われていますが、これが出来る場面であれば積極的に使っていきたいですね。
変に手続きが増えるなら観客のシャッフルはしなくても良いと思っていますが、これなら最短距離で行けます。
単純な予言でなく一致として見せることで不可能性も上がっていて、あらゆる想像を排除できる構成なのがお見事。
かなり良い手順だと思います。

Ace on Top

同じマークのA〜5を使ったAのアンビシャス現象。
Aがトップに来るとA〜5が順番通りになるという現象で、観客との掛け合いが面白い手品です。
特に1フェイズ目が素晴らしく、連続で逆順にしたカードが元通りになる現象を見せることができます。
これは気持ちいい。
ここで現象が理解できるようになっているので、特にややこしいことをしない後の手順もワンダーに見える構成でとても面白いです。

Magnetic Silver

コインが磁石のように引き寄せられて移動します。
磁石の演出を使ったもろもろの動作が見所で、エンドクリーンにするための処理とか賢い感じです。
この本の中では小品ですが、しっかりしたセリフで見せれてセットも簡単なので覚えておきたい手順。

The Time Machine

トップ、ボトム、真ん中にアウトジョグされたカードを見せ、トップとボトムを真ん中に戻してアウトジョグしたカードも差し込みますが、時間が戻ってトップとボトムが元の位置に戻り、真ん中のカードもアウトジョグ状態になります。
ロイウォルトンの元ネタから色々バリエーションがありますが、カードの位置だけでなくアウトジョグされたカードが戻るという物理的な事象も加わって時間が戻った感が強まってる感じです。
この手の演出は「時間が戻ったというより・・・」という感じになりがちで、いかに普通のカードマジック的現象と差別化するかが肝になってきますが、移動やトランスポジションでは表現しきれないところを説得力を持って示しています。

Out of Sight, Out of Mind

Out of Sight, Out of Mindのシャッフルの部分を段取りくさく見せないやり方という感じでしょうか。
だいたいの感じは元ネタと同じですが、カードを覚えてもらうところ、戻し方、コントロールにそれぞれ一工夫あり、適当なカードを見て覚えてもらってそれをどこに行ったかわからないように混ぜるという説得力はアップしてます。
特にカードを見せていくところの工夫は面白いですね。

肝となる手法のTipsが2つ紹介されていてこちらも勉強になるものでした。

Versatile Transport

観客の手の中でお札が入れ替わるやつ。
観客からお札を自由に借りれて、ちょっとした工夫によって確かにそのお札が入れ替わったという感じになってます。
日本円だとそもそもお札の選択肢が少ないので完璧にこのトリックの良さを出そうとするのは難しいですが、ハンドリングや演出にも読みどころは多いです。

Paper and Silk

カードスルーハンカチーフ。
大枠はクラシックのそれと同じで、DPSの解説がメインになってます。
アウトジョグしたカードを押し込むところからではなく完全に差し込んだ状態からやる方法。ノーブレークノージョグ。
Ryan Plunkettらしい方法という感じですが、まあこれぐらいのちゃんとしたネタやるって決まってるなら全然ありだと思います。
ハンカチに乗せた後に裏側をあらためたりしていてそこもおもろかったです。

Muck Off

袖に入れたカードとテーブル上のカードのトランスポジション。
ベンジャミンアールとデレックデルガウディオとラリージェニングスというゴリゴリマンから影響を受けた手順らしいですが、全体を穏やかにする策略があってそこまで難しくはないです。
各フェイズ袖の使い方が秀逸で、この原理のトランスポジションにとてもマッチしています。
観客の袖に入れたカードがトランスポジションしたり、ロイヤルフラッシュがボロっと出てきたりと、クロースアップの客上げ手品としてもとても楽しいものになってました。

Gravity Deck

デックバニッシュと出現を視覚と重さで体感できる手品。
簡単なのでとりあえず仕掛け作ってみましたが、シンプルな構造ながらめっちゃよく考えられていて演技中のストレスもありません。綺麗に消える&出る。
手順としても重さを体感させるところが巧みで、ビジュアルと補いあって効果を高めています。

10手順というちょうど良い規模でもありましたし、やってみたい率はかなり高い一冊でした。
いずれもプロフェッショナルな手品故に演じる場は選びますが、個々のアイデアの良さもありますし、じっくり1つの現象を見せるマジックのステージングとしても勉強になる部分は多かったです。
レギュラーデックだけで頑張りたいという人には向かないかもしれないですけど、ギャフやデュプリケートの使い方隠し方としてもプロが実際に使ってる事がよくわかる安定したもので、これだったら使わない手はないって気がしてきます。なんかこうバレなさよりギリギリ攻めた感じもあるので、それ使ったら面白くないやんなんでもアリやんって気もそんなしないですね。
割と気分に合ってたこともあってとても楽しめました。

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Comments

小さな男

初めまして、このブログのファンです。ライアンシュルツのフォールスアンカー、気になっているんですけれど、レビューの予定とかありますかね…

6月 17.2020 | 01:19 pm

    jun

    ありがとうございます。
    False Anchorsは購入済みで、まだ段ボールに入ったままの状態です。
    今年中には読んで感想を書こうと思っておりますが、重版予定がないそうなので今のうちに買っておきましょう!

    6月 18.2020 | 12:22 pm

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